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タイにおける環境社会配慮の一般状況

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第 4 章 自然および社会環境と水資源開発・管理

4.1 タイにおける環境社会配慮の一般状況

タイでは、農業に加え、近年は工業、観光業なども目覚しく発展し、中進国へと変貌を遂げて いる。しかし、その一方、1980年代から大気汚染や水質汚染、有害廃棄物といった公害、開発の ための森林面積の減少、大規模事業による非自発的住民移転など様々な弊害などももたらすこと となった。このような状況を受けて、タイ政府は徐々に環境保全に関する法令やガイドラインを 整備し、幾度かの改訂を行ってきている。第10次経済社会開発計画の開発目標には「豊かで多様 性のある自然資源の創出、良好な環境の保全、公正で持続的なメカニズムの確立」が掲げられて おり、環境配慮と経済開発を両立させた持続的発展の重要性が強調されている。

(1)環境影響評価の枠組みと最近の動向

タ イ 国 に お け る 環 境 政 策 の 法 的 枠 組 み は 、1975 年 に 成 立 し た 国 家 環 境 質 向 上 保 全 法

(Improvement and Conservation of National Environmental Quality Act:NEQA)に始まる。1978 年 には同法が一部改正され、科学技術エネルギー省(Ministry of Science, Technology and Energy)が 環境影響評価(以下EIA)対象事業の規模や種類に関する告示を発布し、1982年からこの告示を 施行した。その後、1992年までの約10年間に3,000件以上のEIA報告書が提出されている。ただ し、これらの対象事業は鉱山、工場、下水場、廃棄物処理場などであり、水資源開発や灌漑事業 はEIAの実施を義務付けられていなかった。

1991年のクーデターにより国の開発に関する多くの法律が廃止もしくは改定され、1992年には NEQA が刷新されることとなった。この改正にともない、旧法で規定されていた国家環境委員会

(National Environmental Board:NEB)

の権限が科学技術環境省(Ministry of Science, Technologies and Environment)

に委譲された。2002 年には省庁再編 が 行 わ れ 、 新 た に 天 然 資 源 環 境 省

(Ministry of the Natural Resources and Environmental Management:MoNRE)

が設立された。

1992 年に制定された NEQA の 46 条から49条にEIA作成に関する規定 およびその審査・承認プロセスが規定 されている。NEB の定めた原則に従 い、ONEPP(Office of Natural Resources and Environmental Policy and Planning)

がまずは内容を確認し、さらに関係す る学術分野の有識者または専門家か らなる専門家委員会(Expert Review

Committee)が提出されたEIA 報告書 図4.1.1 官公庁による事業のEIA承認プロセス

タイ国タイ東北地方の水資源管理に係る基礎情報収集・確認調査 ファイナルレポート の審査・承認を行う。プロジェクトまたは事業が官公庁、国営企業の、または民間との共同プロ ジェクトの場合、内閣の承認が必要であり事業実施機関はEIA報告書に対するNEBの意見を付し て閣議承認を受けることとなる。図4.1.1は官公庁、国営企業による事業のEIA承認プロセスであ る。

2009年に8月には、1992年に制定された「EIA報告書を作成しなければならない官公庁、国営 企業または民間のプロジェクトもしくは事業の種類及び規模を定める科学技術環境省の布告」が 廃止され、新たに「EIA 報告書を作成しなければならないプロジェクトまたは事業の種類および 規模、EIA 報告作成の原則、方法、実施規則及び指針を定める天然資源・環境省布告」が公示さ れた。法律に基づき当局から許可を得なければならない事業の種類、規模のうち本調査に関係の ある水資源・灌漑開発に関連するものは以下の通りであり、導水事業は本布告に含まれていない。

