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通訳産業の現在  −  就業形態と業務分野別内訳

ドキュメント内 日本通訳産業研究 (ページ 35-47)

通訳産業を全体的に統括し、掌握している政府機関や業界団体がないため、産業全体の 売上規模等は統計データとして存在していない。数値データが分散しているか、そもそも 把握・計上されていないため、本論文執筆にあたり、独自にデータ集計と規模推計を試み た。

通訳産業をその業務分野と形態に応じ分野ごとに分類した。本論文が主たる対象とする のは会議通訳である。会議通訳が、売上規模でも技能レベルでも通訳産業の頂点と考えら れるからである。しかし、会議通訳以下裾野が広がっている部分についても、通訳産業全 体の規模をまず概観するため、業務形態ごとに職務内容の説明を記し、各業務形態の通訳 サービスの年間需要を通訳者数とその報酬額を元に計算し、通訳産業全体の概算規模を推 計した。

3.1  会議通訳

会議通訳とは、多国間の対話である国際会議の場で行う通訳を指し、通訳業務の中では 最も高い通訳技術が要される。プロの通訳者という際に、通訳の歴史の長い国々では、通 常会議通訳者を指している。日本においても職業、産業として確立しやすいのも会議通訳 の業務である。本稿が主たる調査対象としているのはこの会議通訳産業である。

3.1.1  会議通訳  −国際会議の場合

「国際会議」とは広辞苑で「国際的利害事項を審議・決定するために、多数の国家の代 表者によって開かれる公式の会議。近年は国家代表でない者が参加する会議も多い。」と説 明されている。国際会議の種類、形態、規模、また国際会議が取り扱う主題は、近年多種 多様になっているが、変わらないのは、国際会議には複数の国の代表者が参加するという 点である。複数国の代表者が参加する以上、発言言語も複数存在する。複数言語が存在す る中、正確な意思疎通こそが、有益な議論がなされるための前提条件である。それは、国 際会議で議論される主題内容が何であれ、国際会議が成功したと言えるためには、議論が 十分なされたという実感と評価が必要だからである。したがって、複数言語で会議が運営 される場合は各国代表の発表や発言内容が、十分に参加者に伝達され、それに対する他国 の代表者のレスポンスも十分に発言者に伝わるメカニズムがなくてはならない。ここに会 議通訳の必要性がある。発言が正確に訳され、その発言についてのレスポンスも正確に通 訳されて、初めて適切な議論ができるからである。発言と議論がかみ合い、有益な議論が なされ、会議が成功するためには、正確な通訳が必須である。

このような国際会議の場面で通訳を任される通訳者、ならびに任されうる能力を有する と評価される通訳者が「会議通訳者」と定義される。通訳技術の最も高いレベルが必要と されるのがこの会議通訳者である。会議通訳者はその高い技術レベルの希少性により、需 要が供給を上回っている現状である。したがって会議通訳者の多くは、一社に属し拘束さ れることを嫌い、フリーマーケットでその技術を売る。一日や半日単位で依頼を受け、基

本的に半日か一日毎の請負契約を結ぶ。会議通訳者は直接クライアントから依頼を受ける こともあるが、多くの場合、仲介エージェンシーに登録し、エージェンシーを通じて仕事 をしている。

3.1.2  国際会議における会議通訳市場の年間売上規模

会議通訳者の報酬は、市場価格でトップクラスであるAクラス料金で一日あたり約9〜

12万円である。クライアントと直接請負契約を結べば、そのまま売上金として通訳者がこ の報酬金を満額受け取ることが出来るが、エージェンシーから紹介された仕事の場合は、

仲介エージェンシーが報酬の20〜50%程徴収するため、通訳者の手元に入るのは平均して 約7万と想定する。

2001年の国際会議開催件数は、日本コングレス・コンベンションビューロー1発行のコ

ンベンション統計によると2,689件であった。これは前年比8.6%増である。同資料によると 一会議につき、平均開催期間は1.13日である。現状の就業慣習では、会議開催日一日につき、

会議通訳者は3人配置される。会議の同時通訳においては会議通訳者一人が15分程度を訳出 し、隣の会議通訳者が補助的なメモ取りを行う。三人目の会議通訳者が休憩しながら待機 をする。このローテーションを一日中(会議時間中)回していく。

上記の点だけで計算すると、2001年に必要となった会議通訳者数は、2,689件*1.13日

*3人により=9115.71人となる。さらに国際会議で利用される通訳サービスの年間売上は、

通訳者数に一日料金の10万円をかけることにより計算され、9億1157万円となる。

だが、二つの要素を考慮し上記数値を補正する必要がある。

一つ目の要素が会議二日目の通訳需要である。会議二日目は分科会となる場合が極めて 多い。分科会の場合、会場が分かれるため、一分科会につき、通訳者が2-3人手配される。

