第 5 章 水資源・農業分野での日本及び他ドナー支援案件のレビュー
5.2 水資源・灌漑分野での支援案件事例のレビューと教訓 .1 水資源開発・灌漑開発
5.2.2 流域水管理・統合水資源管理
(1)チャオプラヤ川におけるIWRM(World Bank)
1)概要
チャオプラヤ川はタイにおける米生産の中心である中央平原に灌漑水を供給し、バンコクの水 源であることからタイにおける最も重要な河川である。1994年からチャオプラヤ川の用水管理の 戦略的計画を準備するための政府調査が開始され、1995年にチャオプラヤ流域 RBC の構成など を調査するための小委員会が設立されている。チャオプラヤ流域は、急速な工業化、土地利用の 変化、住宅団地建設、都市化のために頻繁な洪水と水不足など深刻な問題に直面し、いかに流域 の水資源を更に効率よく持続的に管理するかが問われていた。
スタディの主要テーマは、チャオプラヤ流域でのRBCの確立であるが、流域および社会、経済 活動の規模が大きいため、1999年に、Upper Ping、Lower PingおよびPasakの3つの副流域にパイ
タイ国タイ東北地方の水資源管理に係る基礎情報収集・確認調査 ファイナルレポート ロットRBCsが設立された。同年、ADBによるUpper Ping、Lower Pingの管理を含む農業および 水セクターの管理に対する支援が始まり、また同時にWB はPasak副流域における管理強化に向 けた調査のサポートを行った。
2)教訓
① 国にとって最も重要な流域でのRBCsの形成・設立が行われた。
② RBC の責任機能を減らし、i)流域計画の準備、ii)ベースラインのデータ収集と流域情報の保 守、iii)活動宣伝と水認識の向上を図るキャンペーンの実施、の3つの活動に絞ることにより RBCs業務の効率的な遂行が可能となり、活性化が図られた。
③ RBCの構成が政府関係者に偏り、会合や運営がトップ・ダウン型により、活動が停滞してい たため、RBCを、多くの非政府ステークホルダー、NGO及び学識者をいれ、政府関係者が半 数以下となるように再構成し、参加型ワーキンググループを結成することにより、計画及び 決定のプロセスで地域のステークホルダーのより重要な役割を実現させた。
出典:Report of ”Implementing Integrated Water Resources Management (IWRM): based on Thailand’s experience” by Dr.
Apichart Anukularmphai
(2)ヨム川におけるIWRMパイロット事業(ADB)
1)概要
ヨム流域におけるIWRM導入のパイロット事業は、2008~2009年の2年間にADBのPilot and Demonstration Activities program for Water(PDA)のサポートで実施された。ヨム流域の選定理由は 下記のとおりである。
• チャオプラヤ流域の4つの支流の中で、最も開発が進んでおらず、上流に大きな制御用 のダムがなく、中・小規模の施設は分散していて相互の連携がない。しかし、新しい水 源の建設計画がある。
• RID によるケンサテンダムの建設計画をめぐって、森林保護を主張する住民グループと 下流のスコタイの洪水低減を望む下流住民グループがあり、事業の推進と両グループの 流域での水問題の解決のために意見交換と話し合いの機会を提供できる。
ヨム流域におけるパイロット事業の主要点は以下のとおりである。
¾ ワーキンググループを結成し、そのメンバーとして、キーとなるステークホルダーを人 選した。
¾ 流域のステークホルダーから選ばれた議長(僧侶)とメンバーが統括的役割を果たした。
¾ Water Resources Association(TWRA)および大学からのResources Personsが技術面のアド バイザーとしての効果的支援を行った。
2)教訓
① “Change in attitude and thinking”
実際に関与するステークホルダーの参加による会議の開催により、自由な意見交換および協
タイ国タイ東北地方の水資源管理に係る基礎情報収集・確認調査 ファイナルレポート
力が達成された。Sub-district レベルの上下流にわたるネットワークを創設したことにより、
より大規模のステークホルダーの理解の共有と、水管理における地元の智恵の活用と、優先 順位の合理的な決定を可能にした。
② “IWRMトレーニング”
共通のトレーニングにより、地元住民と政府職員の相互理解が促進された。 DWRのRegion 9はワーキンググループへの支援とRBCの事務局としての役割があり、さらなるトレーニン グと制度化、予算化など活動に対する財政的支援が必要である。
③ “データ収集とヨム流域情報センターの設立”
ヨム流域情報センターが設立されたことにより、ステークホルダーが容易に見ることのでき るデータベースと三次元物理モデルが構築され、情報センターはさまざまな水資源関連ステ ークホルダーのトレーニング施設として利用されている。
④ “洪水警報システムの構築”
ワーキンググループによりヨム川に11箇所の水位観測点が選定され、橋脚に標尺を取り付け、
地元ボランティアにより、読み取りデータは携帯電話のSMS(Short Massage Service)を経由 してヨム流域情報センターに送られ、河川縦断図にプロットされウエブサイトに載せられる。
ステークホルダーの運営による安価で効率的な洪水警報システムが構築された。
⑤ そのほか、Sub-district レベルの上下流にわたるネットワークの創設、若者による水質モニタ リングボランティア活動などが実施された。
出典:Report of ”Implementing Integrated Water Resources Management (IWRM): based on Thailand’s experience” by Dr.
