工事の計画とは、工事範囲・工事期間・工事金額・
資金の調達方法なども含めて、工事の大枠を決める ことです。この段階で十分な時間をかけ、総会の前に、
工事説明会を開くと、その後の修繕工事の進め方が 円滑になります。そうした事例を見ながら、重要なこ とがらを整理していきましょう。
事例1
工事計画の方針を巡って、
意見調整に半年かけた管理組合
事例2
「工事計画説明会」を
臨時総会の10日前に実施
・建物診断調査の結果についてのまとめ ・建物診断調査結果の分析について報告 ・提案見積書の徴収(2社)
・提案型見積書の分析と統一仕様書の作成 ・統一仕様書による見積の再徴収
・工事経歴書により施工調査の実施
・ヒアリングの実施により、総会に推薦する施工会社の決定 2.工事計画案(工事範囲・工期・施工会社など)
3.資金計画(修繕積立金でまかなえるのか)
多くの出席を呼びかけたところ、38戸が出席。通常の総 会出席者より10戸ほど多かった。修繕委員が資料に沿って 説明し、建物診断の結果についてはカラースライドを映写す るなど、よりよく理解してもらえるように工夫した。
約1時間ほどで説明を終えたが、その後の質疑応答では 以下のような質問が出た。
・1階の専用庭に樹木を植えているが、足場との関係は どうなるのか
・ベランダの床の痛みがひどいが、修繕したらどの程度に 直るのか
・外壁の色を変えることはできるのか
・施工会社の推薦までの過程を、もう少し詳しく説明し て欲しい
・ベランダで洗濯物が干せない期間は、いつからいつま でか
・どの程度の騒音や振動が予想されるのか
・足場が架かる部分に、自転車置き場があるが工事中は どうするつもりか
・足場の架かる部分に、5台分の駐車スペースがあるが、
どうするのか
・修繕積立金に余裕がないので、万一追加工事が発生 したらどうするのか
・網戸の取替は、応分の費用は払うから、まとめて発注 できないか
・ベランダに置いてあるクーラーの室外機は、いつまでに 撤去すればよいか
・工事中、職人さんが室内を通って出入りすることはある のか
・エレベーターの「キズ」は、今回の工事で直すのか ・ベランダにはみ出しているモノを、工事期間中預けてお
けるところがないか
・共用玄関の掲示板の前に立つと、センサーで自動ドア が開いてしまうのでこの機会に掲示板の位置を変えて 貰えないか
・共用階段の廊下は、かなり汚くなってきたが、今回は 修繕しないのか
……など、質疑応答は、1時間30分ほど続いたが、修繕委 員が交代で回答し、参加者の顔を見ると納得を得られたよ うに思えた。数日中に、この日の質疑応答を詳細に記録した、「説 明会報告書」を作って全戸に配布し、説明会に出席できな かった区分所有者にも理解してもらえるよう配慮した。
説明会から10日後に臨時総会を開いたが、出席24+委 任状28で、大規模修繕工事の計画が議決された。
内容を理解してもらうための説明会と、議決するための 総会を切り離したほうがよいと考えられます。
大規模修繕工事は少なからぬお金をかけての「一大事業」
ですし、実際に工事が始まると入居者の方々の協力が不可 欠ですから、工事計画の内容を皆さんに納得してもらうこと は大規模修繕工事を成功に導くための最大のポイントです。
事例1では、改修専門業者の見積もりでは修繕積立金 の範囲で工事ができると思っていたところ、翌年、設計事務 所が建物診断した結果多くの問題が見つかり、工事予定 額が膨れ上がったために、一時金の徴収が必要になりました。
この事例では、工事の内容をどのようなものにするのか、
すなわちマンションという財産をどのように守るかという考え 方を繰り返し説明しています。理事会が全力を尽くして住 民の説得を続け、6カ月の時間をかけたことは評価できます。
もちろん時間をかければ合意形成ができるということでは ありませんが、この事例の場合は、単純に多数決というわけ にはいかず、ひとりでも一時金を払えない(払わない)人が いれば工事に着手できなかったと思われますので、全員の 合意を取り付けるために何度も説明会を開き、意見を聞い ています。なお、この事例とまったく同じ状況で、結局住民 の合意が得られずに大規模修繕工事の内容を白紙に戻し て仕切直した事例もあります。
最後に「妥協案」という言葉が出てきますが、物事を決め るときには白か黒かだけでなく、必ず第3の解決策があるも のです。この例の場合、1億8000万円の工事を部位別に分 割して、たとえば屋上防水などを数年先に延ばせないかと いう検討をし、当面の工事費用を圧縮するような段階的な 工事計画を考えることができたかも知れません。
事例2では、一般的な工事計画説明会の進め方の例を、
具体的に紹介しました。
工事計画説明会の実施時期は、総会開催予定日の1か 月前くらいが適当でしょう。説明資料は開催日の1週間前頃 までに全戸に配布します(賃貸型住戸の場合は、所有者に
郵送するほかに、入居者にも同じものを配布しておきます)。
マンションの規模や実状に合わせて、説明会を何回か開催 することも考えましょう。
成功への糸口
工事説明会を省略して、いきなり臨時総会の議案 書の形で工事計画を提案するのは得策ではありません。
