2.3 軸差応力下での繰返しせん断挙動に対する適用性
2.3.1 従来モデル
前節で示した多重せん断機構モデルに基づく矢板式岸壁などの地震応答解析においては、
しばしば応答が過大になる傾向が見られる。これは、矢板や控え矢板の受働側地盤など、
常に軸差応力の作用下にあって繰り返しせん断される砂の液状化の進行が他の部分に比べ て著しく速いためである。
多重せん断機構モデルでは、単位体積の砂に対してなされた塑性せん断仕事ΔWsを、負 のダイレタンシーに対する寄与係数Rを乗じて累積し((2.2-34)式)、その累積値Wsにより 液状化の進行程度を表す液状化フロントパラメータS0を設定する((2.2-26)式)。
Ws =∑RΔWs (2.2-34:再掲)
+
=
=
) w w (if /w)
(w ) S -4 (0.
) w w (if )
(w/w 6 0.
-1
1 p 1
1 1 0
1 p
1 0
2 1
> S
S
<
S (2.2-26:再掲)
ここに、w(=Ws/Wn, Wn=τm0γm0 /2)は、累積塑性せん断仕事Wsを初期のせん断エネルギ ーWnで正規化したものであり、w1, p1, p2, S1は液状化パラメータと呼ばれる液状化の進行 を制御するために与えるパラメータである。寄与係数Rは応力空間内の位置によるせん断 仕事の負のダイレタンシーへの寄与程度の違いを表し、破壊線に近づくほど小さくなるよ うに設定される((2.2-37)式)。
S≧Swの場合
R=1 (r≦Sm3の場合)
R=(m1- r /S)/(m1- m3) (r>Sm3の場合)
S<Swの場合 (2.2-37:再掲) R=1 (r≦Sw m3の場合)
R=( m1- r /Sw)/(m1- m3) (r>Sw m3の場合)
ここに、r は初期平均有効応力σm0'で正規化した最大せん断応力、S は状態変数、Swは寄 与係数の設定法を切り替える境界のSの値で通常は0.4である。また、m1=sinφf(φfはせ ん断抵抗角)、m2=sinφp(φpは変相角)、m3=0.67m2である。
図 2.3-1は、上記寄与係数 R の算定式を応力空間内の領域別に示したものである。既往 の多重せん断機構モデル(以下、従来モデル)では、変相線を超えて破壊線に至るまでの 応力空間においてなされる塑性せん断仕事の負のダイレタンシーへの寄与係数は、S≧Sw の場合、せん断応力の増加に応じて線形に低減させ、破壊線上では0としている。この寄 与係数設定法によれば、破壊線にいくら近づいても非零の寄与係数が与えられることにな
第 2 章 繰返し載荷時の砂の力学モデル
る。
矢板の受働側地盤ように軸差応力の作用下にある砂の場合、応力が破壊線に近づいた状 態で繰り返しせん断されるため(例えば、図 5.3-13 に示す有効応力経路図を参照)、大き なせん断応力の下で大きな塑性せん断ひずみが生じ、変相線以下とは比較にならないほど 大きな塑性せん断仕事がなされるが、一方、寄与係数は線形でしか低減されないので、結 果的に、破壊線近傍での挙動が負のダイレタンシーの発現に大きく影響する恐れがある。
2.3 軸差応力下での繰返しせん断挙動に対する適用性
図 2.3-1 従来モデルの寄与係数Rの算定法
図 2.3-2 修正モデルⅠの寄与係数Rの算定法
図 2.3-3 修正モデルⅡの寄与係数Rの算定法
第 2 章 繰返し載荷時の砂の力学モデル
2.3.2 軸差応力下での従来モデルの挙動と修正モデルⅠ
