42 成機構がモデルされ始めている[234-237].
(d) TaCナノ粒子の合成
TaCの結晶構造はTiCと同様の空間群Fm3mの立方晶系である.TaCナノ粒子は,切削工 具の腐食耐摩耗性を向上させるためのコーティング材として実用化されているが,一方で 触媒性能も高く,NH3の分解反応やH2の解離反応の触媒として期待されている.Ishigakiら
は,40 kWの高周波熱プラズマによりTaCナノ粒子を合成した[238].原料としてTa(OC2H5)5
ガスを3.0~6.5 L/minで供給し,Ar-H2プラズマによる還元雰囲気下で合成を行った.平均
粒径7.8~12.3 nmのTaCナノ粒子が主生成物として生成したが,TaおよびTa2O5も僅かに
生成していた.クエンチガスを導入することで,ナノ粒子の粒径を小さくすることができ,
また副生成物であるTa2O5の生成も抑制することができた.H2モル比が増加すると,水素原 子による固体炭素不純物の選択的なエッチングにより,TaCの収率が97.4wt%に改善される ことが注目された.しかしながら,過剰な水素はTaCのTa相への分解を促進することが確 認された.また,53 kPaの低圧化および追加のHeクエンチングガスを使用することにより 反応場の急速な冷却が生じ,平均粒径分布は狭くなった.Raiらは,SiCナノ粒子は,シリ コンと炭素粉末を用い非移行型アーク熱プラズマ処理により合成した[239].遊離したケイ 素含有量は,反応時間および炭素モル比の増加とともに減少していた.走査型電子顕微鏡か ら合成したSiCの形状および大きさは,炭素源の形状と大きさに依存することを示した.合 成したSiCの粒子径は500nm以内のナノ粒子であり,活性炭およびグラファイトは(~5μm) であった.
43
法に比べ多くの酸化物ナノ粒子の研究が進められている.しかしながら,液相法では不純物 の混入,多くのプロセス工程および長時間の合成が避けられず高純度でのナノ粒子合成が 難しいため,気相法でのナノ粒子合成プロセスの確立が重要である.
1.5.1 Li-Co複合酸化物ナノ粒子
層状岩塩型LiCoO2は,リチウムイオン二次電池の開発当時から正極材料として用いられ ており,現在もこの正極材料が採用された様々な製品が普及している.層状岩塩型はリチウ ムイオンの脱着が円滑に生じるため,良好なサイクル特性を示し,作動電圧も4V程度であ り比較的高い.さらに,合成も簡便であり,量産化が容易に可能であるという特徴を有する.
(a) 液相法によるナノ粒子の合成
共沈法は,複数の金属イオンを含む溶液から,難溶性の金属塩などを沈殿させ,粒子合成 する手法である.Zhechevaらは,共沈法により80~120 nm程のLiCoO2ナノ粒子を合成し た[240].まずLi-Coクエン酸塩溶液をエタノール脱水することにより,LiCoC6H5O7・5H2O と(NH4)3LiCo(C6H5O7)2の非晶質固体を合成した.(NH4)3LiCo(C6H5O7)2を 400℃で熱処理す ることにより,LiCoO2ナノ粒子を単相で合成した.
Kumtaらは,ゾルゲル法によりLiCoO2ナノ粒子を合成した[241].ゾルゲル法とは,ゾル
のゲル化を利用する合成法である.LiCH3COO・2H2OとCo(CH3COO)2・4H2Oの混合溶液を 前駆体として,キセロゲルを生成し,その後,熱処理,粉砕の工程を経てナノ粒子を得た.
600~800℃で2時間熱処理することにより,粒径400~600 nmのLiCoO2ナノ粒子を単相で
合成することができた.
Joらは,水熱法によりLiCoO2ナノ粒子を合成した.水熱法は,高い反応性を有する高温 高圧下の水に金属イオンを溶解し,酸化物として析出させる方法である[242].Co(NO3)2・ 6H2O と LiOH の混合溶液を前駆体とし,200℃で 72 時間反応させることで,50 nm 程の
LiCoO2ナノ粒子を合成した.また,Brogらは,同様の手法でLi+イオンとCo2+イオンを含
むアルコキシドおよびアリオールオキシドにより,LiCoO2ナノ粒子を合成した[243].生成
したLiCoO2ナノ粒子のLi拡散率は市販のLiCoO2マイクロ粒子の20~100倍であった.
噴霧熱分解法は,原料となる金属イオンに含まれた溶液を超音波等によって霧状にし,高 温の反応器に噴霧することでナノ粒子を合成する手法である.噴霧された液滴は,表面から 溶媒が蒸発し,溶質の析出あるいは沈殿により固体粒子が生成する.その後,乾燥,熱分解,
焼成を経てナノ粒子を得る.Kimらは,LiNO3とCo(NO3)2・6H2Oの混合溶液を900℃の反 応器に噴霧することでLiCoO2粒子を合成した[244].前駆体にクエン酸とエチレングリコー ルを加え,800℃で3時間熱処理を行った条件においては,平均粒径390 nmのLiCoO2ナノ 粒子が生成した.
