1950 年代初期の半導体産業では,ゲルマニウムが半導体の基盤材料の一つとして利用さ れていた.しかしながら,シリコン(1420℃)がゲルマニウム(940℃)より高融点であり,熱伝 導率が高いことから高温安定性に注目が集まった,そのため,結晶性シリコンは1950年代 後半から半導体産業の基盤材料として広く使用されるようになった.また,常温付近での
1.12 eVのバンドギャップ,表面酸化による表面保護および電気的絶縁性など,エレクトロ
ニクスデバイスの分野において,最も広く用いられてきた.近年では,携帯電話,デジタル カメラ,デジタルオーディオといったデジタルデバイスの小型化・高性能化および量子効果 からシリコンナノ粒子の需要は益々高まりを見せた.さらに,結晶性シリコンナノ粒子はデ ィスプレイ,照明分野や医療分野への応用が期待されている[289].シリコンは間接遷移型 半導体であるためバルクでは極めて発光しにくいが,ナノ粒子化することでバンドギャッ プがバルク時に比べ広がり,室温において赤に発光することが発見されている[290, 291].
その後,ナノ粒子のサイズを変化させることでバンドギャップの大きさの制御が可能とな り,それを利用した赤や青色に発光する結晶性シリコンナノ粒子の合成が研究された[292].
(a) 液相法による結晶性シリコンナノ粒子
液相法による結晶性シリコンナノ粒子の合成は液相還元法が最も一般的である.液相還
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元法による結晶性シリコンナノ粒子の合成はHeathが最初に成功した.
Heath らは,100気圧,385℃という条件にてSiCl4を原料とし,ナトリウムナフタレニド
を還元剤として使用することで,粒径が3-8 nmの範囲で結晶性シリコンナノ粒子の液相合 成に成功した[293].さらに,液相還元法において様々な還元剤を使用した結晶性シリコン ナノ粒子の合成が報告されている.Baldwinらは同様にナトリウムナフタレニドを還元剤と して使用し,Kornowskiらはリチウムナフタレニドを還元剤として使用してシリコンナノ粒 子の合成を行った[294, 295].近年ではリチウムアルミニウムヒドリドを還元剤として使用 したシリコンナノ粒子の合成が報告されている[296, 297].
(b) 気相法による結晶性シリコンナノ粒子
気相法による結晶性シリコンナノ粒子の合成法の代表例としてCVD法がある.レーザー を熱源としたCVD法およびプラズマを熱源としたCVD法による結晶性シリコンナノ粒子 の合成が一般に行われている.CVD 法以外の合成の代表例としてパルスレーザーアブレー ション(PLA)がある.
・レーザーCVD法によるナノ粒子の合成
Hoらは原料であるSiH4, Si2H6ガスを用い,回転円盤上でのシリコンナノ粒子の合成に成 功した.実験結果である気相反応および表面反応との数値モデルの比較を行ったところ,シ リコンが生成する反応は,H3SiSiH → Si + SiH4,およびH3SiSiH + SiH2 → Si + Si2H6の二つ の反応であることが明らかとなった[298].また, Ehbrechtらは,CO2レーザーを使用した レーザーCVD法によりSiH4ガスを熱分解し,最大で10 nmの粒径を有する結晶性シリコン ナノ粒子の合成に成功した.シリコンクラスターの移動を観察したところ,パルス源から排 出されたシリコンクラスターの速度はクラスターのサイズが増加するに伴い,遅くなるこ とを確認した[299].しかしながら,レーザーCVD法で合成されたナノ粒子は,粒径が5–10 nmほどでサイズ閉じ込め効果による発光効率が低い結果となっていた.その後の研究では,
高い発光効率のシリコンナノ粒子を得るため,ナノ粒子の合成後に,HF / HNO3のエッチン グおよび粒径や表面の酸化状態を変化させる研究が盛んに行われた[300, 301].
・プラズマCVD法によるナノ粒子の合成
Knippingらは,SiH4ガスを用いたマイクロプラズマを使用し,粒径が6-11 nmの結晶性シ
リコンナノ粒子の合成に成功した.実験結果より,合成ナノ粒子の粒径は,原料ガスの濃度 と全ガス圧に比例し,マイクロ波電力に反比例することを明らかにした[302].Nozakiらは,
SiCl4ガスを原料としたマイクロプラズマCVD法により粒径3-15 nmのシリコンナノ粒子の 合成を行った.また,原料にCH4ガスを導入し,CH4の熱分解により生成したアルキル基に よりナノ粒子表面を修飾することに成功した.結果として青色発光(450 nm)シリコンナノ粒 子が安定的に合成可能となった[303, 304].近年では,Zhouらが,原料として用いられるSiCl4
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ガス中に B2H6や PH3ガスを混合させることによって,Bや Pがドープされた平均粒径 14 nmの結晶性シリコンナノ粒子の合成に成功している[305].
