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量子強誘電体を温度計とするマイクロカロリーメー タに関する研究

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

量子強誘電体を温度計とするマイクロカロリーメー タに関する研究

善本, 翔大

https://doi.org/10.15017/1931900

出版情報:Kyushu University, 2017, 博士(工学), 課程博士 バージョン:

権利関係:

(2)

博士論文

量子強誘電体を温度計とする

マイクロカロリーメータに関する研究

九州大学大学院工学府エネルギー量子工学専攻 善本翔大

平成 30 1

(3)

目次

1章 序論 1

1.1 X線分光 . . . 1

1.2 X線検出器 . . . 2

1.2.1 エネルギー分散型X線検出器の種類 . . . 2

1.2.2 極低温検出器 . . . 4

1.3 本研究の目的. . . 6

1.4 本論文の構成. . . 7

2章 誘電体マイクロカロリーメータ 8 2.1 極低温マイクロカロリーメータ . . . 8

2.2 誘電体温度計. . . 10

2.3 誘電体マイクロカロリーメータの動作原理 . . . 11

2.4 検出信号パルスとノイズの周波数特性 . . . 14

2.5 エネルギー分解能 . . . 17

3章 量子強誘電体 25 3.1 強誘電体 . . . 25

3.1.1 1次相転移. . . 26

3.1.2 2次相転移. . . 27

3.1.3 強誘電体の利用 . . . 28

3.2 量子常誘電体. . . 29

3.3 量子強誘電体. . . 30

3.4 KTN誘電体温度計 . . . 31

3.4.1 KTNの量子強誘電性 . . . 31

3.4.2 KTN誘電体温度計 . . . 33

4章 冷却システムの構築 34 4.1 希釈冷却の原理 . . . 34

4.2 希釈冷凍機の原理 . . . 36

4.2.1 凝縮器 . . . 37

4.2.2 熱交換器. . . 37

4.2.3 混合器 . . . 37

(4)

4.2.4 分溜器 . . . 37

4.2.5 ガスハンドリングシステム . . . 37

4.3 GM冷凍機予冷希釈冷凍機 . . . 38

4.3.1 GM冷凍機の原理 . . . 38

4.3.2 GM冷凍機予冷3He4He希釈冷凍機 . . . 39

4.4 多ピクセル動作のための冷却システム . . . 43

4.4.1 冷却システムについて . . . 43

4.4.2 液体4He予冷による3He4He希釈冷凍機 . . . 43

4.5 希釈冷凍機の冷却試験 . . . 45

4.6 配線設計 . . . 48

4.6.1 固体の熱伝導 . . . 48

4.6.2 配線の設計 . . . 49

4.7 インサート . . . 51

4.8 その他の改修. . . 53

4.9 冷却システムの冷却試験. . . 55

4.9.1 予冷 . . . 55

4.9.2 希釈冷却. . . 56

4.9.3 ガス調整. . . 58

5章 誘電体温度計の静電容量の温度依存性 61 5.1 測定手法 . . . 61

5.2 KTN(x= 0.0065)誘電体温度計の静電容量測定 . . . 64

5.2.1 セットアップ . . . 64

5.2.2 測定結果. . . 65

5.3 KTN(x= 0.01)誘電体温度計の静電容量測定 . . . 66

5.3.1 セットアップ . . . 66

5.3.2 測定結果. . . 66

5.4 検出信号波高の見積もり. . . 69

6章 誘電体マイクロカロリーメータの放射線検出信号パルス波高分布測定 73 6.1 DMCの直流電圧バイアス駆動 . . . 73

6.1.1 セットアップ . . . 73

6.1.2 結果 . . . 76

6.2 DMCの交流電圧バイアス駆動 . . . 81

6.2.1 化合物半導体検出器におけるバイアス印加に伴う応答変化 . . . 81

6.2.2 バイアス印加方法の検討 . . . 82

(5)

6.2.3 正弦波電圧バイアス . . . 86

6.2.4 アルファ線検出信号パルス波高分布計測 . . . 89

6.3 DMCの検出信号整形方法の検討 . . . 92

6.3.1 セットアップ . . . 92

6.3.2 整形増幅器を用いた信号取得 . . . 93

6.3.3 周波数フィルタを用いた信号取得 . . . 96

6.3.4 検出信号パルス波形の比較 . . . 99

6.4 まとめ . . . 104

7章 結論 107 7.1 まとめ . . . 107

7.2 今後の課題 . . . 109

参考文献 110

謝辞 113

(6)

1 序論

1.1 X 線分光

X 線分光分析は,X線のエネルギーを計測することで,試料中の様々な元素や核種の定性 的,定量的な分析が可能な非破壊の分析手法である.何らかの原因で原子が励起されると,そ の緩和過程として特性X線を放出する.すなわち,励起された原子の外殻電子が内殻の空準 位に遷移することにより下位準位移行し,そのエネルギー差を電磁波として放出する.このX 線を特性X線という.下位準位への遷移を繰り返し,通常,固体内では,励起後1 ns以下の 時間内に原子は基底準位に戻る.遷移に寄与する電子の準位のエネルギー差は原子固有である ため,放出される特性X線のエネルギーも原子固有のものとなる.従って,特性X線のエネ ルギーを測定することによって元素の種類を同定することが可能であり,またその強度比較に より定量分析が可能である.先端材料開発では,極微領域における組織観察とともに微量元素 の存在状態や分布を調べる微細組織解析が不可欠である.極微領域の組織観察には走査型電子 顕微鏡や透過型電子顕微鏡,走査透過型電子顕微鏡が使われている.これらの電子顕微鏡にお いて,組織観察の際に放出される特性X線を分光分析すると,試料の微細構造を観察しながら 極微領域の元素組成を分析することができる.

近年,X 線検出技術の向上とともに飛躍的に発展してきた分野として,天文学が挙げられ る.20世紀初頭までの天文学において,観測の対象は可視光のみであった.しかし,宇宙には 可視光だけでなく,非常に広い帯域の波長を有する電磁波が飛び交っており,放射線検出器を 人工衛星に搭載し,大気圏外でこれらを観測できるようになったことで,宇宙から入手できる 情報は格段に増えた.0.110 keVのエネルギー帯には,炭素,窒素,酸素,ネオン,マグネ シウム,シリコン,鉄,ニッケル等の宇宙に存在する主要な重元素のK,L輝線が存在するこ とから,これらの重元素の量や物理状態を知る上でX線による観測が有効である.エネルギー スペクトルにおけるピークの半値全幅(FWHM: Full-Width at Half-Maximum)∆EFWHM

が10 eVより優れたエネルギー分解能が得られれば,励起準位等に起因する輝線の微細構造

を分解できる.さらに,∆EFWHMが数 eVのエネルギー分解能が得られれば,輝線のエネル ギーシフトや広がりからX線天体の運動を求めることができる.

