第 4 章 FCDI 閣僚会合における議論
第 2 節 共同ステートメント
以上の議論の内容は、日本の政策担当者によってまとめられた「インドシナ総合開発フォーラ ム閣僚会合―成果と概要」に基づいている。この資料は、閣僚会合を総括した資料である。しか し、閣僚会合における議論の簡単な総括が行われているだけであり、閣僚会合の成果を踏まえる という点においては不十分である。そこで、第2節では、共同ステートメントに基づき、閣僚会 合における議論の内容・成果を詳細に跡付けていく。
544 外務省アジア局「インドシナ総合開発フォーラム閣僚会合―成果と概要」外務省外交史料館, 1995.2.27 p.1.
545 同上
546 井野・前掲論文, 1995 pp.22-28, 白石・前掲論文, 1998 pp.55-58, 森園・前掲論文, 2002 pp.17-18.
547 外務省アジア局「インドシナ総合開発フォーラム閣僚会合―成果と概要」外務省外交史料館, 1995.2.27 p.1.
548 同上
共同ステートメントとは、閣僚会合の最後に採択された政治的文書である。今一度その内容を 概観する必要がある。なぜなら、共同ステートメントは、FCDI の集大成であり、閣僚会合にお いて展開された議論の内容を包括しているからである。
この共同ステートメントは、本文、付属1、付属2という3部構成をとっている。本文は、1. 参 加国、2. インドシナ3国による合意事項、3. 参加国・機関による合意事項、4.コンペンディアム に対する参加国・機関による支持、5. インフラ整備、人材育成・国造りに関する重要分野の共有、
6. 参加国・機関によるコミットメントの表明(具体的な内容は付属2に記載)、7. インドシナ開 発における3つの道標の確認、8. ADB, UNDPによるイニシアティブの歓迎、9. 今後開催予定の アドバイザリー・グループ、作業委員会の確認という9項目から構成される。付属1では、イン フラ整備・人材育成・国造りに関する議論の内容が記載されている。また付属2では、参加国・
国際機関による支援努力(意図表明)の要約が記載されている。
第1項 閣僚会合における合意事項
まず、共同ステートメントでは、FCDI の成果に触れられた。具体的には、閣僚会合への参加 国・機関による合意事項がまとめられた。その合意事項とは、以下の9点である。
①インドシナ3国間において、限られた資源を最大限に活用して最大の成果を得るため に、各国の開発プログラム・プロジェクトを策定する際に、開発の地域的側面に適切な 配慮を払うことが重要である点
②インドシナ3国からの要請に基づき、個別・共同の支援によりインドシナの自助努力 を支援する点
③マクロ経済環境の維持と構造調整の継続が持続的成長のためにも重要になる点
④インドシナ3国の市場経済への移行のために不可欠な要素であるとして、インフラ整 備、人材育成・国造りが優先的な課題である点
⑤インドシナ3国が地域として総合的な開発を実現するには、主要な援助国・国際機関 および被援助国が、開発援助に関する情報・意見交換を行うことが重要かつ有益である 点
⑥Ⅰ.インドシナ3国全体の発展に取り組む、Ⅱ.主要援助国・機関が自発的な援助を 行えるようにFCDIへの参画を得る、Ⅲ.政府の支援を通じて、民間部門の活動を促進 される、という3つの意味から、FCDIが意見・情報交換のための総合的手段となる点
⑦プロジェクトの策定において、地域的アプローチの必要性に対する認識、地域的アプ ローチの文脈からメコン河委員会の役割への期待および支援
⑧自発的な援助調整によって、個々のプロジェクトの効率性を向上させ、インドシナ 3 国における利益の増大につながる点
⑨世銀が議長を務めるベトナム支援国会合、日本が議長を務めるカンボジア復興国際委 員会、UNDPが議長を務めるラオス・ラウンド・テーブル会合などで進められている既
存の作業をFCDIにおいて補完する点549。(下線は引用者)
これらの合意事項は、閣僚会合開催前に日本の政策担当者が重視していた点を踏襲している。
しかし、いくつかの点で新たに登場した要素もみられた。
第1に、合意事項では、「地域的アプローチ」の文脈から、メコン河委員会に対する期待が寄せ られた550。メコン河委員会とは、1995年4月に発足した、メコン河流域を対象とした協力枠組み である。水資源と関連資源の持続可能な開発、利用、管理、保全における協力を同委員会は目的 としていた551。このように、共同ステートメントでは、地域を対象とする他の協力枠組みも視野 に入れられたのである。
第2に、既存の協力枠組みとの関連で言えば、IRORCやCG会合で進められている既存の作業 をFCDIにおいて補完するという言説がみられた。以前より、既存の協力枠組みとの関連の中で FCDIは論じられていたが、以前は既存の協力枠組みとの差異化を図ることに主眼を置いていた。
ところが、閣僚会合では、既存の協力枠組みの不充分な部分をFCDIによって補っていくことを 意図するようになった552。共同ステートメントの策定によってFCDIの役割が明確になる中で、
こうした言説が登場するようになったと考えられる。
第3に、インフラ整備や人材育成といった分野は、市場経済への移行のための不可欠な要素と 位置づけられるようになった。閣僚会合における合意事項では、市場経済化支援が最も重要視さ れた。矢野も、「関係各国・機関にとっての最優先課題とは、『インドシナ3カ国の市場経済化』
に尽きる」553と論じている。また、「将来の ASEAN加盟をにらみつつ、インドシナ 3 カ国の市 場経済化、経済パフォーマンスの向上が最重視されていたのであり、そのために利害調整を進め て詰められるべき各論が、インフラストラクチャーの整備、法律・制度の整備、人材育成であっ た」554と総括している。市場経済化支援が本格化する中で、こうした取り組みをとりわけ重視す るようになったと考えられる。
第2項 閣僚会合の成果
さらに、共同ステートメントでは、インフラ整備および人材育成に関する議論、情報交換の詳 細が記載された。
549 Asia Division Ministry of Foreign Affairs of Japan, Ministerial Meeting: Forum for Comprehensive Development of Indochina Joint Statement, 1995.2.27.
