3.5 地盤の非線形動的解析における減衰の役割
3.5.1 はじめに
多重せん断機構モデルに基づき砂地盤上の構造物の地震応答解析を行う場合、他の有効 応力解析法と同様、解析を安定させるために初期剛性比例型のレーレー減衰を与える必要 がある。剛性比例係数βは、多重せん断機構モデルを用いた過去の多数の解析事例を調査 した結果、以下のような傾向があることが分かった。
① βの範囲は、0.0005~0.01である。
② 自由地盤部を線形地盤とした場合のその1次固有周期 TGが小さいとβの値も小さ い。また、TGが大きいとβの値も大きい。例えば、TGが1秒以下であると、βの値
は概ね0.002以下に分布する。TGが1秒以上では、βは概ね0.005か0.01である。
③ 減衰定数hと地盤の1次固有周期TGからのβの算定式に基づいてhを逆算すると、
hはTGが1秒以下では0.5%~1%の間に、1秒以上では、1%~5%の間にある。
④ 事例解析で被災程度を再現したβとその地盤の1次固有周期 TGの関係についても、
上記の諸関係が成り立つ。
1995兵庫県南部地震の際に被災した神戸港のケーソン式岸壁(水深-8.5m、設計震度0.15、
床堀置換改良)の被災事例解析のための2次元解析モデルを利用して、剛性比例係数βの 感度解析を行った。様々にβを変化させて本解析法により被災状況の再現解析を行ったと ころ、ケーソンの残留変位量については図 3.5-1に示す結果を得た。なお、解析には、変 相線を超えた応力空間における塑性せん断仕事の負のダイレタンシーへの寄与程度を見直 す前の従来モデルを適用し(2.3 節)、非線形反復計算法についても従来法を用いた(3.3 節)。この図によれば、βを小さくするほどケーソンの残留変位量は増大する傾向にある。
また、β=0.0とすると、解析は、途中で破綻してしまう。従って、多重せん断機構モデル に基づいて砂地盤上の構造物の地震応答解析を行う場合、レーレー減衰か、あるいは、そ れに代わる何らかの減衰を考慮する必要がある。しかも、同図によれば、応答値は減衰に 大きく影響されるので、減衰は適切に与える必要がある。
地震応答解析を行う場合、減衰としては、土や部材の材料非線形性に基づく履歴減衰、
土や部材の変形速度に関係する粘性減衰、不均質材料への波動の入射による散乱減衰、お よび、エネルギーが考えている系から波動として外部に伝達されることによるエネルギー 逸散減衰を考慮する必要がある。履歴減衰は第2章で述べた砂の力学モデルにより考慮さ れている。エネルギー逸散減衰は、解析モデルの境界を粘性境界(例えば、Lysmerら, 1969)
などにすることで表現出来る。それでは、上述のレーレー減衰はどの減衰機構を表現する ものであろうか。ここでは、2.2.2項で述べた過剰間隙水圧モデルを適用して動的解析を行 う場合には、履歴減衰を与えるだけでは足りず、土の変形速度に抵抗するような粘性減衰 を考える必要があり、レーレー減衰はその代用であることを、土要素の動的シミュレーシ ョン解析を通じて示す。
第 3 章 地盤・構造物系の数値解析法
図 3.5-1 神戸港ケーソン式岸壁:レーレー減衰剛性比例係数βを 変化させた場合のケーソン残留変位の変化
0 1 2 3 4 5 6 7
前出し量(m) 沈下量(m)
β=0.01 β=0.005 β=0.002 β=0.001 β=0.0005 実測値(最大値)
3.5 地盤の非線形動的解析における減衰の役割
3.5.2 動的要素シミュレーション
等価N値(有効上載圧 65kPaに換算したN値)が 10である砂を対象に、動的な要素シ ミュレーションを行った。要素サイズは 1m×1m とし(奥行き方向も単位幅)、質量密度
は2.0t/m3とした。要素シミュレーションでは、まず、完全排水条件下で、有効拘束圧98kPa
で等方圧密し、その状態を引き継いで、非排水条件下で、片振幅47.62kPaで正弦波状に変 化するせん断方向の分布力を要素辺に作用させた(図 3.5-2参照)。載荷振動数は1Hz、レ ーレー減衰行列の質量比例係数αは0、剛性比例係数βは0.01, 0.005, 0.002, 0.001, 0.0005,
