第 2 章 ラオス政府の取組み
2.1. 貧困問題を取り巻く経済環境
2.1.2 経済成長と所得配分
過去10年間のラオス経済は、図2-3に示すように、1992年から2001年までの実質GDP 成長率は年率 5.7%と堅調な成長基調にある。1997 年のアジア通貨危機発生までは、
ASEAN諸国の高成長に牽引される形で、ラオス経済も好調に推移した。1990年から1997
年までの実質GDP成長率は年率6.5%であった。特に、1994年には、成長率8%を超え、
1995〜1997 年の3 年間も約 7%の成長を見せた。1998 年には、アジア通貨危機による
ASEAN諸国、特にタイ経済の落込みの影響を受け、成長率は4%にまで低下したが、1999
年には7%台に回復した。しかし、2000 年以降は若干成長の足取りが鈍化し、5%台後半 の成長率で推移している。
こうしたラオスの高成長を牽引したのは、商業および運輸・通信を中心とするサービス 部門である。1992年〜2001年までの10年間の商業セクターおよび運輸・通信セクター のそれぞれの実質成長率は、それぞれ年率8.7%、7.4%であった。特に、1997年までの 3 年間の伸びは著しく、二桁台の成長率を記録した。サービス部門の高成長の要因とし ては、ラオス政府の貿易自由化政策が進められたタイミングで、A SEAN経済が高度成長 期に入り、タイなど ASEAN 諸国との貿易が拡大したことが挙げられる。また、市場経 済化に伴い、ドナーの援助が本格化し、内陸国であるラオスの経済発展にもっとも重要 な道路網整備への支援が行われるようになり、タイ、中国、ベトナムなど近隣国との輸 送インフラ整備が進んだことも、商業セクターや輸送セクターの成長を後押しした。1997 年以降は、対外貿易が縮小したことから、サービス部門の成長率も一時 5%台にまで低 下したが、回復の兆しが見られ始め、2001 年には商業セクター、運輸・通信セクターと もに前年比8%台の成長率であった。
また、製造業の伸びも顕著であり、特に1995年から1996年にかけては実質18%の成長 を見せた。製造業の高成長は、繊維産業へのタイおよび米国を中心とする外国投資を背 景とするものであった。アジア通貨危機により、成長率は低下したものの、1997 年以降 年率8.3%の高水準の成長を続けており、2001年には前年比13%の成長を記録した。
これらのマクロ経済成長の牽引役である部門の成長は、きわめて限定的な地域における ものであったと推察される。図2-4 に示すように、サービス部門のGDPに占めるシェア は、1990年代後半からはほぼ16%前後を占めおり、他方、製造業は拡大基調にあり、1990 年には 11%であったが、2001 年には20%を超えている。しかし、これらの産業の立地 は、輸送インフラが整備され、国外も含めた市場へのアクセスのよい都市部に限られて おり、国民の大多数が居住する農村部への成長の波及効果はほとんど見られなかったと いえる。
他方、GDP シェアで 50%以上を占める主要産業である農業部門の実質成長率は、2001 年までの10 年間で年率4.4%と他のセクターに比して低い伸びであった。これは、灌漑 の整備や機械化などの近代化が進んでおらず、天水農業が主流であるため、収穫量が一 定せず、また天候に左右されやすいことがあげられる。加えて、山岳地帯では焼畑農業 が中心であるが、近年、焼畑が制限される一方、農法転換が進んでいないことから、生 産量が低下していることも要因の一つとして挙げられる57。
57 1.3.2 (2)「土地配分による貧困層」の項を参照のこと。
1996年から政府が食糧自給率の引上げを目標として、GDP の6%にあたる投資による大 規模な灌漑整備を進めたことなどから、米の生産量は伸びを示しているものの、米の生 産指数の成長率で見ると、その変動は激しく、安定的な成長部門として農村の経済成長 に寄与するに至っていないことがうかがえる。(図 2-5)
-15 .0 0 -10 .0 0 -5 .0 0 0 .0 0 5 .0 0 10 .0 0 15 .0 0 20 .0 0 25 .0 0 30 .0 0 35 .0 0
