第 5 章 水資源・農業分野での日本及び他ドナー支援案件のレビュー
5.4 過去の支援案件からの教訓と今後の支援への示唆 上記の案件レビューの教訓から以下の点が指摘できる。
タイ国タイ東北地方の水資源管理に係る基礎情報収集・確認調査 ファイナルレポート
¾ 農民のグループ活動が強化され参加型の手法の定着
¾ コミュニテイ学習センターを通して農民たちの知識や技能が向上 1) 教訓
① PRAアプローチを通じた農民が直面する問題の特定とその解決方法に関する学問的研究機関 の役割は、貧困の撲滅と食料の安全保障にとって非常に重要である。
② 合意に達するには、住民参加はステークホルダー個々の共通理解をもたらし、それ故に、プ ロジェクトの活動の実践を促進する。
③ 村落は貧困撲滅と食料の安全保障のための欠くべからざる構成部分とみなされる。村落は変 化の単位である。
④ 機会が与えられるとき、村落は効率的な意思決定の主体となりうる。
⑤ プロジェクトのオーナーシップに対し、村の住民が共通した態度を示すことが肝要である。
そのことは、先ずプロジェクトの実施に関して、そして事後の成果やアウトプットに関して もそうであるべきである。
⑥ 何処においても、村落の人口の残りの部分をより広くカバーするために、リボルビングファ ンド(回転資金)を持つことが望ましい。
⑦ 参加の程度や事業のアウトプットの質は農業普及サービスの介入と支援の在り様に大きく左 右される。
⑧ 多機関による様々なレベルの委員会を通じた政府の監督や指導は、実質的に貧困撲滅や食料 の安全保障に関連した活動の円滑な実施に貢献する。一方で、このことは政策の確かな実施 をもたらす。
⑨ 住民に配布される農業用インプットは従前に入手されている必要がある。配布の遅れは無駄 の元になり、農業生産の向上に結果しない。
出典:”National Strategy for Poverty Alleviation and the Promotion of Food Security with Special Emphasis to Northeastern Thailand for 2011-2015”(FAO, 2009)
5.4 過去の支援案件からの教訓と今後の支援への示唆
タイ国タイ東北地方の水資源管理に係る基礎情報収集・確認調査 ファイナルレポート
加しなかった。
限られた水資源を有効に利用するためには、乾季には稲作だけでなく米以外の野菜や畑作物生 産が振興されることが望まれるが、いくら政策的に合致していても市場・販路がなければ農家が 作物多様化に踏み切ることは難しい。当初からマーケティングを考慮した案件形成が必要である。
既存の市場のみならず、農地改革地区総合農業開発事業のように産直市場の開設を支援すること も有効であろうし、アグロインダストリーとの契約栽培なども検討されよう。
(2)計画段階から維持管理までの住民参加
数多く実施された小規模灌漑事業の維持管理に関しては地区によって差があり、農民の組織化 や事業への理解のため、事業計画の初期計画段階からの参加が重要であると指摘されている。大 規模灌漑施設においても農民の維持管理活動への参加が高いノンワイ地区では効率的な水利用が なされているという。流域水管理活動においても住民の積極的な参加で、結果的には安価で効率 的な水資源管理が可能になることがヨム流域の参加型流域管理活動の教訓として得られている。
(3)住民参加を促す要因の分析
上記のように農民の参加が効率性や持続性に必要だとすると、農民の参加を促す要因は何であ ろうか。Huai Mong のポンプ灌漑事業からは安定した水供給が農民参加のインセンティブとなっ ていることが読み取れ、また効率的な水利用によって生み出される便益がインセンティブになる という好循環を生み出しているように見受けられる。
水管理システム近代化プロジェクトで行ったガイドライン作りや支線毎の配水計画の着実な実 施は重要な要素であるが、地域毎に異なる現状や参加を促す要因を整理分析する必要がある。
(4)事業計画策定時における十分な検討、環境アセスメントの実施
KCM導水事業の教訓から、大規模事業であるにもかかわらず計画段階の確定作業が不十分な場 合には建設された施設の維持管理に大きな問題を残すことは明らかであり、政治主導により拙速 に進められ、計画段階からの住民参加がなかった同案件は住民と事業実施機関の間で問題を引き 起こしている。大規模事業の計画についてはPR、公聴会による情報公開、住民参加と意見の表明 が担保されなければならない。
