第 3 章 我が国企業が抱えるガバナンス上の問題点
3.1. 我が国電機産業の企業統治と経営者行動
3.1.7. 東芝による会計不正
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株価を下落させた経営陣に対して何の罰則もなされていないのが現状である。
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会による報告では、経費の計上時期や在庫の評価の妥当性など詳細な検証を行い、約500億 円の営業赤字になると報告された。その後、営業利益の赤字は500 億円から2,000 億円程 度まで拡大する見通しと歴代社長が不正会計に関与していたことも発覚し、事態はより深 刻な問題となった。11月に役員責任調査委員会の調査報告書では、西田厚聡元社長ら5人 の元トップが暴走したことが不正会計を招いたとして、その責任は重いとしている。トップ の暴走を阻止するのがコーポレート・ガバナンスの機能であるとすれば、その機能は東芝で は全く働かなかったと言えよう。
東芝はわが国企業の中でもいち早く委員会等設置会社に移行している。いわゆる「コーポ レート・ガバナンスの優れた企業」として知られていた。しかし、東芝ではガバナンスが正 常に機能することはなく、今回の不正会計処理も防ぐことができなかった。日本企業のガバ ナンスに対する意識が高まってきている今日において、東芝の会計不正は他の日本企業の 信頼をも損ねたのではないだろうか。どのような優れたガバナンス・システム、内部統制シ ステムを構築しようとも、経営者が企業を間違った方向へと導くような独断的なリーダー シップを発揮し、経営者の倫理観に問題が残される限り、東芝やオリンパス74のようなケー スは、今後も発生する可能性があることを強く認識する必要があろう75。
本節ではコーポレート・ガバナンス改革について、最近の動向を概観したうえで、経営者 のガバナンスに対する関心の欠如が企業の収益性を蝕み、ひいては企業を倒産させてしま うことを、これまでのケースから概観した。
日本の経営者にガバナンスに対する認識不足があるのは周知のとおりであるが、日本で は経営者を規律づけする仕組みが、制度的に欠けている点も見逃せない。
さらに株価に対する認識の甘さ、株価が下落してもその原因を追求もせず、何の手立ても 行わない経営者がいかにわが国には多いか、を大手家電3社のケースを参考に紹介した。
制度的には、経営者の経営手腕と利益率や株価が相関するような仕組みが、早急に設計さ れるべきであると考えられる。そのためには、ストック・オプションの積極的な導入などに よる業績連動型の報酬制度への転換を早急に進めることが、喫緊の課題であろう。
業績を悪化させ、それによって株価を下落させた経営者が、更迭されるような制度的な枠 組みを構築することも急がれる。日本型ガバナンスへのこだわりが、東芝の会計不正や大手
74 2011年7月、オリンパス株式会社は巨額の損失を「飛ばし」という手法を用いて、損失を10年以上 にわたって隠し続け、巨額な負債を粉飾決算で処理していたことが発覚した。
75 佐賀卓雄(2015)「東芝の不正会計問題とコーポレート・ガバナンス改革」、『證券レビュー』第55 巻、第10号、p142.
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家電の業績低迷、株価下落、株主を無視した配当政策など、経営者が企業価値を高める努力 を怠るような方向へと導いた、と言えるかもしれない76。
今日の経営は、グローバルな価格競争、製品のライフサイクルの短命化など、企業を取り 巻く環境の変化は迅速で劇的でもある。このような時代においては、かつて通用したビジネ スモデルが直ぐに通用しなくなってしまう。環境の変化が激しく、その変化が急速であるに もかかわらず、経営者がいつまでも同じ人物であり続け、同じ考え方に固執していては、業 績が低迷するのは当たり前である。今日のような経営環境の下では、経営者の交代を頻繁に 行うべきなのかもしれない。
そのためには、業績連動型の報酬システムや株価を重視した経営がわが国においても主 流になる必要があると考えている。つまり、経営者が株主によって厳しく監視されるシステ ムの導入が急がれるところである。わが国におけるコーポレート・ガバナンスの現状を改革 するためには、ストック・オプション等に代表されるような業績連動型の報酬システムをシ ョック療法的に導入し、環境の変化に適応できず業績を悪化させた経営者には即刻退任し てもらうような仕組みを構築する必要があろう。
日本の経営者の報酬の大部分は固定給であり、企業業績や株価と連騰していない。これが 抜本的に改善されない限り、経営者は危機感を抱いて企業の経営が出来ないし、日本のコー ポレート・ガバナンス改革に明るい兆しは見えてこないと思われる。
前章及び本章では、エージェンシー理論、つまり人間の行動に対する性悪説的な考え方を 前提に、コーポレート・ガバナンスについて議論した。しかし、人間の内発的動機づけに焦 点を当て、人間の行動に対する性善説的な考えをベースに、コーポレート・ガバナンスのあ り方について議論している研究も多い77。また、これらの研究による主張もある程度支持さ れていることも踏まえて、今後の研究を一層発展させてゆきたいと考えている。
76 日本型ガバナンスの日本型とは、伊丹(2000)で述べられている「日本型の意味」を参考にしている。
例えば、従業員が大切だと言いながら、経営者自身が保身をしすぎているケースや、景気が悪い時に、経 営の改革に着手せず、すぐに従業員の削減をするようなケース、斬新ではないが日本の社会でのみ受け入 れられるような経営方針などを想定している。
77 例えば、スチュワードシップ理論では、経営者は組織を良くするために一生懸命に働くスチュワード であると仮定している。そのため、取締役会も経営者の考えや主張を真摯に受け止め、権限を委譲するよ うな企業統治が望ましいとしている。
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