第 3 章 貧困削減へ向けた国際協力
3.2. 貧困削減に向けた取り組み
3.2.1 国際機関
(1) 国際通貨基金 (IMF)
IMFが貧困削減に乗り出したのは、1996年に重債務国の債務削減のための重債務貧困国 イニシアティブ(HIPC: Highly Indebted Poor Country Initiative)を始めたのがきっかけで ある。1999年には、更なる債務削減を含む拡大HIPCを採択し、WBと合同で包括的開 発枠組み(CDF: Comprehensive Development Framework)と貧困削減戦略書(PRSP: Poverty
Reduction Strategy Paper)を新しい政策枠組みと決定した。IMFは、PRSPの作成を債務
削減の条件にすると同時に、ESAFが名称を変えたPRGF(Poverty Reduction and Growth
Facility)は、各政府が作成するPRSP を基盤とすることになっている。
ラオスは、1989 年からIMFと世界銀行の構造調整プログラムを受けて、順調に経済成長 を続けてきが、アジア通貨危機後の1998〜99 年にマクロ経済は不安定化した。このため、
ラオス政府は金融・財政の引き締め政策に転じたが、対応策の効果はあがらず危機の影 響は浸透していった。IMFが提案した更なる緊縮政策が政治的に困難であったこともあ り、ESAF融資は実現しなかった。その結果、1998 年から約3年間、IMFによるラオス 支援は停止された。
この間、IMFは、WBとCDF/PRSP のアプローチを採択し、ラオス政府が2001年3月に
I-PRSP を提出したのを受けて、同年4月、3 年間で4,000万ドルのPRGF融資を行うこ
とを決定した。PRGF は各国政府が作成する PRSP を支援するものであるが、ラオスの
F-PRSP提出前に行われることになったPRGF融資は、I-PRSP に基づいて行われた。
PRGFの目標は、「マクロ経済安定政策と公正な経済成長による貧困削減」であり、マク ロ経済を安定させる財政・金融管理の効率化と、それによって生じる余剰資金の社会開 発分野への再配分が貧困削減に寄与するとして、貧困削減政策実施のために重要だとし ている。PRGFの具体的な重点分野は、i) 税制改革などを中心とした財政引き締め、ii) 国 営商業銀行のリストラクチャリングを初めとする金融セクター改革、iii) 民間セクター の活性化、iv) 公共投資管理の向上である。
IMFは、同じくマクロ経済安定化を重視するWBと、ガバナンスを重視するAD Bと政 策レベルで協調している。これらの国際金融機関は2002年にはPERを共同で実施し、
この中でラオスのマクロ経済の枠組みと公共支出制度の問題点について指摘し、改善の ための提言を行っている。同じく金融セクターの改革の分野で現在ラオス政府を支援し ているのは、AusAID(国営商業銀行の不良債権の査定)や ADB(農業促進銀行の不良 債権の査定)である。
(2) 世界銀行 (WB)
WBは、1990年の「ワシントン合意」をきっかけとして、再び貧困削減を重視するよう になった。1990年代には、大規模な家計調査やPPAなどを最貧国で実施し、貧困分析を 行ってきた。2000年代、世界銀行の貧困削減政策のキーワードは、機会(Opportunity)、 エンパワーメント、社会保障(Security)であり、それまで蓄積してきた貧困に関する知
識を包括的にまとめあげる方向性を示している。1999年にはIMFと合同でCDFとPRSP を採択し、PRSP の提出を IDA 融資の条件とする一方、各国政府が作成するPRSP に基 づいて、国別支援戦略(CAS: Country Assistance Strategy)を作成することを基本方針と している。
WBは、1999年3月にIDA融資のためラオス国別支援戦略(CAS 2000-01)を作成して おり、その中でラオス政府の長期目標、そして5 ヵ年計画(NSEDP(1996-00))が定めた 三つの目標(貧困削減、インフラ開発、人的資源開発)を基本的に支援することを表明 している。しかし、同時にアジア危機に始まったマクロ経済環境の悪化を懸念し、CA S の中でラオス援助政策の目的に、
