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自発性と創造性を促す課題特性と援助者の補助自我的役割

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 77-89)

この節では対人交流に困難さを抱える青年期のグループワークにおいて最も人気の高か った「ボールしりとり」の1セッションをとりあげ,それぞれの事例にみられる行動特徴 を踏まえながら,そこでの自発性や自己表現を促す課題特性と支援のあり方を検討した。

その結果,このグループワークの初めには発達障害の特性によるこだわりや注意の拡散,

さらに集団場面での緊張を伴って,スムーズに展開しない状況が見られたものの,次第に メンバー全員がボールしりとりに興じ,自分らしさを表現することばを模索するなどの自 発性を発揮する中で,自己肯定感を高めるような体験が得られていた。その背景には課題 構造の明快さや柔軟なルールを適用しやすいというボールしりとりの特性と,援助者の補 助自我的な関わりに支えられたメンバー間の緩やかな対人交流の関係性の構築があったと 考えられる。

1.問題と目的

青年期の発達課題の中心にある「自分は何者か(E.H.エリクソン,1977)」という「自 我同一性」には,「個人の主観的自己意識にかかわる自信だけでなく,歴史・社会的過程の 中に自分を位置づけ,具体的な社会集団の中で積極的な人間関係をもち,一定の社会的役 割を引き受け,これを担っていくことに対する自信」が含まれている(坂田, 1986)。すな わちそこに至る過程には,他者との交流を基盤とした「自分らしさ」を認められる体験の 積み重ねが前提になると考えられるが,それだけに対人場面でのつまずきが重なると,自 己イメージの低下を引き起こしやすいであろう。とりわけLD やADHD,自閉症スペクト

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ラムのような発達に偏りがみられる場合には,その障害特性ゆえに対人交流そのものが希 薄になりやすいため,そのような社会性の未学習,誤学習によるつまずきが,他者との関 係の中で確立すべき自我の発達を妨げる障壁になっていると考えられる。このように対人 交流を円滑にするための社会性は,元来,人との関わりを通して学び,習得するものであ るため,他者との肯定的な相互交流の機会を確保することが彼らの社会性を高める上で重 要な支援の一つとして位置づけられよう。青年期の発達障害者にロール・プレイングを通 して肯定的な相互交流の体験を促すことは,髙原(2011)が入所施設の高機能自閉症者に 心理劇を導入し,施設内での適応を高める効果が得られたと報告しているように,彼等の 対人的な成長につながるものと期待される。しかしながら思春期・青年期は殊更自我意識 の高まりが顕著なときであり,YGの中にも人前で演じることに対して,「そんな恥ずかし いことはできない」という強い抵抗感を示すメンバーもみられる。各メンバーは保護者に 勧められるまま,入会時に受け身的な構えで参加しているが,その後は本人の意志で継続 的な参加に至っている。それゆえ不用意に情緒的な混乱を招くことのないように配慮する だけでなく,主体的な参加意欲を損なわない工夫も常に求められている。そのため慣れな い場面で柔軟に対応することが困難とされる発達障害児・者に,早い段階からロール・プ レイングへの積極的な参加を期待するよりも,まずは集団の中に安心していられる場を保 障した上で,当事者にとって楽しいと感じられる「お気に入り」の活動を組み入れること に よ り, 自 分 の あり 方 を 認 めら れ る 体 験や 心 理 劇 の重 要 な 要 素と 言 わ れ てい る 「playful であること(高良,2005)」を促すことが,彼らの自発性,創造性を高める上で有効と思 われる。そこで吉川・城元(2011)は,メンバーがどのようなことを期待して,グループ に参加しているのかを把握するために,グループを開設して数年を経たところでアンケー ト調査を行っているが,その結果,ソーシャルスキルの学びの場としての側面の他,グル ープでの話し合いや,ともに楽しむゲーム等,対人交流の体験そのものに意義を見い出し ていることが示された。このように人との関わりを楽しむという情動的な体験は,他者と の関係性の中で自己を確立し,社会生活に適応するための重要な要素と考えられる。YG ではプログラムの中に,自己の気づきを高めるための心理劇的ロール・プレイングやソー シャルスキルを身につけるための教育的アプローチからもロール・プレイングを組み入れ ているが,その前後にはウォーミングアップや「お楽しみタイム」として,集団療法的な グループワークとしてゲームを積極的に取り入れている。ウォーミングアップは,もとも とモレノが創始した心理劇の第1相にあたる部分で,その後の第2相(劇化)につながる 流れとして,「メンバーが他者との交流の道を開いていくことができるような温かい人間関 係を形成するための準備となる(長谷川・磯田・成沢・高良,1986)」重要な導入段階と して位置づけられている。また「お楽しみタイム」は,学習したソーシャルスキルを活用 する機会となる他,メンバー間の交流を楽しむワークとして期待されている。特に対人緊 張が強い,他者に関心を向けられない,共有すべきテーマに気持ちを切り替えることが難 しいなど,対人交流が苦手な参加メンバー(以下,メンバーと略す)へのグループ実践に おいては,仲間といっしょに楽しめるゲームを積極的に取り入れている。

ところでソーシャルスキル教育のために有効とされるゲームは,これまでに数多く紹介 されている(小貫・名越・三和,2004,上野・岡田,2006)が,それらの活動内容のどうい った特性が集団場面でうまく「自分らしさ」を表現し,他者に認められる体験につながる

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のかについて,個別の事例に焦点をあてて検討したものはほとんど見当たらない。そこで 本研究は,発達障害のある青年にとって,ウォーミングアップやお楽しみタイムとして取 り入れられる活動のどのような特性が「楽しい」という肯定感につながるのか,さらにま たそのときのどのような支援のあり方が彼らの自発性を高め,集団場面で「自分らしさ」

