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難民政策の展望

ドキュメント内 難民問題と安全保障 (ページ 145-148)

第 9 章 結論

9.3 日本の難民認識と今後の展望

9.3.2 難民政策の展望

今般の出入国管理及び難民認定法の改正に際しては、少子高齢化に伴う労働 力補填の観点からの議論に関心が集中し、この改正が日本の難民政策にいかな る影響を与えるかという視点からの論評はほとんどなされなかった。例えば「日 本弁護士連合会(日弁連)」は、今般の改正入管法に対する意見書の中で難民に 関しては全く言及していない413

NGO16

団体が連名で首相、法相あてに提出し た書簡にも、その

16

団体中に難民支援

NGO3

団体を含みながら、難民に関する言 及は全くない414。わずかに認定

NPO

法人「難民支援協会」が難民保護の視点から 今般の改正入管法に対する所見を述べているが415、社会全般の関心はやはり事 実上の移民受け入れに際しての疑問と問題の提起が大半である。

世界各国においてこれまで難民受け入れに失敗し、あるいは成功してきた事 例を見れば、結局その差は難民の受け入れ側社会への適応如何にあると言うこ とができる。米国における

2001

9

11

日の同時テロ事件以降、国際テロ組織に

412 脚註409参照。

413 20181113日付「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する

法律案 に対する意見書」

414 2018124日付「『出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する

法律案』に関し不当な差別を受けないための立法措置に向けた規定を追加し修正すること を求めるNGO共同要請書簡」

415 2018118日付「出入国管理及び難民認定法等の改正に関する難民支援協会の見 解」

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よる事件が注目を集めているが、現実には受入れ社会への適応に失敗した者が その屈折したルサンチマンを、最も身近な自分自身の生活する社会に対して指 向する事例が多い。いわゆる「ホームグロウン・テロ」である。

しかるに日本社会は「平和度」が高く416、突然の治安悪化に対して脆弱な側面 もあるため、受け入れた難民が日本社会へ平穏裡に適応できる体制を整備する ことは健全な社会を維持していくうえで必須の要件である。この観点から、今般 の「改正入管法」によって事実上の移民ともいうべき長期滞在外国人労働者の受 け入れ体制整備に関する予算根拠が示された意味は極めて大きい。何故なら、同 法を根拠として今後急速に整備される外国人労働者の受け入れ体制は、難民を 円滑かつ平穏理に日本社会へ受容するためにも応用できるからである。

しかしながら、この種の体制が整備されればされるほど、難民に対するプルフ ァクターとなる可能性については考慮が必要である。すなわち、この整備の結果 としてより多くの難民が日本の庇護を求めた場合、量的に対応に苦慮し、折角の 難民保護に関する努力にもかかわらず国外から批判や不満を受け、国内的にも 摩擦を起こす結果となる危惧は否定できない417

416 2019年の日本の平和度指数は、169か国及び地域中第9位であるとの報告もある。な

お、1位はアイスランド、スイスは11位、ドイツは22位とされている。Global Peace Index 2019, Institute for Economics & Peace, 2019, p. 8.

417 受け入れ体制に加え、難民認定制度自体もプルファクターとなり得る。20103月の制 度運用の改定により、観光、技能実習、留学など正規の在留資格による入国者が入国後に難 民認定を申請する場合は次の通りとされた。すなわち難民認定申請後に「在留資格変更許可 申請書」を提出して在留資格を「特定活動」に変更することにより、申請の6か月後からは 一定条件下で就労を許可して申請中の生計に配慮が示された。なお、申請者がいわゆるオー バーステイ等不法滞在の場合,この申請は一種の「自首」となり退去強制手続が開始される が、同時に進行する難民認定審査中の退去強制は実行されないこととされ、事実上の猶予と なった。他方で正規在留資格者による申請却下後の再申請には制限が無く、難民認定制度が 難民に該当しない者による就労の手段として用いられる事例が多発した。このため、2015 9月に運用が見直され、難⺠条約上の迫害理由に明らかに該当しない事情を繰り返し主張す る再申請者や,正当な理由のない3回以上の多数回申請者については,難⺠認定⼿続は続⾏

するものの,在留は許可せず出国手続きに入る事とされた。「難民認定制度の運用の見直し の概要〜真の難民を迅速かつ確実に庇護するために〜」法務省入国管理局、平成279月。

http://www.moj.go.jp/content/001158326.pdf2020131日最終閲覧。それでもなおかつ、

観光、技能実習、留学など正規資格を有する在留者による難民申請は増加を続け、2012 までは1000人台であった申請者が2017年には約2万人に達した。「平成30年における難 民 認 定 者 数 等 に つ い て 」 法 務 省 入 国 管 理 局 、 平 成 31 3 27 日 。 http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri03_00139.html2020131日最 終閲覧。2017年における難民申請上位5か国は現に大量の難民・避難民事案の存在しない フィリピン,ベトナム,スリランカ,インドネシア,ネパールであり、この5か国の申請者 数だけで約14千人であった。他方、UNHCRの統計による世界の難民出身者上位5か国

