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日本企業における役員報酬の事例

第 2 章 日本の役員報酬の問題点とコーポレート・ガバナンス

2.5. 日本企業における役員報酬の事例

日産自動車のCEO、カルロス・ゴーン氏は2010年3月期と2011年3月期において、公 表された役員報酬の中で最も多い役員報酬を受け取っており、2012年3月期は1位の座を カシオ計算機の樫尾俊雄氏に譲ったものの、酬額を年々増加させている。2010年3月期と 2011年3月期において、報酬額が2位だったのが、ソニーのCEO、ハワード・ストリンガ ー氏であり、当時において、日本の企業の役員の中で、報酬額トップ2が外国人であった。

この外国人 2 名の報酬がこの時期、その他の役員と比べて極端に多いこと、日本の役員報 酬額の上位2位を2年間独占していたことは、当時、物議をかもした。そしてこの2名が 受け取った報酬の額について、マーケットでの評価は、極端なくらい異なっていた。

カルロス・ゴーン氏については、彼が日産自動車を V 字回復させた専門経営者であり、

2010年3月期、2011年3月期の業績も増加していることから、10億円弱の莫大な報酬を 受け取っているにもかかわらず、当時、市場で非難されることは殆どなかった。カルロス・

ゴーン氏の受け取っている報酬は、マーケット関係者の間においても納得できる水準と評 価されたのであろう。これに対してハワード・ストリンガー氏はソニーの業績を低迷させる どころか純利益がマイナスにも関わらず、役員報酬額を8億1,500万円から8億8,200万 円に増額させていることについて、貰いすぎとの声が相次いだ。2人の外国人経営者の報酬

59 Gabaix, X. and Landier, A. (2008), ‘Why has CEO Pay Increased So Much?’ The Quarterly Journal of Economics, pp. 49-100, February 2008.

63 について、市場は全く異なる評価を下したのである。

2.5.1. 日産自動車の業績とカルロス・ゴーン氏の報酬額

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日産自動車のカルロス・ゴーン氏の報酬は3年間連続して上昇した。この理由としては、

それに見合った経営の成果がでていると考えることができる。表 2-7 は日産自動車の有価 証券報告書における連結財務諸表のデータである。

日産自動車は、リーマンショックの影響で 2009 年 3 月期の業績を悪化させたものの、

2010年3月期には営業利益、経常利益、当期純利益を黒字化、2011年3月期にはこれらの 数値を増加させている。日産自動車の業績はリーマンショックで売り上げを減らし、利益は 赤字に転落したものの、その後急回復し、2010年3月期、2011年3月期には増益、2011 年3月期、2012年3月期には増収を記録している。2012年3月期は当期純利益と一株あ たり利益を前期と比べて増加させている。

2012年3月期の日産自動車の取締役の報酬総額は18億8,200万円であった。役員報酬 総額に対してカルロス・ゴーン氏の報酬は52.44%と、ほぼ半分を占めている。この状態を 株主は納得しているのかどうか疑問を抱く。そして二番目に多い額を受け取っているのが コリン・ドッジ氏で、基本報酬として2 億7,600万円を受け取っており、役員報酬総額の 14.66%である。取締役の中で、これら外人二名を除くと残りは日本人であるが、日本人の 中で一番多く受け取っている志賀俊之氏の報酬は1億 1,800万円であり、役員報酬総額の 6.26%と、取締役の中でも大きな差がある。同じ取締役でも外国人なら報酬額が日本人の何 倍にもなる。

ただ、カルロス・ゴーン氏やコリン・ドッジ氏が受け取った高額な報酬は、世界的にみれ

60 本稿脱稿後の20181119日、日産自動車のカルロス・ゴーン会長が約50億円の役員報酬を過少 申告した疑いが浮上し、東京地検特捜部はゴーン氏の逮捕に踏み切った。

