第 3 章 閣僚会合に向けた協議
第 2 節 域外国・国際機関との協議
準備会合開催後は、閣僚会合の開催に向けて、国内だけではなく域外国・国際機関とも協議が 行われた。そこで第2節においては、閣僚会合に向けて、域外国・国際機関との間でどのような 協議が行われたのかを明らかにしていく。
第1項 ADBとの協議
1994年5月に作成された決裁書においては、ADBとの協議における留意点などが議論された
(pp.91-98を参照)。このような国内での議論を踏まえ、1994年6月20日には、ADBの藤本理 事、森田徳忠局長、河相周夫アジア局南東アジア第一課課長、松富重夫経済協力局政策課企画官、
田町経済協力局開発調査員他との間で、FCDIに関する意見交換が行われた。FCDIを構想してい たアジア局のみならず、経済協力局のメンバーも協議に参加した。
協議においては、FCDIに関する日本の考えが、以下のように表明された。
(1)インドシナ諸国の援助は、基本的にはバイの形態で行うこととし、本件フォーラ ムを通じ各ドナー国・機関が情報交換を図り、各々のプロジェクトを相互補完し、効率 的な効果を上げて行きたい。
(2)閣僚レベルの会合を本年度内(可能であれば年内)に開催する予定であるが、閣 僚レベルの会合は1回限りとし、右会合で事務レベルからなる作業委員会を設置し、こ れを各ドナーの意思の場としたい。可能であれば、当面の間右委員会の事務局を ADB にお願いしたい。作業委員会の役割として留意すべきことは、右委員会は意思決定の場 ではなく、各ドナーによる経協をこう束する調整・勧告を行うものではない点である。
従つて、わが国や ADB が本件フオーラムを通じて対インドシナ諸国支援を調整すると いうことはなく、ADBとしてはニュートラルな事務局としての立場と独自の構想表明す るプレイヤーとしての立場を両面もつていただくことになる。もち論、ドナーとしての ADBとわが国としても必要に応じて情報交換を行つていきたい。
(3)閣僚レベル会合の役割は、インドシナへの関心を高めることと作業委員会の発足
401 同上
402 同上
であるが、右会合において、何らかの具体的方向性の意図表明を行うことも検討したい
(ただし、その場合、右会合の場で案件の重複がないよう事前の非公式な調整が必要)。
(4)日程等については、可能ならば年内に開催したいが、ADBの地域会合と重複しな いタイミングを図りたい。また、民間シンポジウムについては、右会合の後の可能性も 考えている。また、中国(ウン南省)、ミャンマーは今回フオーラムには含まない予定。
(6)マ マ 準備会合で ADB へ依頼したインフラ整備に係わるコンペンディアム作成につい ては、参加国(機関)のプロジェクトを可能な範囲で盛り込み、また、ADBの地域会合 で特定されているプロジェクトが中心にならないことを御留意願いたい。(下線は引用 者)403
上記の発言では、FCDIの目的とFCDIにおけるADBとの位置づけに、とりわけ関心が置かれ た。まずFCDI閣僚会合の目的には、「インドシナへの関心を高めることと作業委員会の発足」が 挙げられた。また参加国・国際機関が援助に関する何らかの意図表明を行うことで、具体的な方 向性を決める狙いもあった。
実際の意見交換や調整は、作業委員会を通して行われることが構想された。この作業委員会は、
何らかの取り決めを行うものではなく、あくまで情報の交換を行うことに主眼が置かれた。また、
各ドナー国・機関との情報交換を通して、プロジェクトを相互補完し、効率的な効果を上げてい くことが想定された。その際に、ADBが作業委員会の事務局を担当することが、日本側からは期 待されていた。
協議では、FCDIに対するADBの過度な関与を防ぐことに留意された。例えば、コンペンディ アムの作成においても、主な業務はADBが担当することになったが、ADBのプロジェクトが中 心にならないように留意してほしい旨が日本側から述べられた。そのためにも、ADB以外の参加 国や国際機関のプロジェクトを盛り込むようにADBに対して確認がなされた。
次に、ADBによるコンペンディアムに関する質問を受けて、日本側からは、以下の回答がなさ れた。
(1)本件フオーラマ マ で想定しているコンペンデイアムは、日本を含めた各ドナーのプロ ジエクトを含むもので ADB の地域会合用に作成しているものよりも範囲の大きいもの となろう。また、本件フオーラムで必要としているのは、現在行つているプロジエクト のリストと実施を計画しているプロジエクトのリストであるので、計画段階にも至つて いない案件をも含むADBのリストとは性質がことなる。(協調融資を含めた)各案件へ のファイナンスの議論については、本件フオーラムでの一般的な意図表明に基づき、別 の場で行つてもらうことになるかもしれない。
(2)また、本件フオーラムは調整の場ではなく、各ドナーのフリーハンドを失わせる
403 外務省アジア局南東アジア第一課「インドシナ総合開発フオーラム(ADB関係者との意見交換)
(第979号)」(松田駐フィリピン大使から外務大臣宛て)外務省大臣官房総務課外交記録・情報公開 室, 1994.6.22.