44 (b) 気相法によるナノ粒子の合成
気相法である火炎噴霧熱分解法による合成例もある.火炎噴霧熱分解法は,前駆体を燃焼 炎へ噴霧し,蒸発させ,気相中で化学反応を行うことで,ナノ粒子を合成する手法である.
噴霧熱分解法とは,前駆体が蒸発するか否かという点で異なる.Jangらは,Li(CH3COO)と
Co(CH3COO)2 の溶解させた混合溶液を燃焼炎に噴霧することで,平均粒径 11-35 nm の
LiCoO2ナノ粒子を合成した[245].燃焼炎に燃料にはH2ガスを用いた.原料供給速度,原料
組成比および燃焼炎の温度により,粒径や結晶性が制御できることが示唆された.また,同 様の手法により,LiNO3とCo(CH3COO)2・4H2Oの混合溶液を前駆体とした,LiCoO2ナノ粒 子合成例も報告されている[246].
(c) 固相法によるナノ粒子の合成
固相法によるLiCoO2ナノ粒子の合成例も報告されている.Kondoらは,摩擦式ミルを用 いた機械的手法により,外部加熱を施すことなくワンステップでLiCoO2ナノ粒子を単相で 合成した[247].原料として,Li2CO3とCo3O4の混合粉末を用い,最大回転数4000 rpm,処 理時間30分で粉体処理を行った.摩擦式ミルの容器の外表面の最高温度は480℃であった.
約20 μmの造粒体が生成しており,その内部に約50~200 nmの一次粒子が存在していてい
ることが確認された.
1.5.2 Li-Mn複合酸化物ナノ粒子
スピネル型構造を有する LiMn2O4は,正極材料として実用化されている.資源が豊富に 存在するMnを利用でき,コストを大幅に削減できるため,精力的に研究が行われてきた.
しかし層状岩塩型と比較して,Liの含有量が少ないため理論容量が小さく,さらに3V領域 での充放電においてサイクル特性が低下するといった問題がある.この問題を改善するた めに,Mnの一部を他の遷移金属で置換することにより,充放電特性を向上させる研究が幅 広く行われている.LiMn2-xMxO4(M=Fe, Cr, Ni, Cu)は 5V級の正極材料として注目されてお り,特にLiMn1.5Ni0.5O4はサイクル特性が良好であることから,最も有望視されている[248].
(a) 液相法によるナノ粒子の合成
Pateyらは,噴霧熱分解法を用いLiとMnのアセチルアセトン錯体を前駆体としてLiMn2O4
ナノ粒子を合成した[249].噴霧熱分解法は金属塩溶液を高温の反応炉に噴霧し,瞬時に熱 分解,反応させることでナノ粒子を得る.このとき合成したナノ粒子の粒径は6.9~25.9 nm であった.Yaoらは,動的水熱法を用いスピネル型LiMn2O4ナノ粒子を合成した[250].従来 の静的水熱法と比較してより均一相の粒子が得られ電池特性が向上した.平均粒径は 200~300 nmであった.Juらは,共沈法によりLiMn1.5Ni0.5O4を合成した[251].共沈法は数種 類の金属錯体イオンを含む溶液に沈殿剤を添加し,金属イオンを難溶性塩として沈殿させ
45
ることでナノ粒子を得る手法である.原料として酢酸塩溶液を前駆体としたところ平均粒
径150 nmの粒子が得られた.SEMおよびXRDにより結晶構造を検討した.Rajeshらは,
ゾルゲル法によりLi(CH3COO)・H2OとMn(CH3COO)2・4H2Oを混合した酢酸金属塩溶液を 用いることで,粒径25 nm以下のスピネル型LiMn2O4ナノ粒子を合成した[252].キレート 剤としてクエン酸を添加することでゲルを生成させ,120℃で 3 時間乾燥させた.その後,
乾燥させたゲルを550℃で3時間熱処理することで,目的のナノ粒子を合成した.Jiangら
は,LiOHとMnO2を200℃で1~7日間,水熱反応させることにより,ワンステップでLiMn2O4
ナノ粒子を合成した[253].この合成経路はMn4+とOH-のレドックス反応しか必要としない ので,他の酸化還元剤などの添加剤を用いずに合成することができる.生成したナノ粒子の
粒径は20~150 nm程であった.電池特性を評価したところ,3日間合成したサンプルの電
池容量およびサイクル特性が最も優れていた.Taniguchiらは,噴霧熱分解法によりLiMn2O4
を合成した[254].LiNO3とMn(CH3COO)2・4H2Oの混合溶液を反応器に噴霧し,合成を行っ た.生成した粒子の粒径は数百ミクロン程であり,粒子形状は反応器の温度分布とキャリア ガス流量の影響を受けていることがわかった.また,同研究グループでは,LiCO3 と
Mn(CH3COO)2・4H2Oの混合溶液にクエン酸とエチレングリコールを加えた溶液を前駆体と
し,LiMn2O4を合成した[255].高分子前駆体を用いた場合,平均粒径670 nmのサイズ分散 が小さい粒子が得られた.また,生成した粒子に熱処理を施し,電池特性を評価したところ,
放電容量は127 mAh/gであり,サイクル特性は30サイクル85%と高い電池特性を示した.