・パルスレーザーアブレーション(PLA)によるナノ粒子の合成
Yoshidaらは,これまで主に銅やモリブデンナノ粒子合成に使用されていたPLAを使用す
ることによって,シリコンウェハーから粒径3 nm以下のシリコンナノ粒子の合成に成功し ている.周囲の雰囲気ガス原子との衝突を介して放出されるシリコンの散逸運動エネルギ ーは,生成したシリコンナノ粒子の凝縮エネルギーに影響を与えることが分かった.また,
雰囲気ガスの圧力増加により合成ナノ粒子の粒径が増加することが確認された[306].雰囲 気ガス圧力以外の粒径に影響をおよぼす要因を解明するため,パルス周波数,パルス幅,パ ルスエネルギーについても検討が行われた.Wangらは,パルス周波数を1-40 Hzで変化さ せ,合成ナノ粒子に与える影響を検討した.その結果,パルス周波数が20 Hzの時に平均粒 径が最小になると報告している.また,この原因は周波数が20 Hz以上の場合は,残存して いるシリコン蒸気の影響により粒径が増加した[307].Kuzmin らは,パルス幅を35-900 fsで 変化させ合成ナノ粒子に与える影響を検討した.その結果,平均粒径と粒径分布の幅はパル ス幅に依存し,パルス幅が増大するほど平均粒径と粒径分布の幅が増加することを確認し た[308].Intartagliaらは,パルスエネルギーを0.15-0.4 mJの範囲で変化させ合成ナノ粒子に 与える影響を検討した.その結果,平均粒径はパルスエネルギーに比例し,5-65 nmに範囲 で変化し,粒径分布も1-8 nmから10-120 nmの幅に変化したことを確認した[309].近年で は,真空および減圧雰囲気だけではなく,真空を必要としない低コストおよび操作性を重視 した,液相でのレーザーアブレーションを用いた結晶性シリコンナノ粒子の合成に関する 研究が注目を集めている[310].
(c) 熱プラズマによる結晶性シリコンナノ粒子
熱プラズマによる結晶性シリコンナノ粒子の合成法の代表例として直流アークおよび高 周波熱プラズマがある.さらに,直流プラズマと高周波プラズマを重ね合わせたハイブリッ ドプラズマ,PMITP-TCFF法およびマイクロ波プラズマがある.
・直流アークを用いた結晶性シリコンナノ粒子の合成
Raoらは,直流アークを熱源とした熱プラズマCVD法により,SiCl4ガスから平均粒径が
8.5 nmの結晶性シリコンナノ粒子の合成に成功した.電圧を38-65 V,電流を150-250 A,
雰囲気ガスとしてArを30 slm,H2を7.5 slm導入した.原料となるSiCl4ガスをジェットの 横から,0.05-0.07 slmの範囲で導入した.電流とSiCl4ガス流量を変化させ,合成ナノ粒子 の粒径に与える影響について検討を行った.実験結果より,電流,または,SiCl4 ガス流量 の増加に伴い平均粒径が増加傾向を示すことが明らかになった[311, 312].Kim らは,直流 アークを使用することで,平均粒径20-30 μmの粉末シリコンから平均粒径20 nmの結晶性
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シリコンナノ粒子の合成,および,原料含有の不純物である B の除去に成功した.プラズ
マ出力を10 kW,電流を50 A,シースガスとしてArを10 L/min,パイロットガスとしてAr
を 2.5 L/min 導入した.原料である粉末シリコンはシースガスと同時に 2.1 g/min 導入し
た.シールドガス中にH2O を0.22 mL/min導入することで,H2Oが分解され,分解により 生成されたHとOを原料含有Bと反応させ除去した.その結果,原料中に48 ppm含まれ
るBの80 %を除去することに成功したと報告している[313].
・高周波熱プラズマを用いた結晶性シリコンナノ粒子の合成
Leparoux らは,高周波熱プラズマを用いることで,原料である平均粒径40 μmのシリコ
ン粉末から,最小で平均粒径 13 nm の結晶性シリコンナノ粒子の合成に成功した.シース ガスとしてArを80 slpm,H2を6 slpm,キャリアガスとしてArを3 slpm,インナーガスと
してArを12 slpm導入した.圧力を40 kPa,プラズマ出力を15.6 kWとし,原料供給速度
を1.2-2.6 g/minで導入した.原料供給速度を変化させたところ,平均粒径が25-40 nmに変
化したと報告している.また,プラズマ下流部にクエンチガスとしてN2ガスを56 slpm導 入するためのリング状の装置を設置した.リングには 8 つ穴が開いておりプラズマ下流方 向へとガスが流れる仕組みとなっている.リングの半径,リングとトーチ部までの距離を変 化させて合成ナノ粒子の粒径に与える影響について検討を行った.その結果,リング半径の 減少,リングとトーチ部までの距離の減少により平均粒径も減少し,最小で 13 nm の結晶 性シリコンナノ粒子の合成に成功したと報告している[314].Soらは,高周波熱プラズマを 用いることで,原料である SiH4ガスの熱分解を行い,太陽電池中の選択エミッタとして使 用できるシリコンナノ粒子の合成に成功した.反応器は横からクエンチガスを導入するこ とが可能な構造になっており,ここからArを導入し,クエンチガスとして利用した.シー スガス流量を60 L/min,SiH4ガスの流量を1 L/min,圧力を90 kPaに設定し,プラズマ出力
を8-12 kW,キャリアガス流量を15-45 L/min,クエンチガス流量を50-250 L/minの範囲で
変化させ,粒径に与える影響について検討を行った.実験結果より,プラズマ出力,キャリ ガス流量,クエンチガス流量,全ての操作変数を増加させるほど急冷効果は増し,平均粒径 は減少し,最小で平均粒径が 36 nm のシリコンナノ粒子の合成に成功したと報告している [315].