ものではない点を改めて留意していただきたい。(下線は原文通り)404
上記の発言も、コンペンディアムの作成において、ADB以外のドナー国や国際機関の参加や協 力を促進するために打ち出されたものであると理解できる。その際に、FCDI が「各ドナーのフ リーハンドを失わせるものではない」という発言がなされた。その背景には、FCDI が強制力の ある協力枠組みではないことを各国・機関に印象付けることで、これらの国や国際機関からの協 力を促進する意図があった。
最後にADBから日本への要望として、「開発には公共インフラ部門がこつ格とすれば、筋にく・
けつえきにあたる民間資本の導入がより重要であるので、民間のノウハウを活用するようなソフ ト面での協力(例:法制度整備、関税分類、無税通過、通関制度、税制、会計制度の域内の整合 性確保について、各ひ援助国の認識を深めることも一案であろう)」405と述べられた。また、「同 様の発想から ADB としては、9 月以降年末にかけて、民間の対インドシナへの関心喚起、及び ADBイニシャチブへの理解を深めてもらうために、バンコク及び東京で国際ビジネス関係者を集 めてセミナーを開催する予定である」406との報告がなされた407。
この発言に対して、日本側は、「広域のINSTITUTION BUILDINGはわが国経協としても大 きな関心を有しており、支援の用意もあるが、二国間のわくを離して複数諸国間の諸制度の整合 性を援助国側より強要するような形をとることは政治問題をじやつ起(惹起)する恐れもありし ん重にならざるを得ない」(括弧内は筆者)408と発言した。
上記の日本側の発言では、ソフト面における広域的・越境的な制度作りに対する懸念がみられ る。FCDI は、地域開発を志向した協力枠組みであった。しかし、法制度や通関制度などの制度 面において国境を越えた制度を構築していくことは、この段階では不可能であると日本の政策担 当者も認識していた409。あくまで、政策担当者の方針は、二国間援助を主要な援助形態に位置づ けるとともに、意見交換や情報交換を通してインドシナ開発を実践していくというものであった。
この協議でも、日本側からは、バイベースの援助が中心であるという発言がみられた410。
第2項 FCDIの運営方針を記した電信案および招待状の作成
2.1 電信案の作成
1994年10月12日には、FCDIに関する運営方針を記した電信案が作成された。この電信案は、
404 同上
405 同上
406 同上
407 実際、1994年半ばには、ADB関係者の間でも、GMS構想における民間セクターの導入がさけば れていた。The Straits Times(Singapore), 1994.9.16 p.17.
408 外務省アジア局南東アジア第一課「インドシナ総合開発フオーラム(ADB関係者との意見交換)
(第979号)」(松田駐フィリピン大使から外務大臣宛て)外務省大臣官房総務課外交記録・情報公開 室, 1994.6.22.
