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天候デリバティブ

ドキュメント内 ii (ページ 150-157)

暖冬だと、スキー用具が売れない、スキー場は売上が減少する、ガスの使用量が減少する、厳 冬だと、テーマパークは入場者が減少する、冷夏だと、クーラーが売れない、海の家は倒産する、

アイスクリームが売れない、酷暑だと、遊園地の入場者が減る、台風がくると、海運業は困る、

大風が吹くと、...というように、収益が気象条件に依存する企業は意外とたくさんあります。天 候によって被る変動要因を天候リスク、あるいは気象リスクと言います。長期予報が当てになら ないからといって、手を拱いていたのではリスクが大きいので何とかならないか、というのが天 候デリバティブと呼ばれる派生証券の発端です。

1990年代にアメリカで始まったこの派生証券は、日本でも数年遅れて取引きされるようにな りました。その名前を一躍有名にしたのが東京電力と東京ガスが2001年に取り交わした契約で す。冷夏だと電力会社はクーラー需要減などで減益、ガス会社は温水需要増などで増収、酷暑だ とその反対、という両者の損得がちょうど補い合うという状況を考慮して、両者は次のような契 約を結んだのです。

東京大手町の8,9月二ヶ月間の平均気温が25.5度を下回った場合は、東京ガスは0.1 度につき5000万円を東京電力に支払い、逆に平均気温が26.5度を上回ったら東京電力は 0.1度につき5000万円を東京ガスに支払う。ただし、支払いの上限は7億円とする このような契約はリスクスワップ(交換)と呼ばれています。二者の間で都合の悪いことがバ ランス良く補い合うという関係を見いだせれば、当事者同士が直接リスクスワップによってリス クを減ずることは可能ですが、そうでない場合は、コールオプションと同じように、第三者がこ のリスクを引き受けることになります。いずれにしても、このようなリスクを取引するために、

その正当な対価を計算する必要があるのです。

練習10.16 東京電力と東京ガスのリスクスワップの例で、東京電力の収支(受取額マイナス支

払額)を平均気温の関数としてグラフに表しなさい。

解答:

10.4 エネルギー関連だと、利害の反する企業が存在するのでリスクスワップが可能ですが、

そうでない場合は、金融機関が天候デリバティブ商品を販売する例がインターネットを使って調 べることが出来ます。そのうちのいくつかを紹介しましょう。

(1)衣料スーパー(仙台)が降雪による来店客減少対策として契約したもの。12月から2月ま での土日祝日について、ある日の降雪量が5cmを超えたら100万円受け取る、2日間は免責、

最大1000万円で打ち切り。そのためにオプション料514,000円を払う。

(2)レジャー施設(東京)が冷夏による来園客数減少対策として契約したもの。7,8月の平気 気温が26.5Cを下回ったら1Cに付き500万円受け取る、最大1500万円で打ち切り。そのた めにオプション料220万円を払う(以上の二つの例はhttp://www.77bank.co.jp)

(3)ゴルフ場が降雪対策として契約したもの。1月から3月まで、午前9時の積雪が3cm以上 あったら250万円受け取る、最大1750万円で打ち切り。

(4)博覧会が強風による被害対策として契約したもの。ある日の最大風速が13メートルを超 えたら1億円受け取る、最大4億円で打ち切り。

(5)野外のビアレストラン(札幌)の低温、降雨対策として契約したもの。降水量が10ミリ以 上、あるいは最高気温が22C以下の合計日数が5日を超えたら一日に付き200万円受け取る、

最大2000万円で打ち切り。(以上三つの例はhttp://www.sompo-japan.co.jpから)

練習10.17 インターネットを使って、実際の天候デリバティブの契約例を探しなさい。

10.6.1 先物

天候デリバティブのような新しい考え方を待たずとも、気象に左右される商売に保険を掛ける という話は昔からあります。

たとえば、農産物は天候にもろに依存していますが、作らないわけにはいきません。作る前に 買い手を見つけて売上金を確保できれば、安心して仕事に専念できます。凶作の場合に最低保障 される代わりに、豊作の場合の大もうけを見逃すという代償を払うことにはなりますが。凶作の 場合のリスクを引き受ける代わりに市場価格より安く商品を買うことが出来る、ということにメ リットを感じる人がこのような取引の一方の相手です。

ある商品を決められた価格で決められた時期に売買する契約のことを先物契約といいます。商 品ができる前に、買値を決めておけば、一定額の収入が保証されるので、設備投資のリスクが あったとしても着手できる、という意味があるのです。