既往の多重せん断機構モデルの寄与係数設定法が、矢板式岸壁など基礎地盤が軸差応力 の作用下で繰り返しせん断を受けるようなタイプの構造物の地震応答を過大なものにして いる可能性がある。このため、別に実施された異方圧密後に軸圧一定として軸差応力を作 用させたまま行われた非排水繰り返しねじりせん断試験(Matsuoら, 2000)を対象に従来 モデルによる解析(要素シミュレーション解析)を行い、軸差応力下で繰り返しせん断し た場合の従来モデルの挙動を確認する。また、比較対照として、従来モデルの寄与係数設 定法の代わりに、新たに提案する、変相線を超えた応力空間における塑性せん断仕事は、
負のダイレタンシーの発現に寄与しないと言う物理機構を想定した修正モデルⅠによる解 析も実施し、寄与係数設定法がモデル挙動に与える影響を調べる(小堤ら, 2001)。
(1) 修正モデルⅠの寄与係数設定法
上述の修正モデルⅠの寄与係数設定法は以下に示す通りである。また、図 2.3-2は、修 正モデルⅠの寄与係数Rの算定式を応力空間内の領域別に示したものである。
S≧Swの場合
R=1 (r≦Sm3の場合)
R=(m2- r /S)/(m2- m3) (Sm3<r<Sm2の場合)
R=0 (Sm2≦rの場合)
S<Swの場合 (2.3-1) R=1 (r≦Swm3の場合)
R=( m2- r /Sw)/(m2- m3) (Swm3<r<Swm2の場合)
R=0 (Swm2≦rの場合)
(2) 非排水繰り返しねじりせん断試験の解析
Matsuo ら(2000)は、相対密度を 60%に調整した豊浦砂(D50=0.16mm、Uc=1.2)の供 試体を用いて、異方圧密後に軸方向変位を拘束した場合と、拘束せずに軸圧一定とした場 合の両者について、非排水繰り返しねじりせん断試験を実施した。
軸方向変位拘束試験では、軸圧98kPa、側圧49kPaで異方圧密した後、軸方向変位を拘 束した状態で非排水繰り返しねじりせん断試験を実施した。試験結果である液状化抵抗曲 線を図 2.3-4に、また、せん断応力-せん断ひずみ関係と有効応力経路図を図 2.3-5 (a)に 示す。
これらの試験結果などを参照して、解析地盤定数を表 2.3-1および表 2.3-2に示すように 設定した。これら定数に基づき、軸方向変位拘束試験に対応する従来モデルおよび修正モ デルⅠによるシミュレーション解析を実施した。解析結果である液状化抵抗曲線を図 2.3-4に、せん断応力-せん断ひずみ関係と有効応力経路図を図 2.3-5の、それぞれ、(b), (c) に示す。これらの図によれば、従来モデルも修正モデルⅠも共によく試験結果を再現する
2.3 軸差応力下での繰返しせん断挙動に対する適用性 ことが出来た。なお、修正モデルⅠでは、せん断応力比が大きなところで負のダイレタン シーが抑えられるため、図 2.3-4に示した液状化抵抗曲線では、大きなせん断応力比に対 しては、繰り返し回数Nlが若干多くなる傾向にある。
軸圧を一定とする試験では、軸圧98kPa、側圧49kPaで異方圧密した後、軸圧を一定と して、非排水繰り返しねじりせん断試験を行った。試験結果とこの試験に対応する両モデ ルによる解析結果の比較を図 2.3-6 (1)と(2)に示す。解析では、軸方向変位拘束試験の要素 シミュレーション解析と同一の解析地盤定数を用いた(表 2.3-1および表 2.3-2参照)。こ れらの図によれば、修正モデルⅠの結果は概ね試験結果を再現したが、従来モデルの方は、
せん断ひずみおよび軸ひずみのレベルが、試験結果および修正モデルⅠの結果より2オー ダー程度大きい。
これらの結果などから、以下のことが言える。
① 軸差応力が速やかに解消される軸方向変位拘束試験の解析では、従来モデルは試験 結果を再現することができた。従って、同じような応力状態にある通常行われる等 方圧密後の非排水繰り返しせん断試験の解析や水平成層地盤を対象とする地震応答 解析には、従来モデルを適用することができる。
