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経営者のリスク・テイクとガバナンス

第 2 章 日本の役員報酬の問題点とコーポレート・ガバナンス

2.3. コーポレート・ガバナンスの視点から分析した日本株低迷の要因

2.3.6. 経営者のリスク・テイクとガバナンス

経営者は、株主のために会社組織が成功するための、有能なリーダーでなければならない。

そしてリーダーは適切な目標とインセンティブを部下に与えなければならない。ここにリ ーダーが、いかにリスクのあるプロジェクトに出資できるかというリスク・テイクに関係す

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る問題が浮上する。コーポレート・ガバナンスの問題が発生するのは、「資本と経営が分離」

しているためである。経営者が会社の所有者であるならば、利害関係が存在しないため、非 上場でオーナー経営の会社であれば、コーポレート・ガバナンス上問題はあまり生じない。

しかし公開会社である以上、会社は株主のものであるという考えが社長のみならず従業員 にも浸透している必要がある。この考え方が欠如すると、公開会社においても、会社は経営 者の所有物となってしまう。会社を所有しているのは株主で、経営は専門経営者が行うとい うのが、大企業では当然の行為となる。経営者に会社は株主のものであるという考え方が浸 透していなければ、経営者は独善的になり、株主を無視して自分勝手な経営を行ってしまう。

そうなると、企業経営上諸々の問題が生じる。例えば、経営者の中には、企業の利益を毀損 させても、自分の報酬を増やそうとする者も出てこよう。

株主の利益を無視する経営を行った場合、経営者はローリスクな投資を行いがちになる。

投資に対する失敗への恐れや、景気低迷による業績の悪化を懸念して、より慎重な行動をと るのである。また、短期的な経営指標によって経営者の経営手腕が評価されることを恐れる あまり、大きなリスクを取って、大きな利益を得ようとしなくなる。ハイリスク・ハイリタ ーンの経営よりもローリスク・ローリターンの経営がなされるようになるのである57

リーマン後、日本経済の低迷が暫く続いていたため、多くの企業では業績が低迷した。業 績が低迷している中、経営者が自らの報酬を上昇させることは難しい。そこで、今日におい ては、ストック・オプション制度を利用した報酬制度を取り入れることも視野に入ってきて いる。経営者の報酬にストック・オプション制度を取り入れれば、株価の値上がりが報酬に 反映されることになるので、経営者も株主が望むようなハイリスク・ハイリターンの経営を 採用するインセンティブとなる。しかし、ストック・オプション制度がこれまで日本ではあ まり根付いていなかったことにより、ローリスク・ローリターンで、株主が要求するレベル の収益を獲得できない企業もみられた。

図2-1-2は平成20年度の内閣府による年次経済財政報告(経済財政政策担当大臣報告)

「リスクに立ち向かう日本経済」(http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je08/08b02010.html)

で示されている図である。ローリスクな投資をする企業と、ハイリスクな投資をする企業の リスク・テイクの度合いを表したものである。図で示されている様に、ハイリスクをとる企

57 この点は、木村(2018)や森田(2019)においても主張されている。特に、森田は、「多くの日本人経営者 は、失敗したら自分のキャリアに傷がつくのではないかと恐れ、とりあえず無難にやり過ごすことを選択 しがちである」と述べている(森田英一「日本企業にグローバルなプロ経営者育成は可能か」『企業と人 材』、20191月号、p.10.)

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業ほど収益率が高くなり、成長成長率も高い。株主重視の経営とはハイリスク・ハイリター ンの経営であり、日本の企業はあまり、そのような経営を積極的に行っていないと考えられ る。

米国の企業と比べると、日本の企業の多くは相対的に収益率が低く、低ROE企業が多い 点が指摘されている。これは、日本企業がストック・オプション制度を積極的に取り入れる ことによってある程度は、解決可能であると思われる。しかし、多くの日本の経営者は経営 成績によって、あるいは株価によって自分の報酬が決まってくるという考え方に対して否 定的である。

我が国企業の役員や経営者の報酬は、年功序列制度に裏付けられており、平取締役の報酬 は部長の報酬にプラス・アルファされ、常務取締役の報酬は平取締役の報酬にプラス・アル ファされ、専務取締役の報酬は常務取締役の報酬にプラス・アルファされ、代表取締役の報 酬は専務取締役の報酬にプラス・アルファされるなど、報酬は株主が納得するような体系に なっていない。日本の役員報酬や社長の報酬は業績に連動しておらず、殆どが年功序列制度 に則って決定されているのである。これでは、株主を重視するというコーポレート・ガバナ ンスの基本的な考え方から大きく逸脱することになってしまう。

OECDはリスク・テイクについて、①同業種間におけるM&Aの割合、②)開業率・廃業 率、③ベンチャーキャピタル投資額の3つの観点で国際比較を行っている58。そこではどの 観点からも日本的企業のリスク・テイクの水準は低いことが報告されている。日本の多くの 経営者はハイリスクな投資に踏み出すことに極端に躊躇しているとも報告されている。

58 OECD(2007)“Science, Technology and Industry Scoreboard 2007”,Acharya et al.(2008)によ り、内閣府(平成20年度年次経済財政報告)が作成した図を参照。

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経営者や役員が年功序列に則ったかたちの一定の報酬を維持するために、ローリスクな 経営が日本的な経営慣行として浸透してしまっているのである。日本企業の経営者の多く はローリスクな経営を採りがちであり、収益率、企業成長なども低い水準に留まってしまう ことが問題視されている。

製品・サービスの開発や、技術開発など、日々変化する市場から新しい価値の向上や収益 の獲得を狙うためには、ある程度のリスクを覚悟して経営を行う必要がある。特許権・意匠 権・実用新案権などの知的財産は企業の新たな資産となりうるため、他社、他国との競争に 打ち勝つため、積極的に取り組む必要性がある。研究開発を積極に行うということは、積極 的なリスク・テイクを必要とする。研究開発と並び重要なことは、人材と事業の再配置を行 うことである。効率良く事業拡大することが肝要である。事業の展開・拡大を行い、事業内 容の効率化を図ることこそが最大のリターンを得る方法であるため、こちらも積極的に取 り組む必要性がある。

事業拡大を行うために必要な資金は米国ではベンチャーキャピタルが担っている。しか

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し、日本のベンチャーキャピタルには独立系が少なく、高い技術を有する中小企業に融資す るというケースも少ない。日本では、資金を提供するベンチャーキャピタルは、大抵が大企 業の子会社として設立され、優秀な人材は大企業へ吸収されるケースが多い。