熱プラズマによる金属ナノ粒子の合成は,主に直流アーク,プラズマジェット,高周波熱 プラズマに大別される.いずれの方法も,熱プラズマ中に金属粉体を供給し蒸発過程を経て 高温の金属蒸気を急冷することにより,金属ナノ粒子の合成が可能となる.核生成温度はナ ノ粒子の合成条件によって異なるが,多くの遷移金属の核生成温度はほぼ融点と一致する.
また,核生成温度が融点よりも高い元素であるSiやBは,プラズマ中で過飽和の状態にな るため,均一核生成後の凝縮相の生成後も融点近傍まで液相の状態であると考えられてい る.1990年代後半から,Al,Au,Ni,Cu,Ag,W,Feなど多くの種類の金属ナノ粒子が熱 プラズマ技術によって合成された.燃焼プロセスとは異なり,熱プラズマは無酸素環境で容 易に発生することができるため,粉末原料から金属ナノ粒子の合成は比較的簡単である[91-94].近年では,多層セラミックコンデンサおよびマイクロ電子デバイスの電極材料として Ni ナノ粉末,金属ナノ粉末の需要が増大している.高性能のコンデンサーには狭い粒度分 布が好ましいが,ボールミル粉砕,ゾルゲルおよびスプレー熱分解法などの従来のナノ粒子 合成は,工業的ニーズを満たす粒子製造に限界がある.この課題を克服するために,金属ナ ノ粒子の大量生産のための高出力の熱プラズマプロセスが必要であり研究されている.下 記に様々な金属ナノ粒子の合成方法を報告する.
(a) 直流アーク
直流アークを用いるナノ粒子製造方法には,活性プラズマ-溶融金属反応法がある.活性 プラズマ-溶融金属反応法は,陽極上にナノ粒子の原料となる金属塊を置き,プラズマアー ク中で原子状に解離した活性種により溶融金属からナノ粒子を合成する方法である.活性 プラズマ-溶融金属反応法は,ナノ粒子の生成量が多く,効率的なナノ粒子の合成方法であ る.プラズマ中で解離した水素原子が溶融金属に溶解し,溶融金属中で水素が再結合すると きの発熱によって溶融金属が局所的に加熱されることが,ナノ粒子の生成の促進に役立っ ていると考えられている.活性プラズマ-溶融金属反応法は,水素プラズマ-金属反応法と も呼ばれる.
22
報告例として,Ohno らは,Ag,Al,Co,Cr,Cu,Fe,Mn,Mo,Ni,Pd,Sc,Si,Ta,
Ti,VおよびWナノ粒子の合成に成功したことを報告している[95-97].プラズマ出力は5.72
~6.5 kW に設定し大気圧下で実験を行っている.合成した金属ナノ粒子は,低融点の金属 ほど粒子径が大きくなる傾向を示していた.低融点金属のAl, Agでは,粒子径200~500nm のナノ粒子が得られていた.
Shaoらは,2.5~7.5 kWのDCアークプラズマにより,平均粒子径300 nm のMgナノ粒 子を合成した[98].合成したMgナノ粒子は水素貯蔵材料として優れており,短時間で還元 反応が進行することが分かった.
Wangらは,Moプレート上にBi粉末を置き,ナノ粒子合成を行った[99].粒子径 100~
400 nmの球状Biナノ粒子が生成した.
Tanakaらは, Ar-H2アーク後のSn-Ag溶融混合物から,Sn気化の選択性を確認した[100].
分光測定によりアノード境界領域での気化メカニズムを調べた結果,溶融 Sn-Ag 混合物か らSnが主にSnHとして気化し,SnHが気化した直後にHおよびSn蒸気に分解したことを 確認した. Ar-H2アークは主として金属水素化物の形成し,気化時に選択性を持つことを突 き止めた.
Suらは,DCアークプラズマにより,ハイブリッドNa空気電池用の触媒としてNiナノ 粒子を合成した[101].合成ではアルゴンと水素を混合しプラズマガスとして使用した.ア ノード材料の蒸発は,異なる水素濃度0,30および50体積%に固定し,高速度カメラを用 いて観察を行った.カソードおよびアノードジェットの画像を適切なバンドパスフィルタ ーで観察した.水素濃度がニッケルナノ粒子に及ぼす影響を調べたところ,50 vol%のH2濃 度では高い生産性,微細な結晶性,および63nmの適切なサイズ分布を示すことが分かった.
