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総括

ドキュメント内 難民問題と安全保障 (ページ 148-167)

第 9 章 結論

9.4 総括

ある地域の安全保障の破綻が大規模難民事案発生の主因であることが、すな わち難民問題と安全保障の自明の関係であるとするのが、つい近年までの認識 であった。この構図の中で、

UNHCR

を始めとする多くの組織は、眼前で途方に 暮れる難民の保護に力を尽くしてきた。この対応が多くの難民を救ったことは 事実であり、これは

1954

年と

1981

年の

2

度にわたる

UNHCR

のノーベル平和 賞受賞を通じて国際社会の等しく認めるところである。

難民は、自国あるいは居住国において難民の定義に示す迫害を受け、已むを得 ず他国に避難する。避難する者は、個人である場合もあり、集団である場合もあ るが、集団で国外に避難するという状況の事由は居住地域の治安の極度の悪化、

すなわち安全保障環境の破綻がほとんどである 421

2009

12

月、当時のアン トニオ・グテレス(

António Guterres

)国連難民高等弁務官は、近い将来気候変動 が大規模人口移動の最大の要因になるであろうと述べた 422。しかし、

2011

7

月に同弁務官は、本来の難民保護活動を複雑化し混乱させるとして、「気候難民」

や「環境難民」を専門用語として採用することを拒否した 423。これによって難 民の定義自体が揺らぐことを事務上は避け得たが、現実に難民の性格や態様は 変化しており、気候や環境が難民問題の考慮すべき要素となっていることに変 わりはない。

421 環境の急変による大集団の避難もある。3世紀から4世紀の中央アジアは寒冷期であり 牧草地が減少していたため、遊牧民であるフン族はこの気候変動を存亡の危機と考え、牧草 を求めて南下しゴート族を圧迫したと言われる。フン族に追われたゴート族は 4 世紀に至 りローマ帝国領に侵入したが、これはローマ帝国にとって安全保障上の重大危機となった。

Michael McCormick et al., “Climate Change during and after the Roman Empire: Reconstructing the Past from Scientific and Historical Evidence,” Journal of Interdisciplinary History, xliii:2, The MIT Press, 2012, p. 190.

422 Melissa Fleming, “Climate change could become the biggest driver of displacement: UNHCR chief,” UNHCR News, 16 December 2009.

423 Alister Doyle, “World needs refugee re-think for climate victims: U.N.,” Rueters, June 7 2011.

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1951

年の難民条約に定義される難民は、厳しい現実を背に負って他国の庇護 を求める。これら難民を保護することは人倫に照らして正しい。しかしながら、

「正義」と「善意」がそれだけで説得力を持ち得た時代はすでに過去となった。

と言うよりも、現実には「正義」が複数化し「善意」すら変化し、時と共に相対 化されることがむしろ本来の姿なのかも知れない。この現実は、今日の国際社会 の一断面を如実に描くものであり、世界はその現実から逃れることはできない。

問題解決の特効薬は存在しないが、それでもなお、この現実に真摯に向き合う姿 勢を通じてのみ、あるいは何らかの道が開けるかも知れない。

本研究においてはこれまで難民問題と安全保障の関係を分析考察して来た。

その結果、両者の間には密接かつ複雑な双方向的相関が存在することを検証し た。更にそれらが今日では「相互侵食」と形容できるほど複雑かつ重層的に入り 組む事例が増加し、難民の移動に伴ってもたらされる課題は広域に亘っている 現実を確認した。これを要するに、本研究の開始に際して序論に掲げた目的はひ とまず達成されたと言って良い。

だが、当面の目的の達成のみを以って善しとするなら、それは安易に過ぎるで あろう。今般の改正入管法は成立後まだ日が浅く、成果も問題点も論ずるには早 い。しかしながら、少なくともこの法律の影響の及ぶ範囲が、労働力不足を補填 するために受け入れる外国人労働者に留まらないことは明白である。本研究自 体は既に述べたとおり政策提言を意図するものではない。しかし今般の思考の 過程を通じて分析し整理した議論と事例を通じて、もはや難民問題は慈善心や 弱者に対する憐憫などでは、あるいはたとえ国際条約に基づいてはいても人道 の視点だけでは解決不能であるという現実が浮上して来た。すなわち安全保障 の意味が冷戦終結後劇的に変容したように、難民問題自体も又、世界の良識と善 意が

1951

年に条約を結んだ頃とは全く変わってしまったのである。これらの事 実の歴史的意味をどのように受け止めるか、その上で今後日本の難民政策をど う考えるかについては、更なる課題としてできるだけ早い時機に稿を改める必 要があると強く感じている。 (了)

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