原子力発電やプルトニウム取り扱いに関わる放射線防護という観点から,環境中のプルトニ ウム同位体濃度の調べることは重要である.放射線防護上問題となるプルトニウム同位体は,

236Pu,238Pu,239Pu,240Pu,241Pu,242Pu,243Puである.239Puおよび240Puから放射 される最大強度のアルファ線エネルギーは,それぞれ5.147 MeVおよび5.159 MeVである.

シリコン半導体検出器を用いたアルファ線スペクトル測定ではこれらを弁別できず,両核種の

(7)

合計量として定量される上,分析に34日の時間を要する.241Puはベータ崩壊して241Am になり,エネルギー13.9 keVのLα1 線,17.8 keVのLβ1線,エネルギー20.8 keVのLγ1 線 が放出される.239Puはアルファ崩壊し,娘核種から,エネルギー13.6 keVのLα1 線,17.2 keV1 線,エネルギー20.2 keV1 線が放出される.他の同位体も崩壊し,近接す るエネルギーを有するLX線を放出する.しかし,プルトニウム同位体のガンマ線やKX 線 は,アルファ崩壊あたりの放射率が0.05 %程度と非常に低いため,スペクトル計測には適さ ない.一方,LX線の放射率は10 %程度であり,スペクトル計測が可能である.∆EFWHM

100 eV以下のエネルギー分解能が得られれば,241Amとプルトニウム同位体から放出される

LX線を弁別し,同位体の存在比を同定することができる.

1.2 X 線検出器

1.2.1 エネルギー分散型 X 線検出器の種類

X 線のエネルギー計測に使用される検出器は,波長分散型とエネルギー分散型に分けら れる.

波長分散型 X線検出器は,分光結晶によるブラッグ反射を用い,X 線のエネルギーを位置 情報として読み出すX 線検出器である.回折格子は,X線領域で数 eV の分解能を達成する 方法として一般的である.これらの回折格子は,1 keV以下のエネルギーE を計測対象とし

て,E/∆EFWHM = 500程度のエネルギー分解能を実現している.しかし,波長分散型検出器

は,対象とするX線の波長に合わせて分光結晶を選定する必要があり,計測対象となるエネル ギーのダイナミックレンジが狭い.また,配置などに対する制約に伴い,検出効率が低いとい う欠点がある.

エネルギー分散型X 線検出器は,検出器自体がX線のエネルギーを電気的に弁別する分光 器である.X線のエネルギーに比例した波高の電気信号を計測し,直接的にスペクトルを得る ことが可能である.そのエネルギー分解能は使用する検出器に依存するが,波長分散型X 線 検出器に比べて悪いことが一般的である.しかしながら,波長分散型と比較して検出効率が高 いこと,分光結晶を使用しないため幾何学的な配置の制限がないこと,測定試料に制限がない こと,システムがシンプルであることなどの利点から,広く利用されている.

エネルギー分散型X線検出器のエネルギー分解能を考える.情報キャリアの個数のゆらぎ や信号読み出しシステムによるノイズなどの影響により,単色X 線が入射した場合であって も得られるエネルギースペクトルのピークは必ず有限の幅を有する.この幅は,検出器に入射 するエネルギーが等しい場合でも,検出信号の大きさに変動があることを意味している.この ような変動を小さくできれば分布の幅は狭くなり,ピーク形状は数学的にデルタ関数に近づ く.この幅が狭いほど,測定対象のエネルギーをより正確に計測できる.エネルギー分散型X

(8)

線検出器では,入射X線のエネルギー付与により検出器内で生成される電子,イオン,正孔,

フォノンなどの信号キャリアを収集して入射X線のエネルギーを計測する.ここで,生成さ れる信号キャリア数はポアソン統計に従うと仮定すると,検出器に1つのX線光子が入射し て生成される信号キャリア数の平均値をN0 とした場合,標準偏差はσ =

N0 である.N0

が20程度より大きくなる場合のポアソン分布は,ガウス分布で良い近似ができる.通常,1 個の信号キャリア生成に必要なエネルギーは入射X線光子のエネルギーに比べて十分小さく,

信号キャリア数の平均値N0 が十分大きくなるため,ピークの分布はガウス分布を使って,

G(N) = A σ√

2π exp (

(N −N0)22

)

(1.1) となる.ここで,Aはピークの面積,N は個々の検出事象において生成される信号キャリア数 である.また,半値全幅は,

∆EFWHM = 2.35

N (1.2)

と表される.半導体検出器や比例計数管などで実際に観測されるパルス波高分布の幅は,式

(1.2)で与えられる幅より狭くなる.この場合,半値全幅は,

∆EFWHM = 2.35

F N (1.3)

と表される.ここでF はFano因子であり,ポアソン統計からのずれを定量化するために導入 された係数である.Fano因子は観測されたN の分散とポアソン分布から予想される分散の比 であり,一般にはF 1の値をとる.

代表的なエネルギー分散型X線検出器を以下に紹介する.

1.2.1.1 ガス比例計数管

X線がガス中を通過するとき,その経路に沿ってガスを電離して陽イオンと自由電子(一次 電子)のイオン対を生成する.さらに,電場印加により一次電子を加速し,再びガスをイオン 化して自由電子(二次電子)を生成する.この過程を繰り返し,電子なだれが起きる程度に 電場を強くすることで,一次電子をガス増幅した後に電気信号として検出する検出器である.

5.9 keVのX線に対するエネルギー分解能は∆EFWHM = 700 eV程度である(1)

1.2.1.2 半導体検出器

有感領域である空乏層に入射した放射線が付与するエネルギーに依存して生成される電子 正孔対を収集して検出信号とする.半導体検出器は,シリコンやゲルマニウムを材料として,

空乏層を作り出す方法により,ダイオード型,表面障壁型,リチウムドリフト型,高純度型に

(9)

分類される.アルファ線や低エネルギーのX線など飛程の短い放射線の検出には,シリコン のダイオード型や表面障壁型半導体検出器を利用する.一方,ガンマ線のような透過力の高い 放射線の検出には,厚い空乏層が必要であり,高純度ゲルマニウム半導体検出器を主に利用す る.また,近年では,ガンマ線の高い検出効率に期待できることから,テルル化カドミウムや 臭化タリウムなどの化合物半導体検出器も開発されている.