を表現できることにつながるのかを,実際のグループセッションの事例を基に検討する。

2.方 法

(1)メンバー:対人交流に困難さを抱える思春期・青年期男子 6名(表 4)。

その他 :グループリーダー1名(筆者),

サブリーダー数名(臨床心理士・学生スタッフ)

Ⅱ-7-表 4 参加メンバーのプロフィール

(2)実施時期/時間 : X+5年3月Z日 / 1セッション90分

F 男 K 男 L 男 N 男 O 男

年 齢 所 属

19 歳 自 立 支 援 セ ン タ ー

16 歳 高 1

14 歳 中 2

15 歳 中 3

14 歳 中 2 診 断 名 注 意 集 中 困 難

広 汎 性 発 達 障 害 言 語 性 LD 情 緒 面 の 不 安 定 さ FIQ 68

広 汎 性 発 達 障 害 言 語 性 LD 聴 覚 認 知 の 弱 さ FSIQ 71

診 断 な し 通 級 指 導 教 室 在 籍 FIQ 103

不 注 意 LD FSIQ 85

LD

(書 字 全 般 ) FIQ 74

参 加 年 数 4 年 2 ヶ 月 4 年 2 ヶ 月 1 年 9 ヶ 月 1 年 4 ヶ 月 9 ヶ 月 好 き な こ と

得 意 な こ と

工 作 パ ソ コ ン

ス ポ ー ツ ク イ ズ 番 組 漢 字 ・ 英 語

お 笑 い ゲ ー ム ア ニ メ

ゲ ー ム

イ ラ ス ト を 描 く

水 泳

苦 手 な こ と

( 保 護 者 の ア ン ケ ー ト よ り )

人 の 話 を 聞 く 相 手 の 立 場 で 考 え

聞 く ・ 話 す 感 情 の コ ン ト ロ ー

人 と 話 す 事 球 技

消 極 的

自 分 の 意 見 を 言 え な い 。 学 校 で は ク ラ ス メ イ ト か ら 取 り 残 さ れ る こ と が 多 い 。

細 か い 作 業

グ ル ー プ で の 普 段 の 様 子

メ ン バ ー の 話 に 耳 を 傾 け る こ と が で き ず に , そ の 間 は 下 を 向 い て 爪 噛 み 抜 毛 な ど の 神 経 性 習 癖 が み ら れ る 。 自 分 の こ と を 長 々 と 話 す 。 確 認 行 為 が 目 立 つ 。

グ ル ー プ に は り き っ て 参 加 。 会 話 の 中 で の 構 文 が 苦 手 で , 思 っ て い る こ と を う ま く 伝 え ら れ な い が , 自 分 の 番 に な る と , つ ま り な が ら も 自 分 の 考 え を 一 生 懸 命 述 べ よ う と す る 。

ロ ー ル ・ プ レ イ ン グ で は , 受 け を 狙 っ て 独 創 的 な キ ャ ラ ク タ ー を 演 じ る 。

他 の メ ン バ ー の マ イ ペ ー ス と み ら れ る 態 度 に は 苛 立 ち を 示 す こ と も あ る 。

入 会 当 初 は か な り 強 い 緊 張 を 示 し て い た が ,1 年 を 経 る 頃 か ら 表 情 が 和 ら い で , 笑 顔 が ふ え る 。

隣 席 の サ ブ リ ー ダ ー に は ,自 分 か ら よ く 話 し か け る も の の ,指 名 さ れ る と 固 ま っ て し ま い ,下 を 向 い て 口 を 閉 ざ す 。

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(3)プログラムの内容:表 5のようい 1 回のセッションではその日のメインテーマに合わ

せて,その他の活動が組み込まれているが,基本的な枠組みとして,はじめの会,ウォ ーミングアップ,テーマ活動,お楽しみタイム,かえりの会という流れになっている。

Ⅱ-7-表 5 YG のプログラムの一例(X+5 年 3 月 Z 日)

1.はじめの会

自己紹介・体調チェック・のびのび体操・ニュースの時間 2.ウォーミングアップ

フィーリングバスケット 3.テーマ活動

「これでばっちり,接客スキル」

(翌月に開くオープンカフェのためにロール・プレイングでリハーサル ) 4.お楽しみゲーム

ボールしりとり 5.かえりの会

きょうの感想・ふりかえりシートの記入

(4)対象となる活動

YG に参加しているメンバーにとって,最も人気の高い活動を特定するために, X+5 年の初めに前年度の年間プログラムを振り返り,一人2票ずつの投票を試みたところ,全 員が2票とも「ボールしりとり」に投票していた。このゲームは,語尾の一文字でことば をつなげていくという通常の「しりとり遊び」に,YG 独自の工夫としてボール回しを組 み合わせ,ボールを持っている人が次のことばを言うことができるというルールを設定し たものである。このように全員の票が集まる程,メンバーの間で「ボールしりとり」の人 気が高いことについては,以前からこの活動の最中に各メンバーの表情が,非常に生き生 きしているという感触をリーダーらも認めていたところである。そこで録画記録を基に本 研究の分析対象として,「ボールしりとり」を行っている X+5年3月の1セッションをと りあげた。

3.結 果

ボールしりとりをしているときのメンバーとサブリーダーが座っていたそれぞれの位置 を図2に示した。またボールの流れとしりとりことばの展開,その場の状況を図 3に示し た。さらにそのときのメンバーのそれぞれの反応を表6に示した上で,個々の事例につい て,その経過の詳細を以下に述べる。

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 77-89)