第 2 章 高周波熱プラズマ実験装置とナノ粒子の分析方法
3.3 ナノ粒子合成の実験結果
3.3.1 O2モル分率変化による結晶構造への影響
O2供給量を変化させ,合成したLi-Mn複合酸化物への影響を調べた.シースガス供給量 を60 L/minに固定し,ArとO2流量を0-7.5 L/minに調整した.キャリアガスAr流量3 L/min,
インナーガスAr 流量5 L/min,プラズマ出力を20 kWとし合成を行った.目的のLi-Mn複 合酸化物ナノ粒子はスピネル構造のLiMn2O4 (空間群:Fd-3m)ナノ粒子としているため,原
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料中のLi,Mnの組成比を1:2に固定し,原料供給量を0.4 g/minに調製しプラズマ中に導入 した.
(a) X線回折による定性分析
O2供給量変化時のLi-Mn複合酸化物ナノ粒子生成物のXRD分析結果をFig. 3-2に示す.
合成原料であるMnO2およびLi2CO3原料中のO2モル分率を利用した低酸化雰囲気のO2流量
0 L/minの条件では,2θの15度付近の(010),45度付近の(120)面のLiMnO2のピークお
よび異相として18度付近の(101),33度付近の(103)面の Mn3O4ピークが確認できた.X 線回折の解析の結果,斜方晶系層状岩塩構造LiMnO2(空間群:Pmnm)(ICDD:00-035-0749)
および正方晶スピネル Mn3O4(空間群:I41/amd)を有するナノ粒子であることがわかった.
合成時のO2モル分率はLi量に対して2.75倍であった.化学量論比以上のO2が供給されてい るにもかかわらず,LiMn2O4の XRDピークは確認されなかった.対照的に,シースガスと してO2を供給した場合では,すべて条件で2θの19度付近の(111)面,36度付近の(311)
面の LiMn2O4の鋭いピークが確認できた. X 線回折の解析の結果,立方晶スピネル構造 LiMn2O4(空間群:Fd-3m)(ICDD:00-035-0782)を有するナノ粒子であることがわかった.
O2供給量は(a) 0 L/min,(b) 2.5 L/min,(c) 5 L/min,(d) 7.5 L/minで調製した.O2供給量が2.5
L/minの場合,Liに対して約61.5倍のO2が供給され高酸化雰囲気であった.さらにO2供給
量を5 L/min,7.5 L/minと増加させると2θの19度付近の(111)面のピークが増加することが 確認できた.これはO2供給量が増加するに伴い,LiMn2O4結晶構造中のO含有量が増加し、
Li 含有量も増加したことに起因すると考えられる.また,O 供給量増加に伴い異相である Mn3O4も減少する傾向が確認できた.これらの結果は,先述の既往研究のJang and Chiangら の傾向と一致し,Li-Mn 複合酸化物ナノ粒子の合成には O2分圧が重要であることを確認し た[4, 5].また,Fig. 3-3にすべての生成物XRDのfirstピーク積分強度の和に対する,それ ぞれの生成物XRD のfirstピーク積分強度の比を示す.Fig. 3-3から,O2供給量を2.5 L/min 以上供給した場合,LiMn2O4が高収率で合成できることが確認できた.以上の結果から,O2
分圧を制御することで,異なる結晶構造を有する Li-Mn 複合酸化物ナノ粒子を選択的に合 成できる可能性が見出された.
(b) TEMによる粒子径および形態観察
シースガスとしてのO2流量を変化させた場合のLi-Mn複合酸化物生成物のTEM像をFig.
3-4に示す.O2流量2.5から7.5 L/minの高酸化雰囲気条件では,TEM観察の結果から六角形状の
粒子が多く存在していることがわかった.高酸化雰囲気条件では,XRD解析結果から立方晶 スピネル構造のLiMn2O4が主生成物であることを確認しているため,六角形状の粒子は LiMn2O4であることが示唆される.それに対して,シースガスにO2を供給しない低酸化雰囲 気条件では,六角形状の粒子と四角形状の粒子の存在が確認できた.低酸化雰囲気条件では,
生成物は正方晶スピネル構造のMn3O4と斜方晶系層状岩塩構造のLiMnO2であるため,六角
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形状の粒子はMn3O4であり,四角形状の粒子はLiMnO2であると考えられる.
Fig. 3-5はO2流量0から7.5 L/minにおける生成物の粒子径分布を示す.高酸化雰囲気条件で
は,平均粒子径はそれぞれ48.2 nm,94.1 nm,116.7 nm,96.0 nmであることがわかった.