合成したニッケルナノ粒子は,ハイブリッドNa空気電池の触媒として使用し,市販の銀ナ ノ粒子触媒およびカーボンブラックと比較して,良好な電極触媒性能を有することが分か った.ニッケルナノ粒子の電極触媒活性は,結晶性,活性化部位,およびNi / NiO複合構造 によるものであった.
(b) プラズマジェット
プラズマジェットを用いるナノ粒子製造方法は,プラズマ中に粉体等の原料を供給する 方法である.プラズマ中で金属を加熱蒸発させ,その蒸気を気相中で単に冷却凝縮する方法,
およびプラズマで得られる高温蒸気の冷却過程において化学反応を起こさせる方法がある.
報告例として,Leeらは,ミクロンサイズのAg粒子を原料として,Agナノ粒子を合成し た[102].陰極にW,陽極にCuを用い,プラズマを発生させ,プラズマジェットに原料を供 給した.キャリアガス流量と原料供給量を変化させ,生成物への影響を調べた.キャリアガ ス流量を小さくすると平均粒径も小さくなり,原料供給量を小さくすると平均粒径が小さ くなった.また,Arプラズマ下では原料粉末は完全に蒸発しなかったが,H2ガスを導入す ることによりAg粉末の蒸発が促進されて,完全に蒸発した.これはH2の高い熱伝導率お
23 よび反応性によると考えられる.
Ryuらは,パラタングステン酸アンモニウムを原料とし,プラズマのジェット部に供給す ることでWナノ粒子を合成した[103].プラズマ出力を10~20 kW,H2ガス流量,プラズマ 出力,プラズマガス流量による影響について評価した.Wナノ粒子の粒径は25 nm未満で あり,プラズマ出力,プラズマガス流量の変化には影響されなかったが,H2 ガス流量を大 きくすると粒径が小さくなることを報告している.
(c) 高周波熱プラズマ
Baiら(Bai et al., 2009)は,NiCO3とNi(OH)2の原料を用いて,還元雰囲気下にて60~100 nmのNiナノ粒子を合成した[104].原料供給量は2~10 g/min,プラズマ出力は30 kWであ る.生成したはNiナノ粒子は酸素含有量1 mol%の高純度Niナノ粒子であった.Zhangら
(Zhang, 2012)は,パラタングステン酸アンモニウムを用いて,Wナノ粒子を合成した[105].
クエンチガス導入無しの場合は平均粒径141 nm,導入した場合は平均粒径112 nmと小粒径 になった.さらに,原料供給量を変えることでナノ粒子の結晶相を制御可能とした.原料供
給量が26 g/min以上の条件では,α-Wが主生成物として生成し,β-Wと酸化タングステン
が副生成物として生成した.19 g/min以下の条件では,α-Wとβ-Wが生成した. Hanら(Han
et al., 2015)は,Ar-N2-H2高周波熱プラズマによりWナノ粒子を合成した[106].プラズマ出
力は28 kWであった.原料として高融点材料のW粉末を用いた場合,W粉末はプラズマ中
で完全には蒸発せず,数µm程度のWO3粒子が生成した.W粉末より低融点であるWO3粉 末を原料とした場合は,完全に蒸発しWナノ粒子が生成することを報告した.
Kimら(Kim et al.,2016)は,積層セラミックコンデンサの内部電極材料として,高周波熱プ ラズマを用いて合成した[107].合成は粒子径および形状の制御を重要視した.アルゴン-水 素熱プラズマ中へNi(OH)2微粉末原料を供給した.粒子径および形状の制御は,原料供給速 度と急冷ガスによりNi の凝縮挙動を調整した.合成した Ni ナノ粒子は,内部に帯状のサ ブ構造を持つ球状のナノ粒子として得られた.
