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向社会的行動に関わる視点の偏りを示した事例

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 46-61)

第6章 役割演技にみられた発達障害者の自己制御不全

第1節 向社会的行動に関わる視点の偏りを示した事例

社会性に関する先行研究の中で「発達障害をもつ子どもの向社会的行動に関する研究動 向」を調べた杉村(2009)によれば,「広汎性発達障害をもつ子どもは,中心的な特徴と して他者との相互的なやりとりに難しさをもっていることからも,一般に向社会的行動が 少ないと言われている。向社会的行動は,もともと他者に対する思いやりに支えられた行 動であり,その点で多くの社会的行動のなかでも重要な価値をもっている。また一方で,

向社会的行動は他者への思いやりという動機づけにかかわらず,広い意味で他者に対する ポジティブな働きかけとして捉えられる。その点から,向社会的行動は対人関係を円滑に したり,相互交渉を活発にしたりする上で重要な機能を果たしていると言える。」とされて いる。

そこで第6章の 1節では,広汎性発達障害や知的障害のある子ども達に,ロール・プレ イングを体験する機会を設け,相手が悲しんでいる場面でどのような向社会的行動がみら れるか,またそこでのつまずきにはどのような障害特性が関わっているのかを検討する。

1.参加者の募集方法

AS 研究会「親子で一緒にロールプレイを楽しもう」というテーマで,A 市とその近隣 のB地域の発達障害児・者親の会(C)を通じて,小学4年から高校生までを対象にロー ル・プレイング体験学習会への参加を呼びかけた。

2.実施期間

X年9月第 3日曜(1回目),第4日曜(2回目),10月第1日曜(3回目)の計 3回

43 3.実施場所

A市の福祉施設D内にある多目的研修室。カーペット張りの床で直接座ることも椅子を 使うことも可能であり,20名前後がロール・プレイングを行う上で適度な広さを備えてい た。

4.プログラムの内容と当日の参加者(表1)

1 回目は悪天候のため当初予定していた時間を短縮したが,初顔合わせの参加者同士が 互いにグループへの親しみを持つこと,劇化や演じる行為に慣れてもらうことを目的とし たプログラム編成を心がけた。2 回目以降は,参加者の社会性や行動特徴をより明確に把 握することをねらいとして,「こんなとき,どうする?」という対人場面状況を扱ったロー ル・プレイングを試み,3 回目ではさらに複数場面での取り組みへと発展させた。それら を振り返ってみると,参加者の態度やテーマ活動への反応の有様にそれぞれ特異的な個性 ともいえる特徴がみられた。その中でこの節では,向社会的行動を明確にとらえやすい状 況設定でロール・プレイングを行った2回目の実践に焦点をあてる。分析については,後 に定期的に開催することが決まったYG に継続して参加することになり,個々の生育歴に 関する情報が得られた 3名(E 男,F男,G男)を中心に行う。そのプロフィールを表 2 に示している。なお,その中には「親子でロール・プレイングを楽しもう」が開催された X年9月以降に実施された発達検査結果や診断についても記載した。また,その回のみの 参加であり,発達に関する情報が得られていない 2 名,すなわち H 男と G 男のきょうだ い児(G-Bro)についても、その役割演技を考察に含めている。

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Ⅱ-6-表 1 プログラム「親子でロール・プレイングを楽しもう」

第 1 回

X 年 9 月第 3 日曜日 13:00~15:00

第 2 回

X 年 9 月第 4 日曜日 13:00~16:00

第 3 回

X 年 10 月第 1 日曜日 13:00~16:00

1. 自己紹介

名前・好きなテレビ番組・

好きな食べ物

(ジェスチャーで)

2. マッピング(並べ替え)

誕生月・起床時間・

一日の中で好きな時間 3. ジェスチャー伝言ゲーム 「秋と言えば・・・・」

4.夏休みの思い出 絵に描いてみよう 劇化

シェアリング 5.感想

1.はじめのあいさつ 初参加者の自己紹介

ジェスチャーで好きな食べ物 2.何が変わったでしょう 3 人一組で変装した箇所を あてる。

3.夏休 みの 思い 出 その 2 劇化

シェ アリ ング 4.ロー ル・ プレ イン グ

「 こん なと き, どう する ?」

花 子さ んの ジュ ース をこ ぼし て しま った 太郎 君。 あな たが 太郎 君だ った ら, どう する ?

5.感想

1.はじめのあいさつ 初参加者の自己紹介 ジェスチャーで好きな食べ物 2. ゲーム

「権兵衛さんが言いました」

3.ジェスチャーゲーム 3 人一組のチームで,絵カー ドの内容を順に身振りで伝 えていく。

4.ロール・プレイング

「こんなとき,どうする?」

① 期待外れのプレゼントを もらったら?

② 約束の時間に遅れそうなと

③ 寄り道に誘われたら?

