のではないか、という予想を立てたので、それを確かめるために、仕入れ量を150近辺で動かし て様子をみる、というのが次のステップです。仕入れ量と需要量が決まればもうけが計算できま す。実際、仕入れ量をz、需要量をbとすると、z > b、つまり売れ残る場合のもうけ(収入マイ ナス支出)は
売り上げ代金−仕入れ代金= z≤b、つまり品不足の場合のもうけは
売り上げ代金−仕入れ代金−品切れ損= のように計算できます。
そこで、仕入れ量を150として過去50日間営業していた場合、毎日のもうけをExcelで計算 してみましょう。仕入れ量が150ならば、次のようになります。
105×150−50×150 −10×8 = 8170 105×146−50×150 = 7830 105×150−50×150 −10×9 = 8160
· · ·
結局、50日間のもうけの合計は392,145円となります。
練習7.10 Excelに上のデータを入力し、最適な仕入れ量を求めなさい。
仕入れ量 149 150 151 152 153 154 155 もうけ
この結果から、
最適仕入れ量=
Excelならばこれでも良いのですが、あまり利口なやり方とは言えません。需要量が同じなら
もうけは同じですから、同じ計算を何度もする必要はありません。需要が128,129, . . .の場合の もうけを計算しておいて、需要量がbだった日の日数nbにbを掛けてそれらを合計すれば、50 日間の合計が求められます。
仕入れ量をz、需要量をbとした場合、上で計算したように、zとbの大小関係でもうけの額 が変わるので、50日間のもうけの合計g(z)は次の式で計算できます。
g(z) =X
b≤z
nb(105b−50z) +X
b>z
nb(105z−50z−10(b−z))
=X
b≤z
nb(55b−50(z−b)) +X
b>z
nb(55z−10(b−z))
=X
b≤z
nb(55b−50(z−b)) +X
b>z
nb(55b−65(b−z))
= 55X
b
nb×b−50X
b≤z
nb(z−b)−65X
b>z
nb(b−z)
最後の式は次のように解釈することができます。第2項は余った場合の損失合計(仕入れ値)、第 3項は足りなかった場合の損失合計(損失利益50プラス機会費用10)です。第1項は仕入れ量と は無関係な定数ですので、もうけを最大にするためには
余った場合の損と足りなかった場合の損の合計が最小になるように 仕入れ量を決定すればよい、というもっともらしい答えが得られました。
上のデータを用いた計算では、仕入れ量を151としたとき、もうけの合計は392,520円と、最 大になるので、最適仕入れ量は151個である、というのが結論になります。とまあ、とりあえず 答えは求まりましたが、これはあくまでも、過去の50日間のデータを使って計算したもの、そ れが将来も再現されるという保証は全くありませんから、これが最適発注量ですと言われても納 得しない人は多いでしょう。この計算は過ぎ去った理想を追い求めるだけなのでしょうか。
将来にわたって、この発注量が最適だと主張するためには将来の需要について、それが過去50 日のデータとあまり変わらないということを言わなければいけません。そこで出てくるのが確率 分布です。上のデータを経験分布関数にまとめると次のようになります。
需要の経験分布関数
さいころ振り実験でも分かっているように、50くらいのデータからなめらかな度数分布を期 待するのは無理ですが、もっとデータがあれば不規則なでこぼこは均一化されて、正規分布のよ うな平均の周りの値が大きいヒストグラムになるに違いない、と考えるのはそれほど強引なこじ つけではないでしょう。そこで、最小値130、最大値170、平均150のなめらかなカーブ、つま り需要量Xの確率関数をf(x)として、もうけの計算をやり直してみましょう。
といっても、上で計算したもうけの式の度数nbの代わりに確率関数f(b)に置き換えるだけ で、その結果は期待値として計算されます(期待値イコール値×確率の和!!!)。それを改めて g(z)と書くことにすると、
g(z) = 55X
b
bf(b)−50X
b≤z
(z−b)f(b)−65X
b>z
(b−z)f(b)
で与えられます。これを最大とするzはいくつかという問題。
さあ、微分、となるところですが、zは離散値ですから、微分は使えません。もし、最大値が
一つしかなければ
g(z−1)≤g(z)≥g(z+ 1)
を満たすzの値が最大のもうけを与える仕入れ量です。そこで、差分を計算します。
g(z+ 1)−g(z) =−50 X
b≤z+1
(z+ 1−b)f(b)−65 X
b>z+1
(b−z−1)f(b) + 50X
b≤z
(z−b)f(b) + 65X
b>z
(b−z)f(b)
=−50X
b≤z
f(b) + 65X
b>z
f(b)
ここで、需要量の累積分布関数を
F(z) =X
b≤z
f(b)
と置くと、
g(z+ 1)−g(z) =−50X
b≤z
f(b) + 65X
b>z
f(b)
=−50F(z) + 65 (1−F(z))
= 65−115F(z) 結局、
F(z∗)≥ 65
115 = 65
50 + 65 ≥F(z∗−1)
を満たすz∗が最適な仕入れ量ということが分かりました。得られた結果は興味深いものです。
分子の65は、もしモノがあればもうかったお金(55円)と、無かったために損したお金(10円) の合計です。分母にある50は売れ残った(在庫になった)ために被った損失(購入費)です。上 の式は、
需要量の確率分布を売れ残り費用と売り損ない費用の比率で分けた点が 最適仕入れ量を与える
というようにまとめることが出来ます。
練習7.11 上の式の展開が正しいことを確かめなさい。g(z)は最適な仕入れ量まで単調に増加 し、その後単調に減少する関数であることを確かめなさい。
練習7.12 ある商品を1個200円で仕入れ、400円で売っている。売れ残った分は繰り越せない ので、100円で引き取ってもらう。品切れになると店の品揃えの悪さなどマイナス要因で50円 の損に見積られている。過去100日間の需要データを集計すると下のようになった。
需要 日数 需要 日数 需要 日数 需要 日数
91 2 96 10 101 8 106 2
92 2 97 8 102 12 107 1
93 2 98 9 103 4 108 0
94 4 99 9 104 2 109 2
95 4 100 12 105 6 110 1
(1)需要量のヒストグラムを描きなさい。
(2)毎日いくつ仕入れたらもうけが最大になっていたかを計算しなさい。
(3)需要量の本当の(理想的な)分布を想い描き、その分布を使って最適な発注量を計算しなさ い。上の結果とどれくらい食い違いましたか。
(4)この結果を参考にして、このような分析の結果得られた答えはどういう意味で最適なのか。
結果にはどれくらい信頼性があるか、検討しなさい。
ヒント:過去の需要量のヒストグラムはたまたま得られたデータなので、例えば104と105の 需要日数が1 : 3だったからと言って、105売れる可能性が104売れる可能性の3倍ということ を「需要の規則」として組み込むことは不自然。平均値を中心にして左右になだらかに減少する ヒストグラムを想定する方がもっともらしい。しかし、そうしなければいけないという根拠はな いので、関心のある人達が納得する需要パターンを決めればよい。どんな均し方をしてみても、
結果はそんなに違わないはず。ということは、過去100日間の平均分散と同じ値を持つ正規分布 を当てはめても構わない、ということになりませんか。