第 5 章 水資源・農業分野での日本及び他ドナー支援案件のレビュー
5.3 農業・農村開発分野での支援案件事例のレビューと教訓 .1 作物多様化
(1)水管理システム近代化プロジェクト(JICA技術協力)
1)概要(5.2.3の同案件概要を参照)
乾季におけるチャオプラヤデルタの水不足を解消するとともに、乾季畑作による持続的営農シ ステムを確立し、農家の所得向上を図ることを上位目標にしており、タイの第8次及び第9次国 家農業開発計画に沿っている。しかし一方で、米の買い取り価格保証の導入によって、農家の乾 季稲作を推進する要因ともなっている。モデルエリアでの乾季畑作栽培面積は減少しており、理 由として以下が上げられている。
・ 伝統的な稲作地帯で農家の畑作に関する関心、知識、意識が高くない。
・ 乾季にも稲作には十分な灌漑水が供給されている。
・ 土壌が畑作に適しておらず、圃場準備に手間とコストがかかる。
・ 米価が比較的高水準で推移しており、乾季畑作物栽培の経済的インセンティブが低い。
・ 畑作は稲作に比べて手間と労力がかかる。
タイ国タイ東北地方の水資源管理に係る基礎情報収集・確認調査 ファイナルレポート
・ 畑作はリスク(病害虫、価格変動、天候、湿害等)が高い
・ 市場や販路に問題がある。
2)教訓
① 作物多様化の推進が政策的に推進される際には、実際の農家のニーズとの整合性に注意しな ければならない。特に労働力には注意を払う必要がある。
② 農家が感じるリスクについては外部要因が大きいが内部化できるようなプロジェクトの設計 にする必要がある。
③ 市場、販路の創出が農家のインセンティブにとって重要であるため、プロジェクトデザイン に組み込むべきである。
④ 農業普及局のみならず、民間との連携も必要であろう。
出典: 水管理システム近代化計画事後評価報告書
(2)農地改革地区総合農業開発事業(円借款)
1)概要
1960 年代以降,商品作物の輸出による外貨獲得という政策に従って、東北タイでは森林を開墾
しながら耕地を拡大し,森林が減少していった。政府はこの開墾され荒廃した森林を農地改革地 区と設定し開墾・耕作している農民に耕作権を与えてきた。しかし,商品作物の栽培に必要とな る肥料・農薬の購入のための借入れ、年1回の収穫期に限られた現金収入と価格の変動を背景に、
多くの農民が債務を抱えている。さらに農家は、商品作物を栽培する一方で自家消費する野菜を 外部から日々購入している。これらを背景として,円借款事業「タイ国農地改革地区総合農業開 発事業」が東北タイ4 県の農地改革地区(面積48,000ha 受益農家数約1万戸)で1999年より2010 年まで実施された。
プロジェクトの目的は、1)農地改革地区の農家の生活水準向上のための農業基盤の整備、2)
農地改革地区の環境及び隣接する保護林の保全、及び 3)複合農業の普及による雇用の創出、で ある。プロジェクトの開発コンセプトは、タイのプミポン国王の提唱する「足るを知る経済」に 基づいた、まずは自らを満たすための複数の作物の生産と養魚・家畜飼育を行い、支出を減らし またリスクを分散し、余剰分を販売することで追加的に収入を得るという段階的発展を目指すも のである。また、コミュニティと人々が自ら気づき解決する力をつけることによって自律的・持 続的発展するその学習プロセスを支援する。そのためにプロジェクトの全ての段階において「参 加型アプローチ」を採用するものである。プロジェクトは次の5つのコンポーネント、1)農業イ ンフラ整備、2)農民組織化、3)複合農業普及、4)環境保全、5)コミュニティ・マーケット、
で構成される。
2)教訓
① インフラ開発は生計向上の手段であり、目的ではない。小規模農村インフラは直接農民の生 活の向上を短期間に実現し、その普及を便益の実現を通して事業実施期間中に行うことが可
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能である。
② 総合的な農村開発であり、ため池の掘削と有機農業の普及と産直市場の設置など、ハードと ソフトコンポーネントの有機的なリンクによりシナジー効果が得られる。
③ 地域の実情にあわせた開発、既存の社会組織の活用、地域の資源の活用が有効である。
④ ローカルNGO、農民ネットワークや地域の大学との連携により持続性を高めることが可能で
ある。
⑤ 様々なステークホルダーの参加と多様な援助スキームの連携によって援助効率をあげること ができる。
