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開示役員報酬データを用いた実証分析

第 5 章 役員報酬の実証分析

5.4. 開示役員報酬データを用いた実証分析

わが国でも2009年3月期決算から、1億円以上の報酬を受け取っている役員については、

個別役員報酬額に加えて、その内訳(基本報酬、賞与、ストック・オプション、退職慰労金 など)が有価証券報告書に開示されるようになった。したがって、これらのデータを用いて、

役員報酬と企業の業績がリンクしているかどうかを検証することも可能となった。本分析 では、2009年度から2015年度までの7期間のデータを用いて、当該年度と前年度の増減 を利用してのクロス・セクション分析を6期間について行った。1億円以上の報酬を受け取 っている役員が同一企業で複数存在するケースも多くみられたが、1億円以上の報酬を受け 取っている役員のうち、1社につき最高報酬を受け取っている役員1名に限定した。

本論文では、他の分析と同じく、報酬の変化分と業績の変化分との連動性を測定すること にした。業績指標として純利益、売上高そして時価総額を想定した。個別役員の報酬の増減 と彼らの属する企業の純利益、売上高及び時価総額の増減との関係の分析を試みた112

第i企業役員に関する、時点tでの、役員報酬、純利益113、売上高、時価総額の増減分は、

以下のように計算される。

Δ( 役員報酬 )it = ( 役員報酬 )it - ( 役員報酬 )i,t-1 単位:百万円 Δ( 純利益 )it = ( 純利益 )it - ( 純利益 )i,t-1 単位:億円 Δ( 売上高 )it = ( 売上高 )it - ( 売上高 )i,t-1 単位:億円

112 1社で2名以上の役員が1億円を超える報酬を受け取っている場合、最高報酬額を受け取っている役 1名を抽出したが、その内訳(基本給、賞与、ストック・オプション、退職慰労金等)を加味して、一 時的な支払い、例えば、退職慰労金が多い役員や、数年間にわたって1億円以上の報酬を受け取っていな い役員(1期間のみ、或いは2期間のみ報酬が1億円を超えた役員など)のデータは利用していない。

113 連結会計における、売上高及び親会社株主に帰属する純利益データを利用した。

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Δ( 時価総額 )it = ( 時価総額 )it - ( 時価総額 )i,t-1 単位:10億円

下方の(1)式では、役員報酬の増減分が純利益の増減分で説明できるかどうか、(2)、(3)式 では役員報酬の増減分が、売上高の増減分、そして時価総額の増減分で説明できるかについ て、年度ごとのクロス・セクション回帰分析を行う。

Δ( 役員報酬 )it =αt+βt Δ( 純利益 )it +uit (1) i =1,…,n Δ( 役員報酬 )it =αt+βt Δ( 売上高 )it +uit (2) i =1,…,n Δ( 役員報酬 )it =αt+βt Δ( 時価総額 )it +uit (3) i =1,…,n t = 2010年度 ,・・・,2015年度

まず、日経平均を辿ることにより、標本期間(2010年度から2015 年度)の経済の動き を改めて確認しておこう。

図1:日経平均株価の推移

(出所)日本取引所の株価データをもとに筆者作成

分析期間の始まりである2009年4月においては、リーマンショック後の厳しい経済状況 0.00

5,000.00 10,000.00 15,000.00 20,000.00 25,000.00

2009年03月 2009年07月 2009年11月 2010年03月 2010年07月 2010年11月 2011年03月 2011年07月 2011年11月 2012年03月 2012年07月 2012年11月 2013年03月 2013年07月 2013年11月 2014年03月 2014年07月 2014年11月 2015年03月 2015年07月 2015年11月 2016年03月

日経平均

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にあった。日経平均は2009年4月末で8,828円であり、2008年10月の最安値7,162円か ら、持ち直しが期待されながらも、未だ不安定な経済状況にあった。それでも、2009 年7 月には1万円台を回復し、2010年3月末(2009年度末)には、11,057円まで上昇した。

ところが、2011年3月末(2010年度末)には9,755円、2011年12月末には8,455円まで 値崩れした。2012 年3月末(2011年度末)には、一時的に 1万円台を回復するものの、

2012年12月の1万円台回復までは、弱含みの傾向にあった。

2013年に入ると、転じて市場は強気気配が一般的となり、2013年12月末には、16,300 円近くにまで上り詰めた。2014年3月末(2013年度末)には、14,827円と揺り戻し気味 であったが、2015年3月末(2014年度末)には、19,206円と2万円台が目前となるまで 上昇した。そして、2015年5月には、2万円台を記した。それ以降アップ・ダウンを繰り 返し、2016年3月末(2015年度末)では、16,758円まで下降した。

