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長期的将来 Long term Future

ドキュメント内 日本通訳産業研究 (ページ 173-180)

• 2012-2015

S高 S超高 D超高

D高

D中

S 中

D低 S低

多様なワークスタイルと、多様な需要発生元の結果、

需給バランスもより分散すると考えられる。

(著者作成)

10.9.4  産業構造の方向性

通訳産業の構造の今後について考察する。通訳産業が今後単体として存続していくのか、

他産業と連携していくのか、上流と下流方向での垂直統合の統合可能相手先を挙げ、その可 能性と妥当性を検証する。

10.9.4.1  上流統合 

上流方向だと、通訳者⇒エージェンシー⇒PCO⇒旅行会社⇒自治体、という統合が考え られる。通訳者がエージェンシーに属し、エージェンシーがPCOに属し、PCOが旅行代理 店に属し、旅行代理店業務が自治体に吸収されるという流れである。

現在、通訳者はそれぞれがばらばらで、フリーランスの個人事業主として仕事をしてい る。一部のエージェンシーでは専属制度を設け、通訳者を一年契約で、自社の仕事のみをす るという契約で囲っている状況も見られるが、その場合でも通訳者は個人事業主であり、エ ージェンシーの社員ではない。基本的には、個人個人が複数のエージェンシーと自由に契約 を結んでいる。一社のみとの契約にするかどうかも個人の自由である。

しかし、エージェンシー間の競争は激しい。通訳者が基本的に自由に複数のエージェン シーの仕事をすることが出来る状態であると、品質面での差別化が出来ない。品質面での差 別化が出来ないと、価格競争に追い込まれる。通訳サービスの品質を一番大きく左右するの

は通訳者の質である。したがって、通訳者の質で差別化をしていくためには、より縛りのき つい専属契約や準専属契約を結び、サービス供給要因である通訳者を囲い込み、あの通訳者 を手配するためにはこのエージェンシーを通すしかない、という独占契約のような仕組みを 作る必要がある。この独占契約の仕組みは芸能人とそのプロダクションの関係と似ている。

この専属契約化の動きは現在一部の中小の新興エージェンシーで見られる。

しかし、この仕組みでエージェンシーがメリットを得るのは明らかであるが、通訳者に とってのメリットは少ない。力のある通訳者であればあるほど、自由に複数のエージェンシ ーとやり取りをし、最も好条件のエージェンシーで仕事をするのが有利だからである。市場 原理にさらされるのが一番効率よいのである。個人が自分の利益を最大化する方向に行動す るという資本主義経済の原則から考えると、ある一定以上の力を持つ通訳者は、独占契約の 仕組みでは囲い込めないことが分かる。よって、通訳者がエージェンシーに完全に取り込ま れるという統合は、通訳者側にメリットが少ないため、起こりにくいといえる。

また、エージェンシーから見れば優秀な通訳者を自社に取り込むことは「商品」(通訳者)

において差別化できるという点ではメリットがあるが、例え優秀な通訳者を数名取り込むこ とが仮にできたとしても、需要には季節変動があるため、ピークシーズンにはその人数が足 りず、閑散期には人材が余ってしまい、それでも社員として固定給を払わなくてはいけない という損や非効率が発生する。すなわち通訳者をエージェンシーに統合するという構図は、

両者にとって望ましくないといえる。よって近い将来において、通訳者⇒エージェンシーの 統合が起きるとは考えにくい。

次に、エージェンシーがPCOに統合されていくか、またPCOが旅行代理店に統合されて いくかを検討する。現在は、通訳者手配に特化しているエージェンシーと、通訳者手配も含 めた国際会議開催業務全般を請け負うPCOとが通訳者手配を行っている。日本では国際会議 を成功させる鍵が、良質の通訳サービスであるとされてきたため、PCOであっても、質の高 い通訳サービス提供に一番神経を使ってきた。一方、エージェンシー内にも、国際会議の請 負を手がける部門がある場合もあり、両者の業務内容は比較的近いといえる。

エージェンシーがPCOなどのコンベンション事業者に統合されることのメリットは、業 務の一貫性が生まれることである。通訳者手配と、国際会議開催に関わるその他の業務(周 辺的な業務も含む)が同じ組織や母体で行われていれば、情報が一元化され、クライアント との折衝窓口もひとつとなり、より簡便で円滑な受注と業務遂行が可能になると考えられる。