1 対の電子正孔対を生成するのに必要な平均エネルギーをεとすると,エネルギーE の X線を吸収したとき平均E/ε 対の電子正孔対が生成される.この電子正孔対を逆バイ アスによって電極に集め,電気信号として入射X線のエネルギーを測定する.生成した電子

正孔対からX 線のエネルギーを求めるため,理論的なエネルギー分解能のは電子正孔対 数の統計的なゆらぎに制限される.エネルギー分解能∆EFWHMは,読み出し回路系に起因す る雑音をσreadとして,

∆EFWHM = 2.35√

F Eε+σread2 (1.4)

と表される.εの値は,ゲルマニウムでε = 3.0 eV,シリコンでε = 3.9 eVである.F = 0.1 σread = 0としたとき,5.9 keV のX 線に対して∆EFWHM = 100 eV 程度となる.実際に は,読み出し回路系に起因する雑音を無視できず,これを低減するためには, 半導体検出器を

100 C程度に冷却して動作させることが有効である.シリコンにリチウムをドリフトした リチウムドリフト型シリコン検出器は,現在広く使われているエネルギー分散型X 線検出器 であり,そのエネルギー分解能はエネルギー5.9 keVのX線に対して∆EFWHM = 100 eV程 度であり,理論限界値に達している(1)

1.2.2 極低温検出器

半導体検出器よりも優れたエネルギー分解能をもつ X線検出器の実現のために,極低温検 出器の開発が進められた.半導体検出器のエネルギー分解能の限界値は,X 線吸収により生 成される電荷数の統計的な変動に由来している.この限界を改善するためにはより多くの信号 キャリアが必要であり,そのためにはキャリア当たりの励起エネルギーが小さい方がよい.す なわち,これは検出器を低温動作させるのがよい.低温では小さな励起エネルギーで現象が起 こりやすい.また熱による変動が少なく,検出器や読み出し用装置で電子とフォノンのランダ ム運動による雑音も少ない.そのため,優れたエネルギー分解能を実現できる.現在研究が進 められている主な極低温検出器を以下に示す.

1.2.2.1 半導体マイクロカロリーメータ

マイクロカロリーメータはエネルギー分散型検出器の一種で,放射線のエネルギー付与に 伴う物質の温度変化を測定する検出器である.半導体マイクロカロリーメータは,電気抵抗

(10)

値の温度依存性を利用して温度を計測する半導体サーミスタを温度計に用いたマイクロカロ リーメータである.代表的なサーミスタに,ドーピングしたシリコンと中性子核転換ドーピ ング(NTD: Neutron Transmutation Doping)したゲルマニウム(NTDGe)温度計があ る(1).シリコンサーミスタおよびNTDGeサーミスタを温度計とした半導体マイクロカロ リーメータでは,エネルギー5.9 keVのX線に対してどちらも∆EFWHM = 3.2 eVのエネル ギー分解能が報告されている(2)(3).しかしながら,半導体マイクロカロリーメータの緩和時

間は110 msであり,原子核分析への応用には遅すぎる.

1.2.2.2 TES型マイクロカロリーメータ

TES 型マイクロカロリーメータは,超伝導薄膜の超伝導常伝導相転移における電気抵 抗値の急激な変化を利用して温度を計測する超伝導遷移端センサー(TES: Transition Edge

Sensor)を温度計に用いたマイクロカロリーメータである.TES型マイクロカロリーメータ

では,TESを定電圧でバイアスし,温度変化に伴う TESの電気抵抗値変化を TES を流れ る電流変化として,超伝導量子干渉素子(SQUID: Superconducting Quantum Interference

Device)増幅器を用いて読み出す.エネルギー吸収やノイズによりTESの温度が上昇したと

き,電気抵抗が増加し,定電圧バイアス下では,TESのジュール発熱が減少し,TESの温度は 低下する.この強い負のフィードバックを電熱フィードバックとよび,動作温度の安定化およ び応答の高速化に大きく貢献している.TES型マイクロカロリーメータの緩和時間は数100 µsである.様々な種類のTES型マイクロカロリーメータがこれまでに開発され,Mo/Auの バイレーヤーからなるTESを用いて,エネルギー1.5 keVのX 線に対して∆EFWHM = 0.9 eVのエネルギー分解能を達成したことが報告されている(4).しかしながら,電熱フィード バックはジュール発熱に起因するものであり,また,抵抗を流れる電流変化として温度変化を 読み出すため,TES型マイクロカロリーメータでは動作に伴いジュール発熱が生じる.さら に,読み出しにSQUID増幅器を利用するため,完全な磁気遮蔽が必要になるとともに検出器 システムが複雑になる.

1.2.2.3 磁気マイクロカロリーメータ

磁気マイクロカロリーメータは,ゼーマン効果による一定磁場中の磁化変化を利用して温度 を計測するマイクロカロリーメータである(1).磁化変化を直接SQUID増幅器を用いて読み 出すため,動作に伴いジュール発熱が生じないというメリットがある.Erをドープした Au をセンサーとして,エネルギー5.9 keVX線に対して∆EFWHM = 3.4 eV122 keVのガ ンマ線に対して∆EFWHM = 340 eVのエネルギー分解能が報告されている(5)(6).しかしな がら,TES型マイクロカロリーメータの電熱フィードバックに相当する効果がないため緩和

(11)

時間は100 ms程度と遅く,また,読み出しにSQUID増幅器を利用する必要がある.

1.2.2.4 誘電体温度計型マイクロカロリーメータ

上記のように,TES型マイクロカロリーメータや磁気マイクロカロリーメータでは,X 線 検出器として汎用的な半導体検出器と比較して1桁以上優れたエネルギー分解能を実証してい る.しかし,検出器動作において,電流通電に伴うジュール発熱やノイズが発生すること,シ ステムが複雑であること,完全な磁気遮蔽が不可欠であるという問題を持つ.

