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Ⅰ部のまとめ

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 41-46)

Ⅰ部の結果をまとめると,幼児の鋏操作課題において,その正反応に結びつくための課 題理解には,図1のような年齢によって異なるモードの働きかけが必要であることが明ら かにされた。

年長児クラス

年少児クラス

2 歳児クラ ス

Ⅰ -5-図 1 各年齢において正反応に導いた課題提示のあり方

すなわち実験Ⅰにより,年少児の鋏操作スキルにおける最も顕著なつまずきとして,基 準線にそって正確に切り止めることの困難さが認められた。そのような動作の自己制御不 全には課題理解の問題が関わるという仮説のもとに,実験Ⅱでは言語教示に加えて正反応 をモデルで示すという視覚的に明らかな課題目標を提示したところ,年少児においても正 反応が大幅に増加し,課題理解の促進により目標に向けた動作の自己制御が高められると いう結果が示された。しかしながら実験Ⅲの 2歳児クラスでは,そのように課題理解を促 すという認知的な側面への働きかけのみでは正反応に至る程の自己制御の高まりは見られ なかった。これについては停止目標ラインで切り止めるという課題に被験児が「のる」と いう主体的な構えについても,検討する必要があると思われる。課題に対して被験児がの

言語教示

色や絵による 課題の意味づけ

モデルを示す

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っていける,すなわち自ら主体的に関わろうとするかどうかについては,実験Ⅳのベース ライン試行と AP 試行との間に,明確な差異がみられた。ベースライン試行の段階で課題 の説明を聞いていた被験児の中には,「これで,何をつくるの?」と尋ねる子どもがあり,

その質問は,目標ラインで止めるという課題の背後に,その子にとって,さらに意味のあ る目標を求めていたことの表れであると考えられる。またそのような質問を口に出さなか ったその他の被験児の中にも,何のためにこの課題を遂行するのかは,今ひとつピンとこ ないといった表情がうかがわれた。それとは対照的にパンダの絵を見ながら教示を受けて いるときには,「パンダの顔を切ったら,かわいそうね。」という実験者の言葉に大半の被 験児が大きくうなずいていた。この反応は5人の評定者が AP試行において被験児が最も 目標ラインでの停止を意識しているという評価にも通じることであるが,明らかに課題に 臨む被験児の構えが試行間で異なっていたことを裏付けるものであろう。即ちベースライ ン試行では,被験児にとってはほとんど意味のない作業を,実験者に言われるがまま,と りあえずやってみるという受動的な態度で臨んでいたのではないだろうか。一方,パンダ の絵は「切ったらかわいそう」という教示と共に,子どもの日常に近い感覚で納得のいく 目標を示すものであり,それだけ大きく関心を引きつける刺激となっていたのではないか と推察される。またそれにより最も強く「黒い線で止めることを意識している」と評価さ れる程,慎重な構えで鋏を操作し,結果的に目標ラインで切り止めるという自己制御が発 揮されたのではないかと考えられる。

また赤白色分けの刺激図についてもパンダの絵と同様に正反応が増えていることから,

子どもにとっては何らかの関心を高める効果があったものと思われる。それについては「赤」

が一般的にも禁止や抑制を象徴するイメージカラーであり,それだけインパクトのある目 標として感覚的に強く子どもの注意を引きつけたのではないだろうか。このように動物の 絵や色による刺激図の提示は,子どもの関心を強く引きつけることで課題に対応する意識 を高め,単に黒い線のところで止めるという概念的な課題には応じることが困難であった 幼児期前半にあっても,課題に乗るという構えに導くことが可能となり,それに対応する 自己制御を高めることができたのではないかと考えられる。

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第Ⅱ部 思春期・青年期発達障害者の対人交流場面における 自己制御の発達とその支援 -グループ・アプローチより-

1990年代の初めからLD(学習障害)や自閉症など,発達上の様々な困難さを抱える子 どもたちの保護者が,我が子のよりよい成長を願って全国各地に親の会を立ち上げ,それ ぞれの地域で独自の活動を展開するようになった。その中でA市とその近隣B 地域のLD 親の会(C)は,その活動の一環として学習支援を中心に学校・社会への啓発啓蒙を目的 とする「AS研究会(仮称)」を発足した。しかし当初,小学生であった会員の子ども達が 青年期にさしかかる段階に至っては,学習面のみならず,表1に示す広汎性発達障害の診 断基準のように,対人相互交流における質的な障害が浮き彫りになるケースが多く見られ,

改めてライフスキルの観点から,仲間との対人関係を円滑にするための社会性教育のニー ズが高まってきた。全国的にもこの頃から,「生活技能」,「社会的技能」などと訳されるソ ーシャルスキル(social skill)の問題に焦点をあてた支援が数多く紹介されるようになり,

