第 4 章 冷却システムの構築 34
4.5 希釈冷凍機の冷却試験
希釈冷凍機は3He−4He混合ガスを循環させて冷却する.循環ラインに漏れがあれば希少 な3He が漏洩してしまい,空気等の吸引があると冷凍機内部で凍り流路を塞いでしてしまう
(ブロック)ため,循環ラインは完全に気密されていなければならない.気密性を確かめるた めに,循環ラインのリーク試験を行った.循環ラインの部分ごとに真空引きと4Heガス加圧 によるリーク試験を行い,ライン全体での気密性を確認できた.
我々の研究施設では,消費した4Heを回収し再度液化して使用するための回収設備がある.
回収ラインは建物共通のものであり,我々の実験室は9階にあるため,背圧が大気圧よりも高 くなっている.そこで,圧縮機を用いて,消費した4Heガスを圧縮して回収ラインへ送り出 すための回収チェンバーを製作した.回収チェンバーを図4.10に,回収ラインの模式図を図 4.11に示す.
300 mm
410 mm In Power
Out
図4.10 回収チェンバー
In Out
Power
圧縮機
回収ライン 液体4Heデュワー
液体4Heタンク
スクロールポンプ 1K Pot
図4.11 回収ライン模式図
次に,循環運転による冷却試験を行った.液体N2 による予冷後,液体4He で冷却し,1K ポットを減圧して,循環運転を試みた.しかし,ガス循環開始直後に,MFMが上昇し,P5 における圧力が急上昇した.このことから,希釈冷凍機の内部で循環ラインがブロック(詰ま り)し,ガスが流れていないと判断した.その原因として,長期間大気にさらされていたため に循環ラインが不純物を吸着していること,また,循環ガスにも不純物が混入していることが 考えられる.この場合,今後の運転においても同様のブロックが発生することが予想される.
そこで,循環ガスの回収が容易になるよう,図4.12に示すようにガスハンドリングシステムに バイパスラインを設置した.循環ラインがブロックしたとき,凍った部分を溶かすことなく循 環ガスを回収できるようになり,回収時間を大幅に短縮できる.また,凍った不純物を冷凍機 内部に残したまま循環ガスのみを回収し,その後に凍った部分を溶かし真空排気することがで きるようになり,循環ラインや循環ガスの不純物を除去することが可能である.循環ラインを 改良して,循環運転を数回繰り返したが,窒素トラップを通しているにも関わらず,循環ライ ンのブロックはなくならなかった.数回の運転において,循環ラインの凍った部分は数10 K
(液体N2温度以下)で溶けることが分かった.これより,循環ポンプの排気側にでてくるオイ ルをOTで十分に除去できておらず,LNTでは除去できない水素(融点は14 K)が冷凍機内 でブロックしていると考えた.そこで,循環ガスが希釈冷凍機に入る直前に水素を除去するた めに,図4.12に示すように,ガス浄化器(MC1-902F,Micro Torr)設置して,循環ガス中の 不純物をさらに除去できるよう改良した.その結果,循環ラインがブロックすることはなくな り,安定した循環運転に成功した.
V10
RP V5
V9 V8
V6
LNT
V3 V1 V11
P4
P1
P8 P5
CT
3He-4He Tank
to Condenser from Still
OT MFM
Vbypass
H2トラップ
図4.12 改良したガスハンドリングシステム
循環運転により,コールドステージにおいて約500 mKの温度までの冷却を確認できた.希 釈冷凍機の冷却能力は3Heの循環量に比例するため,より大きな冷凍能力を得るには,循環量
を多くする必要がある.分溜器における3He蒸発量を大きくするためにヒーターをいれたが,
循環量に変化は見られなかった.これは,全循環ガス量が少なく,分溜器のd相液面がヒー ター位置に達していないことが原因であると考え,循環ガスに4Heガスを追加した.LNT再 生用のバルブV14を利用し,図 4.13に示す経路でガスを追加した.これにより,最低温度
110 mKを確認した.本希釈冷凍機は長期間使用されていなかったものであり,これまで循環
ガス中の3Heと4Heそれぞれの量は分かっていなかった.そこで,本実験の循環ガス回収時 において,回収されたガス量と混合器温度の関係から大まかに3Heと4Heそれぞれの量を調 べた.循環ガスは3Heが約9 ℓ,4Heが約17 ℓである.本実験により,希釈冷凍機の循環運転 により希釈冷却を確認できた.過去の運転によると,最低到達温度は100 mK以下であり,そ のとき循環ガス内の3He は12 ℓであったため,3Heガスを追加して,さらに循環ガス量を調 整すれば,100 mK以下の温度まで冷却が可能であると考えられる.
V6
LNT
4Heガス
ポンプ
V14
図4.13 ガス追加経路