1.4.2 合金および金属間化合物ナノ粒子
2種類以上の金属および金属酸化物粉体を熱プラズマに供給し,蒸発・金属蒸気を急冷す ることにより,合金ナノ粒子や金属間化合物ナノ粒子を合成する.生成物の組成は,原料の 金属成分の核生成温度に依存する.核生成温度はナノ粒子の合成条件によって変化するが,
多くの遷移金属の核生成温度はほぼ融点と一致する.ケイ素やホウ素は核生成温度が融点 よりも高いので,プラズマ中で過飽和の状態になった成分が均一核生成によって凝縮相を 生成したあとも,しばらくは液相の状態であると考えられる.例えば,核生成温度が大きく 異なるモリブデンとケイ素の組み合わせは,核生成温度が近いチタンとケイ素よりもシリ サイドの合成は困難であることが判断できる.さらに,合金ナノ粒子は単体金属では達成で
24
きない性能を発現させる目的で合成されている.最近では,磁気記録媒体,モーター,超伝 導など磁性材料に求められる要求性能が高くなっている.電子材料,ディスプレイ材料の小 型化,微細加工では,要求性の向上および触媒材料などの環境性能向上による材料自体の微 細化技術が必要不可欠になっている.また,バイオ材料ではDDS製剤など製薬方面でも高 い要求性能が求められている.そのため,量子スピン系ナノ分子材料,スピンエレクトロニ クス材料,ホイスラー合金などスピン機能の創生やバイメタル,遷移金属合金,シリサイド ナノ粒子などの創生が行われている.
(a) 強磁性合金ナノ粒子の合成
磁性材料では,Fe系,Co系,Ni系,Gd系などが知られているが,合金磁性材料では,
Al-Ni-Co,Sm-Co,Nd-Fe-B,FeO-Ba-Srなどが挙げられる.磁性ナノ粒子の合成は,直流ア
ークと同様に高周波熱プラズマでも数多くの研究が行われており,Fe-Co,Fe-Ni,Mn-Znな どの研究例が報告されている.
Ohnoらは,Ar-H2プラズマを用いてFe-Ni,Fe-Cu,Fe-Siナノ粒子を合成した[96].Fe-Ni,
Fe-Siナノ粒子の組成は約2000K~2500Kの温度範囲に相当する平衡蒸気組成とおおよそ一
致しており,溶融金属の活量とナノ粒子組成の間に相関があることを示した.また,Liuら も同様の手法により,平均粒径22~44 nmのFe-Tiナノ粒子を合成した[108, 109].Leeらは,
Mn-Al合金ナノ粒子をAr-H2アークによって合成した.Mnの蒸気圧が Alに比べて高いた
め,ナノ粒子のMn含有量は原料組成比と比べて高くなることを報告した[110].また,少量 の炭素を添加することによりε相ナノ粒子が生成した.400~600 ℃において 30 分間真空 中で熱処理することで,強磁性のτ相に相変化し,446 kA/m の非常に高い保持力を有する ことが分かった.Gengらは,プラズマアーク放電法によりFe,Co,NiおよびAl粉末の組 成を変化させ,磁性 FeCoNiAl ナノカプセルを合成し,ナノカプセルの構造,粒径,組成,
表面組成,磁気特性および熱安定性を調べた[111].Fe62.5Co21Ni13Al2.5組成のナノカプセルは 保磁力が得られ,ナノカプセルのFe2p3/2とFe2p1/2の結合エネルギーはそれぞれ708.2と
721.3eVであった.ナノカプセル4つの層すなわち外殻,内殻,外核および内核の主な含有
量は非晶質アルミナ,結晶質アルミナ,遷移金属酸化物および遷移金属合金であった.ナノ カプセルの構造,粒径,粒径はすべて磁気特性に影響を与え,FeCoNiAlナノカプセルは体 心立方相の量が多いほど強磁性が強くなるこが分かった.Gencらは,AlNiCo永久磁石粉末 をボールミル粉砕によって合成し,コア/シェルナノ構造が高周波熱プラズマを用いて得ら れることを報告した[112].AlNiCo粉末の保磁力は小粒子サイズ化と共に増加することが分 かった.さらに,Fe3O4シェルでカプセル化すると金属ナノ粒子の酸化に対する耐性層が形 成されるため,最も高い保磁力値を示すことも分かった.多くの研究では,原料として金属 の混合粉体が用いられており,原料の混合粉体の組成を自由に変えられることが高周波熱 プラズマ合成方法の優位性である.