550 閣僚会合開催後に刊行された『我が国の政府開発援助』(下巻)の「東アジア地域」の章でも、「共 同ステートメントにおいても、メコン河委員会が今後インドシナ地域の開発において重要な役割を果 たすことへの期待が表明された」と評価されている。外務省『我が国の政府開発援助』(下巻), 1995 p.5.
551 具体的には河川交通、洪水制御、漁業、農業、水力発電、環境保全などが課題となる。
552 以前より、ICORCやCG会合との重複を恐れないとする言説もみられた。例えば、1994年11月 には、FCDIにおいては、対越支援国会合やICORCとの重複もありえると大鷹正人南東アジア第一課 補佐は述べていた。外務省アジア局南東アジア第一課「仏出張対処方針(ア東―大鷹の対越援助国会 合出席の機会を活用)」外務省大臣官房総務課外交記録・情報公開室, 1994.11.9 p.1, 外務省アジア局 南東アジア第一課「インドシナ開発フォーラムに関する在京仏大の照会(メモ)」外務省大臣官房総務 課外交記録・情報公開室, 1994.11.16 p.3.
553 矢野・前掲論文, 1996 p.281.
554 同上
2.1 コンペンディアムの提出
まず、開発プロジェクト・プログラムに関して、ADBとUNDPがそれぞれインフラ分野・人 材育成分野に関するコンペンディアムを FCDI に提出したことが記された。また、ESCAPが、
貿易・投資・環境に関する研究をFCDIに提出したことも付記された555。
各国・機関がインドシナ地域に対して行っている開発事業などの援助状況や課題が一目で分か るコンペンディアムの作成は、閣僚会合の成果の1つであった556。
ADBが作成したインフラ整備に関するコンペンディアムでは、運輸、エネルギー、水資源、通 信、環境面におけるインフラの脆弱性が経済発展を阻害する要因となっていると指摘された557。 これらの分野は基本的に、「ADB が従来展開してきた方向に沿ったものになっている」558。つま り、プロジェクトの概要は、GMS構想に関する技術協力を通じ特定されたプロジェクトも包括す ることを前提としていた559。
他方、UNDPが作成した人材育成に関するコンペンディアムでは、市場経済への移行のための 経済改革・法制度改革・行政改革、民間部門の育成、環境保護政策・天然資源の管理、社会政策 などに資する事業の重要性が指摘された560。これらの分野が指摘された背景には、「インドシナ3 国の経済発展に共通する諸制約に適切に対応するには、国の能力の向上(政策面、制度面)及び 人材育成(個人の能力及び生活・勤務環境の向上)の両面からの取り組みが必要である」561との 認識が存在していた。
また、ESCAP が作成した貿易・投資・環境に関する研究レポート(コンペンディアムではな い)では、ASEAN との一体化の促進が地域的観点から重要であるとの指摘がなされた。そのよ うな重要性に基づき、制度・法制度などの環境整備の脆弱性が指摘された。さらに具体的な対応 策として、投資・貿易の促進のための環境整備、貿易当事者や投資家によるサービスの改善、環 境管理の整備などが挙げられた562。
2.2 具体的な議論の内容
閣僚会合における具体的な議論の内容は、以下の通りである。
まずインフラ分野に関する議論においては、参加国・機関は以下の点を共有した。すなわち、
①地域の国々を繋ぐ輸送システムの整備の必要性、②エネルギー分野の重要性、③地域のインフ ラ計画を実施する上で資金調達が重要な課題になる点、④投資額が相当な額にのぼることから、
インドシナ3国の政府・民間部門、援助国・機関との緊密な協力の必要性が挙げられた563。
555 Asia Division Ministry of Foreign Affairs of Japan, Ministerial Meeting: Forum for Comprehensive Development of Indochina Joint Statement, 1995.2.27.
556 『朝日新聞』朝刊, 1面, 1995年2月27日, 『日本経済新聞』朝刊, 2面, 1995年2月28日, 外務 省アジア局「インドシナ総合開発フォーラム閣僚会合―成果と概要」外務省外交史料館, 1995.2.27, 井 野・前掲論文, 1995 pp.25-26.
557 井野・前掲論文, 1995 pp.25-26.
558 白石・前掲論文, 1998 p.56.
559 Asia Division Ministry of Foreign Affairs of Japan, Ministerial Meeting: Forum for Comprehensive Development of Indochina Joint Statement Annex 1, 1995.2.27.
560 井野・前掲論文, 1995 p.26.
561 同上
562 同上 pp.27-28.
563 Asia Division Ministry of Foreign Affairs of Japan, Ministerial Meeting: Forum for