第 2 章 高周波熱プラズマ実験装置とナノ粒子の分析方法
3.4 ナノ粒子合成の考察
高周波熱プラズマにおけるLi系複合酸化物ナノ粒子の生成機構を検討した.これまでの 合成実験の結果から,酸素分圧の影響によりLi-Mn複合酸化物の結晶構造がLiMnO2およ びLiMn2O4の2つの系に分かれることが明らかとなった.その違いはMn,MnO,Li,
Li2Oの核生成温度における熱力学的な安定性が要因であると示唆される.考察では,各系 における核生成温度および核生成種を明らかにし,その温度におけるLi-Mn複合酸化物の 熱力学的な安定性を定量的に評価する.それらの結果を踏まえ,高周波熱プラズマにおけ るLi系複合酸化物ナノ粒子の生成機構を検討する.
3.4.1 LiMnO2およびLiMn2O4におけるLiとOモル比の相安定性効果
LiMnO2およびLiMn2O4の相安定性については,生成エネルギーによりLi含有量に対す
る安定性の影響を検討した.Li含有量変化の生成エネルギーの範囲は,Li原子数0〜1.0 とした.Fig. 3-22は298 KにおけるLi単位当たりのLiMnO2およびLiMn2O4の生成エネル ギーの比較を示す.LiMnO2およびLiMn2O4の形成エネルギーはVASP(Vienna Ab initio Simulation Package)を用いて汎関数勾配近似(GGA)を密度汎関数理論に基づいて計算し た[7, 8].Li-Mn酸化物はLi濃度が大きい場合には安定相を形成し,主にLiMnO2の層状岩 塩構造を形成する.LiMnO2構造からLiイオンの半分が脱離したときスピネル構造を形成 する.この相変化は,相変態を促進する熱力学的駆動力がなければならないことを意味し ている.これまで,LixMnO2構造(Li:x = 1.0)の形成エネルギーは最も低く,最も安定 した構造であることが知られていた.生成エネルギー計算の結果から.スピネル構造が層
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状構造よりもより安定な構造であることを示した.しかしながら,熱プラズマを用いて合
成したLi-Mn酸化物は,高酸素条件であるLiに対して約61.5倍以上のO2供給量では生成
エネルギー計算と完全に一致したが,低酸素条件であるLiに対して約2.75倍以下のO2供 給量では一致しなかった.Li-Mn複合酸化物ナノ粒子の合成では,酸素分圧によって結晶 構造の安定性を変化させていることを示唆した.
3.4.2 核生成温度の推算
Li 系複合酸化物ナノ粒子の生成機構を検討するため,核生成温度の推算を行った.熱プ ラズマ中に供給された原料は,プラズマの高温領域で蒸発し,その後プラズマ下流部で急冷 される.この時,原料蒸気の飽和蒸気圧も急激に減少するため,過飽和度を駆動力として均 一核生成が生じる.過飽和度は次で定義される.
P
sS P
(3-3)Sは過飽和度,Pは蒸発種の分圧,Psは平衡蒸気圧である.金属の蒸気圧はTable 3-4に示 した定数および式から求めた.均一核生成速度式は様々な形で提案されているが,熱プラズ マプロセスにおける均一核生成速度式はGirshickらの提唱した次式がよく用いられる[9, 10].
3 22 s ij
ln 27 exp 4
2
12 S
Θ Θ Θ
S β n
J
(3-4)このときJは均一核生成速度,nsは平衡蒸気圧における数密度である.Θは分子の温度と物 性値のみで決定する無次化された表面張力で,次式で表される.
T Θ σs
k
1 (3-5)σは表面張力,s1はモノマー粒子の表面積,kはボルツマン定数である.また,Eq. (3-4) 中 のβijは粒子同士の衝突頻度を示す関数である.i個の分子で構成された粒子とj個の粒子 で構成された2つの粒子が衝突する頻度はEq. (3-6)で表される.
13 13
2p 16 1 ij
1 1 ρ
k 6 4
3 i j
j i T
β v
(3-6)v1はモノマー粒子の体積,ρpはモノマーの密度である.ここでは,分子同士の衝突を考え ているためi = j = 1である.
今回の核生成温度を求める条件を述べる.シースガス,インナーガス,キャリアガスとし てArをそれぞれ60,5,3 L/minで供給し,粉体供給量は0.4 g/minとした.また雰囲気圧力は 大気圧とし,原料蒸気を理想気体と仮定した.酸化物も同様な方法で核生成温度を計算する
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ことが可能であるが,酸化物の高温度における物性値を入手することは困難である.しかし,
酸化物の核生成も多くの金属と同様に,融点近傍かそれ以上の温度域で生じると考えられ るため,本研究での酸化物の核生成温度は融点と仮定した.過飽和度が低い場合は粒子の生 成速度と蒸発速度が大きいため,発生した核は安定にはなり得ない.しかし,核生成速度が 1 cm-3s-1を超えたところで,核が安定に生成することが実験的に明らかになっており,その 時の過飽和度は臨界過飽和度と定義されている[11].臨界過飽和度は温度の関数であるため,
その値から核生成温度を算出した.
