1.問題と目的
障害のある子どもの支援において,保護者はその子を「育ててきた最も身近な理解者で あり,我が子の学習面や行動面での困難さをいち早く感じ取って(文部科学省,2004)」い る存在である。発達障害児を支援の対象に組み入れた特別支援特教育は,「障害のある幼児 児童生徒の一人一人のニーズを正確に把握し,教育の視点から適切に対応していくという 考えの下,長期的な視点で乳幼児期から学校卒業後までを通じて,一貫して的確な支援を 行う(文部科学省,2005)」ための教育支援計画が柱となっている。その「策定・実施・評 価・改訂のすべてに,保護者が積極的に参画し,他の関係者・機関と同様に支援者として の役割を果たし,その意向を十分に反映させることが大切」であり,「同時に保護者が子ど も へ の 的 確 な 支 援 を 行 う こ と が で き る よ う に 保 護 者 に 対 す る 支 援 も 必 要 ( 永 田 ・ 渡 辺,2007)」とされている。すなわち障害をもつ子どもの保護者は,支援者であると同時に 支援を受ける対象でもあるという二重の立場に立っており,保護者との連携は当事者ニー ズを保障する上でも重要である。
2001年に採択された国際生活機能分類では,人間の生活機能と障害が,「心身機能・身 体構造」,「活動」,「参加」の3つの次元で示されるようになった。それぞれの次元には,
「環境因子」と「個人因子」が相互に関わりをもつとされているが,その中で「活動」と
「参加」には,「対人関係」や「コミュニケーション」,「コミュニティライフ・社会生活」
といった対人交流をベースとする項目が含まれている。すなわち対人交流を円滑にするこ とが,健康な社会生活を送る上で重要な鍵となるが,それには場に応じた自己主張や他者 への共感,思いやりを示す態度などが求められ,その前提には自己理解や他者理解ととも に,実際の行為として示されるソーシャルスキルも必要である。それらは通常,他者との 日常的な交流の中で自然に身につくものであるが,認知機能のアンバランスな LD や自閉 症スペクトラム等の発達障害児は,その特性ゆえに自己理解や他者理解,ソーシャルスキ ルの獲得に困難さを持っている。それゆえ対人交流場面では,場にそぐわない言動をとる ところとなり,その結果,年齢相応の友人関係を築きにくく,孤立感や自尊感情の低下と いう二次障害を引き起こしやすいことも知られている。したがって発達障害児の対人交流 を円滑に発展させるためには,彼らの特性に合った学習の場を意図的に設けることが必要 となる。そのような「仲間関係を改善するためにソーシャルスキル・トレーニングを実施 する場合,最も適切な場面は,子ども達が集う学校場面である」(佐藤,1998)と言われ ているが,特別支援教育の対象やその課題は多岐に渡り,とりわけ学習支援に重点が置か れる学校現場において,一人一人のニーズに合わせた社会性教育の時間枠を設定すること は容易ではない。特に学童期を過ぎた中学生以降の通常学級では,進学に重点を置かれた カリキュラム教育の流れに乗り,集団生活そのものに焦点をあてた教育の機会は大幅に狭 められよう。さらに卒業後は学校という構造化された場所から外れることで,多様な場面 での自己決定が必要となり,より一層の社会性を求められる一方で,対人関係を高めるた めの学習については,公的な場が保障されていないのが現状であろう。
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そこで障害児・者の社会性教育については,学校教育の枠を超えて,地域資源に期待さ れるところが大きい。そのような地域における臨床心理学的な発達援助は,コミュニティ・
アプローチとして位置づけられる(山本,1995)が,窪田(2004)は,それらコミュニテ ィ・アプローチで行われているグループワークを総称して「コミュニティ・グループワー ク」と呼んでいる。発達障害児・者の社会性を高めるためのコミュニティ・アプローチと しては,各地のYMCAや大学等の支援センター,病院等で学齢期を対象とした SSTプロ グラムなどが多くみられる。一方,青年期は定型発達においても親からの精神的な自立と いう発達課題に直面し,戸惑いと不安の中で大きく揺れ動く時期である。それゆえ仲間関 係や社会的な居場所の希薄な発達障害者は,その青年期において,コミュニティ・アプロ ーチの必要性が最も高いと思われる。しかしながら学齢期に比べるとそのような取り組み はまだ数少なく,今後の発展が期待されるところであるが,そのひとつとして筆者は地域 のLD親の会の協力を得て,数年前から思春期以降の青年グループを対象にしたソーシャ ル ス キ ル 教 育 に 取 り 組 ん で い る 。 