199 0 1 991 1992 199 3 1 994 1995 19 96 1 997 199 8 19 99 2000 200 1
(%)
GDP 農業 製造業 商業 運輸・ 通信
〔出所〕ADB, (2002), Key Indicators of Developing Asian and Pacific Countries, pp.224-225より作成
図 2-3 実質GDP成長率の推移(1990年価格=100)
0 % 10 % 20 % 30 % 40 % 50 % 60 % 70 % 80 % 90 % 1 00 %
19 90 19 91 1 992 1993 1994 1995 1996 199 7 199 8 19 99 2 000 2001
その 他 サービス 建設 鉱工業 農業
〔出所〕ADB, (2002), Key Indicators of Developing Asian and Pacific Countries, pp.224-225より作成
図 2-4 産業別GDP構成比(1990年価格=100)
0 500 1,000 1,500 2,000 2,500
1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001
( 千トン )
-2 5.0 -2 0.0 -1 5.0 -1 0.0 -5 .0 0.0 5.0 10 .0 15 .0 20 .0 25 .0 30 .0
(%)
米生産 農業生産指数 成長率
〔出所〕ADB, (2002), Key Indicators of Developing Asian and Pacific Countries, pp.224-225より作成
図 2-5 米生産の動向
(2) 成長による貧困・不平等への影響
ラオスのマクロ経済成長の貧困指標および不平等指標への影響について考察する。
ここでは、ラオスにおける経済成長と貧困および不平等に関する分析は、カクワニらに よってすでに行われていることから、それらの定量的分析結果を下に、本調査の現地調 査の結果を踏まえて、定性的分析を加えることを試みる。
Kakwaniら(2002)は、1992/93年および1997/98年のLECSの結果をもとに分析を行っ
ており、貧困削減への成長と不平等への影響の計測結果は、表 2-2のとおりである。
表 2-2 貧困削減への成長と不平等の影響
成長の貧困削減 への効果の理論値
不平等の貧困削減 への効果の理論値
成長の貧困削減効果
貧困率 -5.2 1.9 -3.3
貧困ギャップ比率 -7.4 5.8 -1.6
2乗貧困ギャップ比率 -8.7 8.8 0.0
〔出所〕 Kakwani, N., et al., (2002), Poverty in Lao PDR during the 1990’s, p.21, Table.13
〔注1〕 成長の貧困削減効果とは、不平等を一定と仮定した場合の成長による貧困率の変化を示してい
〔注2〕 不平等の貧困削減効果とは、成長率を一定と仮定した場合の不平等による貧困率の変化を示す。
すでに見たように、ラオスの実質経済成長率は1992年から1997 年にかけて高水準で推 移し、この結果、貧困指標の改善が見られた。1992/93 年から1997/98 年の 1 人当たり GDP の成長率を年率4.6%に対し、同時期に貧困率は年率3.3%減少していることから、
貧困率の経済成長率に対する弾性値(貧困弾性値)は‐0.7と計測している。これは、成 長率が1%伸びることにより、貧困率が0.7%低減する効果があったことを示している。
貧困指標の変化を経済成長と不平等による影響に分解してみると、この時期のラオスの 経済成長は、貧困率および貧困ギャップ比率の改善に貢献しているが、不平等の度合い が増していることから、経済成長による貧困削減への効果58は理論値よりも減じられて いると推定される。
表 2-2 によれば、成長の貧困削減効果の理論値は貧困率ではマイナス5.2 であったが、
不平等の貧困削減効果の理論値はプラス 1.9 であり、このため、貧困率は実際にはマイ ナス3.3 のみの改善にとどまったと考えられる。
