• 検索結果がありません。

 その他の事例 戦後の長期研修に関する争点が訴訟の場に持ち込 まれたのは、先の研修行政区分である展開期の後半(昭和40年代前 半)から多元的高度化期の前半(昭和40年代後半から昭和50年代前半)

にかけてである。また、教育公務員特例法の成立からその争点が訴 訟になるまでの間に地方教育行政組織法の成立(昭和31年)という歴 史的経緯がある。それは、文部省対日教組の対立という図式になっ て現れ、後もその関係が続いているという事実がある。したがって、

教員の研修行政、研修そのもののあり方等についても、その根底に は、文部省対日教組の図式があるといえる。

 特に長期研修に関しては、勤務場所を離れた研修が主であり、か っ特定の教員に関する場合が多く、とりわけ教員の身分上の保障が 重要な要件になる。しかしながら、そのことが逆に、教員の人事上 の手段とされる余地をもっことになる。そのことの是非はともかく、

形式的には長期研修という名目で、実質は配転という効果を期待し た研修命令がなかったとはいえない(事例として後述)。

 そこで本節は、戦後の長期研修に関する事例を考察することによ り、その争点を明らかにすると同時に、新教育大学等への派遣研修 制度で論議された派遣要項との関係についても考察する。

第4節 戦後の長期研修に関する争点 59

第1章 長期研修の歴史

1  教員研修に関する争点の分類

 教員の研修に関する争点としては、校外自主研修の承認に関する ものと研修命令の適否にかかわるものとの2つがあげられる。

 (1) 校外自主研修の承認に関するもの

 教員の校外自主研修に関しては、教育公務員特例法20条2項の規 定「教員は、授業に支障がない限り、本属長の承認を受けて、勤務 場所を離れて研修を行うことができる」についての 承認 が特に問 題となる。

 この類の事例としては、組合主催の教研集会に参加するため職務 専念義務の免除を申請したのに対して、校長(本属長)がこれを不承 認とした事件がある(北海道川上教諭事件〈賃金請求・不当利得返還 請求事件〉昭和44年)。

 本件では、教研集会参加にっき教育公務員特例法20条2項の承認 が許されるか否かという点が、訴訟の中心的争点になっている。

すなわち、その法的問題の第1は、組合主催の教研集会が組合活動 であって研修に該当しないのではないか、これに職務専念義務の免 除を与えることは組合活動への便宜供与を禁止した地方公務員法55 条の2の6項に違反するのではないか、という点である。第2は、

教育公務員特例法20条2項の承認を覇束されたものととらえるか否 か、という点である。

第4節 戦後の長期研修に関する争点 60

 判決は、第1の点については、教研集会参加行為が研修性と組合 活動性の二面性を有することを認め、研修性に着目して職務専念義 務が免除された場合は、その期間中について地方公務員法55条の2 の6項は、間面する余地がないとしている。

 また、第2の点については、本判決では、この点だけでなく、当 該研修が職務専念義務を免除するに相当なものであるかどうかなど、

研修の性格・内容に立ち入った実質的な判断が本属長(校長)に要請 されるものとして、かなり広範な裁量を本属長に認めている。そし て、結論として、本件不承認行為は本属長の裁量の範囲内の行為だ

としている。ただしこの点については、前節でみたように教育公務 員特例法の研修条項の立法趣旨、教育における教員の自主・自律的 な研修の重要性をふまえた解釈が必要であるといえよう。すなわち、

本属長(校長)の裁量の範囲・内容がその裁量権を逸脱しないことで ある。また、教員は、自らの恣意による研修と自主研修を混同して はならないのである。

 (2) 研修命令の適否にかかわるもの

 これには、いわゆる行政研修に出席命令(研修命令)できるかとい う問題と長期間にわたる研修命令(例えば、内地留学による研修等)