生成物の平均粒子径とO2供給量の関係をFig. 3-6に示す.O2供給量が増加することで,
生成物の平均粒子径が増加していることがわかった.この結果,O2供給量と平均粒子径の 間に相関関係あることが確認できた.この考察に関してはサブセクションの考察にて後述 する.O2供給量を変化させることで,生成物の粒子径を制御できる可能性が示唆された.
(c) LiMn複合酸化物の元素分析
シースガスとしてO2流量5 L/minを導入した条件のLi-Mn複合酸化物生成物のTEM-EDS
像をFig. 3-7に示す.合成で得られたLiMn2O4ナノ粒子のHAADF-STEM(a)に対し元素マ
ッピングを行った.元素マップはO元素を灰色,Mn 元素を赤色として画像化した.TEM-EDS像からOとMnの元素は均一に分布していることが確認できた.したがって,合成さ れた LiMn2O4ナノ粒子は分相状態ではなく均一な組成分布で合成されたナノ粒子であるこ とが確認できた.
(d) SEMによる粒子形状の観察
TEM像から生成物が六角形状の特徴的な形状を有していたため,SEMにより立体的な形 状を観察した.
Fig. 3-8にO2供給量を2.5 L/minとしたときの生成物のSEM像を示す.O2を供給してい る場合,立方晶スピネル構造の LiMn2O4が主成分として生成していることから,熱プラズ マ法で合成された LiMn2O4は Fig. 3-8 のような 8 つの六角形の(111)面と 6 つの四辺形
(100)の面で構成された,切頂八面体の形状(十四面体構造)を有していることがわかっ た.本来,マイクロメートルオーダー以上の粒子径のスピネル構造の化合物は八面体構造が 最安定であるが,本研究で合成された LiMn2O4ナノ粒子は八面体の角がとれた特異的な形 状をしていることが明らかとなった.得られた十四面体構造は,(100)面のヤーン・テラー 歪みの応力緩和により八面体構造よりも安定であると考えられる.
このような特異形状を有するナノ粒子が生成した要因を考察する.Fig. 3-9に,Karimら が第一原理計算によって求めたLiMn2O4のWulff constructionの結果を示す[6].
一般に熱力学的に平衡な形状となる場合,次の式を満たす.
min γ ds
n n (3-1)γnはある微小要素の表面エネルギー,dsnは微小要素の表面積を表す.液体の場合はγが一 定と考えてよいので,平衡形は球となるが,結晶の場合は,結晶面により表面エネルギー が異なるため,平衡形は複雑となる.Wulff constructionは結晶の中心点から,ある面まで の距離rnと,その面の表面エネルギーγnが次式となることに基づき,平衡形を求める手法
110 である.
const r
γ
n
n (3-2)
計算で求めたFig. 3-9の形状は,本手法で合成したLiMn2O4ナノ粒子の形状と非常に似通っ ている.一般的な液相法での合成は,界面活性剤が必要となるため,生成する粒子の表面エ ネルギーが変化する.そのため,本来の結晶が有する最安定な形状とはなりにくいと考えら れる.しかし,本手法のような不純物の極めて少ない反応場では,界面活性剤のような役割 を有する物質が存在しない.その結果,熱力学的に安定な形状を有した LiMn2O4 ナノ粒子 が合成されたと考えられる.
(e) TEMによる電子線回折
熱プラズマ合成後の Li-Mn 複合酸化物ナノ粒子の結晶構造を電子線回折像にて確認およ び解析した.Fig. 3-10にLiMn2O4の電子線回折像を示す.LiMn2O4生成物はO2流量2.5 L/min,
LiとMnの組成比1:2条件で得られたLiMn2O4生成物の電子線回折像を観察した.
Table 3-3は,電子回折像の散乱回折スポット指数およびX線回折パターンからそれぞれ決
定された格子間隔(d),格子定数(a)を示す.LiMn2O4 における電子回折像の散乱回折ス ポット指数はOA(11-1)面ではd = 0.500 nm,a = 0.866 nm,OB(200)面ではd = 0.440 nm,
a = 0.880 nm, OC(1-11)面ではd = 0.490 nm, a = 0.848 nmであり、対応する面角度は∠
AOB:53.8°,∠BOC:56.2°,∠AOC:110.0°であった.一方,X線回折の面指数は18.6°の
(111)面ではd = 0.483 nm、a = 0.836 nm,面指数が(200)面の1/2である43.5°の(400)
面ではd = 0.208 nm,a = 0.416 nmであった.(200)面指数に換算した面指数値は、d = 0.416
nm、a = 0.832 nmであった.したがって、散乱回折スポット指数、面指数、および格子間隔
のこれらの結果は合成されたナノ粒子が立方晶系スピネル構造 LiMn2O4(空間群 Fd-3m)
(ICDD:00-035-0782)の組成を有すると結論づけた.
