第 2 章 ラオス政府の取組み
2.2. 貧困問題をめぐる諸政策
2.2.2 政府予算と公共支出
a. 予算策定過程
ラオスの政府予算62は、政府の一般管理費を中心とする経常予算とインフラ整備など開 発プロジェクトへの投資を中心とする資本支出に係る開発予算の2つに大別される。基 本的に経常支出予算については、各県からの予算要求を財務省に対して行い、それを財 務省が査定し、国家予算を策定する。資本支出予算については、CPCが各州からの予算 要求を受けて取りまとめ、公共投資プログラム(PIP: Public Investment Program)63として 予算策定を行う。
こうした二元化された予算策定過程において、財務省およびCPCの間で調整がまったく 行われないため、偶発的な支出を発生させ、予算の形骸化を招き、財政赤字の原因とな っていることが指摘されている。特に、CPCによる公共投資プログラムは、財源が確保 されないまま、支出計画に基づいた予算編成が行われ、結果として予算不足に陥り、予 算どおりに執行されない傾向にある。また、予算段階で、開発予算には、開発支出に係 る一般管理費は含まれておらず、財務省との調整が行われていないことから一般歳出に も計上されていないため、開発プロジェクトが実施されると一般歳出が予算を大きく超 過することになる。偶発的な支出の発生は必要な支出の実行に遅延が生じさせ、結果と して政策やプログラム、プロジェクトの実効性を低下させる一因となっている。
ラオスの予算策定の問題点については次項において具体的に検証する。
b. 財政の地方分権化
ラオスにおける地方分権化では、地方政府の予算は郡レベルを中心に策定されることに なっている。国家予算は、中央政府予算と地方政府予算に分けられ、郡により策定され た事業予算は各州ごとに取りまとめられ、財務省と予算折衝が行われる。郡の事業予算 は、村レベルにおける予算の積み上げとなっており、ボトムアップ型の地方政府予算の 策定が行われている。特に、地方分権化政策では、実質的には予算策定・執行にあたっ て郡の権限が拡大されており、「より参加型の予算策定」を目指している。
大都市部については、4 つの都市開発行政公社(Urban Development Administration
Authorities)が電力および水道に関する特別税や料金を徴収しており、別枠の予算となっ
ている。村については、村によって徴収された歳入のうち8〜10%が「村落基金」(village fund)として確保され、教育および保健関連支出に充当される。
ラオスにおいては、国家予算法により税の徴収は州が行うこととなっており、本来、州 政府から中央政府にいったん納付され、予算配分されることとなっている。中央政府(財 務省)と各州政府間で税収目標を定め、それに従って歳入の移転が行われる。目標を超 過した場合には、目標とする税収額の50%を州の歳入として確保することができ、残り
62ラオスの会計年度は、10月1日から翌年9月30日までとなっている。
63予算執行については財務省が所管する。
を中央政府に納付するが、目標を達成できない場合には州政府は歳出を削減しなければ ならない。
しかしながら、実際には州政府から中央政府への歳入の移転は法律どおりには行われず、
中央政府の歳入不足の原因となっている。特に、財政黒字である州の場合、目標達成が できない場合でも歳出削減する必然性がないため、歳出削減をせずに中央政府への移転 分を削減していることが指摘されている。64
地方分権化の過程で、各州の意向が大きく反映されるようになった一方で、国家レベル のセクター予算がきちんと策定されていないため、セクターごとの国家計画の実施が困 難な状態となっている。これは、財政の地方分権化にあたって、地方財政法など必要な 法的、制度的枠組みが整備されないまま、実施されていることに起因している。
そもそも、党と行政府の役割が明確でなく、また中央政府と地方政府の権限も明確化さ れておらず、地方分権化の枠組みも不透明であることから、財政の地方分権化において も混乱が生じている。そのため、中央政府および地方政府における予算策定および財政 管理の透明化および組織強化が求められる。
(2) 政府財政の動向
ラオスの財政基盤は非常に脆弱であり、大幅な財政赤字を抱えている。財政赤字の対 GDP 比は1993 年では6%であったが、1994 年には10%を超えた。1997年にはアジア通 貨危機の影響から経済成長が鈍化したため、財政赤字は再び11%に上昇した。1999 年以 降は改善が見られ、7%台の水準で推移している。(図 2-6)
64 ADB, IMF, WB, (2002), Lao PDR Public Expenditure Review: Country Financial Accountability Assessment, Vol.II, pp.50-51
0.00 2.00 4.00 6.00 8.00 10.00 12.00
1993 1994 1995 1996 1997 19 98 1999 2000 2001
( %)
財政赤字 海外借入
〔出所〕ADB, (2002), Key Indicators of Developing Asian and Pacific Countries, pp.224-225より作成
図 2-6 財政赤字および海外借入の対GDP比
0 5 00,000 1,0 00,000 1,5 00,000 2,0 00,000 2,5 00,000 3,0 00,000
1 993 1 994 1 995 1 996 1 997 1998 1999 2000
(100万キップ)
歳入 歳出
〔出所〕ADB, (2002), Key Indicators of Developing Asian and Pacific Countries, pp.226-227より作成
図 2-7 歳入・歳出の推移
ラオスの財政赤字の原因は、過大な開発予算、すなわち資本支出にある。1993年には経 常収支で見ると、1992年までは赤字であったが、1993年以降は黒字に転じている。しか しながら、資本支出が拡大していることから、財政赤字は解消されていない。資本支出 は常に経常支出を上回っており、政府歳出に占める割合で見ると、資本支出は1997年以 降ほぼ60%台で推移しており、1999年には7 割に達している。(図 2-7)