貧困ギャップ比率の改善がマイナス 1.6 にとどまり、また、二乗貧困ギャップ比率では まったく改善されていないことから、特に貧困ラインから支出水準が乖離するほど、不 平等の悪化により成長による貧困削減の効果が届きにくくなっていると推定される。
58貧困削減効果=貧困率の変化率(%)は、以下の成分によって分解されるされる。
貧困削減効果=成長の貧困削減効果の理論値+不平等の貧困削減効果の理論値。
LECS のデータに基づく分析結果では、都市および農村のそれぞれにおける経済成長の
「分配」の状況を見た場合、貧困層の間では、農村よりも都市部のほうが平等な分配に結 びつきにくく、かえって不平等の悪化を招いていることが読み取れる。貧困率および貧 困ギャップ比率のどちらで見ても、都市における成長の貧困削減効果は農村のそれより も低く、都市部においては貧困削減に結びつきにくいことを示している。また、経済成 長率がプラスであったにもかかわらず、都市部における二乗貧困ギャップは上昇してい ることから、貧困ライン以下の貧困層間の格差が経済成長によりかえって悪化している と考えられる。(表 2-3)
表 2-3 成長および不平等の貧困削減効果(1992/93〜1997/98年)
成長の貧困削減 効果の理論値
不平等の貧困削 減効果の理論値
成長の 貧困削減効果 貧困率
都市 -14.2 10.6 -3.6
農村 -4.6 0.7 -4.0
貧困ギャップ比率
都市 -20.4 18.3 -2.0
農村 -6.6 4.1 -2.5
2乗貧困ギャップ比率
都市 -24.9 26.1 1.2
農村 -7.8 6.7 -1.1
〔出所〕Kakwani, N., et al., (2002), Poverty in Lao PDR during the 1990’s, p.21, Table.15
州別に見た場合、人口の集中しているビエンチャン市では、すべての貧困指標の改善が 見られる。一方、貧困率については3州を除いて改善が見られるものの、貧困ギャップ 比率および二乗貧困ギャップ比率では悪化している州が6 州見られる。特に、貧困指標 の悪化は貧困率の高い北部の州に多く見られることから、成長による不平等の悪化は貧 困率の高い地域で生じていると考えられる。また、二乗貧困ギャップ比率の悪化の度合 いが高くなっているため、貧困層のなかでの不平等の度合いが高まり、貧困ラインから 乖離の激しい極貧層に対しては経済成長のプラスの影響よりも不平等の悪化というマイ ナスの影響のほうが大きかったといえよう。(表 2-4)
表 2-4 州別・地域別の貧困指標変化率の推移(1992/93〜1997/98年)
(単位:%)
貧困率の変化率 貧困ギャップ比率の 変化率
二乗貧困ギャップ比率 の変化率
ビエンチャン市 -18.2 -18.5 -18.3
北部 -1.7 0.8 3.7
Phongsaly -4.4 0.9 8.3
Luangnamtha 4.6 6.7 9.1
Oudomxay 7.3 18.8 29.5
Bokeo -1.7 6.1 14.7
Luangprabang -7.2 -9.1 -8.8
Huaphanh 0.0 -1.0 -2.1
Xayaboury -4.6 -9.0 -12.7
中部 -2.7 -1.1 -0.1
Xiengkhuang -7.7 -8.4 -7.8
Vientian P. -2.0 -2.5 -1.9
Boirkhamxay 10.4 23.1 35.9
Khammuane -1.1 -0.5 -2.3
Savannakhet -4.7 -2.6 -1.2
Xaysomboon SR - - -
南部 -2.8 -3.4 -4.0
Saravane -2.1 2.8 7.2
Sekong -6.0 -8.9 -9.6
Champasack -2.0 -2.5 -2.9
Attapeu -4.6 -12.3 -17.3
〔出所〕Kakwani, N., et al., (2002), Poverty in Lao PDR during the 1990’s より作成