80戸のマンションで1期・2期の理事長を務めたAさんは、
管理会社が持ってきた第1期の決算書を見て「管理業務委 託費」という一項目だけで年間800万円もの支出があるのに 驚き、管理会社にその内訳を提出するように命じた。
しかし、管理会社は「管理委託契約書の中で、管理委託 業務費は監査の対象外です。ただ、仕様書には業務費の 内訳項目が出ています。」との回答。
さっそく、管理委託契約書・別表の仕様書を見ると、管理 委託費の内訳は事務管理手数料・清掃派遣費・定期清掃費・
建物設備点検費・植栽費・貯水槽清掃費・除雪費・消防設 備点検費・緊急通報システム費・自動ドア保守点検費など が含まれていて、それぞれの契約の内容・期間・金額が明 確になっていない。そこで、再び「第2期は、この内容では契 約更新をしない。内訳を明確にしなさい。」と指示した。
第2期予算書は、除雪費・植栽費は管理組合が契約先を 探し独自に契約することより合計約30万円減額。管理会社 経由で入荷している灯油単価が高すぎるので、管理組合 が灯油販売会社と交渉して単価5円減額し、年間20万円 節約。その他、事務管理手数料・清掃業務費を見直させて 合計200万円ほど支出を減らした。
第3期は各種契約のほとんどを管理会社経由にせず、委 託先と直接契約することにより、さらに年間100万円減額し たほか、管理委託契約を見直して複数の管理会社から見 積書を徴収し比較検討のうえ、管理会社も変更してしまった。
60戸のマンションで、会計担当理事になったBさんは10年 前に監事を引き受けて失敗した時のことを思い出した。監 査のときもそれまで会計監査などしたことがなく、管理会社 の担当者から、「ここと、そこの数字、合ってますね。」「次は、
この書類のここと、預金の残高証明書が一致していますね。」
などと、誘導されて30分で監査を終えて印鑑を押した。しかし、
定期総会の席上、前年度の理事長から「昨年度の繰越金 が100円間違っているから、もし今年度の決算書が正しいと すれば、繰越金が100円違うはずだ。残高証明書と繰越金 が何故一致しているのか。」と指摘されて右往左往した。
10年経った今でも会計担当理事として何をどうしてよいか わからない。
管理組合会計の問題点は標準管理規約のようなモデル がないし、どんなところに気をつけたら良いのかよくわからない。
監査の仕方をどこかで教えてくれるわけでもなく、結局は管 理会社の言いなりでよくわからないまま印鑑を押してしまう のではないか。
Bさんは手元にある15年間の議案書をもとに、15年間の 決算書を1枚にまとめてみた。すると、15年間管理費を一度 も値上げしていない中で、繰越金がどんどん減っていること に気がついた。第1期から第5期まで毎年剰余金を修繕積 立金会計に繰り入れていたのに、その金額が年々減って、6 期からは繰越金として扱うようになり、その金額が最近は少 しずつ減りはじめている。繰り越し金が減るということは、単 年度で赤字ということだ。これまでの定期総会では、管理会 社はいつだって「このマンションの会計は、たいへん健全です。」
と言っていたが、もう、単年度赤字が4年続いていて、このま までは、来年度は管理費の値上げが必要になる。その理由は、
事務管理費や管理員業務費などが、毎年わずかずつなが
ら値上げを繰り返してきたからだ。
Bさんは、さっそくこの表を理事会に提出して説明し、来 年度の予算編成はこの点を踏まえて管理組合主導で組み 立てようと決めた。
70戸のマンションの会計担当理事になったCさんは2カ月 ほど経ってから、管理組合理事長だという会社の同僚に、
会計担当理事の仕事について尋ねた。
「毎月の支出伺い書の段階で予算とチェックすることだよ。
それが全ての基本だよ。」
Cさんのマンションでは、年4回(3カ月毎)収支報告書が 届くだけで、毎月の支出伺い書など見たこともない。同僚に 聞いたら、「支出伺い書がないということは、管理会社が独 自の判断で管理費を引き出せるということだね。管理委託 契約書でそれができる仕組みになっているのだろうが、自分 の財布の中身を他人が勝手に引き出せると考えたら、納得 できるかい。」と言われた。
