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青年期の発達とグループ・アプローチの課題

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 144-148)

主 体

第 2 節 青年期の発達とグループ・アプローチの課題

疾風怒涛のような思春期を経て,親からの精神的な自立を図る青年期は,通常の発達に おいても少なからずこころの成長の危機に直面するときである。しかるにその移行プロセ スを支えるべく仲間関係の構築につまずきがみられる場合,その混乱や生きにくさは計り 知れない(橋本,2009)。その上さらに二次的な障害から長期の引きこもりや深刻な少年事 件に至るケース(藤川,2000)も見られる中で,思春期・青年期の対人関係に関わる支援の 構築は,社会的にも喫緊の課題となっている。このような対人関係を軸として生きる人の 成長過程がよりよく展開していくためには,その場を共有する他者とどのような関わりを 持つかということを抜きにして考えられない。またそこでの適応的な生き方とは,「関わ りをもつ他者との相互の理解や受容といったスムーズな関わり合い(針塚,2010)」をもつ ことであろう。しかしながら人と関わることに本質的な困難さを抱えている人達にとって,

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他者との相互的なやりとりや相手の意図を汲むという関わり合いは,なかなか容易なこと ではない。YGでも当初は人を傷つけるようなことばや,気に入らなければすぐに輪の外 に飛び出してしまうような行為が頻繁に見られていたが,次第に打ち解けてくると人の輪 の中に進んで入るようになり,仲間の話に耳を傾ける姿が見られるようになってきた。そ してさらに人前で自分のことを話したり,仲間を励ますことばが自ら出てくるようなつな がりが目に見えるようになってきたのである。すなわちそこでは彼らなりに人と関わるこ との楽しさや充実感が得られるような情動体験があり,それを共にする仲間に対しても関 心を向けるようになっているという,対人行動の成長が感じられる。また彼らの多くが「対 人的相互反応に質的な障害」をもつされる「広汎性発達障害」の診断を受けているのであ るが,その特性を背景に沈ませる程,「楽しみや興味を分かち合う」喜びを感じていると きの表情を垣間見ることができるようになってきた。そのような成長を支えているのは,

日々の暮らしを共にする家族の力が最も大きいことは言うまでもない。しかし親子や兄弟 関係の中だけで,外に向かう社会性の発達を促すことはこれもまた容易なことではない。

そこにグループという同世代の仲間との関わりを保障する場があることで,互いをモデル にしたり,刺激し合うことを通して,多様な状況や他者に向かう幅広い対応力を身につけ ることが可能になると期待される。

とはいえ思春期から青年期にかけて学齢期を終えると,その後には彼らが安心してじっ くりと自らの力を蓄えていける場が,社会にはまだ十分に用意されていないのが現状であ ろう。2007年から本格的にスタートした特別支援教育のめざすところは,卒業後も視野に れた生涯発達における支援体制の構築がその柱になっている。本研究の対象となったYG の取り組みは,その小さな一歩に過ぎないが今後もその歩みを続け,保護者との連携を強 めながら,共に心をときめかす関わりをつなげていきたいと願っている。その基本姿勢と して筆者が常に心に留めているのは,マズローの欲求5段階説(図6)である。人がより よく生きるためには,まずは安全であり,自らが認められる場があることが大前提となる。

それによって初めて他者に向かう気持ちの余裕が生じ,他者とともに体験する楽しさや喜 びといった情動が活性化されるものと思われる。本研究でとりあげたようなグループ・ア プローチが彼らのこころに響く学びとなるためには,その居場所を整え,そこでの生き生 きとした体験につながる課題を保障することが肝要だと考える。そのためには成長ととも に新たな段階へと進む彼らの発達に見合った支援を見極めることが,今後の課題になるで あろう。

Ⅲ-13-図 2 マズローの欲求5段階説

(http://www.dango.ne.jo/sri/maslow.htmにもとづいて作図)

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第14章 本研究の知見

1. ことばの理解が十分ではない年少児に対して,正反応のモデルを示したところ,

鋏操作課題の成績が高められた。即ち,幼児の動作課題における自己制御不全には,

動きのみならず,課題理解という認知的側面の問題が大きく関わっている。

2. 停止線で切り止めるという目標に対応するための課題理解水準として,年長児の 言葉を中心とする概念的理解,年少児の視覚的なモデルによる直観的理解,さらに 2歳児クラスの絵や色のイメージによる感覚的理解の 3つの段階が示された。

3. 絵や色による刺激図は,幼児の日常の文脈にそってイメージしやすいもので,意 味のある情報として認知機能を高める効果があったと思われる。その際の「意味が ある」ということの中に,行為者である主体にとって,「強い関心を伴う情動の 活性化」があったと考えられる。

4. 対人場面での相互交流に自己制御不全を示す青年期発達障害者の支援として,

ロール・プレイングを中心とするグループ・アプローチの効果が確認された。

具体的には,グループの構造や課題特性,補助自我的なスタッフに支えられた 対人交流の中で,自発的な相互のやりとり,他者の期待に応じようとする役割演 技が見られるようになった。

5. 対人交流の場は,他者からの働きかけに主体がどのように応じるかという課題 場面であり,そこでの適応行動には,その状況において他者が期待することに気 づくという主体の認知機能が関わる。広汎性発達障害の特徴とされる「対人的相 互反応の質的障害」は,他者に関わるための認知機能がうまく働いていない自己 制御不全の状態である。

本論のグループ・アプローチにおける集団ゲームや,ロール・プレイングでは,

仲間と体験を共有しながら「今,ここで,生き生きと感じられる」楽しさや自己 の表現を認められるという肯定的な実感が得られている。そのような人との関わ わりの中で生じる情動活性化に伴って,他者に関する認知機能も高められること により,上述の知見4のような場面に適応する自己制御に至ったと考えられる。

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6. 知見3と5により,課題場面での自発的な自己制御が不十分な場合の支援とし て,その対象が発達の初期段階にある幼児や,障害特性による対人交流に質的な 障害をもつ発達障害者の場合は,課題目標に強い関心を向ける情動活性化をもた らすような働きかけが重要となる。

7. 当事者評価によるアンケート調査,および長期間(5年間)でとらえた事例研究 の結果から,グループ内での適応的な自己制御のあり方は,さらに時間をかけた体 験の蓄積や,経験の広がりの中で醸成されることにより,般化,すなわち日常生活

での対人交流の発展につながることが示唆された。

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