第 2 章 ラオス政府の取組み
2.1. 貧困問題を取り巻く経済環境
2.1.3 農村の経済構造と貧困
表 2-4 州別・地域別の貧困指標変化率の推移(1992/93〜1997/98年)
(単位:%)
貧困率の変化率 貧困ギャップ比率の 変化率
二乗貧困ギャップ比率 の変化率
ビエンチャン市 -18.2 -18.5 -18.3
北部 -1.7 0.8 3.7
Phongsaly -4.4 0.9 8.3
Luangnamtha 4.6 6.7 9.1
Oudomxay 7.3 18.8 29.5
Bokeo -1.7 6.1 14.7
Luangprabang -7.2 -9.1 -8.8
Huaphanh 0.0 -1.0 -2.1
Xayaboury -4.6 -9.0 -12.7
中部 -2.7 -1.1 -0.1
Xiengkhuang -7.7 -8.4 -7.8
Vientian P. -2.0 -2.5 -1.9
Boirkhamxay 10.4 23.1 35.9
Khammuane -1.1 -0.5 -2.3
Savannakhet -4.7 -2.6 -1.2
Xaysomboon SR - - -
南部 -2.8 -3.4 -4.0
Saravane -2.1 2.8 7.2
Sekong -6.0 -8.9 -9.6
Champasack -2.0 -2.5 -2.9
Attapeu -4.6 -12.3 -17.3
〔出所〕Kakwani, N., et al., (2002), Poverty in Lao PDR during the 1990’s より作成
なるのは、土地税や医療費、教育費などの村落外部から供給される社会サービスの対価 として生じるものがほとんどである。現金収入は、米の余剰、家畜などを売却して得て いる。
こうした農村における経済活動は、マクロ経済成長の効果が農村経済の向上につながり にくいという状況を生み出している。こうしたことは、LECS の所得階層別の支出に占 める食糧自家消費量の割合によっても推定される。(表 2-5)
総支出に占める食糧の自家消費量の割合は低位層ほど高くなっており、第 5 分位では 23%に対し、貧困層に相当する第1分位層および第2分位層ではそれぞれ47%、50%と 食糧自家消費量の割合が高くなっている。食料支出に占める自家消費量の割合で見ても、
第5 分位層では約4割であるが、第1 分位層および第2 分位層では7 割近い割合となっ ている。これは、所得階層の低位層では貨幣を媒介しない自家消費が支出に占める割合 が高く、米など市場における価格の変動の影響を受けにくいことを示唆している。また、
貧困層では自家消費を中心とする食料支出の総支出に占める割合が高いことからも、マ クロ経済における物価変動の影響が上位層に比べて小さいことが推測される。
表 2-5 所得階層別の支出に占める食糧自家消費量
(単位:%)
第1分位
(20%未満)
第2分位
(20〜40%)
第3分位
(40〜60%)
第4分位
(60〜80%)
第5分位
(80%以上)
食糧支出の総支出に 占める割合
74.2 73.3 70.8 66.7 52.2 食糧自家消費量の支
出に占める割合
46.8 49.8 47.0 42.1 22.7 食糧支出に占める食
糧自家消費量の割合
63.1 67.9 66.3 63.1 43.5
〔出所〕National Statistical Center, (1999), The Households of Lao PDR: Lao Expenditure and Consumption Survey 1997/98 ( LECS 2), p.11, Table 12より作成
農家の主要な生産の目的を見ると、タイに市場を持つChampasakを除くすべての州で、
自家消費を目的に農業生産を行っている世帯が90%を超えており、ラオスの農業セクタ ーにおいて生産活動が現金収入を目的に行うものではないことが明確になっている。(表 2-6)
また、LECS2によれば、世帯の農業生産のうち、市場での販売は平均で40%を下回って
おり、特に、世帯の農業生産の40%を占める米の市場への流通はわずか13%と、自家消 費がほとんどとなっている。農村世帯の 70%が農業生産の一部を市場で販売している が、州によって大幅な格差が生じている。道路が未整備である北部のLuangnamthaでは、
農業生産物の市場への販売率は 10%であるのに対し、国道などの整備が進んでいる
Xayabury、Luangprabang、ビエンチャン市の農村世帯では、80%以上が市場向けであっ
た。これは、道路の整備状況による市場へのアクセスに起因しているものと考えられる。
また、道路などの輸送インフラや灌漑など生産インフラの未整備に起因するラオスの農 村経済の脆弱性を示しているケースも見受けられる。道路整備が進んでいない北部の
LuangnamthaやOudomxay では、1992/93 年から1997/98年にかけて貧困率は、それぞれ
