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施工会社の選定

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られながら手法が確立しているとは言えず、それ ぞれのマンションが試行錯誤しているという状況 です。理事会や修繕委員会が施工会社の選定に最 善を尽くしても、そのことに対してマンションの住 民から正当な評価が得られないという不満も多く 聞きます。 

 ここでは、いくつかの事例を通して「施工会社を 選ぶ物差し」とは何かを探ってみましょう。 

事例1

施工会社の選定をめぐって、 

理事会と修繕委員会が対立 

施工会社の選定 

び割れの処理をしないで塗装をしたようだね。白い粉が吹 くのは、ひび割れに雨が染み込んでいるからだよ。」という。

まさに不安が的中した。 

 BさんはAさんに対し、「あなたが仕様書通りに仕事をさせ ると言ったのに、きちんと下地補修をしていないからひび割 れに水が入っている。E社にやり直しを命じて欲しい。」と 申し入れた。Aさんは「私はもう理事長ではない。そういう話 は今の理事長にしてくれ。」と言うので、やむなく新理事長 を通してE社に連絡したが、担当者が一度見に来たきり、手 直しをする気配がない。 

 このころから、同じ疑問を持ったもとの理事や修繕委員の あいだで、昨年の工事を巡って、AさんとE社との関係が取 りざたされるようになった。やがて噂が噂を呼び、ついにAさ んは嫌気が差してひっそりとマンションを去った。Bさんは、こ んなことになるならもう少し大人になって、工事中も修繕委 員としてE社の仕事ぶりをチェックすべきだったと後悔して いる。 

           

 12年目、60戸のマンションでは、理事と修繕委員6人が施 工業者の選定を巡って、議論を続けていた。これまでに、マ ンション改修工事が得意で、工事実績の多い3社を選び出し、

この中から1社を選ぼうという方針が決まっていた。 

 建築士のFさんは「外壁塗装の工事でいちばん大事なこ とは、下地をしっかり作ることだ。それをきちんとやってくれる 良心的な業者を探したい。」と言った。 

 「下地をしっかり作ったことが具体的に見分けがつくだろ うか。総会で組合員に説明できるだろうか。見えない部分だ

けに難しいね。」 

 「仮に、同じような出来映えだとして二つの会社の見積 金額に10%くらい差があったら、組合員は当然安い方に決 めろということになるだろう。」 

 「そもそも仕様書で修繕の方法を指示して見積もりを取る のだから、仕事の中身は同じでなければならない。そうでな ければ競争入札をするという前提が崩れる。」 

 「いや、マンションは官庁工事じゃあるまいし指名競争入 札をする必要はないだろう。とにかく同じ条件で見積もって もらい、それから業者を呼んで話を聞いて、みんなが納得す る形で決めようじゃないか。」 

 「その、納得というのが問題なんだ。最低価格の業者に 決めるのは唯一客観的な方法だよね。でも、高い見積もりを 出した業者が金額の差を覆すほどの説得力があったなら、

それはそれで理事会全員の総意で決めてもよいのでは。」 

 「しかし、それだけの説得力っていったい何だい。やっぱ り金額だろう。」 

 ……金額で決める、というのは確かにいちばん納得しや すい方法である。 

 でもFさんは決してそれが唯一最善の方法ではないと考

えている。しかし、どうやったら、理事会の決定を総会で組合 員が納得してくれるだろうか。そもそも、理事や他の修繕委 員が、「金額以外の決定方法」を支持してくれるだろうか。 

 Fさんは、事前に対象の3社が過去5年間に塗装工事をし たマンションのリストを色を変えて地図に落とし込んでいた。

その中から各社5件ずつ経過年数に合わせて選び、建物を 実際に見学するツアーを計画した。もちろんFさん自身も見 たことがなく、事前に評価をしたわけではない。もしもこれで、

3社とも同じような評価になるなら金額で決めても何も問題 はないと考えた。 

 Fさんの呼びかけに対し、理事・修繕委員3人が賛同して「改 修工事評価ツアー」を実施した。3社×5件=15棟の建物リ ストを渡して4段階評価で出来栄えを判定してもらいたいと 話した。もちろん、それぞれの建物をどの業者が施工したか は伏せておいた。3人とも、塗装を含めた建築の仕上げに関 してはまったくの素人だった。 

 1日かけて15棟の建物を回ってみると、いろいろなことが わかってきた。 

 「玄関廻りはきれいに仕上がっているけれど、裏に回って みたら仕上げがひどく雑だね。」 

 「おやおや、ひび割れを補修したあとがミミズ腫れのように 見えるね。」 

 「これは、15年経っているなんて信じられないくらい、きれ いに仕上がっている。」 

 3人はたしかに出来栄えには違いがあると気がつき、喜ん で評定を記録しはじめた。 

     ◎ 3点(仕上げが新築のように美しい) 

     ○ 2点(美しい) 

     △ 1点(改修だからこんなものか) 

     × 0点(仕上げが雑で、この業者には頼みたくない) 

 Fさん自身は建物を施工した業者がわかっているので評 定には参加しなかった。ツアーを終えて、評定を集計してか ら施工業者ごとに仕分けしてみた。 

         

 この結果を見て、理事のひとりはため息まじりにこう言った。 

「なるほど、同じ仕様でもただ塗っただけのように見えるのと、

下地をきちんと直したことがわかるものがあるのか…。これじ ゃ誰が見たって、『少しくらい高くても、G社かH社にしよう。』

って話になるよ。これじゃ理事会としてはI社だけは推薦で きない。」 

 この後、3社の見積もり合わせの結果、価格の低い順にI社、

G社、H社となった。I社とG社の差は約200万円だった。業 者を選定する理事会・修繕委員会で、3人はそろってG社を 強く推し、その理由を聞いた全員が一致してG社を推薦す ることになった。 