409 大鷹正人とのインタビュー(2013年9月25日)
410 事実、1994年9月3日に村山富市首相とチュアン首相の間で開催された日タイ首相会談において も、FCDIの目的はインドシナ諸国に対する二国間援助の効率化であると村山は述べた。外務省アジ ア局「チュアン首相の訪日(日タイ首脳会談)」日本外務省外交史料館1994.9.10 p.4.
インドシナ3国やASEAN諸国をはじめとして、参加国に宛てられた411。その内容は、すでに第 1 節でみてきた決裁書の内容をほぼ踏襲している。そのために重複は避け、ここでは新たに登場 した言説だけを論じる。
電信案は4節から構成される。まず1節と2節においては、「本フォーラム閣僚会合の開催時期 及び場所」、「参加者」がそれぞれ記された412。
次に、3節で「運営方針」が記載された。それらの内容は、基本的に1994年5月に作成された FCDI の運営方針の内容を踏襲している。ただし、差異も若干みられた。まず、今回新たに作成 された電信案は、ADB のみを対象としていなかった。そのため、「各ドナー国・機関の援助実施 についてのフリー・ハンドを拘束するような形で作業委員会が強制的な調整又は勧告を行うこと は避ける」という、ADBを対象にした言説は削除された。また、FCDIを進めるにあたり、日本 からは新規の有償資金協力の具体的表明は行わないとする文面が新たに付け加えられた。
さらに、電信案の4節の「作業委員会及びそのterms of reference」に、作業委員会に関する記 載がみられた。作業委員会に関する内容も、基本的に日本国内において議論された運営方針の内 容をほぼ踏襲している。このように、国内で議論されたFCDIに関する運営方針を各国に紹介す ることで、FCDIに対する各国の感触をつかむことが、この電信の狙いであったと言える。
2.2 招待状の作成
1994年11月8日には、インドシナ3国に送付するFCDI閣僚会合の招待状が完成した。
この招待状によれば、FCDI の主要な目的は、①国際社会によるサブ・リージョンに対する開発 支援を行うためのさらなる政治的弾みを提供すること、②各国・機関がプロジェクトを立案・実 施において、二国間のみならず越境的なプロジェクトを進めていくために、インドシナ3国とド ナー国・国際機関間における情報交換を促進させ、インドシナ地域全体の効率的な開発援助を促 進させることの2点であった413。さらに、閣僚会合で議論する優先分野として、インフラ開発・
人材育成・市場経済化移行支援に焦点を当てることが記載された414。
これら 2つの目的は、ともに「サブ・リージョンに対する開発支援」や「越境的なプロジェク ト」という言説からも理解できるように、インドシナ地域全体の開発を強調するものであった。
他方、招待状を通して、各参加国と国際機関に対して公式に提示された目的では、インドシナ開 発において二国間援助を基軸とするという国内の議論には一切触れられなかった。
こうした背景には、地域開発の重要性を強調しなければならない日本政府の意図が存在してい た。確かに、日本政府はインドシナ開発が二国間ベースにならざるを得ないことを認識していた415。
411 外務省アジア局南東アジア第一課「インドシナ総合開発フォーラム(運営方針)(第20241号)」
外務省大臣官房総務課外交記録・情報公開室, 1994.10.12.
412 「本フォーラム閣僚会合の開催時期及び場所」および「参加者」の内容は本論では割愛する。
413 外務省アジア局南東アジア第一課「インドシナ総合開発フォーラム(正式招待)」(外務大臣から在 ベトナム、カンボジア、ラオス大使宛て)外務省大臣官房総務課外交記録・情報公開室, 1994.11.8.
414 同上
415 例えば、1994年10月21日には、松永在マレーシア大使館職員(具体的な役職は不明)が、マレ ーシア外務省担当者(個人情報保護のため匿名)を訪問した際、松永からは国境を跨ぐインフラ支援 に関する問題点が提示された。具体的には、「インドシナ3国はそれぞれ異なつた発展段階にあると いう事実をふまえることが大事であると思う。例えば越は最も積極的に中央統制経済から市場経済へ の変革に向けての措置を執つており、これに成功している。また、石油、米、長い海がん線等有利な