SST(五十嵐,2005),ソーシャルスキル教育(佐藤・相川,2005),ソーシャルスキル指 導(上野・岡田,2006)など,それぞれの立場からの実践例が示されている。その中でよ く用いられている技法の一つであるロール・プレイングは,実際の対人関係を通して他者 との関わり方を学ぶ実践的な手法である。筆者は以前から「感情体験を通した相互の気持 ちの理解とそれに基づく対応の技術(針塚,2010)」となるロール・プレイングを教育・

研修の場で取り入れていたこともあり,AS研究会からの要請に応じて,青年期の対人交 流を促す支援として,ロール・プレイングを活用したグループ(YG)を定期的に開催する ことになった。

第Ⅱ部では,そのYGの開設に至るきっかけとなったX年の学習会を含め,それから数 年間にわたるグループの取り組みの中でとらえた発達障害にみられる対人場面での自己制 御不全を踏まえて,場に応じた適応行動をもたらす働きかけや支援のあり方について検討 する。なお,これらの事例は学会誌等に発表されているが,その掲載については保護者の 了解を得ている。

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Ⅱ-表1 広汎性発達障害の診断基準

DSM-IV-TR 精神疾患の分類と診断の手引き 新訂版 医学書院(2003)より

広汎性発達障害 Pervasive Developmental Disorders

自閉性障害 Autistic Disorder

A.(1),(2),(3)から合計6つ(またはそれ以上),うち少なくとも(1)から 2つ,(2)と(3)

から1つずつの項目を含む.

(1) 対人的相互反応における質的な障害が以下の少なくとも2つによって明らかになる:

(a) 目と目で見つめ合う,顔の表情,体の姿勢,身振りなど,対人的相互反応を調整

する多彩な非言語的行動の使用の著明な障害.

(b) 発達の水準に相応した仲間関係を作ることの失敗.

(c) 楽しみ,興味,達成感を他人と分かち合うことを自発的に求めることの 欠如(例:興味のある物を見せる,持って来る,指差すことの欠如).

(d) 対人的または情緒的相互性の欠如.

(2) 以下のうち少なくとも1つによって示されるコミュニケーションの質的な障害:

(a) 話し言葉の発達の遅れまたは完全な欠如(身振りや物まねのような代わりの コミュニケーションの仕方により補おうという努力を伴わない).

(b) 十分会話のある者では,他人と会話を開始し継続する能力の著明な障害.

(c) 常同的で反復的な言語の使用または独特な言語.

(d) 発達水準に相応した,変化に富んだ自発的なごっこ遊びや社会性をもった 物まね遊びの欠如.

(3) 行動,興味および活動の限定された反復的で常同的な様式で,以下の少なく とも1つによって明らかになる:

(a) 強度または対象において異常なほど,常同的で限定された型の,1つまたは いくつかの興味だけに熱中すること.

(b) 特定の,機能的でない習慣や儀式にかたくなにこだわるのが明らかである.

(c) 常同的で反復的な衒奇的運動(例:手や指をぱたぱたさせたりねじ曲げる,また は 複雑な全身の動き).

(d) 物体の一部に持続的に熱中する.

B.3歳以前に始まる,以下の領域の少なくとも1つにおける機能の遅れまたは異常:

(1) 対人的相互反応,(2) 対人的コミュニケーションに用いられる言語,または (3) 象徴的または想像的遊び.

C.この障害はレット障害または小児期崩壊性障害ではうまく説明されない.

41 アスペルガー障害 Asperger’s Disorder

A. 以下の少なくとも2つにより示される対人的相互反応の質的障害:

(1) 目と目で見つめ合う,顔の表情,体の姿勢,身振りなど,対人的相互反応を調整 する多彩な非言語的行動の使用の著明な障害.

(2) 発達の水準に相応した仲間関係を作ることの失敗.

(3) 楽しみ,興味,達成感を他人と分かち合うことを自発的に求めることの欠如

(例:他の人達に興味のある物を見せる,持って来る,指差すなどをしない).

(4) 対人的または情緒的相互性の欠如.

B.行動,興味および活動の,限定的,反復的,常同的な様式で,以下の少なくとも1つに

よって明らかになる:

(1) その強度または対象において異常なほど,常同的で限定された型の1つまたは それ以上の興味だけに熱中すること.

(2) 特定の,機能的でない習慣や儀式にかたくなにこだわるのが明らかである.

(3) 常同的で反復的な衒奇的運動(例:手や指をぱたぱたさせたり,ねじ曲げる,

または複雑な全身の動き).

(4) 物体の一部に持続的に熱中する.

C.その障害は社会的,職業的,または他の重要な領域における機能の臨床的に著しい障害を 引き起こしている.

D.臨床的に著しい言語の遅れがない(例:2歳までに単語を用い,3歳までにコミュニケー

ション的な句を用いる).

E.認知の発達,年齢に相応した自己管理能力,(対人関係以外の)適応行動,および小児期 における環境への好奇心などについて臨床的に明らかな遅れがない.

F.他の特定の広汎性発達障害または統合失調症の基準を満たさない.

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 41-46)