また、更にPCOが旅行代理店に統合されれば、国際会議参加者の航空券や宿泊手配も含めた、

日本滞在のトータルな体験が、全て一箇所の窓口を通じて申し込めることになる。そのよう な一元性を売りにすることも可能であろう。

既に、旅行代理店や広告代理店の中には、小規模PCOを傘下に収めているところもあり、

子会社として専門会社を設立している例もある。JTB(株式会社ジェーティービー)には株 式会社アイシーエス企画という子会社があり、会議・イベント・コンベンションの企画運営 専門会社として、運営業務の効率化をサポートしている。同社は、国際観光振興会、(社)

日本イベント産業振興協会、全国コンベンション運営事業者協議会、(社)日本観光通訳協 会、(社)日本旅行業協会、日本展示会協会、国際展示協会、各地コンベンションビューロ ーなど、多数の団体に加盟している。親会社が広範囲に受注機会を見出すべく、イベントや コンベンションを企画運営する会社を別個設けていることは合理的といえるかもしれない。

一方、統合のデメリットは、事業範囲が散漫になることである。大型のコンベンション やコングレス(国際会議)になると、極めて大勢の人数と多数の機関が絡む話となり、繊細 で細かい打合せや資料を要する数名の通訳者手配という業務とは全く別の、ロジスティクス の面で大掛かりな取り組みが必要となる。すなわち、数名のトップランク通訳者を手配し、

細かな資料提供し、講演者との橋渡しをするという業務と、他方、数百人、数千人規模の飛 行機や国内移動手段や宿泊のアレンジという大型ロジスティクスを担う部分とは、内容的に 別業務である。両方を行うのは、労力の分散であるとも言える。すると、通訳者手配に特化 するエージェンシーか、通訳者手配は下請けに外注するPCO(会議請負業務)のどちらかに 徹する方が効率的であるという考え方もできる。前述のアイシーエス企画の設立は1978年で あり、同社のようにグループで全体を請け負う業務形態は時代遅れと見る向きもある。日本 の高度成長期も終わり、バブル経済も終わり、よりスリムな経営が余儀なくされている現在 は、色々なものに手を出すより、確実に自社が競争優位を持っていて、自社の利益に貢献す る業務に徹する方が得策と見られている向きが多い。

ただし敢えてそれを行って、他者では提供できない「シームレスさ」を売り物とし、競 争優位とすることも考えられる。事業体による多角化とスリム化が循環的に行われていくも のとすると、現在のスリム化の先には再び多角化の時代が来ることも予想される。トータル 的に包含して請け負うことができて、かつ専門性も高いレベルで保てるという水準の高さで なければ、全体を行うのはリスクが高いが、それを成し遂げられるのであれば、クライアン トにとっては有用なサービス提供であろう。アイシーエス企画の場合は、JTBという最大手 の旅行代理店が親会社であったからこそ経営が安定し、利益性が成り立ってきたとも考えら れる。普通の規模の会社が全てをやろうとすると、かなりのリスクがあるだろう。今後この ような統合が起きるとすると、かなり大規模の合併や買収により、それぞれの業界内の一位 か二位が縦並びでくっつくのが最も堅実な統合と見られる。

最後にPCO業務が地方自治体の活動のひとつに組み込まれるという可能性を考える。

現在でも地方自治体の中には、それぞれコンベンションビューローを有している場合も ある。業務は地元の民間企業等との共同で営まれている。例えば京都コンベンションビュー ローは京都商工会議所の建物内にオフィスを有し、設立は1990年、構成団体は京都府、京都 市、京都商工会議所、(社)京都府観光連盟、(社)京都市観光協会、(財)国立京都国際会館 となっている。会員数は2003年現在、160社であり、会議施設、宿泊施設、旅行会社、会議運 営専門会社、通訳・翻訳・人材派遣会社、イベント企画会社、印刷・出版会社、音響映像・ディス プレイ会社、料理・飲食・土産物店、交通・運輸関連会社等が会員となっている。設立目的 は、

コンベンション(国際及び国内の各種会議、展示会等をいう。)の開催にふさわしい京都の

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