表2-7 日産自動車の業績推移 単位:100万円

(3月期) 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年

売上 10,824,228 8,436,974 7,517,277 8,773,096 9,409,026 営業利益 790,830 -137,921 311,609 537,467 545,839 経常利益 766,400 -172,740 207,747 537,814 535,090 当期純利益 482,261 -233,709 42,390 319,221 341,433

EPS 117.8 -57.4 10.4 76.4 81.7

(出所)日産自動車の有価証券報告書をもとに筆者作成

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ば妥当な水準であり、むしろ少額であると彼らは言及している。彼らは日本の企業において、

米国の常識を押し通している。ただ、米国でも経営者が高額な報酬を受け取るには株主が納 得できるようにきちんと説明する必要がある。その点では、日産自動車の株主は、高額な報 酬を支払うことで優秀な経営陣を繋ぎ止めておく必要があると理解しており、彼らの報酬 について株主から問題提起されていない。そして日産自動車は、第 109 回定期株主総会の 決議において、役員の報酬は年額29億9,000万円以内としており、企業報酬コンサルタン ト、タワーズ・ワトソン社による大手企業の役員報酬のベンチマークの結果を参考にしてい ると言及している。外国人の役員と日本の役員との間で、企業業績を向上させた貢献度と報 酬に、これほどの大きな差が出ることについては、疑問視する声もあるが、業績向上に貢献 しているのなら問題視すべきではないのかもしれない。

2.5.2. ソニーの業績とハワード・ストリンガー氏の報酬額

ソニーのCEO、ハワード・ストリンガー氏の報酬について概観する。ストリンガー氏の

報酬は年々上昇していたが、高額報酬に対して批判が相次ぎ、2012年3月期において大幅 に減額されている。ソニーは、世界景気の減速を背景に液晶テレビや小型デジタルカメラな どの主要製品の販売不振が響き、売上、当期純利益、包括利益、純資産がマイナス、業績は 年々低下した。それにもかかわらず、2011年3月期には当期純利益は2,595億円の赤字に 対して、67百万円の報酬額を上乗せしている。

これに対して批判が相次ぎ、ハワード・ストリンガー会長や、平井一夫社長ら執行役7人 が平成24年3月期の業績連動報酬を全額返上することとなった。そして2012年度のハワ ード・ストリンガー氏の報酬額は大きく減少することとなった。2012年6月の定期株主総 会後にはハワード・ストリンガー氏は経営の第一線を退くこととなった。ハワード・ストリ ンガー氏は2005年、ソニーの初の外国人トップとして会長兼CEOに就任し、2009年から リーマンショックによる業績悪化から会長と社長、CEOを兼任する異例の体制が7年間続 いていた。しかし、その経営の手法としては、M&Aやリストラが主で、彼の経営手腕につ いては批判が絶えなかった。これは当然の結果である。ソニーは委員会設置会社ではあるも のの、まだまだCEOの権力が大きかったようである。

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以上、上記の2名は日本の慣行を前提とすれば、飛び抜けて報酬金額が高額である。アン グロサクソン型の企業統治を前提にするのは良いとしても、高額な報酬だけを世界標準で 捉えすぎている感が否めない。日本で企業経営をするのであれば、日本の風土、日本型経営 慣行に沿った報酬が存在する筈であると考えても不思議ではないだろう。日本の企業で米 国の役員やCEOの報酬をベースに報酬額を決定することについては、誰もが納得するよう な決定的な貢献度が示されない限り若干無理があると思われる。業績を低迷させておきな がら、高額な報酬を当たり前のように受け取るという行為は避けるべきであろう。

経営者の報酬が増えれば、その分従業員への給料も増やさなければ企業全体で不平不満 が生じることも考えられる。しかし、従業員の給与や賞与は削減されていても、役員の報酬 だけは増加している企業も少なくない。2010年3月期、日本で役員報酬が開示された当時、

ボーナスを減額された野村證券の社員が社長の報酬を知って激怒したというの話はよく知 られている。役員の報酬は、経営目標としてのROIやROE の向上が達成できなかったと しても、せめて売上や利益等に連動させていく必要があるのではないだろうか。