次の理事会でこの話をしたところ、理事長が興味を示し、
さっそく管理会社に話をしてみた。「毎月支出伺い書をつく って、わざわざ理事長に印鑑をもらいに来るのですか。その ときは必ず理事長がいてくれるのですか。そんな面倒なこと をするなら事務管理手数料を上げてもらわないといけませ んね。」と不満顔で言う。
それを聞いた理事長は、自らも他のマンションの会計につ いて何人かの友人に問い合わせてみたが、「支出伺い書 がなかったらどうやって会計を管理するんだ。管理会社に 全てお任せなんて、管理組合のカネを預かっている理事長 としての自覚があるとは思えないね。」とまで言われる始末だ。
理事長はCさんとともに、いくつかの管理会社に電話して 調べてみたら、支出伺い書で理事長印をもらわないと、預 金を1円も引き出せないというシステムを取っている管理会 社と、支払一任代行方式と言って、管理会社に支払いを一 任するシステムを取っている管理会社があることを知った。
理事長は理事会で話し合って、このマンションでも支出伺い 書を基本に会計処理をしてもらいたいと管理会社に申し入れ、
来月から試験的に運用してみることに決まった。
50戸のDマンションでは、管理費の支出を少しでも抑える 方法はないかと知恵を出し合ったところ、玄関ホールや一部 の廊下の天井にある60ワット白熱灯を電球型蛍光灯に変え るだけで、20カ所で年間52,000円節約できることがわかった。
【計算根拠】
常夜灯を平均して1日12時間点灯すると仮定する。
・60ワット電球では、年間60×12×365/1,000=262.8kwh 電気料金単価を 16.55円+消費税≒17.3円とすると 262.8×17.3=4,546円 ……①
点灯時間は、延べ4,380時間なので、電球は量販店で買い、
4回くらい取替える。
105円×4個=420円 ……②
年間経費の合計は、①+②=4,966円 ……③
・電球型蛍光灯(60ワット相当の明るさ=12ワット)を量販 店で買うと、
1,380円+消費税=1,449円 ……④ 同じ時間点灯しても、電気代は1/5で済むので 909円……⑤
電球型蛍光管の寿命は6,000時間なので、だいたい500日もつ。
毎年新品に買い換えても、④+⑤=2,358円 ……⑥
・③−⑥=2,608円だから、20カ所あれば、52,000円になる。
理事会では「すぐにやってみよう」と一斉に電球型蛍光 灯に取り替えた。
マンション管理適正化法第76条には、財産の分別管理に ついて、マンション管理業者は管理組合から委託を受けて 管理する修繕積立金等については、自己の固有財産及び 他の管理組合の財産と分別して管理しなければならないと 定められました。
この条文に基づき、同法律施行規則第87条では、原則と しては、修繕積立金等は区分所有者から管理組合名義の 口座に収納する方式としながら、管理会社が保証を受けて いることを条件に「収納代行方式」「支払一任代行方式」
などの方法も認めました。
事例3のように、管理組合会計の基本はこの点を確認す ることからはじめましょう。管理委託契約はあくまで管理組合 が主体ですから、会計のシステムをどのようにしたいのかを はっきりと伝えて話し合うことが必要です。
数年前までは、通帳名義を巡るトラブルがたくさんありました。
現在は、通帳と印鑑を、それぞれ誰が保管するかという 点がポイントになります。
通帳と印鑑を、理事長と会計担当理事が別々に保管し ていたにもかかわらず、このふたりが共謀して数千万円もの 修繕積立金を使いこんだという事例があります。
使い込みを防ぐ完璧な方法はありませんが、通帳は管理 会社が持ち、通帳の届印は理事長印及び会計担当理事印
事例3
支出伺い書を導入し 会計を管理
事例4
電気代の節約をして 管理費の支出を圧縮
適正な会計と監査のヒント
では、