一方で,量子強誘電体の誘電率は低温領域において強い温度依存性を示すことが知られてい る.このような量子強誘電体のうち極低温領域においても誘電率が十分な温度依存性を示すよ うなものを発見できれば,マイクロカロリーメータの温度計としての利用可能性が生まれる.

誘電体を温度計に用いたマイクロカロリーメータ(DMC: Dielectric MicroCalorimeter)で は,誘電体温度計を直流電圧でバイアスし,温度上昇に伴う静電容量変化により誘起される電 荷量を標準的な電荷有感型前置増幅器で読み出すことが可能である.このような方式のDMC は,磁気遮蔽を必要とせず,電流通電に伴うジュール発熱やノイズ発生がないため,取り扱い が簡便な新しい高エネルギー分解能放射線検出器として期待されている(7).しかしながら,

有吉らによって0.99SrTiO30.01SrTa2O6 量子強誘電体温度計を用いたDMCによる放射 線検出信号の取得が確認されているが(8),放射線検出器の安定動作を裏付ける検出信号パル ス波高分布の計測例はない.

1.3 本研究の目的

本研究の目的は,誘電体温度計型マイクロカロリーメータが放射線検出器として安定に動作 することを実証することである.

マイクロカロリーメータの動作においては,極低温の動作温度を安定して保持する冷却シス テムが不可欠である.まず,DMCの動作試験を行うために機械的冷凍機を予冷に用いた希釈 冷凍機を整備する.次に,多ピクセル化されたDMCの同時動作試験を想定し,数100本の信 号線を持ち,100 mK以下の温度を安定して保持できる冷却システムを構築する.

DMCにおいて,誘電体温度計の温度感度は動作を決定する重要なパラメータであり,温度 感度が高いほど優れたエネルギー分解能に期待できる.しかし,DMCの動作温度である極低 温領域における量子強誘電体の温度感度の報告はない.そこで,試作した数種の誘電体温度計 の極低温領域における温度感度を調べ,DMCの温度計として十分に使用可能である材料を調 査する.

DMCの温度計として利用可能性を示す誘電体温度計を用いてDMCを組み立て,放射線を 照射して,DMCの放射線検出動作を確認し,さらに,検出信号パルス波高分布の計測により

(12)

安定動作の実証を目指す.

1.4 本論文の構成

本論文は次の7章から構成される.

第2章では,DMCの動作原理と電荷有感型前置増幅器を用いた検出信号読み出し方法につ いて説明し,一般的な放射線検出器と比較したDMCの優位性を示す.さらに,電荷有感型前 置増幅器から出力される検出信号に含まれる代表的なノイズをモデル化し,エネルギー数keV のX線検出に適した構造を有するDMCの到達可能なエネルギー分解能と誘電体温度計感度 との関係を評価する.

第3章では,種々の誘電物性について述べる.まず,強誘電体,量子常誘電体および量子強 誘電体の誘電特性について説明する.次に,DMCの温度計として利用可能な量子強誘電体を 調査し,DMC用誘電体温度計を試作する.

第4章では,DMCの動作温度を保持するために必要な3He4He希釈冷凍機について述べ る.まず,DMCの単体動作試験を行うために機械式冷凍機を予冷に用いた希釈冷凍機を整備 する.次に,将来的に多ピクセル化されたDMCの同時動作試験を実施することを想定し,数 100本の信号線が導入された状態で,100 mK以下の温度を安定に保持できる3He4He希釈 冷凍機システムの構築を試みる.

第5章では,試作したKTN誘電体温度計の温度感度測定について述べる.室温から100 mK までの温度範囲における静電容量測定手法を確立し,確立した手法を用いて数種のKTN誘電 体温度計の静電容量を測定する.さらに,測定結果より,KTN誘電体温度計を温度計に用い たDMCの放射線検出信号を見積もり,放射線検出の可能性を調べる.

第6章では,KTN誘電体温度計を使用して組み立てたDMCのアルファ線検出信号パルス 波高分布の計測について述べる.様々なDMCのバイアス電圧印加方法および信号取得方法を 考案し,検出信号パルス波高分布の計測を試みる.

第7章では,本研究のまとめと今後の課題および展望を示す.

(13)

2 誘電体マイクロカロリーメータ

2.1 極低温マイクロカロリーメータ

物質に入射した放射線は,物質にエネルギーを付与し,付与されたエネルギーは熱へ変換さ れ,物質の温度を上昇させる.室温において,物質の比熱は非常に大きいため,放射線吸収 に伴う温度上昇は非常に小さく,熱的な擾乱と区別することは困難である.一方,1 K以下 の極低温領域において物質の比熱は急激に小さくなり,熱的な擾乱も抑制されるため,放射 線吸収に伴う温度上昇を計測可能となる.これを利用して,物質が吸収した放射線粒子1 つ 1つのエネルギーそれぞれを温度上昇として計測する検出器がマイクロカロリーメータであ る.吸収した放射線のエネルギーをE,吸収体および温度計の実効的な熱容量をCv とする と,放射線検出による動作温度T0 からの温度変化は∆T = E/Cv である.例えば,熱容量 Cv = 1012 J/Kである物質がエネルギーE = 5.9 keVのX線光子1つを吸収したとき,計 測可能な大きさの温度上昇∆T =E/C 1 mKを得られる.図2.1に示すようにマイクロカ ロリーメータは,放射線粒子のエネルギーを吸収し熱へ変換する吸収体,吸収体における温度 変化を計測する温度計,極低温を生成する熱浴,温度計と熱浴を熱的に接続する熱リンクから 構成される.温度変化∆T は熱リンクを介して緩和され,マイクロカロリーメータの温度は T0 に戻り,再び検出可能な状態になる.吸収体においてエネルギーが吸収された時刻をt= 0 として,エネルギー吸収にともなう熱化過程の時間を無視できるものと仮定すると,∆T(t)は 時刻t = 0において最大値をとり,∆T(0) =E/Cvである.熱リンクの熱伝導度をGとして,

t >0における熱伝導方程式は,

CvdT

dt =−G∆T(t) (2.1)

と表され,温度変化

∆T(t) = ∆T(0) exp (−t/τd) (2.2) を得る.ここで,τd は減衰時定数τd =Cv/Gである.時定数τdが小さすぎると,極低温ス テージの冷却がエネルギー吸収に伴う温度上昇を上回り,十分な温度上昇を得られない.ま た,τd が大きすぎると,1つの検出信号が時間的に長くなり,許容カウントレートが制限され る,または,十分に減衰する前に次のエネルギー吸収が起こり,正確にエネルギーを推定でき なくなる.τdの典型的な値は数 msである.