なお、EIA実施の対象となる事業の全リストはAppendix 4.1.1に示すとおりである。

4.1.1 EIA報告書が必要となる事業の種類・規模(水資源・灌漑開発関連)

事業の種類 事業の規模

1~31 省略 省略

32.貯水ダムまたは貯水池 貯水量:1億m3以上、または貯水面積15km2以上

33.灌漑 灌漑面積80,000rai以上

34.内閣が第 1 級流域と定めたエリアにあ

る全種類のプロジェクト

全規模

*水資源管理・開発に関連する分野のみ抜粋

(2)水資源管理事業におけるEIA 実施の留意事項

MoNRE に属する天然資源環境政策計画局傘下の EIA 担当部によると、水資源管理に係るEIA

実施のためには、1)ダムおよび貯水池開発事業のEIA報告書作成ガイドライン、2)社会影響評 価および住民参加のためのガイドライン、および 3)健康影響評価ガイドラインに基づくことを 原則としている。また、EIA実施にあたっては、次の4 分野にどのような影響を与えるのか、考 慮・検討する必要がある。

- 物理的資源:地形、表流水、土壌および堆積物、地質・地震

- 生物資源:森林、野生動物、水生動物、生物多様性(生息数、種類、生息地、分布状況、

移動、希少性など)

- 人が利用する資源:水利用、農業活動、土地利用、洪水制御、漁業、レクリエーション、

発電、交通・輸送

- 生活の質:移転、社会経済、健康、歴史的価値(史跡、考古学的遺跡、伝統文化的施設等)

事業による上記の資源への影響を緩和するためには、森林保全・植林計画、漁業管理計画、公 衆衛生調査計画、観光開発計画、歴史的文物の保全管理計画と、水資源管理計画が適合した統合 的な計画策定が必要とされる。また、環境への影響は持続的にモニタリングを行うことが重要で あり、その際には以下の項目に焦点を置くことが推奨される。

- 貯水池および上流部の森林状況

- 貯水池、下流、灌漑地域などにおける水量および水質の変化 - 地下水位の変動

- 塩水の拡散および浸出

タイ国タイ東北地方の水資源管理に係る基礎情報収集・確認調査 ファイナルレポート - 漁業への影響

- 土地利用の変化 - 農業生産性への影響 - 土壌侵食および堆積

- 水利用:農業、電力、洪水制御の変化など - 公衆衛生、栄養などへの影響

- 社会経済状況:職業、収入、生活パターンの変化など

また、タイでは2005年に住民参加に関する首相令が発出され、これに則って住民の参加を促進 している。この首相令は次のように要約される。

- 政府の開発事業の実施に先立ち、実施機関は住民に対して情報を公開し、住民の意見を求 めるための公聴会を開催する必要がある

- もし、実施機関が公聴会を実施せず、住民側が開催を求めた場合、当局はこの実施機関に 対し、住民の要請を満たすことを命令する権限を有する

- 実施機関は住民に対し、事業の目的、事業概要、実施機関、事業の位置、手順、実施期間、

成果、想定される影響、これに対する緩和策、事業費などを説明する義務を持つ - 実施機関は住民に対し、真の情報を伝える義務がある

- インタビューや公聴会などの手法を用いて住民参加は実施されなければならない

- 住民参加のための手法、期間、場所、その他の必要な情報は、住民が理解できる形で提供 されなければならない

初期環境調査(IEE)およびEIAにおける住民参加に関し、ONEPPは次の条件を満たすことを 条件としている。

[IEEを必要とする事業]

- 事業実施者は関連機関および住民に対して十分な情報を提供し、事業の開始段階で住民参 加を促す必要がある。全ての意見、提言は報告書に記述される必要がある。事業影響の緩 和策を考案し、住民にその内容を説明しなければならない。工事期間中も住民に情報提供 し、彼らの意見を聴取する必要がある。

[EIAを必要とする事業]