Fig. 3-23は算出した核生成温度と,融点,沸点を示す.MnおよびLiは単体金属の核生成温
度よりもMnO,Mn3O4,Li2Oの酸化物の融点のほうが高温であるため,これらの系では酸化 物が優先的に核を生成すると考えられる.その中でも核生成温度の一番高いMnOが最初に 核生成し,その核へLi2Oが酸化反応を伴いながら凝縮することでLi-Mn複合酸化物が生成す ると考えられる.
3.4.3 熱力学的検討
(a) Mn-O系およびLi-O系の熱力学的検討
Li,Mnが酸化され酸化物となる条件の反応を考察した.Li,Mnの検討される酸化物へ
の酸化反応として以下の反応を示す.
2Li+O2 → Li2O. (3-7)
2Mn+O2 → 2MnO. (3-8)
3/2Mn+O2 → 1/2Mn3O4. (3-9)
Li-Mn-Ar系(Li:Mn:C:O2:Ar=2:4:1:3:20,2:4:1:20:3)の平衡組成図をFigs. 3-24(a),(b)に示 す.Fig. 3-24(a) は原料の組成と比較してO2不足な系,Fig. 3-24(b) は原料の組成と比較し てO2過剰な系である.Figs. 3-24(a),(b)を比較するとO2を過剰にするとLi2O2(g),LiO(g) の物質量が増加していることが見受けられる.Fig. 3-25に2300 K ~ 2900 Kの温度における O2の物質量と気相中の全てのLiに対するLi酸化物のモル分率の関係を示す.Fig. 3-25か らどの温度域においてもO2の物質量を増加させると気相中の全てのLiに対するLi酸化物 のモル分率が上昇していることがわかる.したがって,Li-Mn酸化物の合成には,Li酸化 物が寄与していることが示唆された.
3.4.4 Gibbsの自由エネルギーの計算
各系で合成を試みたLi-Mn 複合酸化物の熱力学的な安定性を検討するため,Li系複合酸 化物生成および金属酸化物生成のGibbsの自由エネルギー(ΔG)を計算した.Li系複合酸 化物および金属酸化物の生成反応式は以下のように表される.
c b a
b c
a O Li M e O
M e 2
Li
2
. (3-10)116
y x
x y O M e O
M e 2
2
. (3-11)O2のO ラジカルへの解離温度は3600 K程度であり,本研究で考えている酸化物の核生成 温度よりも高温であるため,O2との反応を考えた.
Li系複合酸化物生成および金属酸化物生成のGibbsの自由エネルギー(ΔG)計算は以下 のデータベースを使用し算出した.金属酸化物のような単純な化合物に関しては,Thermfact 社 & GTT-Technologies社製の熱力学計算ソフトFactSageを用いた.しかし,本研究で合成 を目的としているLi系複合酸化物の多くはFactSageのデータベースに登録されていないた め,既往の研究論文およびデータベースの熱力学的物性値を用いて計算した.データベース にはThe Materials Project <https://materialsproject.org/>を利用した.これは物質材料の第一原 理計算結果のデータベースであり,結晶構造,バンド構造,熱力学量等が提供されている.
数万件以上の物質が収録されており,特にLiイオン二次電池関連の材料のデータが充実し ている.
ある温度におけるGibbsの自由エネルギーは,反応エンタルピーおよび反応エントロピー を用いて次の式で表記される.
S T H
G
r rr
Δ Δ
Δ
(3-12)反応エンタルピーは,生成物と反応物とのモルエンタルピーHmの差と定義されており,
reactant m product
m
Δ
rH νH νH
(3-13)で表される.各項には適当な量論数の重みをつけてある.反応エントロピーも同様に,生成 物と反応物とのモルエントロピーSmを用いて,
reactant m product
m
Δ
rS νS νS
(3-14)となる.Li系複合酸化物のHmおよびSmのデータは室温程度のものしか存在しないため,
次の式を用いて高温における値を算出した.
TT
dT C T
H T H
i m p, i
m
m
( ) ( )
(3-15)
TT
T
C dT T
S T S
i m p, i
m
m
( ) ( )
(3-16)これらの式は定圧条件の場合に成り立ち,ある温度TにおけるモルエンタルピーHm(T)およ びモルエントロピーSm(T)と,モル定圧熱容量Cp, mの関係を表している.Cp, mも温度に依存 する物性値であるが,Cp, mを一定としてΔGを計算した場合の結果と大きく差はなかったこ とから,データが報告されていないものに関しては,Cp, mは一定とした.
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また,本来は相転移のエンタルピー変化およびエントロピー変化を考慮する必要がある
が,Li-Mn複合酸化物の相転移に関する熱力学的物性値は報告されていない.相転移には固
相から別の固相への相転移や,固相から液相への融解などがあるが,融解潜熱に比べて固相 間の相転移のエンタルピー変化は非常に小さいため,本検討では融解潜熱のみを考えた.
3.4.5 Li系複合酸化物の生成反応式
層状岩塩構造を有するLiMnO2ナノ粒子は,合成原料であるMnO2およびLi2CO3中のO2
モル分率を利用した低酸化雰囲気条件で合成した.LiMnO2ナノ粒子の収率が最も多かった
Li/Mnのモル分率1/1の酸化を説明する反応は、以下のように表される.
2 2
2