コク・イン・ナンのようなトンネル導水案件の場合は自然環境への影響は大きく、計画段階か らの環境アセスメントが重要である。KCMではこの点で、十分な自然環境・社会配慮がなかった ため多くの未解決の問題が残っている。社会環境の点からは流域変更の場合、ドナー流域(水を 渡す側の流域)の住民の理解や開発優先順位の整理と両流域のステークホルダーの合意が必要で ある。また、規模が小さいがLam Phayang Pumipatは両流域の話し合いにより余剰水を水の足りな い隣接する流域へ導水する流域変更が可能になった成功例であり、流域変更が必ずしも問題では なく、その合意形成プロセスが成否を握っていると言える。
(5)省庁間の連携
環境面と社会面で現在も多くの問題を残している KCM 事業では、省庁の垣根があり事業主体 と農業関係部局が連携できなかったことも、問題を大きくしている。中規模灌漑事業においても
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農業普及との連携が上手くいっていない事例が報告されており、規模の大小にかかわらず、関係 省庁や実施機関の間での連携は、事業効果発現に不可欠である。他の地方で実施された円借款に よる大規模灌漑事業の場合、計画ではタイ政府側が実施することになっている農業普及が一体的 に行われておらず、効果発現が遅れている1。
(6)流域水管理における参加と学習プロセス支援の枠組み
流域管理についてのいくつかのケーススタディより、地元住民の参加、地元の智恵、参加型の プロセスが重要で、RBCの活動を活発にするには多くのステークホルダーが参加し政府関係者は 主導権を握らず支援する立場となることが必要であることが指摘されている。地域の大学との連 携やNGOをファシリテーターとして活用することが有効である。
流域レベルの水資源管理については、コミュニティレベルから国家レベルまでのリンクが必要 であり、政府の関連機関は技術的な支援を行う必要がある。また東北地方の限られた水資源を考 えると、将来にわたり水利用を巡っての紛争が予見されるため、RBCには紛争解決能力が必要で ある。バンパコン流域の事例では民間からのRBC議長選出が成功の要因であったと考えられる。
流域水管理プログラムを外部から支援する際には、政府機関だけに着目するのではなく、民間 を含めたステークホルダーについてまず分析する必要があろう。
(7)プロジェクトデザイン
過去の支援案件にはプロジェクトの設計自体に問題が指摘されるものがあった。プロジェクト 目標を達成できなかった水管理システム近代化プロジェクトでは、外部条件の変化に柔軟に対応 できるように途中段階でも軌道修正を図ることが教訓として得られた。また、多くの灌漑案件で 指摘されているようにハード(施設建設)とソフト(農業普及・マーケティング・水管理)の組 み合わせが重要である。
FAOのパイロットプロジェクトの教訓にあるように、インプットの遅配は作付時期が決まって いる農業にとっては致命的であり、無駄な投入になる。農民の生計、生存戦略を理解し、多くの リスク要因・制限要因を減らすべくプロジェクトデザインに組み込む努力が必要であろう。
(8)開発パートナーの役割
すでにドナーではなく開発パートナーとなっている諸外国機関や国際機関、とりわけJICAにと って水資源・農業分野で果たすべき役割は何であろうか?
灌漑システムに導入される適正技術は、経済状況や社会状況によって変化すると考えられる。
かつては全てを外国の支援に頼らなければならなかった灌漑開発も、技術レベル、産業発展によ ってほとんどの灌漑施設がタイの技術者によって内貨で建設できるようになっている。そういう 状況の中では、かつては費用対効果の面で難しかったパイプ灌漑(Lam Phayarn)も希少な水の効 率的利用という点では有効になってきている。また、ポンプ等の内製化(Huai Mong)も今後進ん で行くであろう。技術的な支援が必要なのは大規模なポンプやトンネル工事程度であり、それ以 上に水管理のようなソフト技術が求められている。関連して、経済の発展に伴う水需要の増加に
1 タイ王国「灌漑事業持続性向上」に係るセクター調査(2004年、JBIC)