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累積グラフを使った分析

ドキュメント内 ii (ページ 106-112)

待ち行列システムの混雑具合、つまり滞在している客の数、は時間的に変動するので、横軸に 時間、縦軸に滞在客数を取ったグラフを描いてみると視覚的に理解できます。客が一人到着する ごとに1ずつ増え、退去によって1減るというでこぼこの階段のようなグラフです。

生産工場での「仕掛かり部品」の流れを考えると、待ち行列システムで記述することが出来ま す。仕掛かり部品という「客」が倉庫に到着して処理の順番が来るまで倉庫で待たされ、出庫す ると加工・製品化されて工場から出荷(退去)されます。そう考えると、待ち行列システムは客 の在庫問題、と言えなくも無いことになります。滞在客数のグラフは在庫のグラフのようなもの です。

在庫管理の問題で、在庫グラフの代わりに累積グラフを使うとある種の問題が解けるというこ とを発見しました。待ち行列システムの分析でも累積グラフによる分析が可能でしょうか。客の 到着退去のデータを使って累積グラフを描いたとすると、到着、あるいは退去のたびに1ずつ増 える階段状のグラフになりますが、累積の個数が増えれば、階段状のグラフは曲線で近似するこ とができ、なめらかな上昇カーブを描くでしょう。

9.2.1 リトルの公式、平均滞在時間と平均系内客数

この累積グラフを使って、簡単な議論だけから、待ち行列分析でもっとも重要な公式の一つを 導くことができます。時刻tにおける累積到着客数A(t)(ArrivalのA)から累積退去客数D(t)

(DepartureD)を引いたものA(t)−D(t)はその時刻の滞在客数になりますから、それを区 間[0, T]で積分したものをTで割ると、区間[0, T]の間の平均滞在客数(それをLと書きます)

になると言って良いでしょう。

L= 1 T

Z T

0 (A(t)−D(t))dt

在庫グラフの場合に、累積グラフを横に切った線分にも意味があるということを発見しまし た。待ち行列の累積グラフの場合、もし「到着順序と退去順序が同じ(つまり、先着順サービス)

ならば」任意の高さの水平線が二つの曲線によって切り取られる線分の長さは、ある客の滞在時 間に等しくなります。区間[0, T]の間に到着した客の数がNだとすると、二つの曲線によって 切り取られるN本の線分の合計、つまり二つの曲線に挟まれた部分の面積、をNで割れば平均 滞在時間(それをW と書きます)が得られます。

W = 1 N

Z T

0 (A(t)−D(t))dt

詳しくは説明しませんが、平均滞在時間を与える上の式は「到着順と退去順が同じ」という制約 を外しても成り立つ等式です。

これら二つの式から平均滞在客数L、平均滞在時間W の間の関係式を導くことができます。

T×L=N×W ⇔L= N T ×W

到着数Nを観測期間Tで割ったものは、単位時間あたりの到着数なので、それを到着率と言い、

ギリシャ文字のλ(英語のlにあたり、ラムダと読みます)で表すことにすると、以下の式が得 られます。

L=λW

このシンプルで有用な公式はリトルの公式と呼ばれています。

この公式の導出過程で難しい話は何もしていません。客の到着パターンがどうでなければいけ ないとか、サービス施設でのサービスの仕方はこうでなければいけないとか、うるさいことは何 も言っていません。したがって、この公式はかなり一般的な状況で成り立っていることが期待さ れますが、実際その通りになっています。

9.2.2 リトルの公式、平均待ち時間と平均待ち行列長

待つ客の立場から言うと、サービスされるまでの時間がもったいないと考えるでしょう。つま り、滞在時間ではなく、純粋の待ち時間がどれくらいなのか、ということにも重大な関心があり ます。累積グラフの分析は平均待ち時間を計算する場合にも適用することができます。

累積退去客数をカウントするときに、サービスを開始したら「待合室から」退去したと考えて その退去数を累積するのです。その累積グラフをD(t)˜ とすると、平均滞在時間の分析における D(t)D(t)˜ に置き換えるだけで、同じような公式を導くことができます。