逆に先物を買う人は、決められた時期にその商品を決められた価格で引き取らなければいけま せん。価格変動の激しい商品の場合はかなりリスキーです。

先物取引のイメージ

10.5 海外と取引のある企業は、常に為替レートの変動リスクにさらされています。円高にな れば海外旅行はリッチな気分になりますが、輸出企業は円の収入が目減りして大変なことになり ます。1ドル100円の時に100万ドル=1億円の契約をして、1ヶ月後に1ドル90円になった とすると、9000万円しか回収できません。逆に1ドル110円になれば1億1000万円となり、儲 かった気分になりますが。

このような場合、将来の円高に備えて支払いを円で決済する、という取り決めをすることがあ ります。その場合、円高になろうが円安になろうが1ヶ月後には1億円の支払いが保証されま す。円安になった場合の「もうけ」をあきらめることになりますが、すべてがうまく運ぶわけで はないことを考えると、「マイナスを抑える」というリスク管理の基本的な考え方を実現する賢 い方法と言えるかもしれません。

10.6.2 天候デリバティブ

ある企業の収益が気温によって左右されるという場合、気温の変動というリスク要因を除去す るために、これに保険を掛けることを考えます。

たとえば、平均気温と売上が正の相関にある企業の場合を考えましょう。簡単のために次のよ うなグラフになっていたとすると、冷夏の時の収益の落ち込みをなんとか回避したい(リスク ヘッジしたい)と考えるのは自然でしょう。

平均気温と収益のイメージ

今いくら払うから、冷夏になった場合はいくら払ってください、という契約が天候デリバティ ブです。契約をするためには冷夏の定義といくら払うか、いくら受け取るか、という条件を数字 に表さなければいけません。たとえば、8月9月の二カ月に日中平均気温が25Cを下まわった ら、0.1Cにつき500万円を払う、ただし上限は5000万円まで、というようなものです。保険 料のことをオプション料あるいはプレミアムと言い、支払いの発生する気温のことをストライク 値と言います。

この契約が履行されるとどのようなことが起きるかをグラフで確かめておきましょう。この天 候デリバティブ契約によって得られる収入は、ストライク値を下回ったときに発生し、あまり 気温が低い場合は免責によって支払額は頭打ちになりますから、次のようなグラフになります。

プットオプションのペイオフを修正したような形になっていることに注意してください。一方、

オプション料は最初に支払われるので、常にマイナス。

したがって、それらの合計をオプションの無い場合の収入に加えれば、オプション契約した場 合のペイオフを描くことが出来ます。結果は、次の図のように、踊り場付きの階段のような収入 曲線が描けます。つまり、全体のもうけを削っていざというときの大損を回避しようというのが 天候デリバティブの精神です。ここでも問題は、オプション料(オプションの価値)をどのよう に設定するか、ということです。これをプライシング(価格付け)の問題といいます。

10.6.3 天候デリバティブのプライシング

バーニングコスト法

天候デリバティブもオプションも考え方は同じなので、天候デリバティブの価格付けも、売り 手がリスクを被らないようにするためにはどうすればよいか、あるいは、買い手が将来受け取る ことが期待できるペイオフを現在価値に直すといくらになるのか、ということを計算すること で、その価値を決定することが出来ます。

東京電力×東京ガスのような例、

「8月9月の二カ月に日中平均気温が25Cを下まわったら、0.1Cにつき500万円を 払う、ただし上限は5000万円まで」

という天候デリバティブの価格を計算してみましょう。変動要因は株価ではなく、8月9月の平 均気温です。

一つの考え方は過去の平均気温データを使って、今年の平均気温はそのうちの一つが実現す る、と見なす方法です。例えば、過去30年間で、25Cを下回ったのが4回あって、それらは 23.6C,24.4C,24.7C,24.9Cだったとすると、30年間の平均支払額は

1

30(5000 + 3000 + 1500 + 500) = 333.33

となりますから、それがオプションの価値に等しいと考えるのです。このような考え方をバーニ ングコスト法と言います。

計算は至って簡単ですが、その妥当性にはかなり問題があります。過去何年のデータを使う か、ということ一つをとっても、客観的に見てこれが正しいという選び方はありません。たとえ ば、30年前の平均気温が23.6Cだったとすると、そのデータを一つ落として過去29年の平均

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