事例では、いずれも管理会社への管理委託契約 の内容や管理会社の会計処理への疑問がきっかけ になって、会計及び監査の方法を見直しています。
会計について法律の基本的な考え 方から確認してみましょう。
の副印とし、それぞれ別途に保管するという徹底した方法も あります。このようにすれば、よほどのことがない限り不祥事 にはならないと思われます。
通常は通帳を管理会社が持ち、印鑑を理事長が持って、
毎月「支出伺い書」で承認された金額について払い出し票 に理事長印をもらって、通帳から引き落とすことができるとい う形をとっています。
マンションの会計は予算主義ですので、予算書に記載さ れた勘定科目残高を常に把握して、実績との比較をしなが ら予算を執行していくという管理の方法をとります。毎月の 月次決算書によって、予算と実績との比較を確実にしてお くことが肝要です。
マンションの会計監査のしかたについて、具体的に書か れた参考書が少なく、監事になった方は試行錯誤しながら 監査をしてきたのが実情でしょう。
「マンション管理の知識」((財)マンション管理センター)には、
会計監査の具体的かつ詳細な進め方について記載され ていますので文末に要約して紹介します。
1.管理組合の財務会計帳票には、標準的なものはないので、
管理組合は管理会社と協議しながら対応していく 2.会計監査では、金額の整合の確認はもちろんのこと、実
績の内容も吟味する
マンション管理適正化法
(財産の分別管理)
第76条 マンション管理業者は、管理組合から委託を受けて管理する修 繕積立金その他国土交通省令で定める財産については、整然と管理す る方法として国土交通省令で定める方法により、自己の固有財産及び他 の管理組合の財産と分別して管理しなければならない。
マンションの管理の適正化に関する指針
二 マンションの管理の適正化の推進のために管理組合が留意すべき 基本的事項
4 管理組合の経理
管理組合がその機能を発揮するためには、その経済的基盤が確立され ていることが重要である。このため、管理費及び特別修繕費等について 必要な費用を徴収するとともに、これらの費目を明確に区分して経理を 行い、適正に管理する必要がある。
また、管理組合の管理者等は、必要な帳票類を作成してこれを保管す るとともに、マンションの区分所有者等の請求があった時は、これを速や かに開示することにより、経理の透明性を確保する必要がある。
監事は収支決算書類に基づいて会計監査を行う。監査の主たる目的 は「予算に基づき管理行為が適正かつ効率よく実施されたか」「管理組
合の財産状況はどうなっているか」を確認することであり、帳票類を含め 会計年度全般の書類を確認する。
イ.収支報告書
a)形式の確認……収支報告書の形式について、下記の点を確認する。
( i )目的別会計ごとに作成されているか
(i i)対象となる期間が表示されているか(基本的には、1年以内)
(iii)予算項目と実績とが対応しているか(予算書との対比)
b)内容の確認
( i )期間内の収支がすべて計上されているか
期間内に発生したすべての収支が計上されていることを確認す る必要があり、収入金額のチェックでは実収入額だけでなく管 理費等の請求金額を把握し、また支払金額の照合では各契約書・
発注書等の点検が必要である。
(i i)予算との比較
実績数値と予算を比較する際、実績数値が予算内であっても 予定されていた点検・補修が行われていないことによる支出減 では、マンションの資産価値の低下あるいは事故発生の危険性 が高まることを認識し、あくまで適正かつ効率よく実施されたか を基準に確認する必要がある。
ロ.貸借対照表 a)形式の確認
( i )会計年度末日現在となっているか (i i)貸方・借方の数値が一致しているか b)内容の確認
( i )預金残高が、金融機関等発行の残高証明書と一致しているか (i i)未収・未払い等が正しく計上されているか
(以下略)
法令
「マンション管理の知識」による会計監査の仕方 適正な会計と監査のポイント
PO INT
追加資料100ページ参照