3.6 地盤・構造物接触面における滑り挙動に対する減衰の影響
3.6.1 ジョイント要素
ケーソン式岸壁のケーソンと基礎捨石・裏込石の間や、矢板式岸壁の矢板と土に間には、
その間の滑り挙動を表現するためにジョイント要素(図 3.6-1参照)を用いる場合がある。
ジョイント要素は、原則として、垂直方向の引張力は負担しない。圧縮側では垂直方向接 線剛性(Kn)に応じた力を負担する。また、せん断方向(滑り方向)は、せん断応力が せん断強度に達するまではせん断方向接線剛性(Ks)に応じた力を負担する。せん断強度
(τf )は、剥離状態で無い限り、垂直方向の有効拘束圧σn'に基づき次式で計算する。剥 離状態ではせん断強度は、0とする。
τf = CJ+σn' tanφJ (3.5-1)
図 3.6-1 ジョイント要素の応力-変位差の関係
ジョイント要素の線形部分の挙動を決める垂直方向接線剛性(Kn)およびせん断方向接 線剛性(Ks)の値としては、周囲の土の変形よりも大きな変形がこの線形部分で生じるこ とのないよう、比較的大きめの値を指定することが通例である。これから分かるように、
これらの値は物理的な根拠に基づいて設定するのではなく、人為的な値である。
3.6.2 ジョイント要素の挙動に対する減衰の影響
前節で述べたように、砂地盤の非排水動的解析を行う際に、数値計算の安定化などのた めに、初期剛性に基づくレーレー減衰行列を与える必要がある。この初期剛性には、ジョ イント要素の垂直方向接線剛性(Kn)とせん断方向接線剛性(Ks)を含めるかどうかと言 う議論があり得るが、前節で述べたように、レーレー減衰の目的を、さしあたり、液状化 した砂の変形速度を制御するための粘性減衰の代用であるとすれば、ジョイント要素の初 期剛性をレーレー減衰行列に組み込む必然性はない。ここでは、仮に、ジョイント要素の 初期剛性を含む全体剛性行列にβを乗じてレーレー減衰行列を設定した場合の地震応答に 与える影響について、基本的なモデルを例に示す。
垂直方向
せん断方向
IX1 IX2
IX4 IX3
垂直応力 せん断応力
垂直方向変位差
せん断強度
せん断方向変位差
(接触) (剥離)
(圧縮)
(引張)
Kn
Ks
第 3 章 地盤・構造物系の数値解析法
1995兵庫県南部地震の際に被災した神戸港のケーソン式岸壁(水深-8.5m、設計震度0.15、
床堀置換改良)の被災事例解析用のモデル断面においては、ケーソン底面と基礎捨石の間、
および、ケーソン背面と裏込石の間に、それぞれ、滑り・剥離を表現するためのジョイン ト要素を設定した。このモデル断面を利用して、ケーソン底面のジョイント要素の Ksと Knを様々に変えた場合のケーソンの残留変位を計算した。計算結果を図 3.6-2に示す。同 様に、ケーソン背面のジョイント要素のKsとKnを様々に変えた場合のケーソンの残留変 位を図 3.6-3に示す。これらの図によれば、ケーソンの残留変位はジョイント要素のKsと Knの値に大きく影響される。
ここでは、このケーソン式岸壁のモデル断面を参考に、ケーソン下のジョイント要素の 滑り挙動に対するレーレー減衰の影響を検討するための基本的な解析モデルを作成した
(図 3.6-4参照)。なお、ジョイント定数は、φJ=31度、Ks=104 (tf/m2/m)とした。
解析は、以下に示す3段階で行った。
① 自重解析を行う。
② 常時土圧相当の水平力30 tf/mをケーソン下端に静的に加える。
③ 基盤を片振幅2 m/s2で正弦波加震する。
初期自重解析では、ケーソンの水中単位体積重量1tf/m3を用いた。また、正弦波加震では、
周期 1 秒の波を用いた。動的解析では、レーレー減衰剛性比例係数βとして 0.0 と 0.002 の二通りを試した。時間積分手法は、Newmark法(α=0.25、δ=0.5)とし、時間積分間隔
Δtは0.001秒とした。なお、Δt=0.01秒としても、応答にはほとんど差が見られなかった。
解析結果である、相対変位、相対速度および絶対加速度時刻歴を、β=0.0 の場合の理論 解とともに、図 3.6-5に示す。
β=0.0の場合は、応答値は理論値とよく一致している。ケーソンの加速度は 0.147秒に
は 1.53m/s2 に達し、これによる慣性力 32.49tf/m と常時の土圧相当として静的に加えた
30tf/mの合計が、ジョイント要素の接線方向の強度62.49tf/mに達して、ジョイント要素は