・ハイブリッドプラズマを用いた結晶性シリコンナノ粒子の合成
直流プラズマと高周波プラズマを重ね合わせたハイブリッドプラズマを用いたナノ粒子 合成ではプラズマの安定性を向上させることができる.Kambaraらは,ハイブリッドプラズ マを用いて,非結晶質Cで被覆された結晶質Siナノ粒子を合成した.原料として約19 μm
のSi粉末を6 g/minで供給し,生成物は20-40 nmの結晶質Si粒子が約5 nmの厚さを有す
る非晶質 C膜で被覆されていた.電池のサイクル特性結果より,C被覆は高容量,サイク ル特性を保つために効果的であることを示した.しかし副生成物である不導体 SiC の混入
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は電池容量を大きく減少させるため,CH4 導入位置の温度調節が必要であると結論づけた
[316].また,原料にSiO粉末を用いた結晶性Siコア-SiOxシェルナノ粒子合成例もある[317].
同グループは他にも,ハイブリッドプラズマを用いて,金属元素が添加されたSiナノ粒子 を合成した例も報告されている.Si 粒子の充放電特性に伴う粉砕による,電気容量の減少 がサイクル特性に大きな影響を与える,そのため電気伝導性付与の効果がある金属のドー プが期待されている.Tashiro らは Ar-H2雰囲気でTi をドープした SiOxナノ粒子を合成し た.原料として15 μmのSiO粉末および約38 μmのTi粉末を2.2 g/minで供給した.含有Ti 量が増加すると,電気化学的に不活性なチタンシリサイドの形成によって活性Si量が減少 し,容量が著しく減少することを報告した[318].また,Kambara グループのNarengerileら は,19 μmのSi粉末と10 μmのNi粉末をモル比Si:Ni = 95:5で混合した原料を1.0 g/minで 供給することでNiSi2ナノ粒子を合成し,その電池性能を試験した[319].出力9.0 kWの直 流プラズマと出力 90-100 kW の高周波プラズマを重ね合わせたハイブリッドプラズマが用 いられた.充放電試験より,生成物は20サイクル後に1849 mAh/gの高容量を示すことか ら,Ni をドープすることによって容量が向上したと考えられる.Kambara グループの
Fukadaらも,熱プラズマ中でのSiへのNi粉末の添加は、Si上へのNiの不均一核形成お
よびシリサイド化をもたらし、NiSi2エピタキシャル界面を有する Ni ナノ粒子を有する Si ナノコンポジットの形成をもたらすと結論づけた[320].Si-Ni ナノ粒子を使用する負極は、
脱リチウム化における抵抗の減少および結晶質Siの崩壊を抑制し,良好なサイクル特性を 示した.Ohtaらは、Si粉末を17 mg/min (1 kg/h)の供給速度で熱プラズマ中へ導入しSiナノ 粒子を合成・電池性能への影響を報告している[321].Si粉末供給速度を1から17 g/minに 増加すると平均粒径は 50 nm に増加した.電池のサイクル特性は,凝集構造の減少ため改 善した. 対照的に,NiをSi原料に添加した場合,SiNi2界面を有するSiナノ粒子構造のた め,1 g/minの供給速度ではサイクル特性が向上し,17 g/minの供給速度では共凝縮の増加 による過剰のNiシリサイド形成により,サイクル特性の減少を示した.
・PMITP-TCFF法を用いた結晶性シリコンナノ粒子の合成
Ishisakaらは出力20 kWのAr-H2 PMITPを用いたSiナノ粒子およびナノワイヤーの大量
合成に成功した[322].3.9 g/min以下で19.2 μmのSi粉末を供給し,反応器の底部からAr急
冷ガスを50 L/minで導入した.Siナノ粒子の合成速度は120 g/hであった.また,BET法に
より算出した平均粒径は99 nmであった.また,Tanakaら[315]の研究グループでは,高周 波熱プラズマの発生方法,制御方法に改良が加えられ,ナノ粒子の大量生成・粒子径制御や,
大面積表面処理などの応用研究が進められている.さらに,生成した熱プラズマの診断法に ついても研究が進められている[323].
・マイクロ波プラズマを用いた結晶性シリコンナノ粒子の合成
Shin らはマイクロ波プラズマを用いて,結晶性Siコア-非晶質SiOxシェルナノ粒子を合