大規模修繕工事の計画を説明するには時間がかかり、
それに対する質疑応答も長時間に及ぶことが多いので、
場合によっては議論が沸騰して収拾がつかなくなっ たり、時間で切って無理に採決したりすると、のちに禍 根を残すことにになります。
そのため に、
配布する「大規模修繕工事計画」は説明会資料として だけでなく、総会提案事項の説明資料としても活用できま すし、総会にも説明会にも出席できない区分所有者の理解 を得るためにもある程度詳細な記述が必要です。
いずれの事例でも、総会の議決を得るために並々ならぬ 努力をしていることがわかります。大規模修繕工事の実施 については、確実に総会で議決されるように万全の準備を しておくことはもちろん、実際には全員の賛成が得られない と工事の実施が難しくなりますので、工事計画説明会はた いへん重要です。
では、「大規模修繕工事計画書」は具体的にどのように 作ればよいのでしょうか。そのポイントを、順に解説します。
①大規模修繕工事を実施する理由
建物がこの程度劣化しているという実情の説明。また、
大規模修繕工事をしないまま放置しておくと、将来、どうなる のかということの説明を中心に記述します。
修繕委員会の活動経過を、ここに記載しておくと、大規 模修繕工事のためにどのような準備をしてきたかについても、
知らせることができます。
②大規模修繕工事を行う工事範囲
共用部分のどこを修繕するのかをはっきり示すことが大 切です。抽象的な書き方では誤解を招き、あとからトラブル の原因になります。例えば、「各戸の玄関ドアの廊下側は共 用部分だから工事の対象だが、室内側の塗装は専有部分 の扱いになる」など。
できれば図や写真を添付して、工事範囲を示すと、なお 分かりやすくなります。
③大規模修繕工事の工事期間
工事期間が、およそ○月○日ごろから×月×日ごろまでに なるかを記し、できれば、期間中の作業時間帯や、休日につ いても明示した方が安心感を持たれます。
④大規模修繕工事の工事費用
最も重要なポイントで、まず工事費用はいくら、それは予算 額か、見積額か、工事費用の主な内容はどういう費目かなど を記載します。自分たちのお金がどんなふうに使われるのか 関心を持たない人はいませんし、質問の集中する部分です。
次に、修繕積立金の積立残高はいくらあって、臨時費用 の徴収や借入れが必要かどうかなど、資金計画を正確に記 述します。
借入れる場合は、さらに、借入れ先、金利、借入期間、返 済方法などの詳細が必要です。
⑤大規模修繕工事を発注する施工会社の選定 最も「慎重な」説明を必要とする項目です。
すでに施工会社を選定している場合と、工事計画承認 後に選定する場合とでは、おのずと書き方が異なりますが、
これから選ぶ場合は後述の「施工会社の選定」を参考にし
てください。
すでに決定している場合も、決定経過を詳細に記述する ことが大切です。また、マンション特有の事情がある場合は、
そのことを明記しておくほうがよいと思われます。
⑥選定した施工会社の内容
選定が終わっている場合は、施工会社の社名、所在地、
業務内容、工事実績、工事関係者の組織体制、工事費用 支払いの条件など。
⑦工事費の支払方法
着手金を前払いするのではなく、工事が出来上がった分(出 来高)を順次清算する方法を採用した事例もあります。何 回に分けて、いくらを、いつ、どういう方法で払うかを明示し ます。
修繕積立金が工事完成時に不足している場合、最終支 払いを、工事完成後3カ月待ってもらう交渉をし、そのことを 支払い条件に盛り込んで契約した事例もあります。
⑧生活面ヘの影響など
例えば外壁改修工事であればベランダの片づけ、排水管 改修工事であれば水回り部分の使用制限など、入居者の 協力を得られないと工事が進められません。
ベランダのクーラー室外機は、区分所有者の負担で一時 撤去して貰うことなども明記しておくとよいでしょう。
工事期間中にわたって、できるだけ具体的に、詳しく記述 しておくことがポイントです。
この点をきちんと説明しておかないと工事がはじまってから、
トラブルを招くことがあります。とくに、賃貸化住戸の場合は 区分所有者よりも占有者(賃借人)に、この点をしっかり知ら せておくよう注意が必要です。
⑨住戸室内ヘの立入り
室内立入りが必要な場合は、具体的に、いつごろ、何時 間程度、室内のどの部分に工事作業との関係が生まれる かなどを説明します。玄関のドアを塗装する、配管工事をする、
などの場合です。
説明が不足したために、立入りができない住戸が生まれ て計画した工事日程が狂うことがあります。それによって順 送りに工事日程が変更になり、多くの人に迷惑をかけるばか りか、その分だけ工事費用が増加することも説明して理解を
求めます。
⑩その他
エレベーターの使用制限の有無、騒音や振動・臭気など の予告、子供の事故防止のための注意など工事に際して 知っておいて欲しいこと。
また、工事期間中の現場事務所や資材の置き場や工事 用車輌の駐車場、自転車置き場の移設、工事作業員のた めの仮設トイレの設置などわかる範囲で予告しておきます。
以上、「大規模修繕工事計画書」に記載すべきことがら