出典:タイ「足るを知る経済」と持続可能な開発(野田真里、2009)、農業・農村開発に関わる我が国ODA の評 価(2007年、外務省重点課題別評価)、タイにおける「足るを知る経済」思想に根ざした農村開発事業(Civil Engineering Consultants No.242, 2009) Terminal Evaluation of Project for Revitalization of the Deteriorated Environment in the Land reform Areas through Integrated Agricultural Development Stage 1 (ALRO, 2007)
5.3.2 農村開発
(1)Pilot Project for Poverty Alleviation and the Promotion of Food Security in Northeastern Thailand(FAO TA)
FAO では東北タイの貧困対策を目的としたパイロット事業を実施し、その成果を踏まえ て”National Strategy for Poverty Alleviation and the Promotion of Food Security with Special Emphasis to Northeastern Thailand for 2011-2015”の実施をタイ政府と協議中である。パイロット事業はナコンパ ノム、マハサラカム、シサケットの3県の6コミュニティで実施された。概要は以下の通り。
協力期間:2006年3月~2009年6月 相手国実施機関:農業・協同組合省 農業普及局 上位目標:食料確保と生計向上
プロジェクト目標:プロジェクト地区の農業生産性の向上、農民の自立と農村世帯所得の向上 タイ政府の農業セクター開発政策・戦略枠組みに沿ったパイロット成果の拡大
プロジェクト内容:
① マルチセクター・アプローチ
② 農民のニーズに基づく参加型の活動計画・実施(1村100万バーツの補助金)
(例:フードバンク、農水産加工、灌漑システムの改善、井戸建設、植林、畜産、コミ ュニティ学習センター)
プロジェクト成果:
¾ 作物の生産性の向上、灌漑面積拡大、農業の多様化
¾ 農業および農外所得の増加
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¾ 農民のグループ活動が強化され参加型の手法の定着
¾ コミュニテイ学習センターを通して農民たちの知識や技能が向上 1) 教訓
① PRAアプローチを通じた農民が直面する問題の特定とその解決方法に関する学問的研究機関 の役割は、貧困の撲滅と食料の安全保障にとって非常に重要である。
② 合意に達するには、住民参加はステークホルダー個々の共通理解をもたらし、それ故に、プ ロジェクトの活動の実践を促進する。
③ 村落は貧困撲滅と食料の安全保障のための欠くべからざる構成部分とみなされる。村落は変 化の単位である。
④ 機会が与えられるとき、村落は効率的な意思決定の主体となりうる。
⑤ プロジェクトのオーナーシップに対し、村の住民が共通した態度を示すことが肝要である。
そのことは、先ずプロジェクトの実施に関して、そして事後の成果やアウトプットに関して もそうであるべきである。
⑥ 何処においても、村落の人口の残りの部分をより広くカバーするために、リボルビングファ ンド(回転資金)を持つことが望ましい。
⑦ 参加の程度や事業のアウトプットの質は農業普及サービスの介入と支援の在り様に大きく左 右される。
⑧ 多機関による様々なレベルの委員会を通じた政府の監督や指導は、実質的に貧困撲滅や食料 の安全保障に関連した活動の円滑な実施に貢献する。一方で、このことは政策の確かな実施 をもたらす。
⑨ 住民に配布される農業用インプットは従前に入手されている必要がある。配布の遅れは無駄 の元になり、農業生産の向上に結果しない。
出典:”National Strategy for Poverty Alleviation and the Promotion of Food Security with Special Emphasis to Northeastern Thailand for 2011-2015”(FAO, 2009)
5.4 過去の支援案件からの教訓と今後の支援への示唆