4.6ポイント、7.3ポイント悪化している。また、中部のBorikhamxayは、本来ラオスの 中心的な米作地帯であり、1992/93年の貧困率は17%と低かったものの、1996年の洪水 の影響で米生産が打撃を受けた上、道路も寸断され、市場へのアクセスが低下したこと から所得水準が低下し、貧困率は28%と10ポイント以上悪化した。
表 2-6 州別に見た農家の主要な生産の目的
(単位:%)
生産の主目的
販売 物物交換 自家消費
ビエンチャン市 7.20 1.03 91.77 Phongsaly 1.23 1.23 97.13
Luangnamtha 1.52 0.51 97.98 Oudomxay 3.89 1.20 94.91 Bokeo 7.45 0.53 92.02 Luangprabang 3.23 1.08 95.87 Huaphanh 0.54 0.54 98.92 Xayaboury 8.30 0.40 91.30 Xiengkhuang 0.71 - 99.29 Vientian P. 5.03 0.23 94.51 Boirkhamxay 3.40 - 96.60 Khammuane 3.21 0.23 96.56 Savannakhet 1.89 0.63 97.48 Xaysomboon SR 5.26 - 94.74 Saravane 7.51 - 92.49 Sekong 5.15 2.06 93.81
Champasack 19.94 0.57 79.49 Attapeu 2.03 0.68 96.62
〔出所〕Agricultural Census Office, (2000), Lao Agricultural Census, 1998/99: Highlights, p.15, Table.3より作成
〔注1〕各州の農業世帯数に占める、販売、物物交換、自家消費のそれぞれを主目的に生産を行っている農業 世帯の割合を示したものである。
実態のある貧困削減を実現し、成長の分配を広く農村に広げていくには、孤立化した農 村経済の市場へのアクセスを向上させる必要がある。
(2) 農村部における限定的な所得機会
ラオス経済は、農業および農村を中心とする構造であり、農業セクターは、GDPシェア 53%、人口で77%、労働人口では85%以上を占めている。
しかし、ラオス政府の公式統計では、農業生産高があるのみで、農村での雇用機会、収 入源などの状況を確認できる公式統計は整備されていない。例えば、政府の雇用統計は、
公務員及び大企業の従業員のみを対象としており、失業率は5%とされている。実際に、
労働・社会福祉省では、農業セクターについて「インフォーマルセクター(Non formal
Sector)」という認識であり、その結果、国民の大多数が農村で生活しており、市場経済
化により一大民間セクターとなるべき農村の経済構造の実態が把握できていない状況と なっている。したがって、農業振興は政策として掲げられているものの、貧困削減とし ての所得向上および雇用対策は行われていない。
LECS2の結果でも、農村における経済活動は農業が中心であり、労働人口の63%が農業
に従事していることが確認できる。こうした農村における農業従事者のうち7 割以上が、
最低生活水準レベルの生産を行っている農業従事者であり、無給の家族労働者の 9%と 合わせると、およそ8割は世帯の生計を維持するのがやっとという状態にあるといえる。
ラオスにおいても、他の社会主義国と同様、1980年代前半に農業集団化が進められたも のの、強制的な協同組合への加入および共同生産体制は農民の生産意欲を低下させたこ とから、1980年代後半には生産の自由化がはじまった。当初は、土地の所有は国によっ て行われ、各村に耕作地や森が分配され、農家が委託生産を行うという形がとられた。
その後、農民は土地税や生産物の一定量を国に納めることによって、土地の長期使用権 および相続・譲渡に関する権利が与えられ、1989年には土地の耕作者に対し永代使用権 を与えることになった。
しかしながら、土地所有で見た場合、ラオスの農村は、地理的に分散しており、また、
規模も極めて小さい。1998/99 年の農業センサスのラオスの平均土地所有面積は 1.62ha であり、州別で見ても 2ha を超えている州はほとんどない。土地が細分化されている上 に、天水農業が主体であることから、生産性は低いことが指摘されている。
土地所有を含む、農業セクターの自由化は、民間セクターとして農村の所得獲得機会の 拡大および農村の市場へのアクセスの拡大に結びつくものにはなっておらず、農村がマ クロ経済全体の成長から取り残されたままとなっているのが現状である。
農業セクターはラオスの主要産業でありながら、同時に脆弱性を抱えていることから、
農村の多様性に配慮しつつも、インフラ整備を含め、実効性のある農業セクターの構造 改革を進めていくことが求められる。