0.0002, 0.0001, 0.0の8通りとした。レーレー減衰行列は、初期接線剛性行列(圧密後)に
基づき組み立てた。非線形反復計算法は、各時間ステップ内で状態変数Sの変動を考慮す る改良型とし、接線剛性行列は非対称とした(d{σ'}-d{ε}関係に(3.3-33)式使用)。また、
変相線を超えた応力空間においてなされる塑性せん断仕事の負のダイレタンシーに対する 寄与係数設定法は従来法を用いた。この条件で、過剰間隙水圧モデル(2.2.2項)を適用し、
液状化フロントパラメータS0を0.05(過剰間隙水圧比95%)に固定して、要素シミュレー ションを実施した。使用した解析地盤定数を表 3.5-1および表 3.5-2に示す。
図 3.5-3には、動的要素シミュレーション結果であるせん断応力-せん断ひずみ曲線お よび分布力(荷重)-せん断ひずみ曲線を各βについて示す。また、図 3.5-4 (a)~(d)には、
それぞれ、β=0.01, 0.002, 0.0005, 0.0001の場合について、要素上端の水平変位u、水平速
度v、水平加速度aの各応答時刻歴と、対応する要素力 ku、減衰力cv、慣性力ma、およ
び、これらの力の合計 ma+cv+ku の時刻歴を示す。また、力の合計は、作用させた外力と 比較した。要素力 ku は、要素のせん断応力に要素上面の面積 1m2を乗じて求めた。減衰
力cvは、(3.5.1)式で求めた粘性係数cに応答速度を乗じて算定した。慣性力maは、(3.5.2)
式で求めた実効質量に応答加速度を乗じて算定した(図 3.5-5参照)。
c=84490×β(kN・s/m) (3.5.1)
m=1.0(t)(=0.5×ρt×Vol) (3.5.2)
なお、(3.5.1)式の84490(kN/m)は、初期せん断剛性84490(kPa)から算定した初期剛性 である。
これらの図を見ると、以下のことが分かる。
① βが大きい間は、分布力がせん断応力を上回り、この差は、主にレーレー減衰によ る減衰力である(図 3.5-4 (a), (b)参照)。
② βが大きい間は、要素力と減衰力の位相が90度ずれていることが明瞭に認められる
(図 3.5-4 (a), (b)参照)。また、外力のピークより、要素力のピークが遅れて現れる。
③ βが小さくなると、速度および加速度時刻歴に鋭いピークが現れるようになり、応 答時刻歴には高振動数成分が混ざって来る(図 3.5-4 (c), (d))。荷重が反転して暫く すると、すなわち、有効応力経路が原点付近にさしかかると、要素のせん断剛性が 減少して、せん断ひずみが急激に変化する。その時に、大きな速度が生じる。この 運動は、サイクリックモビリティによる剛性の回復によりブレーキがかかり、急停 止する際に、大きな加速度を生じる。特に、減衰が小さくなると、ブレーキのかか
第 3 章 地盤・構造物系の数値解析法
った後に、振動現象が見られる(図 3.5-4 (d))。
④ βが0.0002以下では、上述の振動現象が見られるとともに、繰り返し回数が増加す
るに従い、ひずみ振幅が増大する。
レーレー減衰行列の剛性比例係数βが小さい場合に、要素剛性の急増・急減によって生 じるパルス状の大速度、大加速度の発生は、載荷振動数を変えても同じように見られるの で、これは、たまたま生じた共振現象と言う訳ではない。また、図 4.3-3 b)に示すような、
等価N値10の地盤に径が1mの杭が打たれている場合の水平断面モデルにおいて、βを0、
液状化フロントパラメータS0を0.05に固定して、杭心に水平方向に片振幅600kNの正弦 波状に変化する荷重を与えた場合の、杭心の変位、速度、加速度応答を図 3.5-6に示す。
同図によれば、単一要素のシミュレーション解析の場合と同様、数千の要素からなる系に おいても、大速度、大加速度が生じ、変位振幅は、載荷回数とともに増大する傾向も見ら れる(解析モデルの詳細については、第4章参照)。従って、単一要素のこの挙動は、それ を組み合わせた大規模な系の挙動にも影響する。
