第 7 章 タイ東北地方における格差是正事業と支援枠組み(案)
7.2 東北地方における格差是正に資する中核プログラムの提案
7.2.1 統合的流域管理プログラム(案)
(1)中核プログラムの必要性
タイ東北地方における大規模貯水池開発の可能性はほとんどなくなりつつあり、中規模および 小規模のみの開発が残されていることから、新規開発のポテンシャルは低いと判断される。また、
既存貯水池における堆砂などによる貯水量の減少、水利施設の劣化などによる灌漑損失水量の増 大、塩分の集積などによる制約などにより、水の利用可能量は今後ますます限られてくる傾向に ある。
従って、タイ東北地方において、タイ政府がまず取り組むべき優先課題としては、限られた、
そして、ますます乏しくなる傾向にある水資源を、統合水資源管理の手法を導入して、持続的に、
無駄なく公平に利用してゆくことを実現することであると考えられる。
(2)ムン川統合的流域管プログラムの内容
1)管理の範囲および対象
タイ東北地方は、コン、チー、ムンの3流域に区分され、それぞれRBCが設置されている。基 本的に、水資源管理計画はRBCを中心組織とした、流域レベルを対象とする統合的流域管理計画 を考えていくのが適切である。また、統合的流域管理計画は最終的には 3流域全てについて計画 する必要があるが、以下の理由により、ムン流域での計画を優先させることが適切と考えられる。
¾ 3 流域の中で、ムン流域はもっとも上下流の水資源量のバランスが悪く、上流部は水資 源量が不足している。
¾ ムン流域は、上下流にわたって多くの水利施設が建設されており、ほぼ水資源が開発し 尽くされた状況にある。しかし、上下流の連携がなく各施設は単独運用がおこなわれて いる。
¾ チー流域は、中下流域に大規模な貯水池を有し、比較的連携のとれた管理操作が実施さ れており、さらに、上流部では水資源の大規模開発の計画が進行しており、施設計画上 で未完成の状況にある。
¾ コン流域は、比較的水源量があり、下流域では今後更に水資源の開発が進められる。
なお、ムン流域は貧困率の高いブリラム、スリン、シサケット県が含まれる一方で、輸出用高 級米のジャスミンライスの生産地でもあり、農村開発や農産物の付加価値化を併せ行うことで農 家の生計向上と地域経済活性化への効果も期待できる。また、自然・社会環境面でも過去の事業 による問題を抱えている地区を含む流域でもあり、市民社会・ステークホルダーの参加を基本と する統合的水管理によってこれらの問題の解決・改善も期待できる。実施機関として中心的役割 を果たすのはDWR、RID及び県・TAOである。これら関係機関(特にRIDとDWR)の連携と調 整が重要であり、上位レベルでの政治的意思に加えプログラムの実施レベルでのコーディネーシ ョンにより、優良事例を造る出すことが肝要である。
2)統合的流域管理のアプローチ
統合的流域管理プログラムは、市民社会とステークホルダーの参加と学習プロセス、管理組織 となるRBCのキャパシティ・ビルディング、統合的流域管理計画の策定が重要な要素である。
タイ国タイ東北地方の水資源管理に係る基礎情報収集・確認調査 ファイナルレポート
① 市民社会・ステークホルダーの参加と学習プロセス
流域の住民、農民、工業用水利用者、地方政府、中央政府実施機関の全てのステークホルダー が参加しての水問題解決と水資源・水配分計画策定、コミュニティや支流域での参加型調査・活 動を通しての統合的流域管理のコンセプト、地域の水環境や水利用についての学習が重要である。
・ 流域の水問題について協議する場を設け、解決についてのオプションを議論する
・ コミュニティおよび支流域での水資源の現況・問題についての参加型調査
・ コミュニティおよび支流域の水資源保全・管理についての活動計画策定への参加
・ 既存灌漑地区での水利用効率を考慮した栽培方法の改善や、作物の多様化のパイロ ット・プロジェクト
・ 実践グループのネットワーク化による住民レベルでの学習プロセスの継続
② RBCのキャパシティ・ビルディング
RBCの下に支流域毎のワーキンググループと技術支援ワーキンググループが設置されるが、ム ン川RBCは組織自体は設立されているものの、実質的な活動は行われていない。キャパシティ・
ビルディングは中長期にわたるプロセスであるが、短期的にはRBCに対し以下の支援が必要であ る。
・ RBC を中心とする管理組織の強化:RBC の支援体制や各組織の役割などを明確にし、
計画を実施する体制やフローも明確化する。
・ ワークショップやフォーラムの開催:統合的流域管理計画の方針を明確にし、コンセ プトを地域に広く浸透させ、RBCの認知と支持を取り付ける。
・ 技術支援ワーキンググループの設置:RBC の技術面、財政面の政府支援体制として DWRがこれを担当しているが、水資源施設のほとんどを管理、運営しているRIDの支 援が不可欠であり、役割分担を明確にし、統合的流域管理計画の推進体制に組み込む 必要がある。常駐職員とローカルステークホルダーによる技術支援ワーキンググルー プを設置し、コンサルタントが必要に応じて技術支援を行う。
・ 調査と流域計画・プログラムの作成:技術支援ワーキンググループにより、流域での 問題の抽出、課題の解決、流域計画と流域プログラムの作成などのそれぞれの過程を 調査、検討し、RBCに提案する。RBCがこれを協議し、ステークホルダーの合意を得 て実施する。