(14)

熱浴 熱リンク 温度計 吸収体

2.1 マイクロカロリーメータの模式図

マイクロカロリーメータのエネルギー分解能は,検出器自身の熱力学的な内部エネル ギーの揺らぎに制限される.マイクロカロリーメータ内のフォノン数をN とすると,温度 T =T0+ ∆T におけるフォノンの平均エネルギーはkBT をもつから,

N = CvT

kBT = Cv kB

(2.3) となる.フォノンには相関がなく,ファノ因子F = 1である.ここで,kB はボルツマン定数 である.ポアソン統計を考えると,熱力学的な内部エネルギーの揺らぎδU は,

⟨δU⟩=

N kBT =√

kBT2Cv (2.4)

となる.従って,マイクロカロリーメータの原理的なエネルギー分解能は半値全幅で,

∆EFWHM = 2.35ξ√

kBT2Cv (2.5)

と表せる(1).ここでξ は温度計の特性に由来するパラメータであり,温度計の熱伝導度と熱 容量による詳細な温度に依存し,1 2の値をもつ係数である.式(2.5)から分かるように,

マイクロカロリーメータのエネルギー分解能は検出器の温度と熱容量で決まる.

式(2.5)は,性能に対して,エネルギー分解能,効率,駆動しやすさ,速さが互いに調整可

能であることを示している.優れたエネルギー分解能を達成するには,検出信号の信号対雑音 比を大きくし,温度計の温度上昇を正確に計測する必要がある.そのためには,エネルギー吸 収に伴う温度上昇を大きくすることが有効であり,すなわち,検出器の熱容量Cvが小さいこ とが望ましい.検出器の体積を小さくすると放射線の吸収効率や有感面積が制限されるが,典 型的には,マイクロカロリーメータの有感面積は数100 µm角である.また,熱容量は比熱に も依存するため,比熱を小さくすることも有効である.比熱は格子比熱と電子比熱からなり,

それぞれ温度の3乗と1乗に比例するため,検出器の動作温度を低くすれば良い.典型的な動

(15)

作温度は,3He4He希釈冷凍機や断熱消磁冷凍機を用いて安定に到達可能な100 mK程度で ある.

2.2 誘電体温度計

量子強誘電体と呼ばれる特殊な誘電体は,極低温領域においてその誘電率が温度依存性を示 すことが知られている.本研究では,このような誘電体を2枚の電極ではさんだ静電容量温 度計としてマイクロカロリーメータに利用する.抵抗性マイクロカロリーメータではバイアス 下で常に電流が流れジュール発熱を生じるが,誘電体温度計は理想的には抵抗成分を持たない ため,誘電体マイクロカロリーメータではバイアス下でジュール発熱が生じず,また,磁場の 影響を受けないため,扱いが容易である.そして,一般に量子強誘電体の誘電率は広い温度範 囲にわたって温度依存性を示すため,DMCの動作温度を広い温度範囲から選択できる.さら に,誘電体は材料選択の幅が広いため,原子番号が大きな元素を使い,密度を高くすることで,

誘電体温度計がエネルギー吸収体の役割も持つマイクロカロリーメータを実現できる.

364 F.C. Penning et al./Physica B 211 (1995) 363-365

2. Setup

The (Pbo.45Sn0.55)2P2Se6 was grown using a Bridge- man technique. The crystal (typical size 10 mm x 25 mm) was cut and polished to obtain platelets (size 5 x 5 x 0.8 mm 3) perpendicular to the 1 0 0 direction. The sample had gold sputtered electrodes and was connected to SS coaxial wiring with silver paint and a small amount of epoxy. The borosilicate glass was prepared by the sol-gel process [4] and also had gold plated electrodes soldered to SS coaxial wires.

The two samples were mounted inside the mixing chamber of an adapted SHE dilution refrigerator, placed in a 20 T Bitter magnet [5]. The original metal mixing chamber had been replaced by a home-made, Kapton foil mixing chamber to avoid eddy current heating. The silver sintered heat exchangers were located about 1 m above the field centre, where the magnetic field is reduced by a factor of about 100. The lowest achieved temperature with this dilution refrigerator at 20 T was 16 mK.

Three types of thermometers were mounted in the mixing chamber: Speer 100 fl carbon resistors, a CMN thermometer [6] and a vibrating wire thermometer [7].

Also in the entrance and exit tubes of the mixing chamber Speer 100 f~ resistors were mounted. The CMN ther- mometer was calibrated with the mixing chamber Speer resistor above 100 mK and reproduced the thermodyn- amically correct cooling power of the dilution refriger- ator below 100 mK.

A reliable but somewhat cumbersome temperature ref- erence in magnetic fields is given by the field independent, but temperature dependent, viscosity of the 3 H e J H e mixture in the mixing chamber and this was probed by the vibrating wire thermometer in magnetic fields above I T .

The vibrating wire was a 100 I~m manganine wire, shaped in a semi-circle with radius 2 mm. This device has a mechanical resonance at a few kHz, which can be excited by a small alternating current through the wire in the presence of a magnetic field. The quality factor of the resonance is a measure of the viscosity of the surrounding medium. The magnetic field dependent quality factor in vacuum was measured at 4 K and the quality factor measured with the mixture present, Q3 4, has been cor- rected for this.

3. Results and discussion

In Fig. 1, the capacitance of both samples is shown as a function of the temperature. Our measurements at different frequencies subscribe to the common behaviour of dielectric materials extensively reported in the litera-

L L

0

44.9 . . . . , . . . r , , 6.598 )

44.7 " " ' "

4 4 . 1 ":"

<

43.9 6.588

10 100

6.596

6.594

6.592

6.590 LL 0

T ( i n K )

Fig. 1. Capacitance versus temperature for the (Pbo.45Sno.ss)2 P2Se6 ( *-- ) sample at 0.75 V, and the borosilicate sample ( ~ ) at 7.5 V, both at 1 KHz.

