費用を二つに絞って考えるとすると、次のように、問題を単純化することが出来るでしょう。
1年なり、1ヶ月なり期間Tでを固定し、その間の総需要をDとしたとき、Dを何回に分割し て発注したら良いか、言い換えれば、1回につきどれくらいを発注したらよいか、という問題を 考えます。
二つの費用のバランスを考えることに主眼を置いて、需要はコンスタントと考えます。ばらつ くかもしれませんが、平均値を取れば、あながち、的はずれとも言えないでしょう。そうすると、
何回かに分割して同量ずつ発注した場合、在庫量の変化は次の図のようになるでしょう。横軸は 時間、縦軸は在庫量を表します。
在庫のグラフ(需要量一定の場合)
鋸の刃のような図形ですが、発注をこまめに繰り返せば一つ一つの刃の山は小さくなり、在庫 が小さくなるので保管費が少なくて済む代わりに、発注費用がかさみます。逆にまとめて発注す れば刃の数は少なくなるので発注費用を抑えることが出来ますが、保管費の増大につながりま す。このように、あちらをたてればこちらがたたず、という競合関係をトレードオフといい、意 思決定の場面で必ずと言っていいほど遭遇する状況です。階層的意思決定法でも同じような状況 を扱いました。この場合は、刃の数に比例して発注費用がかかり、刃の面積に比例して保管費が かかるとすれば、費用合計を最小にする刃の形を求める、というように、費用最小化の問題に還 元することができそうです。
一回の発注量と在庫グラフの関係
発注する場合には1回につき固定発注費Kがかかるものとします(商品の購入単価は1個買 いでもまとめ買いでも変わらないものとします)。商品を1日在庫すると保管費用としてBがか かります(商品価格に一定の比率を掛けて計算するのが普通、その比率は保管費率と呼ばれる)。 このようなコストの構造を線形コストといいます。費用はこの二つだけを考えます。発注費も含 めた費用を考える場合は、十分長い期間[0, T]の間に掛かる総費用を計算する方が分かりやすい でしょう。
1回の発注量をQとすると、[0, T]の間の総需要DをQで割ったものがほぼ発注回数に等し くなります。一方、保管費は1日の平均在庫量に保管費を掛けたものが1日あたりの平均保管費 ですから、それに期間の長さを掛けたものとして与えられます。考えている期間[0, T]の平均在 庫量は、Q/2と考えて良いでしょう。時点T で在庫があると、右端の三角形が完全な形でにな らないのでちょっと違ってきますが、細かいことは気にしないことにします。
結局、考えている期間[0, T]の保管費用と固定発注費用の合計費用fT(Q)は、Qの関数として fT(Q) =
と表すことが出来ます。
合計費用を最小にする発注量Q∗は上の式を微分することによって計算することが出来ます。
その結果
Q∗=
という解が得られます。ここで、Dの代わりに単位時間あたりの需要量を表す記号d=D/T を 使っています。
このQ∗のことを経済的発注量(Economic Order Quantity)といい、この式をEOQ公式と いいます。(Economic Lot Sizeという流儀もある)。このとき、発注間隔U∗は
U∗=
となることも容易に確かめることができます。
練習7.4 上の空白を埋め、経済的発注量を発注した場合の合計費用を計算しなさい。
合計費用 f(Q∗) =
練習7.5 d=D/T = 20, B = 1, K = 1000のとき、Excelを使って、単位期間あたりの費用
f(Q)/T、単位時間あたりの発注費用、単位時間あたりの保管費用のグラフを重ねて描きなさい。
最適発注量Q∗、最適発注間隔U∗、最小費用f(Q∗)/T を計算しなさい。
Q∗= 、U∗=
f(Q∗)
T =
これらの計算から分かるように、分かりやすいようにと思って十分い長い期間[0, T]を取って 費用を求めていますが、最後の最適化の計算には無関係です。したがって、形式的にT = 1と置 いても議論は変わりません。そこで、これ以降はT = 1と置いたf1(Q)を単にf(Q)と置いて 話を進めます。
7.5.1 感度分析
d= 10, B= 1, K = 2000とした場合、単位時間あたりの保管費用、固定発注費用、合計費用
(管理費用という)をQの関数として描くと次の図のようになります。
在庫管理費用、数値例
この在庫管理総費用のグラフを見て分かることは、最適な発注量200の付近での変化が非常に 緩やかだということです。したがって、発注量が多少ずれたとしても、すぐには急激な費用の増 加にはつながらない、ということが分かります。Q∗は平方根を使った計算式ですので、一般に きりの良い数とは限りませんから、このような性質は好都合です。
経済的発注量の公式は、さらに、需要が増えたり、費用が変わったり、状況が変化した場合で も、その影響を受けにくい、という性質によって、その有用性を増します。このように、最適解 に対してモデルのパラメータがちよっと変わったら最適解がどう変わるのかを調べることを感度 分析ということは、ORのほかの手法と全く同じです。
現状(d= 10, B= 1, K = 2000)を状況1とし、
• 状況2:需要量が2割増えた場合(d= 12, B= 1, K = 2000)、