- 事業開始時点で、実施機関は住民に対し、事業の情報(目的、事業概要、実施機関、位置、

期間)、想定される正負の影響、環境影響の調査内容について、住民および関連機関に説 明する義務を有する。

- 最終報告書(案)作成段階では住民に対し緩和策についての十分な説明がなされ、住民の 意見は報告書に反映されなければならない。事業の実施が承認された場合には、その情報 をすみやかに住民に伝える必要がある。工事期間中も住民に情報提供し、彼らの意見を聴 取する必要がある。

また、事業計画(案)が策定され、そのF/SおよびEIA調査の実施中に、RIDは関係者から意

タイ国タイ東北地方の水資源管理に係る基礎情報収集・確認調査 ファイナルレポート 見を聴取するための公聴会1を少なくとも 3~4 回開催することとなっている。その内容、実施時 期、および参加者は以下の通りである。

4.1.2 公聴会の内容、実施時期、参加者

公聴会 内 容 実施時期 出席者

第 1 回会議

( 県 レ ベ ル)

事業の紹介、事業対象地域の課題の 聞き取り、適切な事業実施のための 意見聴取

事 業 計 画 案 策 定 お よ び イ ン セ プ シ ョ ン レ ポ ー ト 作 成 直 後 に 実 施

県、郡、タンボン自治体 の政治家、代表者

第 2 回会議 および第 3 回会議(地 域レベル)

関係者が直面している課題や望まし い事業、また、事業計画に対するコ メントや提案について聴取する。会 議はグループごとに小会議に分けて 行い、参加者は20~30名程度である。

事 業 の 規 模 に も よ る が、プログレスレポー ト作成段階で 2~3 回 実施する

郡長、タンボンリーダ ー、村長、タンボン自治 体、正および負の影響が 出る地域の関係者

第4回会議 事業の最終化。必要に応じてファイ ナルレポートを修正する。

ド ラ フ ト フ ァ イ ナ ル レポート提出後

すべてのレベルの参加

全ての関係者は事業について十分に知らされることになっており、広報(タンボン自治体やタ ンボンリーダー事務所の掲示板に提示)、RID職員、コンサルタントの訪問などを通じて関係者は 情報を入手する。全ての会議においてRIDはレターを発出して県知事の署名を得て、地方自治体 に会議に出来るだけ多くの参加者が得られるよう要請する。もし、負の影響を受ける住民が計画 に同意できない場合には、事業計画の内容が調整されることもありうる。関係者の最大の関心は ダムによる水没の影響であり、その影響を低減するため、当初計画された事業予定地が別の地点 に変更となった、あるいはダムの高さを低くしたケースもある。

(3)社会影響評価

社会影響評価(Social Impact Assessment:SIA)はEIAの一 環であり、一般的な環境影響 評価に比べて、ある特別な事 項や関係者に焦点をあてて行 う評価である。配慮すべき事 項は、住民移転、土地収用、

社会的弱者への補償などであ る。後述するPong Khun Petダ

ム事業では、EIA報告書のほかにSIA報告書を別途作成している。ONEPPはこのSIA実施の手順、

手法に関するガイドラインを制定し、上に示すような 6つのステップを踏まえることが求められ ている。また、SIA 実施にあたっては、関係者分析、情報共有、公式・非公式な協議、公聴会を 含めることになっている。

水資源開発・管理事業では、土地収用や住民移転が往々にして発生するため、RIDは憲法(2007 年)や土地収用法(1987年)に基づき、土地収用の運用マニュアルを作成し、毎年これを更新し ている。土地収用では、1)土地所有者が収用に合意する場合、2)土地所有者が合意しない場合、

3)土地占有者が土地所有権を有しない場合、の3つのケースごとに対応および手続きの手順が異

1 タイでは”Public Participation”と呼ばれている

SIAの手順 1. プロジェクト概要の確認

2. 事前の社会調査

3. 社会環境への影響項目の抽出 4. 初期影響予測

5. 過去、現在、およびプロジェクトが実施されない場合のコミ ュニティの状況を把握するためのベースライン情報の作成 6. 社会環境への影響の分析

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