第 4 章 冷却システムの構築 34
4.6 配線設計
を多くする必要がある.分溜器における3He蒸発量を大きくするためにヒーターをいれたが,
循環量に変化は見られなかった.これは,全循環ガス量が少なく,分溜器のd相液面がヒー ター位置に達していないことが原因であると考え,循環ガスに4Heガスを追加した.LNT再 生用のバルブV14を利用し,図 4.13に示す経路でガスを追加した.これにより,最低温度
110 mKを確認した.本希釈冷凍機は長期間使用されていなかったものであり,これまで循環
ガス中の3Heと4Heそれぞれの量は分かっていなかった.そこで,本実験の循環ガス回収時 において,回収されたガス量と混合器温度の関係から大まかに3Heと4Heそれぞれの量を調 べた.循環ガスは3Heが約9 ℓ,4Heが約17 ℓである.本実験により,希釈冷凍機の循環運転 により希釈冷却を確認できた.過去の運転によると,最低到達温度は100 mK以下であり,そ のとき循環ガス内の3He は12 ℓであったため,3Heガスを追加して,さらに循環ガス量を調 整すれば,100 mK以下の温度まで冷却が可能であると考えられる.
V6
LNT
4Heガス
ポンプ
V14
図4.13 ガス追加経路
で表される熱流Q˙ が生じる.ここで,AとLは物体の断面積と長さ,T1 とT2は物体両端の 温度であり,k(T)は物体の熱伝導率である.金属の熱伝導は,そのほとんどを伝導電子が担 う.伝導電子の平均自由行程は,不純物,格子欠陥,フォノンなどによる散乱で決定されるが,
液体4He温度(4.2 K)以下まで冷却するとフォノンはほとんどなくなるため,平均自由行程
の温度変化はなくなる.そのため,室温部から極低温部に配線を導入する際には,熱アンカー を確実にとることが重要である.
4.6.2 配線の設計
希釈冷凍機において冷凍能力を有する部分は,予冷用の液体 4He(4.2 K),1K ポット
(1.3 K),分溜器(0.7 K)および混合器(∼0.1 K)の4箇所である.そのため,配線は室温か ら,液体4He(4Kアンカー),1Kポット(1Kアンカー)および分溜器(0.7Kアンカー)の3 箇所で熱アンカーを取り,極低温ステージに導入することとした.
熱負荷の観点からは,配線材料は熱伝導率が小さいものが望ましい.しかし,一般に熱伝導 率が小さい物質は,電気抵抗率が大きい(ウィーデマン·フランツの法則)ことから,ノイズ の発生源となる可能性があるため,電気的な観点からは,配線材料は電気抵抗率が小さい(熱 伝導率が大きい)ものが望ましい.そこで,本研究では,温度差が大きく熱流入が大きい室温 部から0.7Kアンカーまでの配線に電気抵抗率の温度計数が小さい抵抗線であるマンガニン線 を用いた.0.7Kアンカー以下では,CuNiで被膜したNbTiの超電導線(CuNi−NbTi線)を 用いた.NbTiの超電導転移温度は10 Kであり,超電導状態の物質の電気抵抗率および熱伝 導率は非常に小さい.配線の端はコネクタに接続するが,NbTiにははんだが付かないため,
CuNi−NbTi線を用いた.NbTiが超電導状態のとき,CuNi−NbTi線の熱伝導はCuNiが担 うことになる.
設計した配線のパラメータを表4.1に示す.室温, 4Kアンカー,1Kアンカー,0.7Kアン カー部での温度は,それぞれ300 K,4 K,1 K,0.7 Kと近似した.熱伝導度の温度依存性を 図4.14に示す(20).熱伝導度の温度積分値は,マンガニン線で300 Kから4 Kの温度では,
43.8 W/cmである(20).また,その他の温度領域においては,熱伝導度は温度の1乗に比例 するものとして,その比例定数は図4.14より,マンガニンで4×10−4 W/cm·K2,CuNi で 1×10−3 W/cm·K2 とした.CuNi−NbTi線では,超伝導NbTiによる熱伝導は考慮していな い.また,表4.1に示す熱流入は,配線400本あたりのものである.
表4.1 設計配線のパラメータ
温度差 材質 直径 長さ 熱流入
300 K → 4 K マンガニン線 ϕ100 µm 120 cm 12 mW
4 K → 1 K マンガニン線 ϕ100 µm 15 cm 6.3 µW
1 K → 0.7 K マンガニン線 ϕ100 µm 15 cm 0.21 µW
0.7 K → 0.1 K CuNi−NbTi線 ϕ100−80 µm 30 cm 0.26 µW
図4.14 固体の熱伝導度.Verein Deutscher Ingenieure 著,低温工学協会・関西支部海外 低温工学研究会訳「低温工学ハンドブック」,内田老鶴圃新社,(1982).
液体4Heの蒸発潜熱は2.5 J/ccであるから(21),12 mWの熱流入を冷却する際の消費液体
4He量は17 cc/hourである.通常の運転中には,液体4He デュワーには数10 ℓの液体4He を溜めているため,4Kアンカーは十分にとれる.また,循環運転時には,十分な3Heガス循 環量を得るために,分溜器では数 mWのヒーターにより加熱している.そのため,1Kアン
カーが不十分であった場合でも,配線による0.21 µWの熱流入を十分取りきることができる といえる.さらに,混合器では100 mKの温度において60 µWの冷凍能力を持つため,この 結果より,4Kアンカー,1Kアンカーを十分にとることができれば,100 mK以下の温度まで 冷却可能と予想できる.