i) マクロ経済安定化と更なる構造改革
ii) 持続的な貧困削減に不可欠な経済成長基調への復調
iii) 社会サービスの普及とインフラ整備
iv) 潜在的生産力の実現
の4 項目を挙げている。またこれらの目標達成のために具体的な優先分野として、i) 経 済安定化、ii) 更なる経済構造改革83、iii) 保健・教育セクターへの投資84、iv) 農村開発 と天然資源管理への投資85、の4 分野を掲げている。
2002年現在、WBは、まずマクロ経済安定化を貧困削減の必要条件として強調し、当面 の間、IMF やADB と協調しながらラオス政府のマクロ経済安定化政策と金融セクター 構造改革を重点的に支援するとしている。また、WBは従来のように「漠然かつ複雑な」
構造調整プログラムではなく、セクター調整を通じた改革促進を支援する方針を示して いる。
また、貧困削減に直接寄与するプロジェクトとして、2002年6 月から、貧困削減基金プ ロジェクト(PRFP: Poverty Reduction Fund Project)を開始している。このプロジェクト は参加型の農村開発を目的としており、道路インフラ、基礎教育、保健医療のコンポー ネントを均等に含んでいるのが特徴である。また、これに加えて PRFP は、中央・地方 政府の人材育成のコンポーネントを含んでおり、地方分権化に向けた総合的な貧困削減 支援パッケージとなっている。合計で約 2,170 万ドルが拠出される予定で、主に北部の
Huaphanh 州、中南部のSavannakhet 州、南部のChampasack 州で実施されている。
83金融セクター・官営企業の改革、民間セクターや農林セクターへの中央政府の介入に対して人材育成を通 じた改革の支援など。
84基礎教育・基礎保健の更なる普及、マラリア防止支援、母子保健の向上、などによって基本的社会指標を 改善させるなど。
85 政策のひずみ改善、農業生産率向上、適切な森林 管理技術と持続可能な環境管理の促進、地方の電化や 国道のなどのインフラ整備、水力発電など。
(3) アジア開発銀行 (ADB)
ADB は、1999 年 11 月、新しい貧困の定義を「全ての人に付与されている基本的資産
(Essential Assets)と機会(Opportunity)に対する権利が剥奪されている状態」とし、定
量的な貧困指標のみに基づく貧困削減の方針を改めた。具体的には、基礎教育や基礎保 健の充足を重視しているが、「参加」する機会の欠如が原因で「エンパワー」されない個 人や社会もまた貧困層の対象に含まれるとしている。また、ADBは「貧困層」の多様性 を認識し、地理、年齢、ジェンダー、職業、そして各国の価値観や文化によって貧困の 定義が異なるとしている。その支援政策の目標には、i) 貧困削減を重視した持続的な経 済成長、ii) 社会開発、iii) グッドガバナンスが挙げられており、それに向けた支援は、
i) 比較的大規模なプロジェクトによる中・長期的な貧困削減アプローチと、ii) 相手国政 府への政策改革への支援アプローチに分類されている。
ADBは2001年9月にラオス政府と「貧困削減パートナーシップ合意」を結び、この中 でラオス政府と、長・中・短期目標について合意した。長期目標は「コミュニティーレ ベルで貧困層の参加と機会を広げることによって達成する貧困削減」である。またこれ を達成するための中間目標には、ADBの重点分野を反映させて、i) 持続的な経済成長、
ii) 包括的(inclusive)な社会開発、iii) 良いガバナンスを挙げている。さらに、実施レ
ベルでの短期目標は、以下の四項目を掲げている。
i) 農村開発と農村市場の連携(農村・都市間の運輸システムへの投資、電気・
水・地方道路などへのインフラ投資、農産物の生産性向上など。)
ii) 人的資源開発(女性・少数民族・コミュニティーを重視し、基礎教育、基礎 保健、水道や衛生など。)
iii) 持続可能な環境管理(セクター横断的な課題としてすべての投資、政策支援
に適用、特にコミュニティーの参加を重視することなど。)
iv) 民間セクター育成と地域経済統合(投資を促進させるためのインフラ、ビジ ネスの基盤となる環境整備、呼び水(catalytic)投資への政府介入の制限、国 境を越えた地域経済協力の促進など。)