日経平均という株式市場の投資家の視点から、当時の景気を大まかに判断すれば、2009 年度は+、2010年度は-+、2011年度は-、2012年度は++、2013年度は+、2014年 度は++、2015年度は+-、ということになる。

年度ごとの当該役員(1社1役員)の増減分の内訳を、増、同、減にグループ分けし、そ の企業数を記したのが表1である。

表1:役員報酬の年度ごとの増減

年度 2010 2011 2012 2013 2014 2015

減 56 69 62 44 72 82

% (0.42) (0.42) (0.36) (0.27) (0.34) (0.37)

同 13 14 16 12 19 20

% (0.10) (0.08) (0.09) (0.07) (0.09) (0.09) 増 64 83 95 110 119 119

% (0.48) (0.50) (0.55) (0.66) (0.57) (0.54) 企業数 133 166 173 166 210 221

(出所)役員報酬データをもとに筆者作成

役員報酬の増減は、先に見た景気と連動しているようにも見える。果たして、個別企業の

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報酬変化は、個別企業の業績を反映した形となっているのであろうか。

純利益、売上高、時価総額に関する単回帰の分析結果は、表5-1に示されている。t値、

決定係数とも得られた数値は低く、有意な結果を得ることが出来なかった。各係数推定値は 正もあれば、負もある状況で、さらに決定係数が低いということは、業績の変化分と報酬の 変化分において安定的な関係が存在しないことを物語っている。唯一の例外は、2014年度 の売上高増減分の係数が1%有意水準で有意になっていることである。しかしながら、報酬 増減分を大きさ順に並べ、両端3社ずつを除いたデータで再計算すれば、決定係数は0.0039 となり、係数推定値は有意でなくなる。

異常値の効果を除去するため、この手順(役員報酬増減分の両端 3 社を標本から除く)

を、2010 年度から2015 年度のそれぞれの年度データに適用し、純利益、売上高、時価総 額の増減データとの回帰式を計算した。有意な結果は18ケース中1ケースであった。決定 係数も低い(0.04が最高)結果であった。

第 4 章でも説明した役員報酬の内訳のうち、退職慰労金は特異な位置を占めることが多 く、本分析では、報酬総額ではなく、基本報酬、賞与、ストック・オプションからなる報酬 額を役員報酬として、(1)、(2)、(3)の回帰式を試みた。有意な結果が得られるケースが18 ケース中2ケースあった。しかしながら、基本的には、決定係数も低く、表5-1と同様な ものであった。

個別役員報酬データを用いた実証分析では、大企業がそのサンプルとなるものであるが、

そうした企業においては、役員報酬の増減が、純利益、売上高、及び株価の上昇や下落によ って決定されるということを、確認することができなかった。むしろ、役員報酬の増減は企 業業績とは無関係に決められているのではないか、との判断を強めるものであった。

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表 5-1 報酬 1 億円以上の役員データによるクロス・セクション単回帰分析

年 Δ純利益 Δ売上高 Δ時価総額

2009 年度~2010 年度 α 3.1655 1.7429 7.9820

β 0.0099 0.0016 0.0414

n=133 t 値 0.7460 0.5395 1.4139

決定係数 0.0043 0.0026 0.0150

~ 2011 年度 α -4.8266 -2.3880 -4.7137

β 0.0090 0.0047 0.0146

n=172 t 値 0.9825 1.3173 0.5908

決定係数 0.0056 0.0107 0.0020

~ 2012 年度 α 11.8211 12.2710 8.5923

β -0.0092 0.0006 0.0138

n=179 t 値 -1.0671 0.3219 1.3918

決定係数 0.0064 0.0007 0.0108

~ 2013 年度 α 29.5303 22.7559 27.9751

β 0.0005 0.0010 0.0102

n=166 t 値 0.0464 0.4654 0.5568

決定係数 0.0001 0.0015 0.0019

~ 2014 年度 α 39.0425 -3.0722 46.7598

β 0.1084 0.0733** -0.0166 n=210 t 値 1.6958 5.3444 -0.3879

決定係数 0.0136 0.1337 0.0007

~ 2015 年度 α -12.4979 7.1302 -3.9772

β 0.0098 0.0086 -0.9424

n=221 t 値 1.6337 0.5386 -1.7160

決定係数 0.0120 0.0015 0.0133

(注)β推定値の肩につく*は5%、**は1%有意を表す。

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