第 3 章 閣僚会合に向けた協議
第 3 節 閣僚会合直前における国内議論
第1項 1994年12月作成の決裁書
1994年12月には、閣僚会合に関する決裁書が作成された。この決裁書は、政策担当者が想定 あるいは期待しているFCDIの目的をまとめた資料である。この資料を用いることで、閣僚会合 直前におけるFCDIに対する政策担当者の認識をうかがうことが可能となる。
この決裁書に記載されたFCDIの目的は3つである。すなわち、①閣僚レベルの会合によりイ ンドシナ開発に政治的な弾みを付与、②インドシナ地域全体の調和のとれた開発を促進、③イン ドシナを場とする日本と欧米諸国などとの間の協力関係の推進である467。
次に、これら3つの目的が、どのような認識の下で提示されたのかを確認していく。
①の目的は、インドシナ開発を国際社会が支援し、「インドシナ地域の経済発展の着実な進展を 確保することは、東南アジア地域ひいてはアジア地域全体の平和と繁栄にとって極めて重要」468で あるという認識に基づいていた。そのためにも、FCDIを閣僚レベルで開催することにより、「イ ンドシナ地域の開発努力を国際社会が支援していくことにつき、政治的な弾みをつけることは極 めて有意義である」469と認識された。
②の目的は、「インドシナ各国の経済開発を効率的に進めるためには、インドシナ地域全体とし て調和のとれた形で開発されることが重要である」470との認識に基づいていた。このような認識 に立った上で、FCDIにおいて、「インドシナ地域開発に関する情報交換及び意見交換を積極的に 行い」、「各国機関がインドシナ開発の全体像を把握できるようにする」471ことが求められた。そ の上で、「インドシナ各国は、隣国の開発計画を十分承知した上で自国の開発に取り組むことが可 能となり、また、ドナー国・機関の援助状況・計画やインドシナ地域全体の開発状況を踏まえた 上で援助を企画・立案・実施できる」472と考えられた。
②の目的においては、CG会合との比較から、FCDIの意義が述べられた。すなわち、「通常の CG 会合は、特定国の一国に対する援助を総括的に議論し、その中で例えば、インフラ整備の重 要性につき参加国よる指摘される」473。他方、「本件フォーラムは、3国を対象とした『地域的』
アプローチであるのみならず、例えば、インフラ整備の問題の重要性を踏まえた上で同問題につ き更に踏み込んで討議するという特徴がある」474と論じられた。
③の目的は、以下の認識から打ち出された。
インドシナ地域開発は、我が国を含むアジア・太平洋諸国のみならず、欧米諸国も積極
467 外務省アジア局「『インドシナ総合開発フォーラム』閣僚会合について」外務省大臣官房総務課外 交記録・情報公開室, 1994.12.
468 同上
469 同上
470 同上
471 同上
472 同上
473 同上
474 同上
的姿勢を有している問題であり、これら諸国が協力して取り組むことが可能且つ有益と 考えられる。その中で、対インドシナ支援で我が国が、例えば、米、仏、豪、ASEAN のそれぞれと共同事業をなし得れば、それぞれの国との二国間関係において我が国外交 上新たな局面を拓くことができる。また、アジア・太平洋・欧米の諸国の間の協力関係 の進展により、対インドシナ支援において最大のドナー国たる我が国のみならず欧米諸 国等のインドシナ開発へのコミットメントを促進することができる。これは、米国や欧 州諸国の東南アジア地域への関与を確保することにもつながり、アジアの平和と繁栄に とって極めて有益である。(下線は引用者)475
③の目的に関しては、欧米諸国を開発のパートナーに想定した上で、インドシナ開発の可能性 が論じられた。
以上、3つの目的から、FCDIに対する当時の政策担当者の認識を整理していく。
第1に、インドシナ地域全体の開発が強調された点が挙げられる。例えば、②の目的において は、「地域的アプローチ」なる言説が登場している。地域的アプローチが具体的にどのような意味 を有しているのかについて、ここでは議論されていない。CG 会合との比較から、地域的アプロ ーチという言説が用いられたと考えられる。
このように、他の協力枠組みとの差異を強調するようになった背景には、FCDI の実質的な成 果が明確でない点を参加国より指摘されたことが挙げられる。1994年10月 18日には、オース トラリア政府に宛てた電信に対して、豪州国際開発援助庁(AIDAB: Australian International Development Assistance Bureau)から、以下のコメントが寄せられた。
インドシナに対する援助の関係では、来年3月ごろにはカンボジア復こう会議(ICORC)
が予定されており、また世銀や ADB もインドシナに対する援助を関係国と協議しつつ 進めている。従つて、これらの動きに加え本件フオーラムに大臣が出席することにより 実質的な成果として何が期待できるかを明確にしなければならないと考えている。(下線 は引用者)476
このように、インドシナにおける開発が活発化する中で、FCDI の意義を明確化しなければな らない旨が参加国より提示されたのである。
なお、ここで言うFCDIを通したインドシナ地域全体の調和のとれた開発の促進は、従来の論 理を採用するものであった。②の目的からも理解できるように、インドシナ開発に関する意見・
情報交換を行い、各国・国際機関がインドシナ開発の全体像を把握することで、効率的な地域開 発を行っていくことが可能になるという論理がとられた。
第2に、国際社会によるインドシナ開発へのコミットメントを引き出すことに主眼が置かれた。
この点は、「インドシナ開発に政治的な弾みを付与」するという①の目的からも確認できる。また、
475 同上
476 外務省アジア局南東アジア第一課「インドシナ総合開発フオーラム(第1287号)」(長谷川駐オー ストラリア大使から外務大臣宛て)外務省大臣官房総務課外交記録・情報公開室, 1994.10.19.
