味ですが、では具体的にどんなものをいうのでしょうか。
ここでは、どこのマンションでも起こりそうな、学 習塾をめぐるトラブルと、めったに起こらないけれど、
遭遇したらたいへんな暴力団の入居トラブルの事例 を見てみましょう。
事例1 マンション内で
学習塾を経営したことによるトラブル
共同の利益に反する行為
事例2 マンション内の
暴力団事務所開設に伴うトラブル
××号室に出入りする様子を見ていると、部屋には絶え ず2〜3人が交替で寝泊りしており、毎日決まった時間にな ると、乗用車数台をマンションの玄関前に横付けし、親分の ような人物を数人が護衛するようにして、ドヤドヤと入って来 るのが目につきはじめた。
そのうち、玄関前の違法駐車が朝から晩まで続くようになり、
ルールを無視したゴミの投棄などが日常化してきた。管理人 がいくら注意をしても毎日交替で寝泊りに来る若い連中に はどこ吹く風だ。
常時、5〜6台も並んで違法駐車されているので、マンショ ンのお年寄りたちが玄関前でタクシーを拾おうとしても、それ もできない。所轄の警察に通報して駐車違反の取り締まり を繰り返しても、そのときだけクルマを移動するので効果が ない。
××号室の前の廊下や階段にはタバコの吸い殻が絶え ず落とされ、郵便受の「××××企画」の表札も名前だけで 実体のないことが解ってきた。
2.実態の確認
××号室に出入りする人数も次第に増えてきて、彼らの 異様な雰囲気に対する住民の不安が拡大するのを恐れた 理事会は、所轄の警察署に相談に行った。警察では、「こ の地区に暴力団が出入りしていることは、こちらでも確認し ているので、駐在のパトロールを強化させます。」と言ってく れた。理事会では、なんとか室内の状況を確認しようと、手 はじめに管理人から電話をかけさせた。すると若い男の声 で「××××組です」との返事が返ってきた。間違いなく、
暴力団の事務所として使われているのだ。
そのうち、××号室にテレビを取り付けるために、電気工 事店がやってきた。工事後、中の様子について尋ねたら、
・正面に「××××組××代目組長」の名札のついた大 きな肖像画が掲げられている
・壁には、代紋と組幹部の名前が貼られている ・1部屋はマージャン室になっていた
とのこと。
室内に貼られていた名前は、新聞に時々のるような有名 な暴力団だ。万一にも、対立する組織間で抗争が起きれば、
その標的となる可能性は極めて高く、住民の不安は高まる 一方であった。
やがて暴力団事務所があるマンションだという噂が広まり、
空室を見にきた人が、「暴力団が入っているのではどうにも なりませんね。」と帰ってしまう。風評被害のため価格も次 第に下落し、さらに空室が増えるという悪循環になってきた。
管理組合に届け出された入居者名簿を調べてみると、×
×号室の区分所有者はマンション外に住んでおり、顔を見た ことがない。この所有者が組事務所として使わせている形 となっている。たまたま、組長らしき人物が乗ってくる車の所 有者を調べてみたところ、××号室の所有者だとわかった。
××号室はもともと競売物件であったものを、××××組 が所有するため、組長が表に出ないよう若い組員の名義で 競落したのだろう。
3.理事会が行動を開始
ある朝、新聞に暴力団の傷害事件の記事が出た。理事 長は、「このまま黙って放置しておくことはできない。なんと かしなければ。」と考えはじめた。
その矢先に、××号室から夜中、廊下に大量の水が流れ 出して数階下まで水浸しとなった。前にも同じ事故を起こし て迷惑をかけていたが、そのときも被害を受けた住民に詫 びも弁償もせず、また繰り返したのだ。
管理組合としてはすぐに理事会を開いて、抗議の文書を 作り、被害の弁償と迷惑行為の禁止を申し渡したが、「梨の つぶて」であった。
さらに、××号室の隣室も、同じ区分所有者に売り渡され るらしいとの情報が入ってきた。すぐに隣室の所有者に問 い合わせたところ、さっぱり要領を得ない。これは要注意だ なと思っているうちに、その隣室に工事の作業員が出入り するようになった。そこで管理人から、管理組合規約にした がい、「工事許可申請書」を組合に提出するよう注意をしたが、
工事責任者はこれを無視した。そのうち作業員たちは、室 内を取り壊した廃材が入った重そうな袋を次から次へと運 び出した。
そこで、「工事許可申請をしないで、工事をしているような ので確認させてほしい。」と申し入れ、警察の立会を得て理 事長や理事、管理人など、数名で室内に入ったところ、風呂 場や台所が全部撤去されており、そのうえ××号室との境 のコンクリートの壁に大きな穴があけられ、自由に行き来でき るようにしている。コンクリートの壁を破るなどということは法 律上も許されない暴挙で、これは許すことはできない。組合 では緊急理事会を開くとともに、所有者に対し、原状に回復 するよう文書で要求した。
相手が暴力団であるだけに理事の人たちに危害が加えら れないとも限らないので、所轄警察署に状況を説明して暴 力団の監視強化を要請するとともに、(社)北海道マンション 管理組合連合会の顧問弁護士に相談をした。
4.総会決議 そして退去
相談した弁護士の所属する弁護士会には、「民事介入 暴力対策特別委員会」があり、警察と相談しながら、民事事 件に介入する暴力団の行為を差し止めたり、使用を禁止し たり、競売にする活動を行っている。この委員会と協力して 弁護団を編成し対応してくれることになり、北海道警察本 部も支援に乗り出してくれることになった。入念な打ち合わ せの結果、暴力団の部屋を競売にかけ、暴力団を排除する よう裁判所に提訴することにした。