Apichart Anukularmphai
(3)Bang Pakong川流域におけるIWRMの導入(FAO、ADB)
1)概要
タイの東部に位置するBang Pakong 川流域は19,000km2の流域面積があり、9つの支流域に分か れる。比較的豊富な降雨があるが、乾季には非常に限られた流出しかなく、小さな貯水ポテンシ ャルと大きな灌漑面積および養殖漁業を有し、工業化の拠点でもあり、また海からの塩水遡上の 問題がある流域である。流域に存在する主要な問題点は、人々の生活に直接影響を受けているエ コシステムの劣化、生活用水の不足、繰り返し発生する洪水、水の汚染などであり、これらが原 因となっている恒常的な水利用者間の争いである。
2003年、FAOの支援により流域のステークホルダー間の水管理における協力を促進するための プロジェクトである“Bang Pakong Dialogue”が開始され、続いて2004年ADBの財政支援により”A Pilot and Demonstration Activity”プロジェクトが開始され、流域での争いの減少、水配分手法の導 入、IWRMの導入を目的として、Bang Pakong川のRBC(BPRBC)の能力強化が計画された。BPRBC の構成は、地方自治体の代表、利水者、ローカルNGO、政府職員、プライベートセクター代表な どより構成され、議長はプライベートセクターから選出された。
プロジェクトの成果の第 1は、官僚セクター、市民社会およびコミュニティが一体となって問 題の解決等に協力したことである。第 2には、水資源法のドラフトに示されたように、コミッテ
タイ国タイ東北地方の水資源管理に係る基礎情報収集・確認調査 ファイナルレポート
ィにより、水配分の方法が提案されたことである。
2)教訓
Bang Pakong川流域におけるIWRM実践での教訓は以下のとおりである。
① リーダーの選定が重要であり、BPRBCの場合ではプライベートセクターからの議長選出がキ ーポイントであった。
② 込み入った水配分の争いの処理など、コミッティの役割を達成できるようなRBCのメンバー の能力の向上が重要である。
③ 水資源管理のポリシーとRBCの役割を明確にすることが重要である。
④ 計画立案と適切な活動、財政においてRBCと国家レベルでのリンクが必要である。
出典:Water Champion: Sukontha Aekaraj “Bang Pakong River Basin: Resolving Conflicts Through Dialogue” April 2007 by Ma. Christina Dueñas, Water Knowledge and Communications Coordinator, ADB
(4)統合水管理計画(IWRM)の支流域での実践からの教訓:
Huai Sam Mo sub-Basin Working Committee and Integrated Water Resource Management
Plan” (GTZ、WB、MRC、WWF)
1)概要
メコン河委員会(MRC)はドイツ技術協力公社(GTZ)の支援と世界銀行(WB)の資金提供 を受けて、加盟国でのIWRMに関するパイロットプロジェクトを実施している。タイ東北地方に おいてはチー川上流域のHuai Sam Mo(HSM)をDWRがパイロット地区として選定し、チー川 RBCの下部組織となる支流域活動部会(Sub-Basin Working Groupの結成(2002年)、関係する16 のTAOや地元住民の参加を促しながら流域環境保全活動、水資源管理にかかる問題点の把握や活 動計画立案を行った。
参加型計画によって5 つの戦略(コミュニティ水資源開発、有機農業と収入創出活動の推進、
組織開発と環境改善、地元の智恵やルール・教材の開発、女性と青年の役割重視)とそれに基づ く活動計画が行われ、活動の実施を通して、各地区の女性グループや青年グループのネットワー クが構築された。活動には植林、コミュニティ水資源の活用ルールの策定、有機農業のパイロッ トファーム等がふくまれ、水力発電からの余剰水を共同ため池へ導水する計画が提案され、DWR が設計・実施予算を確保しているところである。
これらの支流域レベルのパイロット地区での取り組みをチー川流域の 20 の全支流域に広げる ため、WWFとコカ・コーラとのメコン河流域の水資源の保全にかかる協働プログラムのなかで3 年間の支援を行うこととなった。
2)教訓
① TAO、地元住民の参加を得て支流域の水資源の状況について問題を把握し、対応策を話し合
い、具体的な活動計画を策定する学習プロセスにより地域住民がより支流域の水資源につい