(シリア,コロンビア,アフガニスタン,イラク,南スーダン)からの申請者は36名に過 ぎなかった。「平成29年における難民認定者数等について」法務省入国管理局、平成30 323日。http://www.moj.go.jp/content/001257501.pdf2020131日最終閲覧。及び「グ ローバル・トレンズ2016:強制移動の人数過去最多に、紛争や暴力、迫害で」UNHCR2017 619日。https://www.unhcr.org/jp/13985-pr-170619.html2020131日最終閲覧。こ れを受けて2018 115 日以降は運用が更に改定され、初回申請の内容を振り分ける2 か月以下の期間を設け,その振分けの結果によって,速やかに在留許可,在留制限,就労許

141

それではどうするのか、との問いに対して本稿で答えることは、本稿の目的外 であるとして暫し措くこととするが、他日の議論の基礎の一つとして、近年のド イツの経験は極めて貴重であると考えるので、以下に概要を述べる。

2015

年のいわゆる欧州難民危機に際し418、メルケル・ドイツ首相は人道的観点 からであるとして無制限の難民受け入れを宣言した419。また、同首相は現場にお いて難民申請者との個別写真撮影に応じるなど、難民申請者間のみならず、出国 を目指す者の間に絶大の人気があった。これらはすべて強いプルファクターと して作用し、ドイツが受け入れたシリア難民を主とする中東および北アフリカ からのドイツへの入国者数は短期間のうちに

120

万以上に達した420

ところが、間もなくこれらの避難民による犯罪が続いて報道されドイツ市民 の不安が高まった結果、それまでは極右政党とも見なされがちでドイツ国民の 支持が低かった「ドイツのための選択肢(

Alternative für Deutschland, AfD

)」が政 府の移民・難民政策に異を唱え、

2017

年の下院選挙では

12.6

%の得票を得るなど の動きが表面化した。これらの状況に鑑み、結局メルケル首相はそれまでの「上 限なし」から「上限

20

万」に訂正したため、発言の一貫性に関して批判を受ける 結果となった。同首相はさらに他の

EU

加盟諸国に対しても難民の受け入れ割り 当てを提案し反発を受けた。それらの諸国においては反発とともにナショナリ ズム的空気が広がり右派勢力が拡大する傾向を示した。

可,就労制限等の措置が取られることとなった。この結果、2018 年の難民認定申請者数は 前年の約半数の1万余件に激減した。前掲「平成30年における難民認定者数等について」

418「欧州難民危機(European migrant crisis」と呼称される2015年の北アフリカ・中東から 欧州への人口移動の急増の背景として、2010 年末以来の所謂「アラブの春」の混乱とイン ターネットの普及を指摘できる。第4.5節、及び脚註153参照。特にシリアにおいては、2011 年ごろからイスラム原理主義を掲げる「イスラム国(IS」が出現し、このIS武装勢力、シ リア政府軍、クルディスタン独立運動武装勢力、これらを支援する国外の勢力等々が複雑な 内戦を繰り広げたため、戦火を避ける多数の避難民が国外に脱出した。ヨーロッパを目指す 避難民の移動は、地中海を船舶で渡るものとバルカン半島を経由するものとに大別される が、前者は海上で遭難する事例が多く、地中海沿岸諸国は救助体制について国際的な批判を 受けた。陸路を通過する後者についてはシェンゲン協定加盟国間に入国者の扱いを巡る対 立が生じ、国内的には反移民や反難民の意識を生み、極右政党の進出の契機となったと言わ れる。

419 脚註385参照。

420 2015年夏のこの急激な人口移動の複合的理由についてはいくつかの観測があるが、大体

共通している要素は、プルファクターとしてのドイツの歓迎報道、マケドニアの国境開放に よるバルカン経由ルートの簡便化及び経費の低廉化、プッシュファクターとしてはシリア その他における内戦、西アジアやアフリカ諸国の経済不振などがある。これらについては、

例えばワシントンポスト・ベイルート支局長であった英国人ジャーナリスト、リズ・スライ

Liz Sly)の記事参照。“8 reasons Europe’s refugee crisis is happening now,” Washington Post, September 18, 2015. https://www.washingtonpost.com/news/worldviews/wp/2015/09/ 18/8-reasons-why-europes-refugee-crisis-is-happening-now/2019109日最終閲覧。

しかしながら、これら難民認定申請者の中には経済的目的による偽装難民が多数混入して おり、20162月の時点でドイツ入国後に住居を与えられた庇護希望者のうち13万人が失 踪した。“Germany reports disappearance of 130,000 asylum seekers,” BBC, 26 February 2016.

https://www.bbc.com/news/world-europe-356678582019914日最終閲覧。

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