5.感想

対象となる子どもの参加人数 高 2 :1 名 中 2:2 名 小 6 :1 名 小 5:1 名 計 5 名

その他

AS 会員(保護者含む) 2 名 きょうだい児 3 名 臨床心理士(筆者) 1 名 大学生(見学) 2 名

対象となる子どもの参加人数 中 3:1 名 中 2:1 名 小 5:1 名 小 4:1 名 計 4 名

その他

AS 会員(保護者含む) 6 名 きょうだい児 3 名 臨床心理士(筆者) 1 名

対象となる子どもの参加人数 高 2:1 名 中 3:1 名 中 2:2 名 小 6:1 名 小 5:1 名 小 4:1 名 計 7 名

その他

AS 会員(保護者含む) 7 名 きょうだい児 2 名 臨床心理士 (筆者) 1 名 大学生(ボランティア) 3 名

45 5.診断歴と障害特性について

本研究の対象児 3 人の生育歴をたどると,それぞれの発達段階で,広汎性発達障害,

ADHD,LD もしくは知的障害といった複数の異なる診断がなされている。その中で自閉 症を含む広汎性発達障害(自閉症スペクトラム)は,ウィングの三つ組みと言われる自閉 症の基本的な障害,すなわち「(1)社会性の障害(対人的相互反応),(2)コミュニケー ションの障害,(3)想像力の障害」に加えて,「行動,興味,および活動の限定された反 復的な行動パターンを示しやすい」ことや,感覚の過敏さ,選択的注意の障害」も指摘さ れている。選択的注意とは,「雑多な刺激のなかから必要な刺激を選別して認識する能力(石 崎・小野,2010)」を意味する。また注意に関しては,AD/HD(注意欠陥/多動性障害)がその 基本症状として,不注意,多動性,衝動性をあげており,これらの診断は,行動特性を重 視したものである。一方,知的発達の全般的な遅れを示す知的障害や,全般的な遅れはな いものの著しい偏りが見られるというLDは,認知特性に着目した診断である(鍋谷,2010)。

いずれにしても杉山・原(2003)が軽度発達障害の中に軽度精神遅滞(IQ50~69)を含 め,「知的能力は発達途上の児童の場合,固定的なものではない」と述べているように,そ の症状の現れ方や程度はそれぞれの個人要因や環境要因,さらに発達段階によっても一様 ではないことが知られている。またどこに着目するかによって捉えられる臨床像も異なる が,そのような個人内における診断歴の多様さは,本研究の対象児の生育歴(表 2)にお いても確認されるところである。

Ⅱ-6-表 2 対象児の診断歴 プロフィール

性別・学年(X 年 9 月) 診断歴

E 男

中 2 男子 (13 歳 9 ヶ月)

特殊学級

小学校 通常学級に在籍 小 4~小 6 情緒通級教室 中 1 より特殊学級

出産予定より 2 週間早く生まれる 1 歳:歩行の遅れ

5 歳:相談機関にて 包括性 LD 8 歳:相談機関にて 広汎性発達障害

16 歳:相談機関にて 軽度知的障害(FIQ 60)

F 男

中 3 男子(15 歳 3 ヶ月)

特殊学級(中 3 から)

2 歳:2 語文が増えない

3 歳 3 ヶ月:児童相談所でグレーゾーンと言われる。(IQ90)

6 歳:医療機関にて 注意・集中困難を伴う言語性 LD 8 歳:相談機関にて 注意・記憶型 LD

9 歳:医療機関にて ADHD 13 歳:相談機関にて (FIQ68)

16 歳:医療機関にて 広汎性発達障害 強迫性障害 G 男 小 5 男子 特殊学級 3 歳:療育機関にて 広汎性発達障害

5 歳:療育機関にて 知的障害の診断 (IQ63)

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6.ロール・プレイング「こんなとき,どうする?」の場面(状況設定)

以下の 内のような場面設定で,監督(筆者),花子役(保護者の一人),太郎役(保 護者から途中で子どもに交替)が登場するロール・プレイングを行い,一方が悲しんでい る(がっかりしている)状況で,その相手役として,どのような向社会的行動が見られる のかを観察した。ただし,その場面で話題となるジュースやコップ,さらにその後の太郎 役を演じる中で出てくる道具(バケツ,テーブル,布巾など)は,実際にその場になく,

すべてジェスチャーで表現されたものである。

7.その後の展開にみられた太郎役の演技とそのふりかえり

上記の場面設定の後,ロール・プレイングを一旦中断したところで,監督(筆者)が参 加者に向かって,「今,どうなったの?」と投げかけた。そこで「乾杯したことにより,花 子のジュースがこぼれた」という状況が,見ていた参加者に理解されていることを確認し た。さらに「花子さんは,今どんな気持ち?」と尋ねたところ,以下のようなことばが返 ってきた。

E男:「いやな気持」

F男:「悲しい」

G男:「寂しい気持ち」「太郎君,早く分けてくれないかな」

H男:「太郎君のせいで全部こぼれてしまった」

この後,自分が太郎だったら「こんなとき,どうするか」という課題場面の設定となり,

一人ずつ交代で太郎役を演じている。その場面のそれぞれの役割演技と,その後の振り返 りにおける発話内容を表3に示している。また対象児3名については,さらに具体的なや りとりの様子を図1~3に示している。

参加していた保護者の中から2名が花子役と太郎役となり,その名前を大きく書いたカードを首か らぶらさげて登場する。最初に監督が,1本しか残っていないジュースを示し,2人で仲良く分けて ね。」と言いながら,太郎と花子のコップに注ぐ。注ぎ終わってから,「ちょうど全部無くなりました」

と空のビンを振って見せる。その後に太郎と花子は「かんぱーい!」と嬉しそうに元気な声をあげ,

大きく差し出したコップを互いにぶつけたところで,花子が「あー,ジュースが全部こぼれちゃった ー!」と悲しむ。

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