第 2 章 カンボジア政府の取り組み
2.2. 貧困問題をめぐる諸政策
2.2.4 貧困削減に向けての政策的枠組み
(1)
貧困削減戦略書(Poverty Reduction Strategy Paper: PRSP
)SEDPII
と並行して、貧困削減戦略書中間報告書(Interim Poverty Reduction Strategy Paper:I-PRSP)が、2000
年10
月27
日のカンボジア閣僚評議会の承認を得て、WB・IMF本部に正式に提出された。I-PRSPは、2000年
6
月より、経済財政省を中心に策定が進められた。その後、
2001
年4
月に、ワシントンおよびプノンペンにおいて、WB・IMF
主催のI-PRSP
のワークショップが開催された。現在、PRSP 最終報告書策定に向けての課題が討議され ている。すでに述べた通り、
I-PRSP
は当初、経済財務省が策定・調整機関となって作られたが、PRSP
最終報告書の作成は計画省に移管され、現在並行して策定中のSEDPII
に取り込まれることになっている。最終的な
PRSP
の完成は、2001年末、あるいは2002
年初旬と見られて いる。PRSP
においてもSEDPII
同様、カンボジアの貧困削減戦略は、2000
年5
月にフン・セン首 相が公表した、(ⅰ)長期的かつ持続的経済成長、(ⅱ)経済成長の果実の平等な分配、(ⅲ)環境および天然資源の持続可能な管理と活用、の
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つの目標の達成と連動して実現される ものとされている。I-PRSP
で提案されている貧困削減戦略の具体的な政策は表2-15
の通りである。表 2-15 貧困対策の処方箋
貧困の様相 政府の政策
機会の欠如
・ 所得水準の低さ
・ 農業技術水準の低さ及び不適正な技術
・ 農村部を中心とし広範な貧困
・ 土地無し層および土地へのアクセスの 欠如
・ 女子の低教育水準
・ 資産・技術訓練へのアクセスの欠如
・ インフラの欠如
・ 土地無し層の問題
機会の増大
・ マクロ経済の安定
・ 経済成長
・ 民間セクター育成振興
・ 灌漑、農道等のインフラの改善
・ 農業振興策
・ 土地改革
脆弱性
・ 信用・資本へのアクセスの未整備
・ 農作物の不作
・ 天候
・ 環境悪化
・ 女性への暴力、家庭内暴力、女性・子供 の人身売買の増加
・ 健康問題および女性の HIV/IADS感染 についての危険性
・ 地雷
社会保障の確立
・ マイクロ・ファイナンス
・ セーフティ・ネットプログラム
・ 環境保護
・ 保健サービスへのアクセス
・ 地雷の撤去
・ 灌漑・排水設備の改善
・ 生物学的安定性と経済的確実性の拡大 するための栽培作物の取りあわせの工 夫
低い自助能力
・ 教育などの成果が出ないこと
・ 水質・衛生状態の悪さ
・ 保健のコスト高
能力の向上
・ サービスの提供
・ 健康、教育、農業、農村開発への公共 支出の拡大
社会的疎外
・ 識字率の低さ
・ 意思決定へのアクセスの欠如
・ 汚職
・ 性、人種による差別
・ 重要な意思決定を行う地位についてい る女性の少なさ
・ 家事、子供の養育、病人や老人の介護 などの女性の負担大
エンパワーメント
・ 法制度改革
・ 教育政策
・ NGOの活動のための環境整備
・ ガバナンスおよび汚職追放
・ 地方分権化
[出所] Royal Government of Cambodia. (2001). Interim Poverty Reduction Strategy Paper .p.28.Table3.1
I-PRSP
では、SEDP Iの実施状況について、教育、保健、農業・農村開発など各セクターや公共支出管理などの政策について整理し、貧困への影響について分析している。その結果、
SEDPI
で実施されたプロジェクトは、貧困削減に十分貢献していなかったことを指摘している。これは
SEDPI
の実施にあたって、貧困削減に向けた広範な政策や環境作りを考慮せ ずに、各分野のプロジェクトがなんの関連付けもないまま実施されたためとしている。また、援助機関や
NGO
の支援なしに、SEDPIで掲げられたプロジェクトを実施することが 可能であったかについても疑問を呈している。こうした指摘を鑑みると、実効性の高い貧困削減プロジェクトを実施するためには、農村 開発を中心とし、教育や保健など社会セクターを含めた包括的なアプローチが必要である。
また、援助機関や
NGO