③の目的においては、ASEAN の他に、欧米諸国によるコミットメントの重要性が強調された。
インドシナ地域開発における欧米諸国との関係は、フランスとの協議においても言及されていた が、FCDIの目的としても明示的に論じられるようになった。
上記に挙げた3つの目的は、その後も引き続きFCDIの方針として位置づけられた。1995年1 且31日には、外務省大臣官房報道課によって、閣僚会合の目的を記した資料が作成された。この 資料によれば、決裁書に引き続き、閣僚会合の3つの目的が提示された。すなわち、①インドシ ナ開発に政治的な弾みを付与すること、②積極的な情報・意見交換により、インドシナ開発の効 率的かつ均衡のとれた開発を促進すること、③インドシナ地域の経済開発に当たり、わが国とア ジア・太平洋諸国、欧州諸国との間の協力関係を推進することの3つである477。これら3つの目 的は、12月に作成された決裁書に掲げられた目的と合致している。
第2項 1995年1月作成の閣僚会合開催要領
また、閣僚会合開催直前の1995年1月にも、FCDI閣僚会合に関する開催要領が作成された。
ここに記載された会合の意義・目的は、従来策定されていたFCDIの目的とは異なっている。具 体的には、①インドシナ広域開発への政治的な弾みを付ける点、②各国・機関間の自発的な援助 調整の促進、③市場経済原理の定着促進の3つの目的が掲げられた。
目的①に関しては、まず問題背景として、「インドシナ3国(カンボディア、ラオス及び越)の 安定と発展を確保することは、東南アジア地域の平和と繁栄にとって極めて重要」478であると述 べている。その上で、「3国のいずれにとっても、地域の安定と均衡のとれた発展が自国の開発に 不可欠」とし、「また、3国は、深刻なインフラの破壊・未整備及び人材育成に直面」していると 問題背景を論じている479。このような認識に立った上で、「1国の経済のみならず、広域的な視点 から開発戦略を立てることにより、地域の均衡のとれた発展を図り、また、開発努力の効果を最 大限引き出すことが重要。本フォーラムでは、このような広域的なアプローチに、政治的な弾み をつける」(下線は原文通り)480ことが目的の1つであると論じている。
このように①の目的において、「開発努力の効果を最大限に引き出す」という言説がみられた。
これは、基本的に12月に作成された決裁書の内容を踏襲している。
次に②の目的に関しては、「本フォーラムでは、各国・機関がインドシナ地域開発の全体像を把 握できるように、開発に関する情報交換及び意見交換を積極的に行い、その一環として、各国・
機関の援助・開発の現状等を網羅的に示す『対インドシナ協力総覧』を作成する」481ことが目的 に挙げられた。こうした目的が掲げられた背景には、「このことにより、インドシナ各国は、隣国 の開発計画を十分承知した上で自国の開発に取り組むことが可能となり、また、ドナー国・機関 も、他のドナー国・機関の援助状況・計画やインドシナ地域全体の開発状況を踏まえた上で援助
477 外務省大臣官房報道課「『インドシナ総合開発フォーラム』閣僚会合の開催について」外務省大臣 官房総務課外交記録・情報公開室, 1995.1.31.
478 外務省アジア局「『インドシナ総合フォーラム』閣僚会合について」外務省大臣官房総務課外交記 録・情報公開室, 1995.2 p.1.
479 同上
480 同上
481 同上 pp.1-2.