② 砂が軸差応力の作用下で繰り返しせん断される軸圧一定試験の解析では、従来モデ ルを適用すると試験結果の70~100倍程度の軸ひずみおよびせん断ひずみが生じた。
また、試験では、ひずみの増加率は最終的に頭打ちになるのに対して、解析結果で は、増加率は増大傾向にある。一方、修正モデルⅠでは、これらのひずみとその増 加傾向は試験結果と概ね一致した。両モデルの違いは変相線を超えた応力空間にお ける寄与係数設定法のみであるので、従来モデルの過大なひずみは寄与係数の設定 法に起因するものである。
③ 基礎地盤が軸差応力の作用下で繰り返しせん断されるような形式の構造物に対する 地震応答解析で見られる過大な応答の一因は寄与係数設定法にある。この点につい ては、本章の最後に両モデルを矢板式岸壁などの例題解析に適用することにより確 認する。ただ、第 3 章ほかで示すように、寄与係数設定法が過大応答の原因のすべ てではない。
④ 修正モデルⅠは、従来モデルの代わりに用いることができる可能性があるが、K0=0.5 とは異なる条件下での検証が必要である。
第 2 章 繰返し載荷時の砂の力学モデル
図 2.3-4 軸方向変位拘束試験による液状化抵抗曲線(Matsuoら, 2000)と 要素シミュレーション結果
表 2.3-1 豊浦砂(Dr=60%):多重せん断ばねモデルなどのパラメータ 変形特性
湿潤 密度
間隙 率 初期
せん断 剛性
体積 弾性 係数
基準 化拘 束圧
ポアソ ン比
拘束圧 依存 係数
内部 摩擦 角
粘着 力
履歴 減衰 上限値 ρt n Gma Kma σma' ν m φf c hmax 土層名
(t/m3) (kPa) (kPa) (kPa) (゚) (kPa) 豊浦砂(Dr=60%) 1.93 0.45 90000 234700 73.5 0.33 0.5 39.5 0 0.24
※1 mG=mK=mとする。
表 2.3-2 豊浦砂(Dr=60%):過剰間隙水圧モデルのパラメータ 液状化特性
変相角 液状化パラメータ φp w1 p1 p2 c1 S1 土層名
(゚)
豊浦砂(Dr=60%) 32.0 5.50 0.80 1.20 1.20 0.005 0.0
0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
1 10 100
繰り返し回数Nl
せん断応力比τxy/65.3kPa
試験結果 従来モデル 修正モデルⅠ
2.3 軸差応力下での繰返しせん断挙動に対する適用性 (a) 試験結果であるせん断応力-せん断ひずみ関係(左図)と有効応力経路図(右図)
(b) 従来モデルによるせん断応力-せん断ひずみ関係(左図)と有効応力経路図(右図)
(c) 修正モデルⅠによるせん断応力-せん断ひずみ関係(左図)と有効応力経路図(右図)
図 2.3-5 軸方向変位拘束試験(Matsuoら, 2000)によるせん断応力-せん断ひずみ関係と 有効応力経路図(上段)および対応する従来モデル(中段)と
修正モデルⅠ(下段)の解析結果 -15
-10 -5 0 5 10 15
-5.0 -2.5 0.0 2.5 5.0 Shear strain (%)
Shear stress (kPa)
-15 -10 -5 0 5 10 15
0 20 40 60 80
Mean effective stress (kPa)
Shear stress (kPa)
-15 -10 -5 0 5 10 15
-5.0 -2.5 0.0 2.5 5.0 Shear strain (%)
Shear stress (kPa)
-15 -10 -5 0 5 10 15
0 20 40 60 80
Mean effective stress (kPa)
Shear stress (kPa)