に依存するのみでなく、カンボジア政府の行政能力を高め、政府 自らが貧困削減において最も重要性の高い、かつ効果の大きいプロジェクトの優先順位付 けを行い、援助を含め、経済的および人的資源の動員、配分などについて調整を行ってい くことが求められよう。I-PRSP
については、すでにWB
およびIMF
スタッフによる共同評価が行われており、PRSP
の最終取りまとめに向けて、主要セクターの具体的な検討課題を指摘している(表
2-16)。
表 2-16 PRSP策定にあたっての検討課題
セクター 検討課題
全体 ・中期目標を支えると期待される各セクターの成長源についてのより詳細 な議論
・労働市場と貧困の関係についての包括的な分析(特に、実施中の大規模 な兵役解除および実施予定の公務員改革の影響)
財政 ・優先行動計画(PAP)、公共投資プログラム(PIP)、中期歳出枠組み
(MTEF)、公共投資管理制度(PIMS)など各援助機関との政策調整機 能について、それぞれの相互関係・役割の明確化と調整メカニズムの確 立の必要性
・貧困削減についての費用対効果の分析に基づく政策決定
ガバナンス ・貧困削減との関連を強化する形での司法改革、財政制度改革、汚職防止等のガバ ナンス行動計画の具体的な実施
ジェンダー ・貧困削減において男女平等な参加を確保するための参加型コンサルテー ションの開催
・ジェンダー格差の原因と結果を検証するための貧困についての分析の実 施
・貧困層の男女に影響する優先順位付け、抑制要因、機会提供を反映した 介入方法の選択と具体的方策
農村開発 ・農村における輸送インフラの持続的な改善を確保するため包括的な農村 インフラ戦略への重み付けの必要性
教育 ・貧困家庭の子供の就学率や出席率を高めるための選択肢についての検討
・必要性の高い地域においては学校へ直接的な補助金交付の再検討
・学校教育の質および妥当性の向上に向けた適切な構造改革及びセクター 改革の重要性
保健 ・すでに実行された改革よるアクセス、サービス、地方レベルでの能力の 改善についての見直しの必要性
・HIV/AIDSへの対応策における、より具体的な施策の重要性
民間セクターの育成 ・民間セクターとの協議を通じた民間セクター育成および官民パートナー シップ振興策の重要性
[出所] Royal Government of Cambodia. (2001). Interim Poverty Reduction Strategy Paperより作成
(2)
農村開発による貧困削減の実施体制貧困層の大多数が農村部に居住していることから、農村開発はカンボジアの貧困削減にお いて最重要課題である。そのため、農村開発を推進する組織作りとその強化が図られてい る。すでに、SEDPIのもとで、農村開発省は、農村開発全体を統括する農業・農村開発評 議会(CARD: Council for Agricultural and Rural Development)から、県レベル、地区レベル、
コ ミ ュ ー ン レ ベ ル 、 村 落 レ ベ ル の そ れ ぞ れ に お い て 農 村 開 発 委 員 会 (
RDC: Rural Development Committee)を設置した。
特に、村落レベルに設けられた村落開発委員会(VDC: Village Development Committee)は 持続的な参加型農村開発に向けたボトムアップ型の開発組織の基盤として設置されたもの である。村落における開発の課題の特定や、プロジェクトの採択やプロジェクトの実施に あたって投入する労働力や資材をどうするかなど、村落開発に関する企画、組織化、マネ ジメントに関する意思決定に、村落を構成する各世帯が直接的に関与することを目的とし ている。VDC は、村落の大きさによって異なるが、通常、村人によって選出された
5〜9
名で構成される69。VDC
の役割は以下の通りである。a.
村落の主要な問題の特定と分析b.
重要性と緊急性の観点による問題の順位付けc.
プロジェクトの提案書および村落開発の年間計画書の作成d.
問題解決に向けた政府関係機関への働きかけおよび必要な技術支援・研修の要請e.
計画およびプロジェクトの実施に向けて、村人への役割分担と村の資源の動員f.
村落開発基金が設置されている場合には、基金の管理g.
村落ベースの開発に向けた活動のモニタリングおよび評価h.
近隣の村落との村落開発の活動や経験などの情報の交換農村開発の実施体制作りにおいては、それぞれのレベルにおいて、国際機関や
NGO
が支 援を行っている。しかしながら、こうした支援を受けられないVDC
は予算上の制約など から実際に活動を行えず、機能していないケースも見られている。
69 VDCのメンバーのうち、最低40%が女性のメンバーであることが条件になっている。