熱プラズマを用いて合成したLiMn2O4の電子回折パターンは,XRDパターンと完全に一致 した.この結果からO2分圧を変えることによりLiMn2O4を容易に生成できることが示唆さ れた.
3.3.2 Li-Mnモル分率による結晶構造への影響
原料中のLiとMnの組成比を変化させ,合成したLi-Mn複合酸化物組成への影響を調べた.
インナーガス(5 L/min)およびキャリアガス(3 L/min)にArを用い,プラズマ出力は20 kWとし た.
はじめに,シースガスとしてAr流量 60 L/minのみを供給し実験を行った.つまり,原料 のO2分圧を用いた合成方法とした.原料粉体中のLiとMnの組成比は(a) 1:1,(b) 1:1.5,(c)
1:2,原料供給量は0.4 g/minとした.
111 (a) X線回折による定性分析
Fig. 3-11 は合成により得られた生成物のXRDの分析結果を示す.LiとMnの組成比が 1:1
の条件においては2θの15度付近の(010),45度付近の(120)面のLiMnO2ピークが確認で
きた.X線回折の解析の結果,斜方晶系層状岩塩構造(空間群:Pmnm)(ICDD:00-035-0749)
を有するナノ粒子であることがわかった。LiとMnの組成比が1:1.5の条件では,LiMnO2お よび18 度付近の(101),33 度付近の(103)面の正方晶スピネルMn3O4(空間群:I41/amd) ピークが確認できた.さらに,LiとMnの組成比が1:2の場合ではMn3O4のピークがさらに強 くなっていることが確認できた.Fig. 3-12はLiMnO2とMn3O4のXRDのFirstピーク積分強度 の和に対するLiMnO2 のXRDのFirstピーク積分強度の比を示す.LiMnO2 の化学量論組成よ り,原料中のMn割合が大きい条件でMn3O4 が生成し易いことがわかった.シースガスとし てO2を供給していない場合,LiMnO2が熱力学的に最安定となるため,すべての条件におい てLiMnO2が生成し,LiMnO2生成に利用されていないMnがMn3O4として生成すると考えら れる.
次にシースガスとしてO2流量を2.5 L/min導入し,酸化雰囲気状態で原料組成比の影響 を検討した.シースガス流量は合計60 L/min導入し,Ar流量を調製した.原料中のLiと Mnの組成比は(a) 1:1,(b) 1:2,(c) 1:3とし,原料供給量は0.4 g/minとした.このときの XRDの分析結果をFig. 3-13に示す.シースガスとしてO2を供給した酸化雰囲気では,ス ピネル構造のLiMn2O4が最安定となるため,どの条件においても2θの19度付近の(111)
面,36度付近の(311)面のLiMn2O4のXRDピークが確認された.Fig. 3-14は生成物の定 量分析結果を示す.LiとMnの組成比が1:2の条件ではLiMn2O4および異相としてMn3O4
が生成した.X線回折の解析の結果,LiMn2O4は立方晶スピネル構造(空間群:Fd-3m)を 有するナノ粒子(ICDD:00-035-0782)であることがわかった。Mnの割合を増加させた組 成比が1:3の条件では,Mn3O4の割合が増加していることがわかった.また,Liの割合を 増加させた1:1の条件では,LiMn2O4に加えてLiMnO2が生成した.これらの結果から,シ ースガスとしてO2を供給した酸化雰囲気においても,LiMn2O4の化学量論組成を基準にし て,原料中のLi割合が大きい条件ではLiMnO2が,Mn割合が大きい条件ではMn3O4が生 成し易いことがわかった.
(b) TEMによる粒子径および形態観察
LiMnO2およびLiMn2O4生成物の単一相の状態を確認するために,LiMnO2生成物はシース
ガスとしてO2を供給していない場合のLiとMnの組成比1:1条件,そしてLiMn2O4生成物はシ ースガスとしてO2供給量2.5L/minのLiとMnの組成比1:2条件のTEM像および粒子径分布を確
認した.TEM像および粒子径分布Fig. 3-15に示す.TEM像から,シースガスとしてO2を供給
していない場合では,四角形状の粒子と六角形状の粒子の存在が確認できた.O2を供給して いない場合,XRDの結果から生成物は斜方晶層状岩塩構造のLiMnO2および正方晶スピネル