• 状況3:保管費が2割り増しになった場合(d= 10, B= 1.2, K= 2000) を想定し、各々の最適化問題を解いたのが次の図です。
感度分析
それぞれの状況で最適解を計算すると
• 状況1:200
• 状況2:219.1
• 状況3:182.6
のように変化するのは当然としても、その最適解の付近での総費用関数の振る舞いはきわめてフ ラットであることに注意してください。たとえば状況3で発注量を200とした場合の費用と最 適解を用いた最小費用との差は約5単位、相対誤差で3%弱しかありません。このことは、多少 の状況の変動があったとしても、その都度最適解を計算し直して発注の仕方を変えなくてすむ ということを示していると言ってよいでしょう。経済的発注量のこのような性質は頑健(ロバス
トrobust)といわれています。別の言葉を使えば、感度が鈍いと言うこともできます。
練習7.6 (練習7.5の続き)d= 20, B= 1, K= 1000とします。
(0)経済的発注量(Q1とします)を計算しなさい。
Q1=
(1)需要量dが2割増えた場合、練習7.5で描いた費用曲線はどうなるか、状況が変わったと きの合計費用をf2(x)として、練習7.5のグラフに重ねて描いてその形状の変化について、説明 しなさい。最適発注量(Q2とする)がどう変わるか計算しなさい。その場合の合計費用f2(Q2) を計算しなさい。
費用関数の形状の変化(言葉で説明する):
最適発注量 Q2=
合計費用 f2(Q2) =
(2)(続き)需要量dが増えても、増える前の最適発注量Q1を続けた場合の損(合計費用の差 f2(Q1)−f2(Q2)はいくらですか。費用の増加率はいくつですか。
f2(Q1)−f2(Q2) =
100f2(Qf12)−f(Q22)(Q2)=
(3)需要量はそのまま、保管費Bが2割り増しになったとき、練習7.5で描いた費用曲線はど うなるか、状況が変わったときの合計費用をf3(x)として、練習7.5のグラフに重ねて描いてそ の形状の変化について、説明しなさい。最適発注量(Q3とする)はどう変わりますか。合計費用 f3(Q3)も計算しなさい。
費用関数の形状の変化(言葉で説明する):
最適発注量 Q3=
合計費用 f3(Q3) =
(4)(続き)保管費Bが割り増しになっても、割り増しの前の最適発注量Q1を続けた場合の損 (合計費用の差f3(Q1)−f3(Q3)はいくらですか。費用の増加率はいくつですか。
f3(Q1)−f3(Q3) =
100f3(Qf13)−f(Q33)(Q3) =
7.5.2 購入費用の問題
発注するとモノを買うためのお金がかかりますが、上の最適発注量の計算ではこの一番肝心な 費用が入っていません。それで良いのでしょうか。需要量が一定ならば、一定期間中のモノの購 入代金は、どんな発注方法でも変わらない、ということを仮定すれば上の結論はそのまま使うこ とができます。なぜならば、単位期間中の購入費は単位期間中の需要量に購入単価を掛けたもの ですが、それは発注量に関係なく掛かる費用だからです。
しかし、実際には良くあることですが、もしある程度まとめ買いをするとディスカウントして くれるとなったらどうなるでしょうか。このような状況ではコストは発注量をいくつにするかで 変わってきてしまうので、費用関数の中に購入費用(これを変動発注費と言います)を計上して 計算しなければいけません。そして、発注量Qに応じて費用が異なるのですから、関数もそれぞ れのケースで別々に考えなくてはなりません。ここではたとえば発注量がV を越えたら定価A の一割引、というケースを考えてみましょう。この場合、費用関数は以下のように二通りに分け られます。
f(Q) =
( BQ2 +KQd +Ad ifQ < V BQ2 +KQd + 0.9Ad ifQ≥V
今まで描いてきた費用のグラフを使って直感的に説明すると、Qがいくつであろうと、一日あ たりの需要は変わらず、この購入コストは一定なので、新しい総費用関数の形状は変わらず、も との関数を平行移動したものにすぎません。まとめ買いの効果は、平行移動の量が小さいという ところに出てきます。その分費用が少なくてすみますから、両者の最小値を求めれば、それが最 適発注量となることは明らかです。
在庫管理費用のグラフ、購入費込み
実際には、関数形が下に凸であることが分かっていますから(なぜか?)、もとの問題の最適発 注量QがV 以下ならば、f(Q)とf(V)を比べて、前者が小さければ今まで通り、後者が小さけ
れば最適発注量はV であることが分かります。
練習7.7 購入単価をAとしたとき、購入費用を考えた場合のEOQ公式を導きなさい。その公 式を使い、d= 20, B= 1, K= 1000, A= 100のとき、Excelを使って購入費を考えた場合の費 用関数のグラフを描きなさい。最適発注量と合計費用を計算しなさい。また、V = 400以上まと め買いすると一割引になる場合、最適発注量は変わりますか。V = 500の場合はどうですか、費 用関数のグラフを描いて、最適発注量がそうなることを説明しなさい。
(1)定価購入の場合のEOQ=
そのときの合計費用= (2)V = 400の場合の最適発注量=
(3)V = 500の場合の最適発注量=