第 6 章 誘電体マイクロカロリーメータの放射線検出信号パルス波高分布測定 73
6.2 DMC の交流電圧バイアス駆動
6.2.3 正弦波電圧バイアス
図6.15 矩形波バイアス印加時のDMCの応答.バイアス電圧の急激なスイッチングによ り電荷有感型前置増幅器出力が大きく乱れる.
数が250 µsであり,約5 mVppのノイズを含んでいた.検出信号パルスのベース電圧ノイズ はバイアス電圧値には依存しない結果が得られた.取得した検出信号パルスには,図6.16に 示すような立ち上がり時間が異なる2種類のパルスが含まれていた.これは検出信号の生成過 程の違いであると考える.
立ち上がり時間が約10 µs の検出信号パルス(速い検出信号パルス)は,図6.17(a)のよ うに,KTN誘電体温度計の,金電極に覆われずKTN誘電体結晶がさらされている領域にア ルファ線が入射したイベントと考えられる.このようなイベントの発生頻度を見積もった.
KTN誘電体結晶の大きさは前述のように1×2 mm2である.KTN誘電体結晶上の金電極に 覆われていない領域を周囲50 µm幅とする.正または負の電圧パルスのみを観測しているた め,DMCの有感時間はバイアス電圧がVb ≤0 VまたはVb≥0 Vであるときであり,測定時 間の50 %とすると,KTN誘電体結晶にアルファ線が直接入射するイベントは131 events/h と見積もられた.一方,速い検出信号パルスの取得頻度は約40 events/hであった.本測定は DMCを正弦波電圧でバイアスしているためバイアス電圧値が非常に小さい時間があること,
アルファ線源から放出されるアルファ線の角度分布が不明であることを考慮すると,取得頻度 の実測値と見積もりは近い値をとると言える.
立ち上がり時間が約30 µsの検出信号パルス(遅い検出信号パルス)は,バイアス電圧が
|Vb| ≥ 7 Vの場合に主に取得できた.この検出信号パルスは図6.17(b)のように,アルファ 線がKTN誘電体温度計上の金電極に入射し,金電極から KTN誘電体結晶へ熱が拡散する イベントと考えた.このようなイベントの発生頻度を見積もった.電極面積のうち配線用銀 ペーストに覆われていない領域を35 %とする.DMCの有感時間はバイアス電圧がVb≥7 V であるときであり,測定時間の 20 %とすると,金電極に入射するイベントの発生頻度は 200 events/hと見積もられた.一方,遅い検出信号パルスの取得頻度は約10 events/hであ り,見積もりと比べて小さい値であった.その原因として,検出信号パルスの立ち上がり時 間30 µsに対して,波形整形時間が10 µsであり,波形整形が適当でなく,検出信号パルス を効率的に取得できていない可能性が挙げられる.また,配線に用いた銅線や銀ペーストによ り,想定以上の熱の散逸があること,DMCの実効的な熱容量が大きくなっていることが考え られる.
図6.16 立ち上がり時間が異なる検出信号パルス.(a)動作温度100 mK,バイアス電圧
−10 V,立ち上がり時間30µs(b)動作温度200 mK,バイアス電圧+8 V,立ち上がり 時間10µs.
アルファ線 アルファ線
0.05 mm
0.05 mm
1 mm
2 mm
KTN誘電体
金電極 銀ペースト
図6.17 検出信号パルスのアルファ線入射依存性.(a)速い検出信号パルスはKTN誘電体 結晶(b)遅い検出信号パルスは金電極に入射したイベントと考える.