携帯電話の使用回線数の時間変化
もしこのシステムが時間的に安定(平衡とも言います)しているとすると、単位時間(たとえ ば、1分)あたりの呼の到着数は一定と考えても良いので、それを定数λで表すことにします。
十分に長い時間を観察したとき、使用中の回線がkである時間帯の合計をTkとしましょう。そ の間に到着する呼の数はだいたいλTkで、到着すると状態はkからk+ 1へ推移しますので、状 態kから状態k+ 1へジャンプする回数はλTk回あります。
一方、状態kからk−1への推移が起きるのは、通話中のk回線のどれかが通話を終了すると いうことです。たとえば、1通話の平均時間を3分とすると、1分間ではk回線のうちの3分 の1が通話を終えるはずです。一般に、1通話の平均時間をm分とすると、1分間でk/m回線 が通話を終えるはずです。したがって、Tk時間の間に状態kから状態k−1へ推移する回数は Tk×k/mと言って良いでしょう。
ところで、上の図でも分かるように、状態k−1(≥0)から状態kへ推移する回数と、状態k から状態k−1へ推移する回数は同じです(状態が2以上変化しないと仮定したから!)。した がって、上の考察を参考にして
λTk−1= k mTk
という式が成り立っていることが分かります。観測時間全体の長さをT とすれば、Tk/T は使用 回線数がkの確率と考えることが出来るのでそれをpkと書くと、M を使用可能な回線数として
pk= λm
k pk−1 (k= 1,2, ..., M)
という漸化式が得られました。この連立方程式を平衡方程式と言います。この方程式を導くため に仮定した条件(性質)はマルコフ性と呼ばれ、待ち行列事象の分析には欠かせない道具になっ ています。
9.5.2 平衡方程式を解く
a=λm と置くと
pk= a
kpk−1= a k
a
k−1pk−2=· · ·= ak
k!p0 (k= 1,2, ..., M)
となりますが、Tkを合計すると観測時間全体になるので、pkを合計すると1にならなければい けません。そこで、
p0+p1+· · ·+pM = 1
という確率条件の式にこれらの式を代入すると、
p0= µ
1 +a+a2 2! +a3
3! +· · ·+aM M!
¶−1
したがって、
pk=
ak k!
1 +a+a2 2! +a3
3! +· · ·+aM M!
(k= 0,1, ..., M)
が導かれます。
9.5.3 呼損率
携帯電話の回線設計で一番重要な指標の一つは、通話要求の何パーセントに回線を提供できる か、あるいは何パーセントの通話要求を断らなければいけないか、という数値です。後者の比率 を呼損率と言う、ということは前に説明しました。呼が到着したときにM 本の回線がすべてふ さがっているということが呼損の条件ですから、上で計算したことにより、呼損率は
pM =
aM M! 1 +a+a2
2! +a3
3! +· · ·+aM M! によって与えられることが分かります。
a= 1つまり、一人の通話時間中に平均一人が新たな通話要求をするとした場合、95%の通話 要求がつながるためには回線が何本あればよいか、というような問題を、この呼損率公式を使っ て解くことが出来ます。a= 1を上の式に代入して、pM <0.05となる最小のM を求めればよ いのです。
M 1 2 3 4
pM 0.5 0.2 0.0625 0.0154
計算の結果はM = 4となります。95%ということは20の通話要求のうち一つは犠牲にしても 良い、ということです。年末年始の特別な場合を除いて携帯電話でつながらない、ということは ほとんどないので、この5%はつながらないというのはかなりサービスの悪い施設ということに なり、客を失うかもしれません。
一人の通話時間を1分くらいとすると、a= 1ということは1分間に一人通話要求をするとい うことで、現実離れしていますが、たとえばa= 20というような値でも上の式を使って直ちに 計算することが出来ます。その結果、aの値、つまり需要量がある程度正確に把握できれば、要 求サービス品質(5%にするのか1%、あるいは0.01%にするのか)によって、最適な回線数が 計算される、というのがこの式のすごいところです。
この式はアーランの損失公式(呼損式)と呼ばれています。アーランErlangは1世紀前のス エーデンの電話技師で、電話交換機の設計問題を解くためのモデル化を考え、評価式を導きまし た。この公式に含まれるaは単位時間あたりの通話要求の個(呼)数λと平均通話時間mの積 によって与えられる定数で、呼量と呼ばれ、回線の使用頻度(混雑度合い)を表すパラメータで す。この呼量の単位は、アーランの先駆的な業績を讃えてアーランと名付けられています。この たった一つのパラメータさえ分かれば、回線の数をいくつにしたとき呼損率はいくつになる、と いうことがたちどころに分かってしまうという意味で、画期的な公式です。
実際、この公式はリトルの公式と同じように、とてもシンプルですが、有用な公式として、回 線設計の問題に使われています。人間の気まぐれな、しかしそれなりに意図的な行動から決まっ てくる、複雑に絡み合った集団の動きが、確率論を使った単純なモデルによって説明できている というのも、興味深いものがあります。
練習9.11 平衡方程式が成り立つことを説明し、それを解くことによって、呼損率pM の式が上 の式で与えられることを導きなさい。
解答:
練習9.12 a= 20のとき、呼損率を0.05以下に抑えるためには回線の数M をいくつ以上にす る必要がありますか、Excelを使って計算しなさい。
解答:
9.5.4 参考
呼損率の計算には、次のような漸化式が便利です。
1
pM =1 +a+a2!2 +a3!3 +· · ·+(M−1)!aM−1
aM M!
+ 1 = 1 +M a
1 pM−1
⇒pM = 1 1 + apMM−1