45.25

45.00

4 4 . 7 5 LL

0 44.50

44.25

4 4 . 0 0

. . . . I , , , , , , , , i

"-.,\

\

\ X

\

, , , I , i , i J l l , I

10 100

T ( m K )

Fig. 2. The most sensitive part of the (Pbo.45Sno.ss)2P2Se6 sample for different excitation voltages ranging from 0.1 V (lowest curve), 0.25, 0.75, 1.5, 3.75 to 7.5 V (top curve).

ately a s o 9 0 " 3 . The straight parts of the curves in Fig. 1 to the left of the minimum have sensitivities d l n C / d l n T = 5 x 10 -3 and 8 x 10 -4 for the (Pbo.45Sno.ss)2P2Se6 and the borosilicate sample, respec- tively. The reproducibility of the studied thermometers after warming to 1 K and cooling back is better than our measurement resolution. However, upon cycling between room temperature and 10 mK, slight changes in the value of the capacitance at the minimum and even in the slope

ホウケイ酸

(Pb0.45Sn0.55)2P2Se6

2.2 誘電体静電容量温度計の例.(左軸)(Pb0.45Sn0.55)2P2Se6(右軸)ホウケイ酸.F.

C. Penning et. al.,Physica B 211, 363, (1995).

10

(16)

2.3 誘電体マイクロカロリーメータの動作原理

2.2節に示したように,誘電体静電容量温度計の静電容量は温度に対して依存性を示す.そ こで,誘電体温度計を定電圧でバイアスすると,温度変化に伴う静電容量変化を誘電体温度計 に蓄えられる電荷量の変化として電気的な信号に変換できる.この電荷量を電荷有感型前置増 幅器で回収して電圧パルス信号を整形する.ノイズの観点から,電荷有感型前置増幅器は可能 なかぎり誘電体温度計に近い位置に配置するのが良い.エネルギー吸収のない時間には回路系 に電流が流れないため,この方式によるDMCは,ジョンソンノイズやジュール発熱の発生を 抑制できるという利点がある.また,汎用回路を利用したシンプルな信号読み出しが可能であ

り,SQUID増幅器を利用するときのように厳密な磁気遮蔽が不要である.

DMCの信号読み出し回路を図2.3に示す.DMCは,静電容量Cd の誘電体温度計,吸収 体および熱浴との熱リンクからなる.マイクロカロリーメータの実効的な熱容量および熱リ ンクの熱伝導度をそれぞれCv およびGとする.Cstrは配線の浮遊容量等に起因する電荷有 感型前置増幅器の入力容量である.Cstr は温度等により変動し検出信号に影響を及ぼすが,

Cstr ACf の場合,その影響を十分無視できる(10).誘電体温度計の端子A は,低域通過 フィルタを介してバイアス供給電源に接続される.低域通過フィルタは電気抵抗Rbの抵抗器 と静電容量Cbのキャパシタから構成され,Cd ≪Cbを満たす.端子Bは電荷有感型前置増 幅器の入力へ接続される.DMCが入射粒子のエネルギーE を吸収したとき,マイクロカロ リーメータの温度上昇∆T は時間tの関数として,

∆T(t) = E

Cv [exp(−t/τr)exp(−t/τd)] (2.6) と表される.ここで,τr は誘電体温度計内の熱拡散度によって決定される立ち上がり時定 数であり,τd = Cv/Gは吸収したエネルギーが熱リンクを介して熱浴へ逃げる緩和過程の 時定数である.温度上昇∆T(t) に伴う静電容量 Cd の変化は,∆Cd(t) = (dCd/dT)∆T(t) である.このとき誘電体温度計を定電圧Vb でバイアスしておくと,誘電体温度計の両端に

∆Q(t) = ∆Cd(t)Vb の電荷が誘起される.この電荷∆Q(t)を,電荷有感型前置増幅器を用い て読み出す.電荷有感型前置増幅器では,∆Q(t)をフィードバックキャパシタCf により収集 するため,電荷有感型前置増幅器出力における検出信号電圧は,

Vout(t) =Vb

Cf E Cv

dCd

[ dT τf

τr−τf exp(−t/τr) τf

τd−τf exp(−t/τd) τfr−τd)

r−τf)(τd−τf)exp(−t/τf) ] (2.7) と表される.ここで,τf =CfRf である.一般に,τf ≪τd となるよう電荷有感型前置増幅器

(17)

のフィードバックを決定し,このとき,Vout(t)は,

Vout(t) = Vb

Cf E Cv

dCd

dT [exp(−t/τr)exp(−t/τf)] (2.8) と表される.従って,検出信号の立ち上がり領域は吸収したエネルギーの大きさや信号生成 過程等の検出器の応答を表し,減衰領域は電荷有感型前置増幅器により決定される.さらに,

Vout(t)のパルス波高は,近似的に,

Vout(t) = Vb Cf

E Cv

dCd

dT (2.9)

と表される.検出信号の大きさは誘電体温度計の温度感度dCd/dT に比例するため,温度感度 は検出器の性能を決定する重要なパラメータとなる.図2.3に示すように,誘電体温度計の温 度変化∆T(t)は時定数τd で緩和するが,検出信号パルスVout(t)τd より早い時定数τf で 減衰する.従って,温度感度の温度依存性が小さく,動作温度変化に伴う物性値変化が十分小 さいならば,電荷有感型前置増幅器を利用した信号読み出しにより検出器の不感時間を短くす ることができる.

(18)

冷却部分

電荷有感型前置増幅器

低域通過 フィルタ 誘電体温度計

バイアス供給電源 整形増幅器 2.3DMC.電 荷量の変化として電荷有感型前置増幅器を用いて読み出す.

(19)

2.4 検出信号パルスとノイズの周波数特性

電荷有感型前置増幅器から出力されるDMCの検出信号パルスに含まれることが予想される ノイズをモデル化し,検出信号パルスおよびノイズを評価する.

まず,電荷有感型前置増幅器から出力される検出信号パルスVout(t)の周波数特性を考える.