ラオスは国内金融市場が未整備であり、国内資金を動員できる環境にないため、財政赤 字のファイナンスは海外からの資金に依存している。海外借入の対GDP 比で見ると、5% 前後で推移してきており、2001年には3%に低下している。資本支出は経済・社会イン フラの整備を中心とする開発プロジェクトに向けられているが、その大部分はドナーか らの無償や借款によりまかなわれているのが現状である。
また、予算管理および歳出管理の甘さも財政赤字の要因となっている。予算の執行状況 を見ると、毎年政府歳出の実績額は予算額を上回っている。特に、1997年度および1998 年度は、それぞれ184%、142%と実績額が予算額を大幅に上回っている。アジア通貨危 機により、多額の偶発的な支出が発生したためと見られるが、ラオス経済は外部経済の 影響を受けやすく、それによって政府財政も大きく左右されることから、政府財政の健 全性を確保するためには、適切な予算に基づく慎重な歳出管理が必要である。
表 2-9 政府予算の執行状況
(単位:%)
1995/96 1996/97 1997/98 1998/99 1999/2000 予算(10億キップ) 202 249 321 640 1,574 実績(10億キップ) 205 264 590 908 1,701
達成率(%) 101 106 184 142 108
〔出所〕WB, IMF, ADB, (2002), Lao PDR Public Expenditure Review: Country Financial Accountability Assessment, Vol. II, p.148, Table 9より作成
支出項目の内訳を見ると、一般歳出にあたる経常支出では公務員等の政府部門の職員の 人件費が最も高い割合を占めている。しかしながら、公務員の賃金カットが行われ、1997 年度以降10%台に低下している。賃金カットの対象には、教員やヘルスワーカーなど社 会サービスに従事する職員が含まれていた。財務省によれば、2004年度から名目賃金は カットされる以前の水準に戻されるとのことであるが、賃金カットによる公務員の勤労 意欲の低下から公共サービスの提供や質に悪影響を及ぼすことが懸念される。65(表 2-10)
また、政府歳出に比して資本支出の比率が非常に高く、経常支出と資本支出が不均衡と なっている。1994年度の経常支出は50%であったが、2000年度には10ポイント低下し て40%となっている一方、資本支出は1994年度50%から2000 年度60%となっている。
資本支出と経常支出の不均衡は、資本支出によって実施されたプロジェクトや既存の事
65中央政府の職員は、富裕層が多く占めており、公務員の給与によって生活水準を左右されにくいことから、
賃金カットによるモラルの低下はあまり見られないとの指摘もある。
業の人件費を含む事業費および維持管理費の不足の要因となっている。このため、本来 期待される投資効果や事業効果があがらないといった状況に陥っている。
表 2-10 項目別政府歳出の内訳の推移
(単位:%)
1994/95 1995/96 1996/97 1997/98 1998/99 1999/2000 2000/01 経常支出 49.3 46.0 50.5 34.5 29.8 38.1 39.3 賃金・給与 23.4 21.9 20.7 13.2 10.0 12.2 13.2 資機材 14.8 14.4 12.8 7.1 7.3 6.3 10.5
金利 3.8 2.8 3.6 4.4 3.3 3.7 4.3
木材ロイヤリティ貸付 0.0 0.0 7.2 4.2 4.9 8.8 0.0 その他 7.2 6.9 6.1 5.5 4.3 7.1 11.3 資本支出 50.7 54.0 49.5 65.5 70.2 61.9 60.7 合計 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
〔出所〕WB, IMF, ADB, (2002), Lao PDR Public Expenditure Review: Country Financial Accountability Assessment, Vol. II, p.1, Table 1.1より作成
〔注1〕2001/02の数値は予算ベース。
2001年から再び導入された地方分権化政策は、中央政府と州政府との間の予算配分に明 確に反映されている。1996 年度の州政府への予算配分は30%未満であったが、2001 年 には15ポイント増大し、40%を超える水準となっている。財政の効率化を目指して実施 されている地方分権化であるが、問題を抱えているのはすでに指摘したとおりである。
表 2-11 地方政府への予算配分の推移
(単位:%)
1996/97 1997/98 1999/2000 2000/01 2001/02 中央政府 66.1 65.9 69.5 61.2 56.4 州政府 28.0 28.7 30.5 38.8 43.6
〔出所〕WB, IMF, ADB, (2002), Lao PDR Public Expenditure Review: Country Financial Accountability Assessment, Vol. II, p.2, Table 1.2より作成
〔注1〕2001/02の数値は予算ベース。
歳入構造を見ると、税収が8割弱を占めているが、税収の7 割近くが間接税による歳入 である。税収のうち、最も大きな割合を占めているのが輸入品にかかる売上税・サービ ス税で、2000年度には歳入全体の3 割を超えている。売上税による税収が増加したのは、
1997年度から税率が引き上げられたことによるものによる。関税は1997年度までは23% 程度で推移していたが、アジア通貨危機の影響を受け、ラオスの対外貿易が縮小したた め、1998 年度以降は低下し、2000 年度は 11%とシェアはほぼ半減している。所得税お よび法人税の直接税の占める割合は拡大しており、1997年度の14%から2000 年度には 22%と8 ポイント増加している。これは、大口納税者窓口(Large Taxpayer Unit)の設置