③ 統合的流域開発管理計画の策定
同計画は流域の多セクターに亘る計画で灌漑、都市給水、地方給水、洪水制御、水力発電、排 水、水質および環境などすべてを含む多目的の中長期の水資源管理・開発の将来投資のロードマ ップを示すものであり、既存の国家計画に整合、またこれを統合・拡充したものを目指す。
3)統合的流域開発管理プログラムへの支援の内容
タイ国タイ東北地方の水資源管理に係る基礎情報収集・確認調査 ファイナルレポート 統合的流域開発管理プログラムへの支援は、大きく分けて2つのレベルに区分される。コミュ ニティ、支流域レベルでの参加型活動と学習プロセスのファシリテーション、及びRBCとそれを 支える技術支援ワーキンググループのレベルでの技術支援である。
コミュニティ、支流域レベルの活動についてはチー川を含む既にいくつかの流域でパイロット 活動が実施されており、外部からのファシリテーターを活用してタイ側によって実施が可能であ る(活動予算の問題があろうが)。一方、RBC の支援と技術支援ワーキンググループの結成とそ の支援については技術協力が必要である。
基本的に RBC は管理計画を実施する組織であり、RBC の支援内容は組織の強化とその実施へ のサポートである。また、技術支援ワーキンググループは、流域計画、管理計画の調査、評価、
計画策定を行うものであり、これに対し、技術面、政策面からその活動を支援する。
具体的な内容について、下表に示すコンポーネントが想定される。
① RBCへの支援内容
表7.2.1 RBCへの支援内容
コンポーネント 主な活動
RBCの強化 ・ RBC事務所の設立
・ 支援グループの設立と役割、機能の確立
・ RBCの持続的活動制度確立
・ 情報の共有と公開
・ 運営、維持管理費の制度構築
・ 流域管理計画方針の確立、等 水資源モニタリング、
評価、実施
・ 気象、水文、地下水、水質モニタリング
・ 維持流量を含む水資源評価、等 水資源の保全と対策、
環境保全
・ 集水域の保全、保護区指定、
・ 環境保全対策、補完
・ 森林資源、漁業資源および土壌保全などの研究機関との連携及び 計画策定、等
水質管理、
汚染対策
・ 水質管理、汚染規制戦略の開発、
・ 河川、湖沼水質状態分類システムの開発
・ 水質管理、汚染規制遵守の改善策提案、等
利水管理 ・ 水配分の管理(水不足対策:利害調整、合意形成、節水)、
・ 地下水利用の管理、等 洪水管理 ・ 洪水対策、
・ 洪水警報、情報ネットワークの構築、等
② 技術支援ワーキンググループの活動支援
DWR、RID、ローカルステークホルダーおよびコンサルタントで構成する技術支援ワーキング グループは流域計画、管理計画の策定を行うものであり、調査、計画、情報など、さらに幾つか
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のサブワーキンググループに分ける必要があると考えられるが、これらの活動に参加する形で支 援する。支援の内容は表7.2.2に示すコンポーネントが想定される。
同計画は流域の多様なセクターに亘る計画で、灌漑、都市給水、地方給水、洪水制御、水力発 電、排水、水質および環境などすべてを含む多目的の中長期の水資源管理・開発の将来投資のロ ードマップを示すものであり、既存の国家計画に整合、またこれを統合・拡充したものを目指す。
表7.2.2 技術支援ワーキンググループへの支援内容
コンポーネント 主な活動
流域調査
(支流域単位で上 流より調査)
・ 気象・水文観測網の再評価
・ 農業・灌漑実態調査の実施
・ 水施設インベントリーと診断調査の実施
・ 社会経済条件調査のレビュー(民族、土地所有、主要産業、天然資 源の利用など)
・ 環境調査のレビュー(塩害、水質、住民移転、土地収用)
評価および計画 ・ 表流水と地下水のポテンシャル(水量と水質)の決定(広域収支モ デルの構築を通じ評価)
・ 灌漑用水、生活用水、工水他の水需要の決定
・ 主要支川の環境維持水の設定(流出モデルを構築し、河川環境評価 により低水管理基準を提案)
・ 洪水制御(流出モデルを構築し、流況の評価を通じ、流水(高水)
管理基準を提案)
・ 他流域などからの導水、表流水と地下水の併用等を含む優先計画の 提案
・ 種々の計画案の水収支、環境影響面からの検討
・ 施設の整備、運用、維持管理に関する評価と提案
・ 設計、環境評価、F/S、財務計画への支援、
等
(3)管理計画で提案される優先開発・改善計画
ここで提案する優先開発・改善計画は、基本的には前項の技術支援ワーキンググループにより 実施される流域調査および評価を経て計画されるべきものであるが、現時点で改良、改善の可能 性、必要性があると考えられる優先計画について列挙する。
① 水源評価
¾ 水文観測所の再整備:レーティング・カーブの更新、観測所の再整備、
¾ 大規模及び中規模ダム:H-Vカーブの更新
¾ 基準観測点(流量、水質):流域、支流域での統一した基準点の設定
¾ 水資源(水源、河川、水質)基本情報:整理およびモデリング
・ 流域収支モデルの構築
・ 流出モデルの構築
・ 地下水流動・水質モデルの構築