についての問題がある。判例としては、いずれも長期間にわたる研 修命令の事件であり、教育委員会主催の研修の受講に関する事件は 含まれていない。

第4節 戦後の長期研修に関する争点 61

 教員に対する研修命令については、「教師の教育の自由ないし自主 性の一環としての研修の自由との関係で、教師の研修には職務命令

は妥当しないのではないか、職務命令で研修を命令することは憲法 23条(学問の自由)、教育基本法10条(教育行政)に違反するのではな いかという根本的な問題がある」(注63)とする指摘がある。これに対 して「このような見解は法解釈論としては明らかにおかしい。現行 法制は、市町村教育委員会・都道府県教育委員会・文部省のそれぞ れにっき、研修・講習会主催権を明文上法認しているからである」(注

64jとして、地方公務員法39条2項(研修は、任命権者が行うものと する)、教育公務員特例法19条2項(任命権者の研修施策の実施)、地 方教育行政組織法23条8号(教育関係者の研修に関すること)、同法 律45条1項(県費負担教職員の研修は…市町村委員会も行うことが できる)、文部省設置法第5条1項21号(教育…・に関する重要な題 目について、会議、研究会、討論会その他の催しをすること)を列挙 し、いわゆる行政研修には法的根拠があるとした上で、「教育行政機 関がこれを適法に実施できることは明白である」(注64)とする指摘 がある。現行法解釈としてみた場合は、後者が妥当であると思われ

る。しかし、 研修 のもつ自主・自律的性格を無視するものでない ことはいうまでもない。

 次に研修命令に関する事例をみる。

第4節 戦後の長期研修に関する争点 62

第1章 長期研修の歴史

2  教員に対する研修命令が違法とされた事例

  (大学においての長期研修命令拒否事件)昭和42・43年   不利益処分取消請求併合事件・・本付録270頁に判決文掲載

 (1) 事実の概要

 原告は、島根県桜江町立江陵中学校教諭であるが、町教育委員会 は、昭和42年度、43年度の2度にわたって、原告に対し島根大学へ の内地留学を命じた。原告はこれら研修命令を違法とし、42年度の 研修命令については国家賠償法にもとつく損害賠償を、また43年度 の命令については取り消しを求めたものである。

 当時、県教委は特殊教育の振興を主要施策の一つとしており、そ の要員確保のため毎年現場教員を内地留学させ、特殊教育の研修に あたらせていたが、町教委は、この方針にそって、原告に養護教育 の研修に当たらせ、養護学校教諭免許状を取得させることを目的と していたと主張している。しかしこれらの研修命令には次のような 経緯があった。すなわち、原告は日教組及び県教組執行委員の経歴 を有する組合活動家で、かねてより、校長・教育長からけむたい存 在とみられていた。このため昭和42年度人事異動の際に、町教委は 原告の町外への配転を内申した。しかし他市町村でも受け入れ先が なかったため、町教委は、原告を現場から引き離すための 窮余の 策 として、前記の研修命令を発したわけである。

第4節 戦後の長期研修に関する争点 63

第1章長期研修の歴史

 しかも、このような内地留学については、本人の意向を確かめ、

本人の同意をもとに行なわれる建前であったが、原告に対しては事 前の意見聴取もなく、研修の目的・理由について納得のいく説明も 与えられなかった。原告の保有免許状は国語、英語の2教科であり、

かって養護学校教諭の免許状を希望したことも、教育委員会側から 取得を勧告されたこともなかった。

 原告の指摘する研修命令の蝦疵は、(イ)本件のような内地留学は 配転の実質を有し、県教委の任命権の行使によるべきで、町教委の 職務命令の形式では行いえない。(ロ)研修の自由の侵害、(ハ)教育 基本法6条違反等であった。

 (2) 綱島

 損害賠償請求の一部認容、第二次研修の取消。

 (a)「本件研修命令後も原告は依然として江陵中学校教諭の身分を 有し、その地位及び俸給についても何等の変更がない」から配転の意 味をもつものではない。 「地方教育行政組織法45条1項は市町村教 育委員会が県費負担教職員の研修を行うことができる旨規定してお り、上記研修命令の内容については何等制限していないから・・同条 に基づき県費負担教職員を現職のまま相当期間学校で研修させるい わゆる内地留学をもさせることができる」、したがって町教委の職務 命令の形式によったことは違法ではない。

第4節 戦後の長期研修に関する争点 64