この場合はA(t)−D(t)˜ は待合室の滞在客数、すなわち待ち行列の長さということになりま す。したがって、平均待ち行列長をLq、平均待ち時間をWqとすると、

Lq = 1 T

Z T

0

³A(t)−D(t)˜ ´

dt, Wq= 1 N

Z T

0

³A(t)−D(t)˜ ´ dt

⇒Lq =N T ×Wq

が成り立ちます。ここでも到着率N/Tλと置けば、平均待ち行列長と平均待ち時間に関する 公式が導かれます。

Lq =λWq これもリトルの公式と呼ばれています。

9.6 郊外にあたらしく出店するアウトレットモールにはピーク時で10台/分の車が到着し、

1台平均60分の買い物をすると推測されます。何台分の駐車スペースを用意しておけばよいか、

という問題に対して、リトルの公式を使った概算法があります。この問題ではサービス施設は駐 車場、車を客と考えます。駐車することがサービスなので、待合室はありません。駐車場に入る ために並ぶ車の台数はここでは考えないことにします。客の到着率は10、平均滞在時間は60で すから、リトルの公式から平均滞在客数は10×60 = 600と計算されます。平均的に600台駐車 するのですから、少な目の時は良いけれど、バーゲンセールでもした場合は600台ではとても 足りないことでしょう。どれくらい多めに用意すればよいでしょうか。800台分くらい用意すれ ば十分でしょうか。1000台分必要でしょうか。もっと精密な算定をするためにはさらにもっと データを集めてもっと丁寧な分析をする必要がありますが、500台分の駐車場を計画していたと すれば、それではとても足りませんよ、というコメントをつけることくらいはできます。

練習9.2 銀行のATMに行ったら長蛇の列だった。どれくらい待つかアバウトでいいから知り たい。どうしたら良いだろうか

解答:

練習9.3 銀行のATMの利用状況をチェックするために、ビデオを回しっ放しにする。その結 果、ある時間帯(1時間)での平均滞在客数は4.5人、5分間あたりの平均到着数は20人であっ たという。リトルの公式を使って客の平均滞在時間を計算しなさい。

解答:

9.2.3 ラッシュアワーの解析

当たり前のことですが、到着率が処理能力を超えていると、二つの累積カーブは離れて行く一 方です。つまり、待ち行列の長さは発散して行きます。処理能力として単位時間あたりにサービ スを終える客数の上限とし、それをサービス率ということにします。到着率が一時的にサービス 率を超えるために混雑が生じるのがラッシュアワーです。お盆や行楽シーズンで高速道路に発生 する混雑現象をマクロ的に分析してみましょう。

A地点からB地点までが渋滞の発生しやすい区間として、そこを通過することをサービスと 考えましょう。A地点を通過する、あるいは渋滞の最後に並ぶ車を、到着客、B地点を通過する ことを退去と呼ぶことにしましょう。ラッシュアワーの交通量を調べるために、5分ごとの通過 交通量をカウントして、それを時系列的に並べたのが次の図です。

到着台数データ

さてここで問題。

渋滞のピークはいつでしょう?

車の到着を集計して表示する代わりに、到着するたびにカウントして、そのカウンターの動き をグラフ化することを考えます。つまり、横軸を時間に取って累積到着台数のグラフを描くので

す。そのグラフは正確に描こうとすると、到着時点に1増え、それ以外では変化しないという階 段状のグラフになりますが、到着台数が多いときは在庫の累積グラフで描いたような増加する曲 線で近似されます。一方、B地点の通過台数(退去客数)は、混雑していないときは到着の台数 とほとんど同じですが、能力を超える車が到着した場合は一定の(能力限界の)スピードで処理 をし続けることになりますので、きちんとした階段状に増えていきます。台数が多い場合は直線 で近似出来るでしょう。この累積到着台数と累積退去台数を重ねて描いたのが次の図です。

高速道路料金所付近の混雑

在庫の累積グラフで見たように、累積到着台数から累積退去台数の差が渋滞している台数です から、その差が最大になる図の点Aがいわゆる渋滞のピークであることは一目瞭然です。一方、

車の到着のピークは累積到着数を表すグラフの傾き(増加率)が最大になる時刻、図のBです。

というわけで、渋滞のピークは、到着台数データのピークを示す時刻ではなく、そこからかなり 遅れてやってくる、ということになります。

到着交通量のピークを過ぎれば渋滞も緩和に向かうと思ったら大間違い、ピークを過ぎても処 理能力を超えているという状態はまだ続いていますから、車の列は増える一方で、渋滞が悪化し 続けます。そして、車の到着頻度が処理能力を下回った時点ではじめて行列が減り始めますか ら、渋滞のピークはこの時点ということになります。

考えてみれば当たり前のことですが、渋滞のピークと交通量のピークは一致しません。このよ うに、渋滞のピークは車の交通量のピークより遅れてやってきます。そして、渋滞のピーク後の 交通量にも依存しますが、渋滞が解消するまでには渋滞の発生に比べて非常に時間がかかること が分かります。また、処理能力のちょっとした増減で渋滞の解消までの時間が大幅に変わるとい うことも、状況を想定した累積グラフを描いてみることにより容易に想像ができます。

練習9.4 高速道路の渋滞で並んでいる車の台数をおおざっぱに捕らえるために累積グラフを使 います。一台一台を分離して考えずに、水の流れのようなものとして考えます。実際「道路(車)

が(渋滞しないで)流れている」とか「車の流量」という表現は日常使われていますね。累積到 着数A(t)と累積退去数D(t)が下の図のように与えられているものとします。累積退去数が途 中から直線になるのは、道路の物理的制約で、単位時間あたり最大で何台しか通過できない、と いう上限値があるからです。これを道路の容量と言います。

(1)滞留量A(t)−D(t)のグラフを下に描きなさい。また、同じ場所に、単位時間あたりの到

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