滑り始める。その後、基盤の加速度が上昇しても、ジョイント要素からケーソンへ伝達さ れる力は接線方向の強度で頭打ちになり、従って、ケーソンは同じ加速度で運動を続ける。
基盤加速度が再び小さくなって、ケーソンと基盤の相対速度が0になると、今度は、ジョ イント要素の除荷が始まり、ケーソンは主にその質量とジョイント要素の接線方向弾性剛 性Ksで定まる固有振動数9.8Hzで振動する。ジョイント要素が滑って一定の加速度が生じ ている間は、一方向の速度が生じ、その間は変位が増加する。ちなみに、Ksを1桁上げる と、自由振動の振動数は 31Hz に上がり、Δt=0.01 秒の場合は、振動を正しく追跡出来な くなるものの、変位は、ジョイント要素が滑る局面で決まるので、変位応答には影響が無 かった。
β=0.002とした場合は、β=0.0と比べると、変位応答はかなり抑制され、βの影響が大
きいことが分かる。また、β=0.002の場合は、自由振動の振幅が抑えられている。自由振 動が継続している間は、β=0.0と0.002の両ケースとも、変位の増加は見られない。変位 応答の違いは、ジョイント要素が滑っている間の速度の違いに起因している。レーレー減 衰が、滑り速度を抑制した結果である。
従って、上述の Ksや Knの値にケーソンの残留変位が影響を受ける現象は、ジョイント
3.6 地盤・構造物接触面における滑り挙動に対する減衰の影響
要素の挙動がレーレー減衰(βKs)に支配された結果である。Ksや Knは前述のように人 為的に与えるものであるので、これによりケーソンなどの応答値が影響されるのは適当で ない。よって、レーレー減衰をジョイント要素の初期剛性に比例させて定めるのは適当で はなく、さしあたっては、レーレー減衰を全く用いないか、数値解析が安定して行える範 囲で十分に小さな値を用いることが適当である。
図 3.6-2 神戸港ケーソン式岸壁 ケーソン底面のジョイント要素の KsとKnの値(同じ値とした)に応じたケーソン残留変位の比較
※ケーソン背後のジョイント要素のKsとKnは一定値
図 3.6-3 神戸港ケーソン式岸壁 ケーソン背面のジョイント要素の KsとKnの値(同じ値とした)に応じたケーソン残留変位の比較
※ケーソン底面のジョイント要素のKsとKnは一定値 0
0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5
前出し量(m) 沈下量(m)
完全付着 K=10^7kPa K=10^6kPa K=10^5kPa 実測値(最大値)
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5
前出し量(m) 沈下量(m)
完全付着 Ks=10^7kPa Ks=10^6kPa Ks=10^5kPa 摩擦無し 実測値(最大値)
第 3 章 地盤・構造物系の数値解析法
図 3.6-4 ジョイント要素の滑り挙動検討用の解析モデル a)相対変位時刻歴
-0.05 -0.04 -0.03 -0.02 -0.01 0.00
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5
時間(秒)
相対変位(m)
理論値:β=0.0 解析値:β=0.0 解析値:β=0.002
b)相対速度時刻歴
-0.10 -0.05 0.00 0.05 0.10
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5
時間(秒)
相対速度(m/s) 理論値:β=0.0 解析値:β=0.0 解析値:β=0.002
c)絶対加速度時刻歴
-4.00 -2.00 0.00 2.00 4.00
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5
時間(秒)
絶対加速度(m/s)
理論値:β=0.0 解析値:β=0.0 解析値:β=0.002
図 3.6-5 簡易モデルの正弦波加震(2 m/s2)結果:β=0.0と0.002の応答時刻歴の比較 剛基盤(正弦波加震: 2 m/s2)
※2 1線形平面要素(ケーソン)
単体重量2 tf/m3 水中単体重量1 tf/m3
1ジョイント要素
φJ=31 度、Ks=104(tf/m2/m)
地下水面
※1 線形平面要素は剛体。
ケーソン幅8m
ケーソン
高さ13m は節点を表す。
常時土圧相当: 30tf/m