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ここでは、前章までに提案した各モデルをすべて同時に適用した場合に、矢板式岸壁で ある秋田港大浜地区の1号岸壁と2号岸壁の 1983 日本海中部地震による被害程度を説明 する解析結果が得られることを確認する。

5.3.1 秋田港大浜地区岸壁の被災状況

1983日本海中部地震(M=7.7)は、震央から100km程度離れた秋田港の岸壁に被害を与 えた。この地震で、矢板式の大浜2号岸壁(-10m)は大きな被害を受けたが、新条川の河 口を挟んで隣接する同じく矢板式の大浜1号岸壁(-10m)は無被害であった。大浜1号岸 壁と2号岸壁の位置を図 5.3-1に、両岸壁の断面図と被災状況を図 5.3-2に示す。両岸壁は、

構造形式はともに控え式鋼矢板岸壁であり、控え工は1号岸壁が鋼管杭の直杭式、2号岸 壁は2列の鋼管杭直杭の頭部をコンクリートで剛結した構造である。前面矢板、控え工、

および、タイロッドの仕様を表 5.3-1に示す。

図 5.3-3には、大浜1号岸壁と2号岸壁の土質柱状図を示す。それぞれ、岸壁中央部の 前面矢板背後のボーリング孔に対応するものである。1号岸壁は矢板前面を掘削して築造 されたのに対して、2号岸壁は海砂の陸上まき出しによって造成された。このため、標高

±0m~-10mの範囲では、1号岸壁ではN値10~40の原地盤である中砂が現れるが、2 号岸壁ではN値が10以下の細砂である。

この地震で2号岸壁では噴砂が観察され、鋼矢板が海側に大きく湾曲し、水面下 6m 付 近で広範囲にわたりクラックあるいは折損が発生した(土田ら, 1985)。図 5.3-4には、2 号岸壁の矢板頭部法線変位、矢板天端高、控上部工法線変位および控上部工傾斜角を示す。

この図によれば、取り付け部とその近傍を除いた範囲で、鋼矢板頭部の水平変位は、海側

に1.0m~1.8m、控え杭頭部の水平変位も同程度であった。一方、1号岸壁では噴砂は確認

されず、岸壁の被害もなかった(土田ら, 1985)。前述の通り、1号岸壁は矢板前面を掘削 することにより築造されたもので、矢板背後地盤は原地盤の砂層(Layer2’)で構成される のに対し、2号岸壁の背後地盤(Layer1)は海砂の陸上まき出しによって造成されており、

両者の液状化強度に大きな差があったことが確認されている(Iaiら, 1993)。図 5.3-5には、

これらの土層を含む砂質土層の液状化抵抗曲線を示す。

5.3 矢板式岸壁

図 5.3-1 秋田港大浜1号、2号岸壁と強震観測施設の位置(土田ら(1985)に加筆)

(a) 秋田港大浜1号岸壁 (b) 大浜2号岸壁

図 5.3-2 秋田港大浜1号岸壁(左側)と2号岸壁の断面図(Iaiら, 1993)

表 5.3-1 秋田港大浜1号2号岸壁の鋼材の種類(土田ら(1985)を参照して作成)

大浜1号岸壁 大浜2号岸壁 前面矢板 鋼矢板(FSP ⅣL) 鋼矢板(FSP ⅣL

控え杭 鋼管杭(φ750t10, c.t.c.=2.0m) 鋼管杭(φ550t12, c.t.c.=2.0m)2列 タイロッド 高張力鋼(φ52mm, c.t.c.=2.0m) 高張力鋼(φ55mm, c.t.c.=2.0m)

大浜2号岸壁

大浜1号岸壁 旧雄物川

向浜地区

外港地区

強震観測施設

第 5 章 砂の力学モデルと数値解析法の各種地盤・構造物系に対する適用性

図 5.3-3 秋田港大浜1号岸壁(左側)と2号岸壁の土質柱状図(土田ら, 1985)

図 5.3-4 秋田港大浜2号岸壁の被災状況(土田ら, 1985)

上から矢板頭部法線変位、矢板天端高、控上部工法線変位、控上部工傾斜角

矢板頭部法線変位矢板天端高控上部工法線変位控上部工傾斜角

5.3 矢板式岸壁

図 5.3-5 各砂質土層の液状化抵抗曲線(Iaiら, 1993)