(b) 気相法によるナノ粒子の合成
火炎噴霧熱分解法によるLiMn2O4ナノ粒子合成例も報告されている.Ernstらは,C4H9LiO とC15H21MnO6を混合した有機溶媒を用いることで,粒径7~30 nm程のLiMn2O4ナノ粒子 を合成した[256].また燃焼炎の燃料として CH4ガスを用いた.生成したナノ粒子は正極材 料として利用可能であると報告している.Pateyらも,同様の手法によりLiMn2O4ナノ粒子 を合成した[257].さらに,反応器にC2H2ガスを導入することで,ワンステップでLiMn2O4
をカーボンで被覆したコアシェルナノ粒子の合成に成功した(Patey, et al., 2009b).生成した コアシェルナノ粒子のエネルギー密度は,市販の正極材料よりも優れていることが明らか になった.また大量合成の実現を目指し,低コストな原料を用いた LiMn2O4ナノ粒子合成 も検討されている.YiらおよびZhangらは,比較的安価であるLiCO3とMn(CH3COO)・4H2O を溶解した水溶液を用い[258],平均粒径27 nmのLiMn2O4ナノ粒子を合成した[259].
(c) 固相法によるナノ粒子の合成
Li らは,固相法により LiMn2O4ナノ粒子を合成した.C2H2O4・2H2O,Mn(CH3COO)2・ 4H2O,Li2C2O4の混合物をエタノール中で1時間粉砕し,得られた混合物を75℃で12時間 乾燥させた[260].その後,700℃で10時間熱処理することにより,平均粒径220~358 nmの LiMn2O4ナノ粒子を合成した.この手法により,合成されたLiMn2O4ナノ粒子は50サイク
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ル後の放電容量の低下が98.5%であり,優れたサイクル特性を有していることが確認された [261].
1.5.3 Li-Ni複合酸化物ナノ粒子
Coはレアメタルであり,コストが高いという欠点を有しているため,LiCoO2に代わる正 極材料の開発が行われている.代替材料の一つとして同じ結晶構造を有するLiNiO2が挙げ られる.LiNiO2はLiCoO2と比較して高容量であるため,次世代の電池材料として期待され ている.しかしながら,高含有量のNi材料は安全性に課題が残り多くの研究が進められて いる.
(a) 液相法によるナノ粒子の合成
Li-Ni複合酸化物ナノ粒子の合成例として,ゾルゲル法による合成例が多数報告されてい
る.Linらは,ゾルゲル法により,層状岩塩型LiNiO2ナノ粒子を合成した[262].Ni(NO3)2と LiNO3を溶解させた水溶液に,クエン酸およびエチレングリコールを加え,ゲルを生成させ た.その後,400~800℃で熱処理し,ナノ粒子を合成した.700℃以上で熱処理することに よって,層状岩塩型 LiNiO2 ナノ粒子を得ることができた.また,同様の手法で合成した
LiNiO2ナノ粒子の電池特性を評価したところ,初期の放電容量が168 mAh/gであった[263].
Thongtemらは,ゲルを合成する際に加えるキレート剤としてマロン酸を用い,層状岩塩型
Li1-xNi1+xO2ナノ粒子を合成した[264].原料にはNi(NO3)2とLiNO3を用い,生成したゲルを
650~800℃で14~48時間熱処理を施した.750~800℃で合成することでLi1-xNi1+xO2ナノ粒
子が単相で生成することがわかった.また同研究グループでは,ゲルを合成するときの最適 なpHについても検討している[265].Balandehらは,キレート剤として用いる有機溶媒を複 数種変えて,層状岩塩型 LiNiO2 ナノ粒子を合成した[266].キレート剤としてアクリル酸,
シュウ酸,クエン酸,トリエタノールアミンの 4 種類を用い,それぞれで合成実験を行っ た.トリエタノールアミンを用いた際に得られた生成物の電気化学活性が最も高かった.ま た,アクリル酸,シュウ酸,クエン酸をそれぞれ用いた場合の生成物の平均粒径は70~250 nmであったのに対し,トリエタノールアミンを用いた場合は平均粒径が10~15 nmであり,
最も小さかった.
(b) 気相法によるナノ粒子の合成
Houらは,熱プラズマで合成された高分散でファセット構造を持つ NiOナノキューブの 合成方法を報告した[267].TEM観察および密度汎関数理論計算は,NiOナノキューブがリ チウム化で安定した構造と小さな体積膨張率(56%)を可能にし,Liイオン輸送を促進するこ とを明らかにした.これらの特性により、サイクル性能とレート性能が向上した.
クーロン効率は99%であった.