Vout(t)は式(2.7)で表されるため,Vout(t)のフーリエ変換Vout(ω)は,

Vout(ω) = Vb

Cf E Cv

dCd

dT [FRe(ω) +jFIm(ω)] (2.10)

FRe(ω) = τf

τr−τf

τr1

τr2+ω2 τf

τd−τf

τd1

τd2+ω2 τfr−τd) (τr−τf)(τd−τf)

τf1

τf2+ω2(2.11) FIm(ω) = −τf

τr−τf

ω

τr2+ω2 + τf τd−τf

ω

τd2+ω2 + τfr−τd) (τr−τf)(τd−τf)

ω

τf2+ω2(2.12) となり,Vout(t)のパワースペクトル|Vout(ω)|2は,

|Vout(ω)|2 = (Vb

Cf

E Cv

dCd dT

)2[

FRe(ω)2+FIm(ω)2]

(2.13) と表され,Vout(t)のパワースペクトル密度Pout(ω)は,

Pout(ω)2 = lim

t→∞

|Vout(ω)|2

2t (2.14)

と表される.数学的にはt → ∞で定義されるが,実際の計測における1つの検出信号パルス の記録時間は有限である.また,Vout(t)は,前述のようにτr ≪τf ≪τdであり,図2.3に示 すようにτf の時定数を持つ指数関数にしたがって減衰する.そこで,tt f と近似的 に扱うと,

Pout(ω)2 = 1 10τf

(Vb Cf

E Cv

dCd dT

)2[

FRe(ω)2+FIm(ω)2]

(2.15) を得る.ここで,Vout(t= 5τf)はVout(t)の最大値の1 %以下となる.

次に,電荷有感型前置増幅器から出力されるノイズの周波数特性を考える.

誘電体温度計は熱リンクを介して熱浴とランダムにエネルギーを授受するため,フォノン揺 らぎが発生する.これをフォノンノイズという.フォノン揺らぎによる内部エネルギーの揺ら

δU は, ⟨

δU2

=kBT2Cv (2.16)

である.⟨ δU2

は誘電体温度計の温度揺らぎとなり,静電容量の揺らぎとなるため,放射線の エネルギーを吸収した場合と同様の過程で電荷有感型前置増幅器出力を変化させる.よって,

(20)

式(2.15)においてE

δU21/2

として,フォノンノイズに起因する電荷有感型前置増幅器 出力電圧におけるノイズのパワースペクトル密度PPh(ω),

PPh(ω)2 = 1 10τf

(Vb Cf

dCd dT

)2

4kBT2 Cv

[FRe(ω)2+FIm(ω)2]

(2.17) を得る.

さらに,読み出し回路系においてもノイズが発生する.誘電体温度計および電荷有感型前置 増幅器の抵抗成分において電子がランダムに熱運動するため,ジョンソンノイズが発生する.

電荷有感型前置増幅器の内部ループゲインを無限大と仮定すると,ジョンソンノイズに起因す る電荷有感型前置増幅器出力電圧におけるノイズのパワースペクトル密度PJoh(ω)は,

PJoh(ω)2 = 4kB

1 +ω2τf2

(Rf2

Rd

T +RfTf

)

(2.18) と表される (7).ここで,Tf は電荷有感型前置増幅器の温度,Rd は誘電体温度計を静電 容量と電気抵抗の並列回路でモデル化した場合の電気抵抗成分である.静電正接 tanδ は tanδ = 1/(ωRdCd)であり,理想的な誘電体温度計ではRd → ∞tanδ 0)である.Rd

が有限であれば漏れ電流が発生し,バイアス電圧印加によりジュール発熱が発生する.電荷有 感型前置増幅器内の接合型電界効果トランジスタ(JFET: Junction Field Effect Transistor) におけるチャネル幅の変動に起因する電荷有感型前置増幅器出力電圧におけるノイズのパワー スペクトル密度PFET(ω)は,

PFET(ω)2 =eJFET2

[

1 + Rf

Rd

√1 +ω2R2d(Cd+Cstr)2

1 +ω2τf2

]2

(2.19) と表される(7).ここで,eJFET2はJFETの平均二乗ノイズ密度の公称値である.

検出信号パルスのパワースペクトル密度 Pout(ω) およびフォノンノイズ,ジョンソンノイ ズ,JFETノイズに起因する電荷有感型前置増幅器出力電圧におけるノイズのパワースペクト ル密度PPh(ω),PJoh(ω),PFET(ω)を図2.4に示す.DMCの動作温度はT = 100 mK,温度 感度dCd/dT = 100 pF/Kを仮定した.誘電体温度計内の熱拡散の時定数τr= 1 µs,熱リン クを介した熱の授受の時定数τd = 1 msとした.その他のパラメータはエネルギー数keV の X線検出に適したDMC構造を採用して,表2.1に示す通りであり,図2.4の黒線はPout(ω) 赤線,青線,緑線はそれぞれPPh(ω),PJoh(ω),PFET(ω)を表す.Pout(ω)およびPPh(ω)は 相似形であり,熱拡散,電荷有感型前置増幅器,熱リンクの特性にそれぞれ依存するため,周 波数τd1 = 103 Hz,τf1 = 104 Hz,τr1 = 106 Hz付近において,それぞれロールオフが 起こる.PJoh(ω)は周波数τf−1 = 104 Hz付近においてロールオフが起こり,PFET(ω)は周 波数103 Hz付近においてロールオンが起こる.したがって,電荷有感型前置増幅器出力電圧

(21)

における全ノイズは,約104 Hz以下の周波数領域ではフォノンノイズ,約104 Hz 以上の周 波数領域ではJFETノイズに起因する成分が支配的となる.パワースペクトル密度は,理論 上,図2.4に示す特性を持つが,実際の計測における1つの検出信号パルスあたりの記録時間 は5τf 程度であるため,(5τf)1 程度以下の周波数領域におけるパワースペクトル密度は意味 を持たず,無視できる(0と考える).一般的な抵抗性マイクロカロリーメータでは,DMCと 比較して抵抗成分が大きくジョンソンノイズに起因するノイズの成分が大きいため,高周波領 域においてPJoh(ω)がPFET(ω)を上回っている.