第 5 章 砂の力学モデルと数値解析法の各種地盤・構造物系に対する適用性

5.3.2 解析モデル

解析モデルは、本岸壁を対象とする多重せん断機構モデルによる既往の解析事例(Iai ら, 1993)を参考にして設定した。

両岸壁とも、解析モデル底面は-23.0m のレベルにとり、そこに底面粘性境界を設けた。

解析対象範囲の土層分割を図 5.3-6に示す。これら各土層に対する解析地盤定数を表 5.3-2 および表 5.3-3に示す。これらの表に示す解析地盤定数も既往の解析事例(Iaiら, 1993)の 通りであるが、変相角と液状化パラメータについては設定し直した。なぜなら、これらの パラメータを決定する要素シミュレーションでは(非排水繰り返しせん断試験を模擬する 目的で行う砂1要素によるシミュレーション解析)、地震応答解析を行う場合と同じ砂の力 学モデルや数値解析法を用いる必要があるからである。また、要素シミュレーションに基 づく砂の液状化強度は、初期有効拘束圧や載荷1サイクル当たりの荷重分割数に大きく影 響されることが別の検討で判明している。既往の解析事例で用いられたパラメータを決定 した際のこれらの条件が不明であることから、液状化パラメータ再設定のために行った要 素シミュレーションでは、試験時の初期有効拘束圧で圧密し、載荷1サイクル当たりの荷 重はなるべく細かく分割するよう設定した(ここでは 200 分割)。表 5.3-2および表 5.3-3 に示す解析地盤定数を用いて実施した要素シミュレーション結果に基づいて描いた液状化 抵抗曲線の試験値との比較を図 5.3-7に示す。

鋼材の解析定数を表 5.3-4に示す。前面鋼矢板と控え鋼管杭はバイリニア型の M~φ関 係(曲げモーメント~曲率関係)を有する非線形部材としてモデル化した。タイロッドは 線形部材としてモデル化した。2号岸壁の控え工の二本の直杭の頭部はコンクリート相当 の剛性を持つ頂版で連結した。

解析対象範囲は、図 5.3-8に示すように有限要素で分割した。前面矢板とその受働側地 盤の間および控え杭とその受働側地盤の間には滑り摩擦を考慮して受働側地盤の拘束圧を 高める目的で、初期自重解析の段階からジョイント要素を用いた。

5.3.3 地震動

大浜岸壁から2.5kmほど離れた、基盤面が浅い地点に、港湾地域強震観測の一環として 強震計が地表に設置され、1983日本海中部地震の際には最大で235galの加速度が観測され た。

記録された波形は、観測地点のGL-6mから現れるVs=390m/sの工学的基盤の入射波(2E)

に引き戻し、それを大浜1号、2号岸壁のそれぞれの法線直角方向に方位変換し、粘性境 界とした解析モデルの底面境界に入力した。

入力地震動を図 5.3-9に示す。なお解析対象時間は、同図に示す0秒から80秒までとし た。また、上下動は与えていない。

5.3 矢板式岸壁

(a) 大浜1号岸壁

(b) 大浜2号岸壁

図 5.3-6 秋田港大浜1号2号岸壁 土層区分図(Iaiら(1993)に基づく)

表 5.3-2 秋田港大浜1号2号岸壁:多重せん断ばねモデルなどのパラメータ 変形特性

湿潤 密度

間隙 率 初期

せん断 剛性

体積 弾性 係数

基準 化拘 束圧

ポアソ ン比

拘束圧 依存 係数

内部 摩擦 角

粘着 力

履歴 減衰 上限値 ρt n Gma Kma σma' ν m φf c hmax 土層名

(t/m3) (kPa) (kPa) (kPa) (゚) (kPa) Layer1(砂) 2.0 0.5 33800 89930 50 0.33 0.5 37 0 0.30 Layer2(砂) 2.0 0.5 72200 192100 110 0.33 0.5 41 0 0.30 Layer2’(砂) 2.0 0.5 72200 192100 69 0.33 0.5 43 0 0.30 Layer3(粘土) 1.5 0.5 74970 199470 140 0.33 0.5 39 0 0.30 Layer4(砂) 2.0 0.5 168200 447530 157 0.33 0.5 44 0 0.30

※1 Iaiら(1993)を参照して作成した。

※2 mG=mK=mとする。

前面矢板 控え杭

Layer2’(地下水面上)

Layer2’(砂)

Layer4(砂)

前面矢板 控え杭 海

Layer2(砂)

Layer3(粘土)

Layer1(地下水面上)

Layer1(砂)

Layer4(砂)

第 5 章 砂の力学モデルと数値解析法の各種地盤・構造物系に対する適用性 表 5.3-3 秋田港大浜1号2号岸壁:過剰間隙水圧モデルのパラメータ

液状化特性 変相角 液状化パラメータ

φp w1 p1 p2 c1 S1

土層名 ケース

(゚) ケースA 1.00

ケースB 1.00