3.5 地盤の非線形動的解析における減衰の役割
図 3.5-2 動的要素シミュレーション
表 3.5-1 等価N値10の砂の多重せん断ばねモデルなどのパラメータ 変形特性
湿潤 密度
間隙 率 初期
せん断 剛性
体積 弾性 係数
基準化 拘束圧
ポアソン 比
拘束圧 依存 係数
内部 摩擦 角
粘着 力
履歴 減衰 上限値 等価
N値
ρt n Gma Kma σma' ν m φf c hmax 土層名
(N65) (t/m3) (kPa) (kPa) (kPa) (゚) (kPa) 砂質土 10 2.00 0.45 84490 220300 98.0 0.33 0.50 39.7 0.0 0.24
※1 任意の平均有効応力σm'に対する初期せん断剛性 G0および体積弾性係数 K0は次式に より評価される。
G0= Gma (σm'/σma') m K0= Kma (σm'/σma') m
※2 上記パラメータは森田ら(1997)の方法により設定した。
表 3.5-2 等価N値10の砂の過剰間隙水圧発生モデルのパラメータ 液状化特性
変相角 液状化パラメータ 等価
N値
φp w1 p1 p2 c1 S1
土層名
(N65) (゚)
砂質土 10 28.0 3.76 0.50 1.01 1.60 0.005
※1 上記パラメータは、森田ら(1997)の方法により設定した。その際、細粒分含有率は
0%とした。 ※2 液状化フロントパラメータ S0を0.05に固定したので、解析では液状化
パラメータは参照されない。
σm0'
σm0'
τ
1m 1m
①98kPaで等方圧密する。 ②振幅47.62kPaの分布力で、
動的繰り返しせん断を行う。
第 3 章 地盤・構造物系の数値解析法
図 3.5-3 動的要素シミュレーション結果 過剰間隙水圧モデル適用(S0=0.05に固定)
載荷振動数=1Hz、荷重片振幅=47.62kPa、要素サイズ:縦1m×横1m、レーレー減衰行列 質量比例係数α=0、剛性比例係数β=0.01~0.0001, 0.0、土要素の質量密度=2.0t/m3
β=0
-100 -80 -60 -40 -20 0 20 40 60 80 100
-0.10 -0.05 0.00 0.05 0.10
せん断ひずみ
応力(kPa)
せん断応力 分布力(荷重) β=0.01
-100 -80 -60 -40 -20 0 20 40 60 80 100
-0.10 -0.05 0.00 0.05 0.10
せん断ひずみ
応力(kPa)
せん断応力 分布力(荷重)
β=0.005
-100 -80 -60 -40 -20 0 20 40 60 80 100
-0.10 -0.05 0.00 0.05 0.10
せん断ひずみ
応力(kPa)
せん断応力 分布力(荷重)
β=0.002
-100 -80 -60 -40 -20 0 20 40 60 80 100
-0.10 -0.05 0.00 0.05 0.10
せん断ひずみ
応力(kPa)
せん断応力 分布力(荷重)
β=0.001
-100 -80 -60 -40 -20 0 20 40 60 80 100
-0.10 -0.05 0.00 0.05 0.10
せん断ひずみ
応力(kPa)
せん断応力 分布力(荷重)
β=0.0005
-100 -80 -60 -40 -20 0 20 40 60 80 100
-0.10 -0.05 0.00 0.05 0.10
せん断ひずみ
応力(kPa)
せん断応力 分布力(荷重)
β=0.0002
-100 -80 -60 -40 -20 0 20 40 60 80 100
-0.10 -0.05 0.00 0.05 0.10
せん断ひずみ
応力(kPa)
せん断応力 分布力(荷重)
β=0.0001
-100 -80 -60 -40 -20 0 20 40 60 80 100
-0.10 -0.05 0.00 0.05 0.10
せん断ひずみ
応力(kPa)
せん断応力 分布力(荷重)