そのために、組合の総会を開催して、提訴する決議をす ることになった。管理組合総会は夜間開催されたが、××号 室と改造された隣室の区分所有者ふたりの委任状を持った、
見るからに暴力団幹部といった男ふたりが会場に入ってきた。
とたんに女性の出席者が半数近くいた会場は、緊張のため シーンと静まり返った。
理事長が区分所有法第59条ないし60条に基づき「共同 の利益に反する行為をする者」として裁判を起こし、暴力団 をこのマンションから排除したいと提案。決議をする前に、所
有者に弁明の機会を与えたところ、開き直る始末で、暫くの やり取りの後、採決することを宣言した。理事長は勇気を奮 い立たせるよう、ひとりひとりに声を掛けて賛否を確認し、全 員賛成の決議を取りつけた。
暴力団側は顧問の弁護士を依頼して法廷で争う姿勢を 示したものの、管理組合側の体制が強固であると見てとっ たのか、数ヵ月後に警察立会いのもとで部屋から出て行った。
このことを知ったマンションの住民は一様に安堵した。喉 につかえていた刺がやっと取れた思いであった。早速、理 事長が管理組合の集会を開いて事件の経緯を報告し、出 席者から一斉に大きな拍手が湧き上がった。
ふたつの事例を通して、「共同の利益に反する行為」に ついて、掘り下げて見ていきましょう。
事例1では、規約にうたわれている「専有部分を専ら住 宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない」と いう条文の解釈について頭を悩ませていますが、これにつ いては、標準管理規約コメントに、このように書かれています。
「(第12条関係)住宅としての使用は、専ら居住者の生 活の本拠があるか否かによって判断する。したがって利用 方法は、生活の本拠であるために必要な平穏さを有するこ とを要する。」
住戸内の一室を、事務所や塾などに使用していても、そ の住戸が居住者の生活の本拠であれば住宅として使用し ていると解釈されることになります。
ですから、事例の投書にあったように、住宅以外の用途 に供してはならないという理由だけでは学習塾の是非を問 うことはできず、理事会の判断は的を射ています。
したがって、この事例の場合は迷惑行為という観点から 問題を見直す必要があります。
専有部分の使用方法は自由であることが基本ですが、だ から何をしても良いということにはなりません。他の居住者 の受忍限度(社会通念上我慢できる限度)を超える迷惑行 為は、「共同の利益に反する行為」として差し止め請求など
の法的措置をとることができます。(区分所有法 57〜60条)
通常は、自宅での仕事や少人数を対象とした華道・書道・
茶道・英語塾・学習塾などは他の住戸に迷惑をかけること は少ないので、とくに問題になることはありません。しかし、こ れも生徒数が多くなって頻繁に出入りがあったり、騒がしく なったりすれば、住居としての平穏が守れなくなり、事例の ようにトラブルの原因になります。
この理事会では、実際に起きている被害の程度について すでに確認し、Cさんに対して改善を申し入れていますから、
今後は、再三申し入れしても改善されない場合は、法的手 段に訴えることもあり得ることを、知らせておく必要があります。
また、日頃から広報紙などを通じて、共同生活では自由が 制限されることがあることを知ってもらうよう、働きかけること が必要です。
事例2では、賃借人として入居した暴力団が事務所を開 いて、迷惑行為を繰り返したケースを取り上げました。
まず暴力団「らしい」人が出入りをはじめたことに気づき、
つぎに彼らが暴力団であることを確認し、その迷惑行為をき っかけに管理組合が立ち上がり、最後は裁判に持ち込んで
暴力団を退去させています。
区分所有法では共同の利益に反する行為をする者に対 する措置が以下のように定められています。
1.区分所有者(持ち主)に対しては次の請求をすることが できる
①共同の利益に反する行為の停止等(57条)
②専有部分(部屋)の使用禁止(58条)
③区分所有権及び敷地利用権の競売請求(59条)
(部屋を裁判所を通じて強制的に売らせること)
2.占有者(貸借人)に対しては、次の請求をすることができる。
①共同の利益に反する行為の停止等(57条)
②引渡し請求(60条)
(賃貸借契約を解除し、専有部分を引き渡させ、迷惑行為 者を立ち退かせる)
ただし、1・②、1・③及び2・②については、他の区分所有 者の全員または管理組合法人は、集会の特別決議を経て 裁判を起こして請求しなければなりません。なお、総会の決 議に際して、あらかじめ、当該区分所有者に対し、弁明の機 会を与えなければなりません。
事例では、暴力団を排除するために、1・③の「競売請求」
によって、完全に暴力団を排除する訴えを起こしました。
なお、暴力団を排除するために訴訟を起こしたとき、管理 規約に具体的な定めがあれば、それだけ有利になることは いうまでもありません。
都心のマンションは、暴力団関係者にとって格好の場所 となります。対立組織の攻撃に対しては住民を盾にするこ とができ、その密室性から賭博場となったりします。
解決の糸口
ここで は、
「共同の利益に反する行為」としては、たとえば次 のような行為が考えられます。
1.建物の基本構造に影響を及ぼすことの大きい専有 部分の増改築
・専有部分に重量物や危険物を搬入する行為 ・電気・ガス・給排水の許容量に影響がある設備
の更新
2.カラオケスタジオなどの平穏な生活を阻害する行為 3.ベランダ・バルコニーなど共用部分を改造したり、
屋上に物置をつくるなどの行為 4.賃借人の迷惑行為