第9章 長期スパンでとらえた対人行動の発達と日常への般化
第2節 情動活性化に伴う認知機能の高まり
2歳児クラスを課題目標の達成に導いた刺激図は,「パンダの顔を切ったらかわいそう」
や「赤いところは切らないで」という教示とともに示された。これらは日常的な文脈に馴 染み,感覚的に理解しやすいものであるために子どもにとっても意味のある課題として,
それまでの黒い線のみの課題材料では得られなかった興味や関心を引き起こす効果があっ たと思われる。それゆえ 3歳前後という低年齢にあっても,ちょうど線のところで鋏を切 り止めるという正確な手指操作を行う程,自己制御が可能になった背景には,課題に対す る強い関心をもつという情動活性化を伴った認知機能の高まりがあったと考えられよう。
その他の幼児の課題場面として,Yoshikawa(1992)は,2,3歳の脳性マヒ幼児に動作訓 練を行う際,訓練開始当初によくみられる「泣き」の問題を検討している。このときの泣 くという状態の多くは,普段とは勝手が違う場所と人を相手に,慣れない動きを求められ ることによる不安から起こっていると思われるが,この場合はむしろ主体の情動が課題に 向かうことを妨げるような負の方向に活性化していると言えるであろう。しかし
Yoshikawa(1992)は,そのような負の情動の活性化状態にあるトレーニーであっても,そ の子どもに触れた手の動きを通して正しい動きに導きながら,少しでも好ましい動きが見 られたときに,トレーナーが即座にそれに合わせて「そう,そう,いいね。上手だよ」と ほめることによって,子どもの気持ちが課題に向きやすくなることを示している。つまり この場合は,主体が今何をすればよいのかがわかりやすく示され,なおかつそれに対する 自分の反応を即座に褒められるという正のフィードバックがあることで,課題に対する認 知や課題に向かう意志が高まり,それによって不安も軽減されているのではないかと思わ れる。またそれに伴って情動面は適度な落ち着きを取り戻し,課題に対する抵抗という負 から,関心を向けるという正への転換が生じているのではないかと考えられる。
いずれにしてもこのように主体の中にある認知と情動,意志という働きに何らかの機能 的な関わりがあり,それらが相互に影響し合うことで自己制御を高めたり,逆にバラバラ でうまくかみ合わずに自己制御不全に陥ることがあるものと考えられよう。そこで主体が 直面する課題に対応するときの,認知と情動,意志の相互の関わり合いをもとにした自己 制御の働きを図2のように示した。
また2歳児クラスが黒い線のみの課題材料を手にしても,その線で切り止めるという目 標に達することができないでいるのは,図3のように認知と情動がうまく関連しておらず,
認知の働きだけでは課題に対応できる程,十分に機能することができないという自己制御 不全の状態にあると言えるであろう。
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Ⅲ-11-図 2 主体の認知・情動・意志の相互機能的関わりによる自己制御
Ⅲ-11-図 3 認知機能が十分に働いていないことによる自己制御不全の状態
情動
意志 認知
課題
対 応課題
主体の 認知 自己制御
不全 課題 に対 応で き
てい ない 反応
意志
相互の 機能的 関わり
情動
主体の
自己制御
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それに対して図4は,外から何らかの働きかけがあり,それによって課題に対する主体 の関心が強められる(情動活性化)ことで,同時に認知機能も高まり,目標に対応するよ うな課題理解が促進されることを示している。本論の2歳児クラスの課題達成は,このよ うな外からの手立てにより自己制御不全が改善された状態と考えらえる。
Ⅲ-11-図 4 情動の活性化により,課題に対応する認知機能も高まっている状態
課題
課題に対応主体の 自己制御
情動の 活性化 意志
認知機能 の高まり
強い関心や 生き生きとした 実感につながる
働きかけ
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