そ の 中 で 対 人 場 面 で の 適 応 行 動 を 引 き 出 す た め の ロ ー ル・プレイングを取り入れたところ,当初は互いへの関心が低かったメンバー間で,自発 的に譲る行為(吉川,2009)や温かなことばかけ(吉川,2009),応答的な遊びの展開(吉 川,2007・2009)がみられるようになった。しかしながら,これらのグループワークで見 られた人との関わりについての発展は,そのグループ内の活動において一定の効果が認め られたものの,それらが日常場面でどのように活かされるのかという般化については明確 にされていない。滝吉・田中(2010)は,自己理解の視点からみた広汎性発達障害者の集 団療法に関する先行研究を概観し,「コミュニケーション行動の獲得や促進,不適切行動の 軽減などをねらいとしたSST・行動療法に基づく訓練については,客観的なスキル評価 の導入によって,PDD 者の社会的言動の外面的な変化が可能であることが示された一方,
般化の難しさが存在する」と述べている。その一つに挙げられる岡田・後藤・上野(2005a)
は,小学校高学年の LD,ADHD,アスぺルガー障害の児童 3 名に対して,ゲームを取り 入れたソーシャルスキルの指導を3ヶ月間(8セッション)実施し,LDおよびADHDの 対象者には,スキルの向上がみられたが,アスぺルガー障害者には明確な効果が示されな かった」ことを報告している。しかしその一方で滝吉ら(2010)は,心理劇および心理劇 を基盤としたロール・プレイング(心理劇的ロール・プレイング:PDRP)については,
情動体験およびその表現の促進,自己や他者への気づきや理解,集団における仲間関係の 形成という 3 つの意義を確認し,さらに,「自己表現や他者への関心を促進するなどの心 理教育的ねらいにより実施される集団遊戯療法については,複数のスタッフが役割を分担 すること,PDD 者の言語能力やこだわりについて配慮することで,PDD 者が自己表現で きる,わかってもらえるという信頼感・安心感を形成し,集団の場を自己の居場所として 認識できる,わかってもらえるという信頼感・安心感を形成し,集団の場を自己の居場所 として認識することが可能となること」を示している。したがってグループワークの効果 については,参加者の特性やねらい,グループワークの内容によっても差異があり,般化 をもたらす要因も一様ではないと考えられる。
また特別支援教育の要である一人一人のニーズに応じた支援という視点からは,こうし たグループ・アプローチにおいても当事者である参加者や保護者の思いを明らかにしてお くことが重要であろう。そこで本研究では,発達臨床的地域援助すなわち,コミュニティ・
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アプローチの一つとして取り組んでいる発達障害児・者のグループワークについて,当事 者ニーズの把握と,コミュニティ・グループワークの体験が彼らの日常生活にどのように 活かされているのかを明らかにするために,当事者の視点からその意義と今後の課題を検 討することを目的とする。
2.方 法
(1)調査対象と実施時期
月に1度,U大学附属発達支援センターで開催している,ロール・プレイングを中心と した社会性教育のためのグループ(YG)のメンバーの保護者に対して,グループワークの 効果や期待するところを問う保護者向けのアンケートを行った(X+4年10月)。参加メン バーの12名の年齢層は,表1のプロフィールに示すように,中学生から社会人に至る青 年期である。それぞれの診断名については,一人に複数ある場合や,診断なしも含まれて いる。発達障害児・者の診断名が受診機関やその時期によって変化することは少なくない が,本研究のメンバーにおいてもその成長過程で困難さのどの部分に焦点があてられてい たのかにより,複数の診断を受けていると思われる。また診断名がないメンバーについて も,グループ内での状態像から,日常生活における対人場面での困難さを明らかに抱えて いることが推察された。なお,表1のLD(Learning Disabilities)は学習障害,ADHD
(Attention Deficit Hyperactivity Disorders)は注意欠陥多動性障害,ASD(A u t i s t i c S p e c t r u m D i s o r d e r)は,自閉症,アスペルガー症候群,広汎性発達障害を連続体と 捉えた名称である。