ADBはこの合意に基づき、他のドナーに先行して2002 年7 月に最新のラオス国別戦略・
プログラム(CSP: Country Strategy and Programmes 2003-05)を作成ずみである。このCSP は、IMFやWBと共同で実施したPERを盛り込んだものとなり、「良いガバナンス」と いう中間目標を実施段階で明確化し、以下のように付け加えている86。
v) ガバナンスと人材育成(公共サービスを透明化・効率化するための改革支援、
民間セクターを促進するための法制度整備など。)
また、ADBは、より効果的な貧困削減政策を調査するためには定性的データと既存の定 量的データを「組み合わせる」手法が有効であるとして、各国でPPAを支援している。
ADBがラオスで2000年に支援したPPAは、農村の貧困層、国家公務員、統計局の職員、
大衆組織、そして学識経験者との相談を通して行われた。PPAの目的は、i) 貧困要因、
86本政策の中では、ガバナンスと人材育成を貧困削減政策に付け加えることについては、2002年9月にADB がラオス政府と対話する予定とされた。
ii) 様々な政策案の貧困への影響、を探ることにあるとする。PPAの政策への影響が最も 大きかったのは、貧困削減政策の地理的重点が、従来ラオス南部地域とされていたのが
87、PPAの結果分析によって北部地域(Xaysomboon 州やXiengkhuang州など)へ変更さ れたことであろう。この貧困分析に関する情報は他のドナーからも受け入れられ、ADB はPPAが、「ラオス政府が5 カ年計画であるNSEDP を計画する際の有力な参考資料とな った」として、今後も積極的に支持する方向性を示している。
このほか、ADBは 1992 年から開始した大メコン経済圏イニシアティブ(GMS: Greater
Mekong Subregion Initiative)の延長として、2001年に教育・保健分野でメコン川流域の
少数民族のニーズについての調査(Health and Education Needs of Ethnic Minorities in the
Greater Mekong Subregion)を実施している。ここでは、ラオスを含む当地域の5カ国で
少数民族の人間開発指数などが低い原因を調べ、その解決策を探ることにあるとしてい る。
現在、ADBはラオスのドナー協調を促進する中核的な存在となりつつあり、様々なドナ ーとプロジェクトの協調融資を試みている。これまでも道路やエネルギーセクターの大 規模プロジェクトで協調融資を行ってきた経験があるが、今後は、さらに幅広い分野の プロジェクトで主要ドナーと協調融資の可能性を示している。たとえば、政策レベルで の協調が少ないフランスのフランス開発庁(AFD: Agence Francaise de Developpment)と も、都市開発、農村灌漑の分野で協調融資する可能性があるとしている。その他の主要 ドナーとの協調融資の候補セクターは、表3-8に示すとおりである。
表 3-8 ADBの協調融資のセクター候補(年間1,000〜2,000万ドルの予定)
共同出資の相手 セクター
AFD(フランス) 灌漑、農村電気普及、都市・水道開発 AusAID 医療保健、教育
DANIDA(オランダ ) 自然資源管理、都市開発 国際農業機構(FAO) 森林資源管理
ドイツ(GTZ含む) Nam Ngum River Basin、教育、医療保健
日本(JICA含む) 灌漑インフラ、Nam Ngum流域、都市開発、メコン地域経済統合 OPEC基金 農村道路
SIDA(スウェーデン) 森林資源、農村道路、教育、医療保健
ノルウェー 教育
UNDCP 農村道路
UNDP/UNCDF 農村金融(マイクロファイナンス)
世界銀行 金融
UNICEF 教育、医療保健
[出所] ADB, 2000, Country Assistance Plan ( 2001-2003): Lao People’s Democratic Republic, p.20から作成
87ラオスの貧困が南部で著しいという分析結果については世界銀行が1995年に作成した Social Development Assessment and Strategy を参照。