 臨時総会でも、最低価格のI社を選ばなかった理由につ いて、理事が説明し、質疑応答のあとG社への工事契約が 議決された。 

事例2

改修工事評価ツアーで 

「良い仕事」という見えないモノを評価 

会社名  G社  H社   I 社 

◎の数  6  2  0 

○の数  6  8  2 

△の数  3  5  7 

×の数  0  0  6 

評点合計  33点  27点  11点 

                       

昨今の景気低迷で受注獲得競争が激化している背景も あり、大規模修繕工事を発注する施工会社をどこにする かについては、ガラス張りの議論をして疑いを持たれな いような進め方をしましょう。 

 

 事例1では、理事会と修繕委員会が対立して修繕委員 会が機能しなかったうえ、選定した施工会社の工事結果に 批判が集まり、前理事長の退去にまで発展した事例ですが、

よく見ると、さまざまな問題が浮かび上がってきます。 

 ・修繕委員会を理事会の承認だけで設置したために、

修繕委員のメンバー・役割・位置づけが他の区分所有 者に明確に伝わっていなかったのではないか 

 ・修繕委員会が、外部の建築士に見積書の検討を頼ん だことは、手続き上問題がなかったか、そのことで理事 会から誤解を招かなかったか 

 ・修繕委員の全会一致の提案を、理事会で協議した際、

Bさん以外の修繕委員が理事会で意見を述べるような 機会を作れなかったのか 

 ・修繕委員と理事会との話し合いがなされないまま、修 繕委員の全員が辞意を表明する事態になっても、慰 留されなかったのはなぜか 

 ・理事会と修繕委員の間でこのような事件が起きている にもかかわらず、大規模修繕工事が総会で議決された のは、区分所有者の多くが無関心だったからか 

 など、一見して「施工会社の選定」のための各ステップで、

合意形成がなされないままバラバラにものごとが進んでしま った印象を受けます。管理組合が総力を挙げて取り組むべ き大規模修繕工事で、理事会と修繕委員会の連携が欠け るようでは決して良い結果を生みません。連携がうまくいか ないようなら、スケジュールを一時中断してでも進むべき方 向を確かめ合う時間を取るべきだったと思います。急いで 進めると失敗します。 

 この事例の場合は、「技術力」と「価格」の問題について、

理事会と修繕委員会がもっと議論を掘り下げて一定の妥 協案を導き出すことができていたら、工事がはじまってからも、

E社の仕事ぶりに対して修繕委員が検査・確認するなどの 体制が作れたのではないかと思います。 

 Bさんは、最後に「こんなことになるなら、もう少し大人にな って...」と述懐していますが、このように、ちょっとしたいさか いが積み重なって、思いもよらぬトラブルに発展することがあ

ります。 

 

 事例2には、管理組合が施工会社の「何」を重視するの かという、施工会社を選ぶときの基準について示唆に富ん だ会話が出てきます。 

 金額が安いというのは、明快な判断基準ですが、安かろ う悪かろうという危険性と背中合わせです。そこで「安心し て任せられる」という評価はどのようにしたら得られるのかと いう実験が試みられます。 

 もっとも事例のような「建物評価」がどんな場合にも有効 だとは限りません。 

 この事例のポイントは施工会社の「何」を重視するのかと いう管理組合の方針を先に決めるべきだということです。方 針が決まれば、そのための手法はさまざまに考えられることを 教えてくれています。 

 

 このように見てくると、大規模修繕工事の「施工会社の 選び方」については、管理組合が必ず直面し、誰もが頭を 悩ませる問題でありながら、なかなか解決への手がかりとな る考え方がみつからない、ということがわかります。 

 ここで問題を複雑にしているのは、管理組合の悩みが、 

 ・形式的な意味での施工会社の選び方がわからない   ・そもそも施工会社に何を期待し、それをどのように評価

できるのかがわからない 

 ・区分所有者全員の合意形成をはかるのが難しい  といった、まったく次元の違う問題が、もつれた糸のような状

態になっているからでしょう。 

 では、そのもつれた糸を解きほぐしてみることにしましょう。 

 

 施工会社の選定方法 

 まず、一般論として、形式的な意味で施工会社の選び方 を挙げると、次のような方法があると言われています。管理 組合の立場から考えると、それぞれに一長一短があります。 

 

①特命方式(随意契約方式) 

 最初から特定の1社を指名する方式。過去からの実績が あり、とくに信頼関係のある会社1社を指名して、見積もりを 取り、協議して契約する方法です。たとえば、そのマンション を建てた建設会社や、マンションの管理会社に発注する方 法で、「そのマンションのことは、この会社が一番よく知って いるはずだ」という考え方に立っています。工事に関わる煩 わしさをすべて任せられ、竣工後のアフターサービスも期待 できる反面、価格は相手の言いなりで、比較できる対象があ りません。 

(注意すべき事項) 

 ・竣工後、担当者が定年退職や転勤で、やがて事情が わからなくなる場合がある 

 

②見積もり合せ方式 

 前もって管理組合が決めた一定の条件で施工会社を数 社選び、見積書を提出させ、その内容を検討協議のうえ施 工会社を決める方法です。特命方式よりも比較する対象が

とくに、  

成功への糸口 

 施工会社を選定する際は慎重すぎるほどでちょう どよいと思われます。 

 施工会社の選定をめぐる管理組合内部の意見の 対立やトラブルが発生した事例がとても多く、なぜ、そ ういうことが起こるかを予め考え対処する必要があり ます。 

ドキュメント内 untitled (ページ 55-60)