五つ分科会が開催されれば、二日目には10人から15人新たに通訳需要が発生する。国際会 議全体のうち、二日目以降も開催された件数は2000年には約350件(日本コングレス・コン ベンション・ビューロー、2001:11)であった。国際会議二日目には分科会が五つもたれた と想定し、通訳者が一分科会につき3人手配されたと想定すると二日目には5,250人(350

件*15人)       

の通訳者需要が発生したことになる。すると一日目の必要数である延べ9,115.71人に加え、

5,250人を足し合わせると、延べ14,365.71人の国際会議に伴う年間通訳者需要となる。

二つ目の要素が、上記の国際会議件数に計上されていない国際会議が相当数存在するこ とである。この統計は国際観光振興会(JNTO=Japan National Tourist Organization)が、

1 日本コングレス・コンベンション・ビューローは1995年6月に、日本のコンベンション を一層促進させることを目的に、運輸省(当時)、国際観光振興会(JNTO)、コンベンショ ン推進期間(都市、コンベンションビューロー)、会議施設、宿泊施設、旅行会社、運輸機 関、コンベンション関連事業者(企画、運営、サービス)らにより設立された任意団体で ある。会員相互の連携と国内・国際コンベンション誘致促進、日本のコンベンション振興 を図っている。「コンベンション統計」は国際観光振興会(有楽町交通会館の10階)で入

各種コンベンションの主催者、コンベンション推進期間、会議場、ホテル、PCO(Professional

Conference Organizers=国際会議運営会社)、大学、新聞社などからの協力を得て情報を

収集し集計したものである。本統計にて取り扱われている数値は日本コングレス・コンベ ンションビューローが関わりを持った国際会議や実態把握できた国際会議のみを含有して いるため、そのまま全体像として受け取るには不向きである。限定的なデータであること を踏まえ、いくつかの要素を勘案し、数値を補正する必要がある。

そもそも、JNTO のコンベンション統計は通訳産業の規模を把握するためのものではな い。国際会議の動向を理解するためのものである。よって会議通訳市場の把握のために用 いるに際しては漏れが多いと想定される。通訳界の第一人者であり、サイマル・インターナ ショナルの前社長である小松達也氏によると、JNTO「コンベンション統計」に計上されて いる会議通訳案件は、体感としては実態の半分弱くらいではないかとのことである。特に 民間が主体となって開催する国際会議は、実態把握が困難であり、統計からは落ちやすい と考えられる。

例えば、都内大手ホテルで開催されているビジネス系国際会議の案件は落ちやすいため、

考慮の上修正する必要がある。大手ホテルでは宿泊、宴会、食販サービスと組み合わせ、

会議開催能力を主力の柱として売り物としている場合が多い。宿泊だけを売るより国際会 議開催というパッケージを売る方が付加価値をつけやすく、ビジネスとしての発展性や拡 張性があるためである。会議施設を利用する会議参加者に宿泊してもらい、レストランを 利用してもらうことにより、ホテルとしての主軸サービスの活用価値がいっそう高まる。

ホテル業界にとってビジネスとして主力の業務分野であればあるほど、ホテル間での競 争が激しくなり、各ホテルが受注した国際会議案件は企業秘密として扱われることとなる。

国際会議取り扱いの実績数は一般に公表されることがないが、相当な数に上ることは確か である。筆者が複数の会議通訳者をインタビューした結果もこのことを支持する。筆者を 含め、月10日以上稼動している会議通訳者複数に対し聞き取り調査を行った結果、一ヶ月 稼動する中で、全業務中、都内有力ホテルが会場となる国際会議数が平均して約4割を占 めることが分かった。よって、ホテル開催国際会議分を補足するため、上記統計にホテル

分として40%水増しして国際会議開催件数を計算した。

また、ホテル会場だけではなく、企業所有のホールや業界団体の保有スペースで開催さ れる国際会議も近年増えている。これらの国際会議案件もJNTO では漏れがちである。こ

こでも 20%の上方修正を加えると、あわせて 60%のアップとなり、22,985 人(14365.71

人*1.6)となる。

以上を踏まえ、会議通訳者一人に対し役務料金が10万円と想定し、国際会議に伴う年間 通訳役務費用を計算すると、2000 年の実績では推定約23 億円(23,000 人*約 10万)と なる。2

2国際会議における通訳関連費用としては、通訳者に対する支払いだけではなく、通訳機材 レンタルの料金とその調整を行うエンジニアへの支払い料金も発生する。機材レンタル費

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