2.4 検出信号パルスおよびノイズのパワースペクトル密度.(黒)検出信号パルス Pout(ω) (赤)フォノンノイズ由来のノイズPPh(ω) (青)ジョンソンノイズ由来のノイズ PJoh(ω) (緑)JFETノイズ由来のノイズPFET(ω)

(22)

2.1 検出信号パルスおよびノイズのパワースペクトル密度の計算に用いたパラメータ

パラメータ 数値

入射エネルギー E = 6 keV DMCの動作温度 T = 100 mK 電荷有感型前置増幅器の温度 Tf = 100 mK 誘電体温度計の熱拡散の時定数 τr= 1 µs

熱リンクを介した緩和時定数 τd = 1 ms 電荷有感型前置増幅器の時定数 τf = 100 µs

DMCの熱容量 Cv= 1 pJ/K

熱リンクの熱伝導度 G= 1 nW/K 誘電体温度計の静電容量 Cd = 100 pF 誘電体温度計の温度感度 dCd/dT = 100 pF/K 誘電体温度計の並列電気抵抗 Rd = 100 MΩ 電荷有感型前置増幅器入力の浮遊容量 Cstr = 50 pF 電荷有感型前置増幅器のフィードバック容量 Cf = 1 pF 電荷有感型前置増幅器のフィードバック抵抗 Rf = 100 MΩ

JFETの平均ノイズ密度の公称値 eJFET = 1.3 nV/ Hz DMCのバイアス電圧 Vb = 10 V

2.5 エネルギー分解能

図2.4に示すパワースペクトル密度より,半導体検出器等において広く利用されている整形 増幅器を用いた電荷有感型前置増幅器出力電圧の整形が,信号ノイズ比(SN: Signal-to-Noise

ratio)の向上およびエネルギー分解能の改善に有効である可能性がある.市販の整形増幅器は

図2.3に示すように,CR微分回路とRC積分回路から構成される.n≥4の場合,整形増幅 器出力電圧は近似的にガウス波形と見なすことができ,(CR)(RC)4型整形増幅器の伝達関H(ω)は,

H(ω) =τp4ω(ω+ 1/τp)5 (2.20) と表される.ここで,τp は整形増幅器において設定する整形時間である.

DMCの検出信号パルスVout(t)に対する整形増幅器出力電圧Vshap(t)のパワースペクトル 密度Pshap(ω)は,

Pshap(ω)2 =Pout(ω)2H(ω)2 (2.21)

(23)

と表され,電荷有感型前置増幅器出力ノイズ電圧Vout noise(t)に対する整形増幅器出力電圧 Vshap noise(t)のパワースペクトル密度Pshap noise(ω)は,

Pshap noise(ω)2 =Pout noise(ω)2H(ω)2 (2.22) と表される.整形増幅器を用いた波形整形による検出信号パルスとノイズのパワースペクトル 密度の変化およびそれらと整形時間の関係を図2.5,図2.6,図2.7に示す.赤の点線および実 線はそれぞれPout(ω)およびPshap(ω),青の点線および実線はそれぞれPout noise(ω)および Pshap noise(ω),黒の実線はH(ω)を示す.また,図2.5,図2.6,図2.7において,整形時間は それぞれτp = 1 µsτp = 10 µsτp = 100 µsとした.Pout(ω)およびPout noise(ω)は,図 2.5,図2.6,図2.7において同じものである.計算に用いたパラメータは表2.1に示す通りで ある.

2.5 整形増幅器(τp = 1µs)による検出信号パルスとノイズのパワースペクトル密度の 変化.(赤点線)電荷有感型前置増幅器出力における検出信号パルスPout(ω) (青点線)電 荷有感型前置増幅器出力におけるノイズPout noise(ω) (赤実線)検出信号パルスに対する 整形増幅器出力Pshap(ω) (青実線)ノイズに対する整形増幅器出力Pshap noise(ω) (黒実 線)整形時間τp= 1 µsとした整形増幅器の伝達関数H(ω)

(24)

2.6 整形増幅器(τp = 10 µs)による検出信号パルスとノイズのパワースペクトル密度 の変化.(赤点線)電荷有感型前置増幅器出力における検出信号パルスPout(ω) (青点線)

電荷有感型前置増幅器出力におけるノイズPout noise(ω) (赤実線)検出信号パルスに対す る整形増幅器出力Pshap(ω) (青実線)ノイズに対する整形増幅器出力Pshap noise(ω) (黒 実線)整形時間τp= 10 µsとした整形増幅器の伝達関数H(ω)

(25)

2.7 整形増幅器(τp = 100 µs)による検出信号パルスとノイズのパワースペクトル密 度の変化.(赤点線)電荷有感型前置増幅器出力における検出信号パルスPout(ω)(青点線)

電荷有感型前置増幅器出力におけるノイズPout noise(ω) (赤実線)検出信号パルスに対す る整形増幅器出力Pshap(ω) (青実線)ノイズに対する整形増幅器出力Pshap noise(ω) (黒 実線)整形時間τp= 100 µsとした整形増幅器の伝達関数H(ω)

時間領域と周波数領域においてエネルギーは保存されるはずであるから(パーセバルの定 理),Vout(t)およびVshap(t)の平均電圧VoutおよびVshapは,それぞれ,

Vout2 = 1 2π

+

−∞

Pout(ω)2 (2.23)

Vshap2 = 1 2π

+

−∞

Pshap(ω)2 = 1 2π

+

−∞

Pout(ω)2H(ω)2 (2.24) と表される.また,Vout noise(t)およびVshap noise(t)の平均電圧Vout noise およびVshap noise

は,それぞれ,

Vout noise 2 = 1

+

−∞

Pout noise(ω)2 (2.25)

Vshap noise2 = 1 2π

+

−∞

Pshap noise(ω)2 = 1 2π

+

−∞

Pout noise(ω)2H(ω)2 (2.26)

Fig.  1. Capacitance versus temperature for  the (Pbo.45Sno.ss)2  P2Se6 ( *-- ) sample at 0.75 V, and the borosilicate sample ( ~  ) at  7.5 V, both  at  1 KHz
図 2.5 整形増幅器( τ p = 1 µs )による検出信号パルスとノイズのパワースペクトル密度の 変化.(赤点線)電荷有感型前置増幅器出力における検出信号パルス P out (ω) (青点線)電 荷有感型前置増幅器出力におけるノイズ P out noise (ω) (赤実線)検出信号パルスに対する 整形増幅器出力 P shap (ω) (青実線)ノイズに対する整形増幅器出力 P shap noise (ω) (黒実 線)整形時間 τ p = 1 µs とした整形増幅器の伝達関数 H(ω) .
図 2.6 整形増幅器( τ p = 10 µs )による検出信号パルスとノイズのパワースペクトル密度 の変化.(赤点線)電荷有感型前置増幅器出力における検出信号パルス P out (ω) (青点線)
図 2.7 整形増幅器( τ p = 100 µs )による検出信号パルスとノイズのパワースペクトル密 度の変化. (赤点線)電荷有感型前置増幅器出力における検出信号パルス P out (ω) (青点線)
+7

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